家出の真相は?
夕方には帰って来るかと思われてた母さんは八時を過ぎても帰って来ない。
俺達は夕飯も野菜中心でご飯を作ると母さんの分もご飯をよそおった。
「母さん帰って来るよね」
いつもはムカつくくらい煩い麻美が目をまっ赤にして涙を浮かべている。
そんあ麻美を抱きしめると俺は「大丈夫。母さんは帰って来るよ」そう繰り返し自分に聞かせる様に口にするだけ。
家の中はキレイになってはいる。まだテーブルの上にはいろんな物が乗っているけどな。それにさえ目を瞑ればまあまあきれいになっている。
もう母さんは俺達を見限ったのかも…そう思って項垂れてた矢先、玄関のドアノブがゆっくりと回った。
「ただいま〜え?!ど、どうしたの、あんた達?!」
麻美が俺に抱きついて泣いているのを見て母さんは目を白黒させる。
俺だっていつも麻美をからかってるわけじゃないんだよ。
「このごはんはどうしたの?もしかして作ってくれたの?」
あら〜嬉しいわ〜と口元を綻ばせながらも母さんは揚げ出し豆腐やら野菜スープを食べている。
「母さん、もう家出なんかしないで。あたしちゃんと掃除もするよ。お手伝いもするよ。忘れ物がなくなるように自分できちんと用意するよ。だから行かないで」
「へ?」
「そうだよ。母さん、俺も悪かったよ。朝はちゃんと早く起きれる様にするよ。もう母さんの手を煩わせない様にするから、出て行こうなんてしないでくれよ」
「え?」
「父さんも何か言いなよ」
俺に急かされた父さんは、首の後ろをガシガシとかきながらも母さんにビロードの小箱を手渡した。
「これって…?」
「俺達の結婚記念日のお祝いだよ。いつも頑張っている母さんにって思って残業を頑張ってたんだ。だから出て行こうなんて思わないでくれ。俺達を見捨てないでくれ」
俺達三人の気迫に母さんはタジタジ。
「あ、ありがとう…。うれしいよ」
母さんの言葉にウソはなかった。目は涙で潤んでた。
「あのさ、さっきから家出家出って言ってるけど、どう言うこと?今日ちゃんと書き置き残して行ったんだけど読んでないの? 今日は実花おばちゃんの誕生日だから家に行くけど夜には帰るって書いてたわよ?」
実花おばちゃんと言うのは病院で働いている女医さんで、母さんの実家は病院を経営している。母さん元々看護士だったし。たまに人手が足らないと臨時で実家の病院で働いて来る。
母さんはテーブルの上に残された自分の置き手紙を見て、ようやく俺達の慌てようと態度に納得した。
確かにところどころ水性のインクが流れてて、『実家に帰る 母』としか読めない。
ショックで呆然としてる俺達三人に母さんは笑いながら「全くあなた達って慌てん坊ね。誰に似たのかしら」とコロコロ笑ってる。
「お父さんもさ、指輪ありがとうね。でもね、結婚記念日って先月だったわよ」
「え…そうだったのか?」
「うん。そうよだって(沼田)和美とも話してたんだもん。絶対に忘れてるよねって」
「……面目ない」
落ち込んでる父さんに更に落ち込ませることを言うのは麻美だ。
「父さんたちって結婚何年目なの?」
「じゅ、十二年目かな?」
これは絶対に忘れてる。俺は知ってるぞ。だって俺の年は十四だ。父さんの言った通りだったら母さんは未婚で俺を生んだことになるぞ。
「父さん…覚えてないんでしょ。最低」
「いいよ。父さんが覚えてないのも無理ないもの。だって忘れっぽいからね。十五年経っても忘れてるもの」
「面目ない…」
母さんの家出はデマだったけど。(殆ど俺の早とちりだった)
「勇!起きなさい〜!!」
「う〜ん眠い」
「母さんまた家出するわよ」
「お、起きる!!」
すぐに起きた俺を母さんはニコニコ顔で迎える。これが朝の恒例になった。
麻美は母さんの家出事件以来、忘れ物をしないように自ら持ちものチェックをするようになった。それでもたまに忘れているけど。そこはやっぱり忘れ物クィーンだからな。
父さんは俺達と一緒に家を出る様に仕事時間を変えた。父さん曰く「母さんの手を煩わせるわけにはいかないからな」だってさ。自分が一番寝汚いくせによく言うぜ。
家出騒動以来、母さんはあんまり怒らなくなった。相変わらず母さんの多忙な日々は続いているけど、母さん業がどれだけ大変か俺達家族は知ってる。
世の中の母さん達に乾杯!
これで母さんの家出は終わりです。
笑っていただけたら嬉しく思います。
長男の勇君ですが慌てん坊なのに、結構仕切ってます。なのに爪が甘い。
そんな処はお父さんに似てますね。世の中のお父さん達、自分たちの結婚記念日を忘れたらダメですよ〜
妹の麻美ですが忘れ物クィーンは健在のようです。
プププな家族です。