魔法
30分残業なう。
予定より少し早く共同訓練場まで辿りついた。
まだエリシスもマリーチェも来ていなかったので、シンクの案内で
訓練場の様子を見て回ることにした。
地面に打ちつけた杭に藁を括りつけた案山子のようなものに
只管鉄剣を打ちつける者達。
指導者のもと整列し、型を反復する者達。
遠く離れた的に向けて一斉に弓矢を射る者達。
どうやら、ここまでは日本での戦いとなんら変哲の無いものと予想がされる。
しかしここから先は違った。
兵士が何やら唱えるとその兵士の手の平に突如火球が現れ、
弓矢用の的に向けて発射されたのだった。
「あれが魔法というやつか?」
「そうだよー。基礎的なものなら集中して呪文を唱えれば誰でも使えるよー。」
「俺にも使えるようになるのかな。」
「さぁ、得意不得意はあると思うよー。
私も火を飛ばしたりするのはあんまり得意じゃないし。」
魔法にも相性というものがあるらしい。
が、シンク曰く詳しくはエリシスから聞いてくれとのことだった。
訓練場を見学している内に予定の時刻となった。
「お、来たな!」
「少し遅れましたわね、まぁ良いですわ。」
「あははー、エリーちゃんごめんねー。
カツヨリに訓練場案内してたら遅くなっちゃったー。」
「面目無い。」
なんだかんだ遅れてしまった俺達はエリシスとマリーチェに頭を下げた。
「まずはカツヨリの魔法に関する素質を調べますわ。」
「よろしくお願いします。」
エリシスは麻袋の中から何かを取り出した。
それは銀の台座に透明な水晶が四つはめ込まれた物だった。
「ではこの装置を両手でお持ちになってくださいませ。」
「こうか?」
その装置はそれほど重くなく、持った手に金属の冷たさが伝わってきた。
「次に目を閉じて指先に意識を集中。」
「目を閉じて・・・、指先に・・・。」
「そのままですわ。・・・マナスキミング!!」
「うわっ!!」
びっくりした!目を閉じて集中をしているところに急にエリシスが大声を上げたのだ。
装置が熱を持ったようで手から落としそうになったがなんとか持ちこたえた。
「驚いたなぁ!今のはなんなんだ?」
「魔法ですわ。カツヨリの魔法の素質を今水晶に映しこんでいる最中ですわ。」
最中ってことは手を離したりしたらまずかったんじゃなかろうか・・・。
驚いて落としてしまうところだった、というのは言わないでおこう。
「お、色が出てきたな!どれどれ?」
「おー。カツヨリすごい!水魔法の素質が最高値だよ!!!」
「魔法の無い世界から来たというのにすごいですわね。」
最高値って・・・。これはどう見ればいいんだろうか。
四つの水晶はそれぞれに色付いていた。
一つは桜色をし、もう一つは草色をし。
ある一つは無職透明のままで、最後の一つは夜空のような濃紺色をしていた。
「説明いたしますわ。この水晶の色はカツヨリの魔法の素質を表していますわ。
一般的に色が濃いほどに力が強く、色が薄いほどに力が弱いとされていますわ。」
「この濃紺色の水晶は青くなるものなんだよー。それを黒に近い色で出せるなんて
カツヨリは水魔法の才能がすごいってことなんだよー!」
その後エリシスが素質の強さについて説明してくれた。
この装置では五段階で魔法の素質を表してくれるらしく、
今回の結果は火魔法が一段階、風魔法が二段階、
地魔法が素質無しで水魔法は五段階らしい。
「素質が無くても初歩的な魔法は使えるから全然問題ないよー。
あたしも火魔法の素質はからっきしだしねー。」
より強力な魔法を使うにはやはり素質が必要らしい。
素質が無くとも先ほど兵士がやっていた火の玉を飛ばすような魔法は使うことができるらしい。
「では初歩的な魔法の使い方を今からお教えしますわ。
簡単ですのですぐにできるようになりますわ。」
「お願いします。」
「魔法は基本的には手の平から発現しますわ。あちらの的に手を向けてくださる?」
エリシスに言われるがまま手のひらを的に向けた。
「先ほど装置にしたのと同じように手に意識を集中・・・。」
集中・・・。
「こう唱えなさい。ファイヤボール。」
「ファイヤボール・・・!」
手の平から力が抜けるのを感じた刹那、火の玉が的に向けて飛んでいった。
「できた・・・?」
「上出来ですわ。」
どうやらうまくいったらしい。
「ね、簡単でしょ?」
シンクがそういった、確かに簡単ではあった。が、ほんとにできたことに驚いてた。
日本ではこのような技術は無かった。おそらくこの世界とでは何か違いがあるのだろう。
「とりあえずの記録は取らせてもらいましたわ。」
「よーし!じゃあ次はあたいの番だな!」
エリシスは紙にまた何かを書きはじめると、マリーチェがそう言う。
「戦闘の傾向・・・、だったっけ?実際なにをするんだ?」
「あたいと模擬線だ!」
「模擬線・・・。」
「そうだ、あたいは強いから遠慮せずに来るといいぞ!」
俺よりも背の高いマリーチェはワハハと笑いながら腕を回していたのだった。
説明好きお嬢様なエリシスが前話から喋りまくりんぐですね。