Target003「出会い2」
俺はマンションの前でうろちょろしている子供に声をかけることにした。
「なあ、キミ」
「誰!?」
少女は振り返り様に、猫ハンドを俺に向けてきた。なんかデジャブを感じるな。立場が逆転だが……。
「おいおい、待ってくれ! 俺は怪しい者じゃないぞ? 君がウロウロしていたから何かと思って声をかけただけだから!」
少し警戒をしているようだったが、俺をジロジロ見て安全を自分的に確認出来たのか、普通の態度になった。
「そっかー、疑っちゃってごめんね……。つい追ってがコホン、痴漢かと思っちゃって」
そう言った少女はまだ幼い。腰まで伸ばした茶髪ストレートと左右に小さく結ばれた胸辺りまでのツインテールとつり目が特徴的な活発さを思わせる女の子だが、今のご時世、幼女誘拐等珍しくもない。警戒されて当たり前か。実際、怪しい動きをしていたのはこの子だが、そこはスルーしよう。
と言うかこの猫ハンドは何だ? 小学生のオモチャにしか見えない。
「むぅ……その目、私の防衛兵器をバカにしているね!?」
「ははは、兵器ってこのトイザマスとかで売ってそうな、オモチャが?」
「やっぱりバカにしてる!なら、試してみる!?」
カチャリと猫ハンドを俺の方へ向けてくる。
頬を膨らませて、抗議の目で訴えてくる様はやはり子供だなと思う。
まあ遊んで貰いたいんだろうな。仕方ない、これも表に馴染む為の特訓だ。
この子の遊びに付き合ってやるとするか。
「良いだろう。 ならば、お前のその兵器!この知る人ぞ知る(裏では)、最強の男が試してやろう!」
子供相手にこんな発言をしても、周りからは仲良く遊んでいるお兄さんにしか見えないだろうし、この子から見ても遊んでくれる優しいお兄さんでしかない。世間体的にも馴染めているだろう。
「えっと……本当に良いの?」
ん? 何でそんな躊躇うような顔をするんだ?
オモチャだろ。確かに裏の世界では、一般的な物に偽装した殺傷兵器ぐらいはあるけど、流石にこんな子が持ってるわけない。
あれ? でも、この子の目に嘘が感じられない。純粋なだけか? それとも本当にそう言った物でそんなことになってしまうのか?やべ、不安になってきた……。
「し、知らないからね!?」
「え、ちょっとまっ━━━」
「えいっ」
カチリと取っ手に付いていたボタンが押された。
ボシュンッと猫ハンドの部分が取っ手から煙を吹いて放たれた。
ガシャァンと猫ハンドと一緒に吹き飛ばされた俺がマンション横の花壇にぶち当たる。
ビリリッと猫ハンドが軽く放電し始める。
「ぐふっ!え?ちょ、放電って!?」
放電はやがて出力を上げていき━━━
「放電ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
バリバリバリッ!と最後に電撃と、俺の悲鳴が夜のクラシックな舞台にシンフォニーを奏でた。
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気が付いた時には子供は居なく、俺は花壇の中で気絶していた。
体をはたいて、騒ぎにならないようにこっそり部屋へ戻る。あのまま一般人に見つかったら、公的機関を呼ばれてしまうからな。
部屋へ戻ってから壁時計を確認するに、気絶してから一時間ぐらい経っていた。
あらゆる耐性を付けていた俺を、一時間も昏倒させるなんて電圧強過ぎるだろう。
しかも、当てどころが絶妙に急所を突いていて、効果は抜群だ。
一般人が食らったらショック死するレベルだぞ。現に衣服は焦げてしまっている。
何者だったんだ。
「……とりあえず風呂に入るか」
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風呂から出た後、ドライヤーで髪を乾かしながら今晩の食卓を考える。
本当はカップ麺とか缶詰めといった簡易食で良いんだが、始末屋時代に桜花が「健康を怠る者に始末屋は務まらないわ!」と、毎日食事を作ってくれていたせいか、今では手作りじゃないと物足りなくなってしまっている。
そのせいか桜花が居なくても、朝昼夜と自炊していたりする。
「今日は野菜炒めにでもするか」
台所へ移動するため、廊下から部屋を通り過ぎようとすると、何かの違和感に気付いた。
「……罠が解除されている」
間違いない。家を空ける前に、部屋や窓に仕掛けた侵入者撃退用罠が解除されている。
「机の上に見知らぬ封筒があるな」
状況を整理しよう。家を空けている間に、何者かが侵入し罠を難なく解除。そして部屋が乱れて無いことと、装置の外し方がプロの者だった。
そして怪しく置かれた封筒。罠の可能性もあるが、暑さ3mmにB-5用紙並の大きさ。爆弾の類いではないな。となれば、開け口か用紙に毒が塗ってある可能性があるな。
放置しとく訳には行かないし、俺は秘密BOXから特殊なゴムで作られた完全防護の手袋を装着する。
これは耐火耐水に加え、毒や放射線すらも完全カットする優れものだ。
絶対の安心をもって封筒を開封する。中には3枚の用紙が入っていて、それをそっと取り出す。
「何だ、この書類……。見た所毒も付いてないし、罠の一切が見当たらないな」
とりあえず書類を確認してみることにした。一面びっしりに書かれた手紙が一枚目に来て、二枚目・三枚目に契約書類が入っていた。
「……何かの冗談か?」
完結に言うと手紙にはこう記されていた。【久しぶりだな、息子よ。お前が行方不明になってから5年か。見付けるのに苦労したんだぞ?まあいい、そんなお前に朗報だ。新しい家族が出来るから。妹二人だ。手続きはしてある。宜しくやってくれ。 坂本大成】である。
もっと細かい事も書かれていたが、結論言うとこんな感じだ。
そして残り二枚の書類とは、養子縁組の契約書だった。
契約型の養子縁組で、二枚あるのは二人分と言う事で、一枚目には坂本葉月・二枚目には坂本伴音と名前が書かれていた。その内一人は15歳未満のようで、決定代理人として俺の親父の名前が書かれていた。
「……ツッコミ所は満載だが、あえて言うなら一つ……」
俺は決定代理人の名前を再度確認する。
「数年ぶりに接触出来たと思ったら、一体何の話を持ち掛けてんだ、あのクソ親父ィィィィィィィィィ!!」
『to be continued』