Target016「団欒」
【4月7日(火) 20時10分】
「ただいまー」
俺はセキュリティのロックを解除してから扉を開けて部屋へ入る。
するとドタドタと奥から伴音が走って来た。
何か犬みたいだと思ったが、失礼なので心の内に留めておこう。
「お帰りなさーい! ご飯にする?お風呂にする?そ・れ・と・も~」
色のある声で、定番ネタを繰り出して来たな。
甘い!「それとも私?」と言った瞬間に、「いいえ、お布団にする」とボケ返しをしてやる。
「お・や・つ?」
「そこだけ年相応!?」
元ネタが少し大人な割には、肝心な部分が子供らしいボケだったなー。
つうかよく考えれば、年端も行かない子供にお布団の返しはないだろう!
危ねぇ!あとちょっとで、家庭に亀裂を入れちまうとこだった!
「じゃあ、とりあえずご飯にするか」
「おやつ一丁入りましたー!」
台所へ向かって伴音が叫んだ。
「俺の返事の意味は!?」
「ウソウソ。ご飯にしよっ」
「そうしてくれると助かるよ。準備しちゃったもん」
「やはり俺の返事の意味は!?」
えへへと笑いながら、台所へ戻っていった。すると伴音と入れ替わるように、台所から葉月が出てきた。見ると制服姿だった。
「おかえりなさい」
「まさか風呂入ってないのか?」
「あ、はい。 兄さんが間もなく帰るって、メールをくれたので待ってました」
「気持ちは嬉しいが、俺のことは気にしなくて良いぞ?」
「ですが、先に入るなんて申し訳無くて……」
俺の為を思って何だろうけど、やはり妹達に遠慮はさせたくない。
だが、葉月の目からは「譲れません」と言う意志が感じられる。
納得させるには、どうするべきか。
……まあ、正直に言うか。
「葉月を待たせるなんてしたくないんだ。もう家族なんだ。互いに遠慮は無しで行こうぜ?」
やべぇ……言ってて恥ずかしくなってきた。
「……は、はい……ありがとうございます……」
葉月が顔を反らしてしまった。
あれ? 何かマズイこと言ったか……。いや、でも怒ってる気配はしない。
……照れてる?
「葉月?」
ポンと肩に手を置くと、ビクッとしていた。
「な、なんでもないですよ~?」
「いや、まだ何も言ってないんだが……俺も葉月も」
「あう!? ご、ごめんなさい……」
何だかかわいいな。こうなると、少しからかいたくなる。
よし、さっき回避されたネタを使ってみるか。
「とりあえずゆっくりしたい。 準備頼めるか?」
「あ、ハイ! ご飯ですよね、いま準備を━━━」
「いや、お布団の方を頼む」
「あ、お布団が先ですか。 分かりました、では着替えて━━━って、ええ!?」
いきなり過ぎて、反応に随分遅れがあったな。
顔を真っ赤にして、漫画のように目をぐるぐるさせている。
なんて言うか、やはり反応が可愛いよな。
「お、おお、おふっおふ……っ、お布団ですか!? 私なんかで宜しいのですか……!ふ、ふつつか者ですが、宜しくお願いします!」
「いやいや、落ち着け、冗談だ!動揺させようとしたら、こっちが動揺したわ!」
「え……? あ、冗談ですか!そ、そうですよね!私なんかが兄さんに釣り合う訳ないですもんね!」
「釣り合う釣り合わない以前に、義理とは言え兄妹だからな?」
「はい、そうですよね!分かってます!大丈夫です!いまお布団の準備を━━━」
「何も分かってねーよ!?」
テンパってお布団の準備に取り掛かろうとする葉月の手を、掴み止めておいた。
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台所へ向かい伴音が用意してくれた料理にありついた。
もちろん、葉月と伴音も一緒に食事をしている。今日の料理は里芋の煮転がしに味噌汁と来て、メインにはしょうが焼きか。
定食だな。味に至っては、そこらの食堂よりずっと美味い。伴音の料理スキルは本物だ。
「あの……さっきは取り乱してすいませんでした……」
おずおずと葉月が頭を下げてくる。
「いや、葉月が焦るところを見れたのはラッキーだったよ」
「え? な、何でですか……?」
「ほら、俺達は家族になったばかりで、互いの事を良く知らないだろ? だからさ、新たな一面を見れたみたいで嬉しいよ」
「……っ! そ、そうですか……」
顔を真っ赤にしている。素直に褒められるの苦手なんだな。
「テンパるとエロくなるって所とか」
瞬間、カァ━━━と顔を沸騰させた。ほんと面白いな。
「わ、私、えっちな子じゃないもん!」
「はは、冗談だよ」
「うぅ~……兄さんは意地悪です……」
「大丈夫だよ、お姉ちゃん。分かってるから」
「ホントに?」
「ホントホント!」
そんな冗談の言い合いを出来るぐらいには、俺達も家族に近付けたんだなと内心ホッとしていた。
そんな俺達の日向生活に、日陰が迫って来ている事をまだ知らない。
『to be continued』




