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一時間で書く三題噺 第1作 「超必殺技」

作者: 桜月雨天

一時間で書く三題噺 第1作

 お題 夫婦、サッカー場、漁船


   ◇


超必殺技


 今年の社会人サッカー大会は、異色の展開だった。

 漁協の健康増進プログラムでなんとなく始めたサッカー部が、怒涛の快進撃を遂げていた。海で鍛えた肉体と体力を駆使し、一本釣りシュートや、底引き網フォーメーションといった独特のプレイで、県大会決勝にまで勝ち進んでいた。

 決勝の相手は、郡大会決勝で漁協に敗れたものの、二位通過で県大会に出場した農協チームだった。

「くっくっくっ、漁協め、郡大会では敗北を喫したが、今回は違うぞ! 見せてやろう! 俺たちの秘策をな!」

 農協チームの主将が云うやいなや、フィールドに11台のコンバインが姿を見せた。農協チームのメンバーが乗り込むと、コンバインはエンジン音を高らかに響かせて、フィールドを縦横無尽に走り回る。

 漁協チームは、農協のコンバイン相手に、なおも攻撃を行ったが、背の高いコンバインがゴール前に立ち塞がり、漁協のシュートは全てが弾かれた。フィールドのボールも、ひとたびコンバインに奪われると、農協チームは高いところでのパス回しで、漁協にボールを一切触らせもせず、たびたび漁協のゴールに迫る。

 漁協のキーパーが巧みな技で、ネットを揺らされることは防いでいたが、ほとんど防戦一方と云ってよかった。

「くっ、このままでは……」

 筋骨隆々の身体を浅黒く焼いた漁協チームの主将も、目の前のコンバインの機動性と攻撃性、固い守りの前では、足元に置いたボールを蹴ることさえできず、奥歯を噛み締めることしかできなかった。


「アンタァ! しっかりしぃやぁ!」

 観客席から飛んだ声に、漁協チームの面々が視線を飛ばす。そこには、港に置いてきたはずの主将の漁船と、その甲板上に大漁旗を携えた主将の妻の姿があった。

「お、お前……」

「アンタぁ、この船と一緒ならどんな魚でも獲っちゃるて云うたなぁ。ウチの旦那なら、バシッと優勝、釣り上げて来ぃや!」

 沸き立つ漁協チームのメンバーたちが、観客席から投げ入れられた主将の漁船を取り囲み、フィールドにセットする。

「オヤッさん! 舳先へ!」

「お前ら……。おぅサ! でっけェの一本、引き揚げようじゃねぇか!」

 主将が、ボールとともに漁船の舳先へ飛び乗ると、男たちが漁船を取り囲み、抱え上げる。男たちの咆哮とともにフィールドを走り出した漁船の上で、大漁旗が大きくはためいていた。


『なんと漁協チーム、キャプテンのおカミさんの檄を受けて起死回生の大復活だ! これが愛か、夫婦の愛の力なのか!? そしてそのまま……、ゴォォォォォォルッ!!』

 スタジアムに響き渡る実況の絶叫が終わり、静寂が訪れた。

 農協チーム側のゴールに突き刺さって傾いだ漁船の脇を、サッカーボールがころころと転がっていく。

 高らかに響くホイッスルの音。

『ここで試合終了! 漁協チーム、鉄壁とも思えた農協チームの固い守りを突破し、ついに県大会優勝をもぎ取り……いえ、釣り上げました! まさに大漁! 観客席でも色とりどりの大漁旗が翻っております!!』

 一転して、スタジアムに歓喜の声が沸きあがった。


「異議あり!」

 厳しい声が上がったのは、農協チームの監督からだった。シンとしずまる試合場で、スピーカから流れる農協監督の声が空気を震わせる。

「先の漁協チームの漁船だが、あれは観客席から投げ入れられたものだ。試合中に、サポータからの直接的な支援を受けるなど、これは重大なルール違反と云わざるを得ない!」

 スタジアムにざわめきが広がり、農協側の非難の声と、漁協側の反論とが、喧騒を強め始めた矢先、漁協チームの監督が厳つい顔を崩さないまま、スッと右手を上げた。

「皆、ここは、審判長の判断を仰ごうじゃないか」

 漁協監督の視線の先では、スーツに身を固めた審判長がマイクを手に進み出てきていた。


 審判長は、厳かな声で裁定を下した。

「……サッカーして下さい」



Fin.

今回から始めました、一時間で書く三題噺シリーズの1本目です。

まぁ、結局80分かかってるので、一時間で書けてないんですけど。

プロット15分、本文65分ってとこです。

漁具とか農機具とかでバトルする系の何かに掘り下げたい感じですね!

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