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魔王の守人  作者: 木賊苅
1部
3/33

幕間1


 すぐ近くで無心に誓詞を紡いでいる煌を見下ろし、ルシアは誰にも気づかれぬよう、ふ……と息を吐く。しばらく見ない間に、随分と大きくなった。人間の成長は早く老いるのも早いと知ってはいたが、知識としてあるのと目にするのとでは、やはり違う。

 やっと、やっと此処まで来れた。十年待って、ようやく此処まで。敵は思ったよりも手強く、こんなにも時間がかかってしまった。

 十年。それは力が強ければ千年以上も生きる魔族にとっては、本来瞬きにも近い月日だ。それでもルシアにとっては長く、退屈で、気の滅入る日々だった。

 何度会いに行こうかと思ったかしれない。しかし、会ってしまって敵に彼女に手を出されたら堪らない。また、あの日のように間に合わなかったなんてことになったら、自分が許せない。

 だから待った。不穏分子を駆除し、自身が王として魔界を掌握するその日まで。全面戦争が終わり王位を継いだのは三年前。それからすぐに向かおうとしたが、残念ながら懐刀に止められてしまった。未だ万全ではない状態では、いつ再び争いが始まるかわからない。そう言われてなんとか踏みとどまった。彼女に被害がいくのは、何としても避けたかった。

 そして時々反乱が起こる以外の復興を終わらせ、魔界に比較的平和が訪れたのが、本当に最近のついひと月前。様子を見て問題がなさそうだったので、彼女の通う学校の責任者に連絡を取ったのが一週間前。

 我が身のことながら、自身の忍耐力の強さを称賛したくなったルシアである。

 しかし、ようやっと再会した彼女は、彼と出会った頃のことを完全に忘れてしまっていた。

 閉じた瞼の裏に、太陽のような笑顔を浮かべる一人の少女が浮かび上がる。

 自分に触れてきた存在は初めてだった。持ち上げたそれは温かくて柔らかくて、今にも溶けて消えてしまうのではないかと思えるほどに頼りがなくて。

 手放したくない、と思ったのだ。

 たとえ忘れられていたとしても護りたいと、心の底からそう思う。

 自分は救われたから。温もりに、笑顔に、まっすぐ見つめてくる目に、ずっと一緒だという言葉に。

 言われた通りに殺し、破壊することしか知らない人形のようだった自分もまた人なのだと思わせてくれる、彼女の存在全てに、何度も何度も救われた。

 だから、彼女を傷つける全てのモノから、彼女を護りたい。

 ルシアは誰にも気づかれぬ心の奥底で、固く決意を決めた。



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