幕間2
「ルシア!ちょおルシア、止まれ!!」
魔界へ飛び、王城内の廊下を突き進んでいたルシアをようやく見つけ出したカークは、駆け足で彼の前に回り込んだ。自然立ち止らざるをえなくなったルシアは、ただでさえ険悪な空気を更に悪化させる。思わず体を引いたカークだったが、ぐっと歯を食い縛り見返す。
「ホンマに思っとるんか?」
「…………何をだ」
問い掛けた瞬間に眼光が鋭くなり、凄まじいプレッシャーがカークの全身を襲う。
カークの顔が、ひくりと引き攣った。何故煌は、こんな状態のルシアを相手に何でもない風にいられるのだろう。
本能的な恐怖を抱きつつも思わず現実逃避をしていたカークは、頭を振ってそれを追い払い、再びルシアの顔を見る。残念ながら目は、合わせられなかったが。
「煌ちゃんに言うたことや。煌ちゃんには、関係ないて………………」
「だとしたらどうなる」
「それはちゃうやろ。関係なくなんかあらへん。煌ちゃんはあの女の被害者や」
カークの返しに、今度はルシアが黙り込む。
カークが言っていることは間違っていない。煌や彼女の両親を襲ったのと、今回隼を操り彼女を殺そうとした存在。それは同じ存在で間違いない筈。ならば彼女は、無関係ではない。
「本音は何や?」
反論が返ってこなかったことでルシアも同じ考えであると確信したカークは、腕を組み、自身よりも高い位置にあるルシアの顔を見つめる。ひとまず落ち着いたのか、彼の眼光は先程よりも和らいでいる。
カークとしばし見つめ合ったルシアは、ふい、と顔を逸らした。
「……………………あいつを。煌を、危険な目に合わせるわけにはいかない」
「は?」
ぼそり、と呟いたルシアに、思わずカークは声を漏らした。間抜けにも口が半開きになっていることを自覚する。ルシアはそんなカークに一瞬目をやると、またすぐに逸らしてしまう。
その、普段滅多に見られない、どころか初めて見るルシアの様子に、ははぁ、とカークは納得する。そして、苦笑した。
ようは心配だっただけなのだ。また彼女が傷付くのではないか。苦しむのではないか。そう考えると、出来るだけ犯人から離しておきたくなった。
大事にしている存在が傷付き苦しむのは、見たくない。
しかし、だ。
「あほやなぁ。そういうんは言わな伝わらんで?現に煌ちゃん、ショックやったみたいやし、自分にあないなこと言われて」
この言葉に反応したルシアは、再びカークをと向き直った。もう先程までの刺々しい空気はない。
「心配なら心配やって言わな、相手はわからんよ。ただでさえ自分、顔色わかりにくいんやから」
口にしなければ伝わらないことがある。想いを相手に告げずに終わるのは、わかってもらえず誤解されるのは、とても悲しい。
「……………煌は、」
「うん?」
「煌は、怒っていたか?」
何処か頼り気のないルシアの声に軽く目を瞠ったカークは、そやなぁ、と笑みを浮かべる。
「怒ってたっちゅうより、めっちゃ悲しそうに見えたわ」
「…………そうか」
「戻った時に謝ればえぇんや。あれで煌ちゃんは優しい子やし、許してくれるわ」
声を沈ませたルシアの肩をぽんぽんと叩くと、ルシアは素直に頷く。
いつもこんな風やったら、もっとこいつの周りにも人が集まるんやろうけどなぁ、と思うカークだった。