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1000文字小説

12月の探偵事務所の風景

作者: 池田瑛

人は、ペルソナ(仮面)を被って舞台に出る。それが、悲劇であろうと、喜劇であろうと。

 12月という月は、嫌な月だ。つまらない仕事ばっかりが舞い込んで来る。


 第一が、やがて来る新しい年を新たな気持ちで迎えたい、という思いからか浮気調査を依頼してくる奥さん。新年という区切りが、疑惑に白黒を付けようという決意を起こさせるのかも知れない。けれど、俺に言わせれば、年末に大掃除をするのと同じくらいくだらない。日頃から小まめに掃除をしろよ、と言いたい。しかも、12月に依頼を受けた調査は、往々にして1月まで調査が伸びる。奥さんの誕生日と結婚記念日でも無い月に、高額のプレゼントを買う男は、ほぼクロだ。しかし、12月は奥さんへのクリスマスプレゼントである可能性が残り、25日以降の事後確認ということになる。だが、クリスマスを過ぎれば年末年始で、依頼主と連絡を非常に取り難い。結果として、年を越えてから「これ貰いました?」と確認をしなきゃならなくなる。号泣する人とホッとする人。どちらにせよ、俺は新年早々何をやっているんだと、自己嫌悪になる。

 また、調査相手が忘年会などで飲みに行く機会も多く、別の女性と二人っきりで会っている。カシャ、と証拠を押さえる、という単純なことでは済まない。浮気調査は貴重な収入源ではあるが、依頼するなら年末を避けて欲しい。


 次に多いのが、ガキの依頼だ。探偵事務所なんて、普通は小学生が足を踏み入れるような場所じゃ無い。しかし、名探偵が活躍するアニメが人気なせいか、勘違いするガキは急増するばかりだ。殺人だったら警察を呼べ。それに、個人情報保護法やストーカー規制法のご時世に、私は探偵です、事件は私が解決します、なんて誰が言うか。


 そして、事務所に来た小学生の依頼は「サンタクロースが親であることを突き止めてください」とくる。かのご老人の存在を証明してください、と依頼してこない当たり、世も末だと思う。俺は、探偵としてはベテランだ。そういう依頼には、こう答えるようにしている。


「お前の親は、トナカイを飼っているのか? 白い髭なのか?」と。これまでの経験上、依頼主は「いいえ」と答える。


「じゃあ、話は簡単だ。別人だ」と答える。だが、最近のガキは、皮肉れているのか、納得なんてしない。そしたら俺は、言ってやるのだ。


「お前は、本気で、お前の親が、ずっとお前の親だと思っていたのか?」と。戸惑うガキ。


「お前の親が、会社に行っている時、お前の親ではないんだよ。ただの会社員なんだよ。社会の歯車なんだよ! お前の親が、おまえの前で親であるのは、お前を愛しているからなんだよ」


「お前の幸せを願い、お前が寝静まったころ、そっとプレゼントをお前の枕元に置く。その瞬間、そいつは、お前の親じゃなくて、サンタなんだよ。そして次の日の朝、何事もなかったように、プレゼントを貰って喜んでいるお前を新聞読みながらこっそり眺めて居るのがお前の親なんだよ。まったくの別人だ、分かったか?」


 俺が、そう吠えると、小学生は依頼料も払うのを忘れて、事務所から逃げ出していく。とんだただ働きだ。


 どうせ、俺の話した意味がわかるようになるのは、さっきの小学生が親となった時だろう。


 12月は、つまらない仕事が多い。だが、嫌ではないこともある。

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