Target002「出会い」
━━2030年3月━━
俺が終末の宴を辞め、裏の世界から表の世界へ戻ってから3ヶ月。
始末屋時代にたっぷり稼いだ金で、東京都心にある家賃30万のビル42階で一人優雅に暮らしていた。
辞める時に仲間から「なんで!? 帰還者になるつもり!?」とか「帰還者になってもいいことないよ。縛られてばっかだし」等、他にも色々言われたが、俺はそんな仲間達を押し切って帰還者となった。
実際、帰還者って言葉は、俺には合わないと思うんだがな。
元々は表の住人だった日向者が、裏の日陰者となり、それが何らかの理由で表の世界へ帰る事から名付けられたのが帰還者と言われるわけだが、日向者となり生活してみた分かった。
一度裏へ入った者は、その感覚がなくなることはない。逆に裏と表、両方の世界の常識が入り混ざって混乱しそうになる。
だから裏での癖が残る俺は、本当の意味で帰還者とは言えないだろう。
まあ、これから先は長い。
表での一人暮らしも慣れてきたし、明日からも“仕組屋”に手配して貰った高校生活も始まるし(3年からの転入扱いだが)、徐々に裏の感覚を抜いて行こう!
さしあたって今は何をするべきか。とりあえず、もしもに備えて防衛罠を仕掛けるとしよう。
何だか仕組屋を利用したり、罠を仕掛けたりしている時点で本末転倒な気もするが、まあ気のせいだろう。
何せ表世界にも犯罪はある。日向者だって、自宅に犯罪者迎撃罠を仕掛けるぐらいするだろう。
だから俺が殺傷Cクラスの罠を仕掛けるのだって至って普通のことだ。
殺傷Aクラスにしない時点で、素手に表に慣れ親しんでいる証拠だな、うん。
「あれ……? 設置式爆弾を固定する為の金具が不足している。道具屋に発注かけるか」
そうと決まれば外出だな。
俺達“始末屋”と同じで、仕組屋や道具屋と言った“裏稼業”の連中は直接商談しかしない。
相手が本人であるかの確認と、確実な商談成立をさせるのが理由だ。
中には危険だと言って、代理人を寄越したりする者もいるが、それでも人と人との直接商談になる。危機による商談は決してしない。
だから俺も、道具屋の居る場所へ今から赴かないといけない訳だ。
念のために、愛銃であるイタリア性のベレッタM8000クーガー(セミオートマチックピストルで、9mm×19弾薬と大口径でありながら、かなりのコンパクト化されているため、実に俺向けな銃である)を持って行くとしよう。
支度を終えてから玄関扉へ向かう。
このマンションはセキュリティ度が高く、扉を一度開けて閉めると、自動閉鍵される優れものだ。
(まあ機械頼りは不安だから、自前のロックも架けるがな)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
マンションを出てから一時間、道具屋と商談をして自宅へ戻る道すがら、まだ寒さが残るこの時期だ。
暖かい物を飲みたくなり、近場の公園にある自販機でコンポタージュを110円で購入し、ラベルのうんちく通りよく振って飲んだ。
「ふぅ、暖まるな」
口の中に広がるまろやかな味と、体をホッコリさせてくれるコンポタージュは最高だなと考えていると、誰かが近付いてくる気配に気付いた。
(今の時間帯、この公園は人通りが少ない……。まして痴漢被害が多発していると言う場所に、子供が一人で居る事など特にないだろう。 しかし、紛れもなく誰かが近付いてくる気配がするな……)
知り合いかとも考えたが、越して来て日もまだ浅い。そして知り合った者ならば、その気配を覚える為誰かは直ぐに分かる。
だから“俺は知らないが、相手が知っているから話し掛けてくる”、と言う事は無いだろう。
(……となれば、終末の宴時代に知り合った者か━━━もしくは敵!)
俺は懐に隠し持っていたクーガーを自然な流れで掴む。そして、クーガーを出さず掴んだまま振り返る!
「誰だ!?」
「ひゃう!」
振り返った先には、俺と同じぐらいの歳の少女がいた。
肩までのゆるふわにシュシュでくくった短めなサイドテール黒髪で、タレ目が特徴の女の子だった。
(可愛いな……)
その女の子は一般的には地味だと思うが、昔から怖い女達ばっか見てたせいもあってか、こういう普通な娘が新鮮に見えてしまう。
「あ、あの、わたし……」
か弱そうな小さな声で、肩をビクビクさせて小さくなってしまっている女の子を見て、はっと気付く。
(やばっ!ただの一般的じゃん!?)
慌ててクーガーをホルスターに戻し、安全を示すために両手を上げて笑顔を繕う。
「ごめん!てっきりスリか暴行魔かと思って!」
「あう……ごめんなさい……。わたしこそコッソリ近付いたりして。 その……わたし人から声が小さいとか良く言われるので、近くに行ってから話し掛けようと……」
「あ、ああ。そういう事か。いや、俺も悪かったよ、大声上げたりして」
よくよく考えたら、こんな陽もある内から襲撃してくるような日陰者は居ないよな。
「それで、どうしたんだ? 何か俺に用があったんじゃないの?」
「はい。その……道を聞きたくてですね。この住所なんですけど……」
「道かぁ~……。俺もここに移住してきたから3ヶ月だから、あまり詳しくないんだけど……ちょっと見せて貰える?」
あまり詳しくないどころか、実は自分ん家の住所すらも知らなかったりする。
いや、この3ヶ月本当に忙しかったんだぞ?
俺が表に移るための段取りや、事あるごとに襲撃してくる壊滅させた闇人の残党の片付けだったり、帰還者反対派の日陰者(主に終末の宴の奴ら)の相手だったりで、戦ってばっかだった。
だからさっきも、この娘を敵と間違えちゃったし。
まあそれでも、聞かれたからには答えないといけないしな。
せめて地図でもあれば、まだ分かるかも知れないが……受け渡された紙には見事に住所しか書かれてなかった。
しかもA4サイズの用紙に、ど真ん中に小さく住所が書かれているだけだ。
うん、用紙もここまで活かされないと、浮かばれないな。もはや芸術性すら感じる。タイトルは「砂漠を生きる小人」とかか?
「ごめんな。ちょっと、この住所は分からないな」
「そうですか……。こちらこそすいませんでした!お目を通して頂き、ありがとうございます!」
礼儀正しく頭を下げてお礼をする。本当に良い娘だな。
「最悪は公安組織に聞いた方が良いかもね」
「公安組織……警察ですね! はい、そうしようと思います。それでは、色々ありがとうございました」
最後に頭を再度下げて、歩いていく。
「見付かるといいな。 さて、俺も帰るか。明日からは学校も始まるし、今日は英気を養う為に早く就寝しよう」
あれから街を散策したり、ファミレスで飯を食ったりしている間に陽が暮れてしまい、暗くなって来たので帰路に着き、マンションが見えて来た所で、俺は気付く。
「子供……?」
マンションの前に小さな少女がウロウロしていた。
スルーしようかとも考えたが、流石に可哀想なので声をかけることにした。
『to be continued』
どもども、焔伽 蒼です!
始末屋は誤字脱字を出来るだけ無くそうと思っているので、推敲を毎話行っています。他の作品は、推敲をあまり出来てないので、読みにくいと思います。ですから、始末屋だけでもと考えました。
それでもあったら……ごめんなさい。