Target009「新妹」 10話直前!!特別増大話
誰も居ない筈の俺の部屋に明かりが点いている。
これが昨日のように親父であれ、敵であれ、やるべきことは決まっている。
「驚異は即排除!」
携帯式フックショットを鞄から取り出し、5階ずつベランダに引っ掛けて、手元のレバーを押して自動水平移動で上がっていく。
このフックショットは隠密用に改造してある為、楔を引っ掛ける時やワイヤーで引っ張る時の音は極限まで抑えてある。だから、マンションの住人に気付かれる事もない。
更には夜と言うのと、偶然にも陽西の制服が上下共に黒と言うのもあり、巧く暗闇に溶け込む事が出来る。
やがて俺は通行人やマンションの住人に気づかれる前に42階へ辿り着けた!
「よっ……と」
約13秒と言ったところか……。まあそんなにブランクがある訳じゃないし、打倒なタイムだな。
俺は自室のベランダに着いていた。
……カーテンが開いている。ポケットから取り出した死角から曲がり角の先を見るL字スコープで、部屋を確認してみると……まさかとは思っていたが、全ての罠を解除されていた。
しかも解除の仕方が鮮やかだ。こんなの罠張屋でも出来ないぞ……いや、終末の宴に居た元罠張屋はこれ以上の事が出来るから、例外も居るが……。
だが、この犯人は何を考えているんだ……。ここまでの技能を魅せて於いて、窓のカギまで解除されていたり、電気は点けっ放しだっだり、証拠隠滅する気がないのか?
そぉっと窓を開けて、片手と片足を同時に前へ動かして足音を消す暗殺屋スキルC級“南場走り”で、部屋の中を移動していく。
そして二個隣の部屋からガチャガチャと音がしているのに気付く。
(台所にいるな……だが、なぜ台所?)
何よりの疑問がほのかに漂ってくるこの香ばしい匂いだ。正直腹が減ってくる。
何だこれは。精神攻撃か? は!もしや、西洋に伝わる匂いによる精神支配とか言う技能!?
そうじゃなければ、不法侵入して飯を作る説明が付かない……!
俺は台所に乗り込む前に相手の人数や体格を把握する為、“空間把握”を使用する。
(人数は一人……小柄や身のこなしから女性と把握……)
「へくちっ」
(そしてこのくしゃみ……声から察するに、10~15才ぐらいの少女と確定…………ん?少女……?しかも、この声って……)
俺はふと思った。
この体格に声……覚えがある。
しかも、罠の解除具合からプロの日陰者と考えていたが、普通プロならここまで接近されれば気付く筈だ。
つまり、それに気付かずに物音を立てながら行動している少女は素人と言うことになる。
まさかと思い、警戒はしつつも普通に歩いていき、台所を覗くと━━━
「あ、お帰りなさい! 初めましてですよね!私は伴……」
「何してる、放電少女」
俺は不法侵入者に冷たげに問う。
質問に反応して俺の顔を見た少女は、少し仰け反り一歩引いていた。
「あ、あなたは……昨日の!?」
やっと気付いたようだな。
この少女は昨日、マンション前で俺に電撃ショックを与え、見事に放置して逃げた子だった。
ふむ、この驚きようから察するに、俺の事を覚えていて、悪いことをした自覚もあるようだな。
「あ、あの、ひょっとして坂本……零弐さん……ですか?」
ためらいながら聞いてくる。俺の事を知っているな。昨日は知らなかったのに、この部屋だと気付くと言うことは、俺の名前や住所は知っているが、顔は知らないと言うことになる。
この少女の正体、解ってきたぞ。
「ひょっとしなくてもそうだ」
サァーと血の気が引いていく音がした。否や急に頭を深く下げてきた。
「ごめんなさい! 昨日はあんなことしたのに、置いて逃げていっちゃって! 昨日はその……零弐さんに会いに行ったんですけど、その前にあなたとあんな出来事があって……その……申し挙げにくいのですが、今まで屋上に隠れていました」
思った以上に素直に謝られたので、こちらからは何かを言うのはよそう。
どのみち何も言う気はなかったのだが……昨日の件は俺にも非があったし……だが、これで確信したな。
「君がひょっとして手紙に書いてあった、養子縁組でここに住まう伴音……ちゃんで良いのか?」
「……っ。 はい!私が伴音です! あ、あの、どうか住まわせては頂けないでしょうか!」
頭を下げたまま、必死に嘆願してくる少女の肩は震えていた。
それはそうだ。屋上に隠れてたって言っても丸1日だぞ。まだ時期的にも寒い。
追い出される不安もだが、今の伴音……ちゃんは冷えきっている筈だ。
聞きたいことは山程あるが、今は先にさせるべき事があるな。
「その辺の話は後にしよう。 伴音ちゃんは風呂入って来てくれ」
「……え? ですが挨拶やお話がありますし……」
「良いから。寒いだろ? 入って来ていいよ」
俺は台所の正面にある風呂場へ指差して、軽く背中を押してあげた。
「……あ、ありがとうございます……!」
少し嬉しそうにしながら、伴音ちゃんは自分の鞄と共に風呂場へ向かった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
それから10分程して、時間も18時になりかけた頃に伴音ちゃんは出てきた。
男が早いのは分かるが、女の子がこんなに早く出る訳が無いことは、女経験の無い俺でも分かる。
「別に気を遣わなくても良かったんだぞ?」
「そんなことはないです! 私、いつもこのぐらいです!」
思った以上に謙虚な子だ。好印象を受けるな。
「さて、食事でもしながら話をしようか」
俺は伴音ちゃんが予め作ってくれていた煮物と、焚かれたご飯を並べたテーブルへ座らせた。
いきなりここまで待遇良くしてくれるとは思ってなかったらしく、少し緊張をしているようだった。
ここまでの伴音ちゃんの様子を見てハッキリした事がある。この子は本当にクソ親父が寄越した新しい家族で、日陰者や敵ではない。
だから、最初に話す内容は縁組の件ではない。
「まず最初に質問したいんだけど、俺は今回の縁組の件に関して、何かを言うつもりはない」
「そ、それじゃあ!」
「ああ、宜しくだ。新しい妹として、兄としてな」
俺は手を出した。
「はい!」
パァァァと顔を輝かせて、握手してきた。
「だから敬語は止めてくれ。普通にしよう、俺も名前で呼ぶからさ」
「はい!あ……うん!宜しくね!お兄ちゃんっ」
「う……」
「あ、あれ? ともね、可笑しなこと言ったかな……」
「いや、気にしないでくれ」
お兄ちゃんとかむず痒すぎるな……好きに呼んでくれと言った以上、変えてくれとも言いづらいし。早く慣れるしかないか。
「それで次の質問だけど……この部屋にあった防犯システムは、伴音が切ったのか?」
「うん、そうだよ! この罠発見器みつける君と、罠解除装置はずすちゃんでね!」
名前はともかくとして、そのアイテムは相当な性能だな。
「どこでこんな道具を?」
「造ったんだよ!」
「……ん?」
「ともねの手作り!」
マジで言ってるのか……? にわかに信じがたいが……
「むぅ……疑ってる。見ててね!」
言うや鞄から何やら道具箱を取り出し、カチャカチャと床で何かを造り出した。
5分もすると腕に付ける血圧検査機のような物を渡され、それを装着するように促された。
「質問です。お兄ちゃんは私を疑ってる?」
「え? いや、そんなことは……」
遠慮して嘘をついた瞬間、ビーー!と血圧検査機のような物からブザーがなる。
「これはね、嘘発見器バレバレだぜ君! お兄ちゃん、ウソついたでしょ……」
むぅ……と頬を膨らませていた。当たっていた。おそらく、嘘を突かれて動揺した際に、僅かな脈拍の変動を図ったのだろう。油断していたのもあるが、俺の一瞬の乱れをも感知するとは。
「マジか……凄すぎるだろ……ここまでの物を短時間で……」
これなら俺の罠を解除出来たのも判る。いわゆる天才児って訳か……。
「ともね、趣味は発明!特技も発明!大抵の物は造れるから何でも言ってねっ」
材料さえあればだけどね、と補足して俺達は話を終わらせて、食事に付こうとした時、ピンポーンと呼び鈴がなった。
「誰だろ。ともねが出るね」
「ああ、良いよ。多分、流れ的に俺が出なきゃいけない娘だから」
俺は扉を開けると、そこには又しても驚くべき相手がいた。
その娘は目を瞑ったままペコペコと頭を上げたり下げたりしながら自己紹介をしてきた。
「夜分遅くにすいません……っ。 わ、私は葉月と言います。えっと……大成さんの紹介で来ました。 坂本零弐さん……でしょうか?」
と、目と頭を向けて俺の顔を確認した少女は。
「昨日ぶり……かな」
「あ、あれ!? 貴方は昨日の!?」
そう、この葉月と言う少女は昨日、公園で会った娘だった。
いやはや、世界は狭いんだなー。
『to be continued』
どもども、焔伽 蒼です!
今回は通常の0.5倍長めに創ってあります。次回も増大話に出来たらな良いなと考えております。無理だと思いますけどね!(笑)