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(番外編) キミはボクをスキ? (下)

 北村颯太も、野沢奈々も、中学二年になっていた。

 二人は同じクラスになった。

 颯太が先生達に軽度発達障害の奈々の事を自分が一番良く知っているから、同じクラスにした方が良いと提案したからだ。無論奈々は知らなかった。


 放課後の演劇部の部室。

 今は休憩中で、学校のジャージを来た生徒達が立ったり座ったりして、個々に話しをしたりして過ごしていた。

 奈々も床に体育座りをして、同じクラスでもある鈴木美依と話していた。

 「ホント、颯太君には参るわ」

 呆れた声で奈々が言った。


 「だからさ、言ってやったんだよ。やめろ、本気で野沢菜に悪口言いたい奴は裏で言わないで、正々堂々本人の前で言え!ってな」

 校庭の隅に集まっている陸上部員の中で、同じ二年を相手に颯太は自慢気に話していた。

 「マジ、女子の中にウぜーのいてよ。裏で野沢の悪口言ってやがんだ」

 「でも、その子、二年で初めて野沢の事知ったんだろ?支援学級と行ったり来たりしてるの見たら、やっぱり少しは気になるだろう」

 同じ小学校から来た陸上部二年の野上が言った。

 「だったら直接野沢に聞けばいいだろ。裏で言ってんの野沢に聞こえたら、そりゃ野沢は何倍も嫌だろ」

 「聞こえたのかよ」

 「分かんないけど、俺の耳に入ったんだから、野沢にも聞こえてて、きっとアイツ一人で何言われてても我慢してたんだ」

 下を向き、腕で目を覆い、泣きまねをしながら颯太は言った。

 「お前野沢の事になると妄想も凄いな。そうとは限らないじゃん」

 野上は半分呆れた声で言った。


 再び演劇部部室。

 「何もクラスの皆の居る所で言わなくても。逆に悪口言ってた下野さん泣いちゃったじゃん。私も泣きたかった~」

 そう言って奈々は隣の美依の肩に頭をくっ付けて、甘える振りをした。

 「おー、よしよし」

 美依は奈々の頭を軽く撫でながら言った。

 「でも、格好良かったよ。颯太君。私だったら惚れちゃうなー」

 「一年の時も同じ様な事やって、今度で二度目。私は穴があったら入りたいよ。確かに皆あの時も颯太君の事格好良いって言ってたけど」

 「野沢菜は知らないんだよ。颯太君、結構人気あるよ。男子にも女子にも。」

 美依がそう言った時、奈々は肩から頭を上げ、美依の方を向いた。

 「じゃあさあ、今度一緒に陸上部の試合見に行く?」

 奈々が言った。

 「えー」

 美依は少し迷った様に言った。

 「ずーっと、試合見に来い、試合見に来いって誘われてて、困ってんだよね」

 「それは颯太君、野沢菜の事好きだからでしょ」

 「私は好きじゃない」

 「・・・・・・」

 「嫌いじゃないけど、好きだけど・・・付き合うってのとは違うの。好きが違うの。分かる?」

 奈々は目を潤ませて、訴えるように美依に言った。

 「そうなの」

 「うん」

 「私もそうだけど、女子は皆、野沢菜と颯太君はふざけてるだけで実際は付き合ってるんじゃないかと思ってるよ」

 「違うし、そう思われると困る」

 「そうなの」

 「うん。颯太君に彼女出来ないと、私も誰かと付き合えない」

 「そうか」

 「私ね、颯太君にも何回か言ってるんだけど、自分の事を知らない誰かと付き合いたいの。支援学級行ってる自分とか知らない人」

 「ふーん」

 「だからさ、一緒に試合見に行こう。美依が颯太君の事好きなら、私全力でプッシュするから」

 奈々は美依の両手を掴んで言った。

 「まあ、行ってもいいか」

 少し濁す様な言い方で、美依は言った。


 再び陸上部校庭。

 あれから一時間程経って午後六時過ぎ。

 部員は部活の後片付けをしていた。

 「野沢もう帰っちゃったろうな」

 颯太がポツリと呟いた。

 「また野沢かよ」

 半分呆れた様に野上が言った。

 「あ、野沢って言えば、この二日位、志田先輩、一緒に帰ってるの誰か見たって言ってたぞ」

 二年の笹本が言った。

 「あ、志田先輩?」

 「最近は三年殆ど部活出て来ないもんな。早く帰ってんのか」

 野上が言った。

 「殺す!志田の奴殺す!」

 突然颯太が大声を出した。



次の日の昼休み、校庭の隅にある部室長屋の一番右隅の陸上部部室に、颯太と志田はいた。

 「何もこんな所に来なくても、教室じゃ駄目なのか?」

 志田が言った。

 「教室じゃ、志田さん困るでしょ」

 颯太は睨んだまま言った。

 「は、何ナマ言ってんだお前」

 そう言って志田が颯太との距離を詰めた時だった。

 颯太も一歩前に出て、志田の顔面を殴った。

 「あっ」

 不意を突かれ志田は殴られた顔に手を当てる。

 その瞬間、今度は開いた脇腹を殴る。

 志田が横によろめいた瞬間、今度は覆いかぶさる様にして、押し倒した。

   ドガッ

 「何するんだお前!」

 そう叫ぶ志田の上に颯太は素早く馬乗りになると、志田を仰向けにし、更に二発、今度はビンタを喰らわせた。

 「うっ、痛!」

 思わず志田が声を上げる。

 「先輩部活来ないで何やってんですか?二年の女子と、放課後一緒に帰ってるそうじゃないですか」

 倒れた志田の上に乗って、右腕を殴る構えをしたまま、颯太が言った。

 「あ、奈々ちゃんの事か」

 「奈々ちゃん?」

 志田が言った瞬間、今にも殴りそうな勢いで、睨んだまま颯太が言った。

 「なんだよ!奈々ちゃんって言って悪いのかよ!」

   ドガッ

 「うっ」

 志田の言葉と同時に颯太が志田の脇腹を殴った。

 「腹なら幾ら殴ってもいいでしょ、先輩」

 脅す様に颯太が言った。

 「ま、待てよ。俺は振られたんだから。待てよ」

 手を顔の前に出し、防御する様にしながら、志田は言った。

 「振られた?じゃあ何で二日も一緒に帰ってんですか。見た奴がいるんだ」

 「振られたよ!初めの日に直ぐ振られたよ。その後はお前の事で相談に乗ってたんだよ!」

 志田は大きな声で言った。

 「俺の」

 颯太は急に力が抜けた様に、殴る体勢でいた握り拳を下げた。

 「そうだよ。奈々ちゃんお前の事怖いってさ」

 「怖い?」

 「お前、いつも奈々ちゃんの事助けて、面倒見て、いい奴だと思ってるかも知れないけど。奈々ちゃん、お前の事感謝してるっても言ってたけど。お前のお陰で出来た友達もいるけど、お前の事で、失った友達もいるって言ってた。お前が怖いって。お前が怖くて言えない事もあるって」

 「俺が怖い?奈々が?」

 「そう、言ってた」

 そう言いながら志田は力の抜けた颯太の膝の間から、体を這いずり出した。

 「俺も振られたけど、奈々ちゃん、お前とも付き合わないって言ってたぞ。お前が誰かと付き合って、少し自分との距離をとってくれれば、もっと友達としては仲良くなれるって」

 「・・・・・・」

 颯太は呆然としていた。

 子供の頃から奈々の事だけを見続け、面倒を見るのが半ば生き甲斐だった。

 それが行き過ぎて、嫌がられているなんて、考えた事も無かった。

 「何で、先輩に言ったんすか」

 目は呆然と前を見たまま、志田の方を見ないで、颯太は言った。

 「先輩の俺なら、お前に言えると思ったって」

 立ち上がりながら志田は言った。

 「今もそうだけど、お前奈々ちゃんの側に寄る男、直ぐ暴力で何とかしちゃうだろ。怖いってさ」

 「でも俺は、奈々を守るために・・・」

 「お前今は奈々って言っただろ。。でも普段は、皆といる時は野沢で、奈々ちゃんと二人でいるときは奈々で、使い分けてるだろ?それも奈々ちゃん嫌だって。かえって意識してるみたいで、不自然だって」

 「でも俺は、そうした方が」

 「小学校の時はもっと自然だったって。今は力で人を抑えて、奈々ちゃんを守ろうとする。望んでないのに。今の関係は、不自然だって」

 「俺は奈々を追い詰めてたんですか?俺は奈々の為に色々・・・俺はあいつを守るって決めて、それで頑張って喧嘩とかも強くなって、あいつの為に、あいつの為に」

 颯太は下を向き、泣きそうな声で言った。

 「他にも色々言ってたけど、お前が何でも助ける事の中に、自分で出来る、自分でしなくちゃ、って思う事もあったんだろ。北村、お前過保護過ぎたんだ。奈々ちゃんをもう少し自由にしてやれ。それで自分も少し自由になって、彼女とか作ったらいい。どうゆう道を通っても、本当に運命で繋がってたら、何処かで付き合える時が来るんだから」

 「あ、あ、ああ、あ~~~」

 颯太は突然子供の様な大きな声で泣き出した。

 「まじかよ。本当に今まで誰にも言われず、自分でも気付かなかったのか」

 颯太の泣き声にビックリした志田はそう言った。

 そして出口の方に向かった。

 「じゃあ、もういいだろ。俺行くぞ」

 そう言って、取っ手に手を掛けて最後に颯太の方を振り向いた。

 「あ~~~~」

 颯太はまだ、大きな声で泣いていた。

 「あー、しょうがねえなあ、もういいよ。泣き止むまでいてやるよ」

 言いながら志田は、大泣きしている颯太の側に行き、しゃがんだ。



 昼休みが終わり、午後の授業開始直前に、颯太はこっそり教室に帰って来た。

 なるべく奈々に気付かれない様にこっそりと。

 授業は国語の授業で、程無く中年の男の先生が来た。

 颯太は授業などお構い無しで、チョロチョロ斜め二つ前の奈々の方を見ては、志田の言葉を思い出していた。

 『俺が奈々の事を心配して、何でもやっちゃうのは奈々の為にならないのか。でも、好きな子の事を心配して、助けてあげたいと思うのは、当然の気持ちだろ。でも、奈々がそれを嫌がってて、でも、俺としては・・・』

 頭の中で考えが纏まらず、颯太は頭を掻き出した。

 『あー』


 「じゃあ、次のページから先生が読むから、皆黙読して下さい」

 先生はそう言うと、教科書を読みながら、生徒達の机の列の間をゆっくりと歩き始めた。


   コツッ

 突然授業を受けていた奈々の頭に何かが当たった。

 当たった物を探して、机の周り、足元を見ると、ノートの隅でも破いて丸めた様な、紙の塊が落ちていた。

 『きっと颯太君だ』

 そう思った奈々は斜め後ろを振り返った。

 颯太も奈々の方を見ていて、恥ずかしそうに小さく手を振った。

 颯太が投げた物だと確認した奈々は前を向き、紙を広げた。

 『さっき、志田先輩に会った。話し聞いた』

 それだけ書かれていた。

 颯太はこれからどうすれば良いのか分からず、奈々に聞こうと思ったのだが、どう聞けば良いのかも分からなかったのだ。


   コツッ

 暫くして颯太の机の上に、奈々から紙の玉が投げ返されて来た。

 『そう』

 と、だけ書かれていた。

 『駄目だ。こんな事してたらいつまで経ても本題に入らない』

 颯太は奈々から本題を聞きたかったのだが、観念して、自分から聞き出す様に破いたノートの紙に書き始めた。


   コツッ

 颯太の投げた紙の玉はまたも奈々の頭に当たった。

 奈々は振り返り少し睨むように颯太の方を見ると、前を向き直し、紙を広げた。

 『本当の事を教えて。奈々にとって、俺って邪魔?俺が側にいると、自由じゃない?笑えない?』

 奈々は眉をしかめて、少し悩んで、そして書き始めた。


   コツッ

 奈々の投げた紙の玉は、今度も上手く颯太の机の上に当たって、乗った。

 颯太は直ぐに紙を広げた。

 『邪魔じゃないよ。ただ、最近の颯太君、乱暴で怖い。喧嘩強いの男の子達が言ってたから知ってるけど。颯太君を怖がって、私の側に来ない男の子や女の子もいるよ。それと、私も生きてるから、自分の事は自分で決めたいし、何でもは助けてくれなくていい。小学校位の感じが丁度良かった。今はクラスも同じだからかも知れないけど、監視されてるみたいで嫌だ』

 ショックだった。

 志田の言った言葉が本当なんだと、改めて実感して悲しくなったが、さっき一杯泣いたので涙は出なかった。

 昼休み、部室で泣いてある程度吹っ切って来た思いを颯太は破いたノートに必死に書いた。

 そして紙を丸めると、奈々に向けて今まで通り投げた。


   パシッ

 が、その紙の玉は奈々には届かなかった。

 朗読しながら歩いて来た先生は、颯太と奈々の遣り取りに気付いていた。

 そして今、颯太が投げた玉を、横から取ってしまったのだ。

 先生は紙を広げ、颯太の手紙を読み出した。

 「北村、立て」

 先生は颯太に立つ様に言った。

 颯太はのそのそしながら立った。

 「声を出して読め」

 先生はその場で読む様にと手紙を颯太に返した。

 「でも、先生・・・」

 手紙を受け取りながら颯太は躊躇して言った。

 「いいから読め。読まないんなら教室から出てけ」

 「えっ」

 颯太はビックリして、恐々と読み始めた。

 「俺、奈々の事集中して、思い込み過ぎてたかも知れない。少し距離取るよ。そしたら昔みたいな仲良しの関係にはなるかな?俺を怖がって、奈々が本当の事言えなくなって行ったら、俺も悲しいし。俺は奈々の事好きだから、俺の所為で奈々が悲しい顔になるのは嫌だから。なんだろ、影ながら見守るって言うの、そういう風になるよ俺。だから、いつも聞いてる事だけど、もう一度聞かせて。俺は奈々を好きだけど、奈々は俺を好き?」

 颯太は顔を真っ赤にして読み切った。

 「何これ、ラブレター?」

 「ハズカシー」

 「えー」

 等、クラスのあちこちから声が聞こえて来て、ざわついた雰囲気になった。


 ざわついたクラスの雰囲気を一変させたのは、先生の一言だった。

 「野沢、立って北村の質問に答えろ」

 一瞬にしてクラス中が静かになった。

 雰囲気に呑まれた奈々は、立ち上がった。

 クラス中が息を呑む。

 「あの、颯太君の事はす」

 そこまで言った時、振り向いて奈々を見ているクラスメイトの中に、鈴木美依の顔がある事に気付いた。

 「颯太君の事は嫌いじゃないけど、付き合うとかそう言うのじゃなくて。ほら、好きでも色んな気持ちの種類があるでしょ。友達として好き。恋人として好き。結婚したい位好き。あと、なんとなく好きとか。・・・颯太君とは昔から友達だから。あ、今度の陸上大会、美依と応援に行く事にしたから、ね」

 「そう、応援来てくれるんだ」

 少し寂しそうに颯太は言った。

 「颯太ー、何十回目だ振られるの?」

 クラスの誰かがふざけて言った。

 次の瞬間クラス中で爆笑が起こった。

 「うるせー、お前ら告白する度胸もないくせに」

 颯太が言い返した。

 しかし、クラスの笑い声は消えなかった。

 「残念だったな、北村」

 そう言うと先生は颯太と奈々を椅子に座らせた。

 「はい、授業に戻るぞ。静かにしろー」

 先生はそう言うと教壇の方に戻って行った。

 授業は再開された。


 『今は、きっとこれでいいんだ。奈々との事は、これから幾らでも時間はある』

 颯太は思った。





 『キミはボクをスキ?』 おわり

 中学生は大人でしょうか?子供でしょうか?



 その後の話は、高校生の奈々が主人公の話『彼女の音が聞こえる』の方で描かれています。





  オマケ

 颯太「そんなに俺、小学校の時と変わった?」

 奈々「変わった。小学校の時も乱暴だったけど、あの時のがまだ好きだったかも知んない」

 颯太「え~!」

 奈々「ほら、颯太君小五の時、寝てる私にキスしたでしょ」

 颯太「な、な、な、なんで?」

 奈々「あの時キスしようとしてるの分かったんだけどね。ま、いーかって思ったの」

 颯太「そうなの?」

 奈々「うん、あの時はキス位いーかってね」

 颯太「じゃあ、あの頃程度の俺でいればもしかしたら・・・」

 奈々「それはないけど。ごめん、今よりはあの頃のが好きだった」

 颯太ガーン「俺、小学校の頃に戻るよ!俺達はまだ若いんだ。奈々、高校は何処の高校行くの?」

 奈々「ごめん。颯太君は高校に行けないの」

 颯太「え!!」


 続きは『彼女の音が聞こえる』で、 






読んで頂いて有難うございます。

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