第四話 トランペットの神様
その日の東野高校、放課後。
同じ陸上部の安藤と一緒に元秋は部活が終わり部室を出た。
「演劇部?」
安藤が尋ねた。
「そう。奈々は演劇部なんだって」
元秋が答えた。
「何でトランペット?」
再度安藤が尋ねる。
「ブレーメンの音楽隊。鶏の役で、鳴き声をトランペットでやるんだって」
元秋が答えた。
「はは、なるほどね。でもブレーメンとは、高校生がやる劇か?」
またまた安藤が尋ねる。
「部活の一環で、一年は必ず幼稚園に訪問して劇やるんだと。その劇」
元秋が答えた。
「それは良い事じゃん。へー、感心するね。でも、音が出ないと確かに困るな」
「そういう事」
元秋は今日の朝また奈々に会った事を今、安藤にだけとりあえず話した。佐藤と大内に話すとまた馬鹿にしたり、下品な事を言い出すのではと思ったからだ。安藤はモテるだけあって、人当たりが良く、誰かの悪口も言わない。元秋は奈々についての相談役は安藤が適役だと思ったのだ。
「お前の話聞いてると、奈々ちゃんて確かにあんまり頭は良くないかもな。でも、明るくて性格は良さそうだ。悪い子ではないんじゃないか。彼氏いないんだったら早くしないと誰かに取られちゃうかもよ」
笑いながら安藤が言った。
「もろ好み。ただ、恋愛の高ぶり? そういうんじゃまだ、ないんだよな。とりあえず今は友達で良いというか」
元秋が言った。
「良いじゃないか。お前に彼女出来たら何か嬉しいな。今度俺にも会わせろよ。取ったりしないから」
相変わらず笑いながら安藤は言った。
こいつは本当に良い奴だと元秋は思った。
「ああ、お前ならチャンスがあればいつでも紹介するよ」
そう言いながら元秋と安藤は校門の方に向かっていた。
東野高校校門外。
「ねーやっぱり帰ろうよ。出てくる人皆見てるよ」
「うん、直ぐ終るから。ここで試しに一回吹いてみたいの」
野沢奈々と同じ演劇部の一年笹野舞の二人だった。
奈々は朝、元秋と別れた後、学校で幾ら吹いてもトランペットが鳴らなくなっていたのだ。
「ここで吹けばキッと鳴るんだよ。見てて」
奈々が舞いに向かって言った。
「でも奈々、東高はウチの学校胡瓜とか言って馬鹿にしてるんだよ。そんなとこに来てトランペット吹いたりしたら、もっと馬鹿にされるし、恥ずかしいよ。止めて、帰ろう。ね」
舞は何とか奈々を説得して帰りたかった。
「いいから。吹くよ」
しかし奈々はお構い無しにトランペットを口元に持っていき、勢い良く吹いた。
ポォーーー
今までで一番トランペットらしい音が鳴った。
「ほら、舞。鳴った」
奈々は誇らし気に横の舞の方を向いて言った。
今まさに校門を出ようとしていた元秋と安藤の直ぐ前の方から、大きなトランペットの音が聞こえて来た。
「この音は。やっぱり」
元秋が門から出て来て言った。
奈々と元秋は鉢合わせになった。
「舞、ほら、やっぱりこの人神様だよ。ちゃんと音鳴ったでしょ。佐野君も聞こえたでしょ?」
奈々は舞と元秋に向かって話した。
「トランペットは聞こえたよ。つーか、奈々ちゃん何で此処にいるの? そっちは友達?」
元秋が言った。
「笹野舞です」
舞は元秋と安藤に向かって挨拶した。
「僕は佐野元秋です」
「僕は安藤聖」
元秋と安藤も挨拶をした。
「佐野君また僕って言った。俺でいいのに。舞ちゃんいるから?」
奈々が言った言葉に元秋がちょっと不機嫌な顔になったのを見て、安藤はすかさず言った。
「ここじゃなんだから、皆でファミレス行こうか?」
つづく
また読んで頂き有難うございます。