中庭での出会い
今日は筆が進んだので2つ目投下です。
朝、空が明るくなり始める頃に自然と目が覚めた。
寝台から身体を起こし身体を伸ばす。
元服した頃に近い身体になっているからか、寝起きの調子が良い気がする。
石壁にはめ込まれた木窓を外すと朝日が差し込んでくる。
大要の光が眩しい。
照らされて明るくなった部屋を見る。
日本では見たことも無い鮮やかな絨毯に、背の低い二段の箪笥と鎧立てが一つずつ。
壁には南蛮のランプに似た燭台が一つついている。寝台の横には小さな机が置かれている。
それが俺に用意された部屋だった。
「いつか見た南蛮商人の店みたいだなぁ。」
そう思っていると部屋の扉を叩く音がした。
「客人、お目覚めですか?朝食をお持ちいたしました。」
「あぁすまない、ありがとう。今扉を空ける。」
そういって扉を開けると表には昨日謁見の間前にいた女性が立っていた。
「おはようございます。こちらが本日の朝食でございます。」
そう言うと荷車から盆を一つ取り渡してくれる。
「あとハル様から言伝です。昼を過ぎるまでは政務があるので昼食の後に
謁見の間左の会議室へ来るようにと。それまでは城内で自由に過ごして構わないそうです。」
「ありがとうございます。その通りにすると伝えてください。」
「わかりました。食べ終わりました食器は後で回収に参りますので、
お部屋の机の上に置いておいて下さい。」
「はい。わかりました。」
「では失礼いたします。」
そう言って従者の女性、確かアサリという名前だったか・・・。
アサリは次の部屋に食事を運びに行った。
「さて、食べるか。」
こちらの食事は日本とは見た目が大きく異なる。
本膳料理である一汁三菜に近い形ではあるが、一汁二菜で米はない。
米は無いが、そこには南蛮のパンがあり、汁も味噌汁や吸い物ではなく煮込み料理である。
残る二菜は生野菜の盛り付けと、焼いて味付けをした肉となっている。
昨晩振舞われた料理もこのような形態であったのでこれが
この世界の大名にとっての一般的な食事なのだろう。
煮込み料理や肉料理は味噌を使ったような濃い目の味付けで合間にパンや野菜を食べるようにする。
うまいのだが、米と信州味噌がこいしい・・・。
「さて、少し散歩でもするか。」
朝食も済んだので腹ごなしに城内を歩くことにした。
ウィンディアの城は日本の本丸に比べるとかなり大きい。
しかし、二の丸や三の丸は無くシンクの言っていた通り城下町の中央に城がある形になっている。
篭城の事態を想定していないようである。
謁見の間や執務室、炊事場があること以外は王族や家臣、従者の住居になっているようだ。
すれ違う人や城内の内装を見ていると改めて違う世界に来たのだと実感した。
「これからどうなるのだろうか・・・。」
吹き抜けになっている中庭に出て空を見上げると口からそう漏れた。
考えてもしかたないことは分かっている、なるようになるしかない。
ここは日本ではないのだから。
「こんにちは。」
「うおっ!」「きゃっ!」
びっくりした。不意に声をかけられ素っ頓狂な声を上げてしまった。
そればかりか、相手を驚かせてしまったようだ。
「す、すまない。大丈夫か?」
「い、いえ!平気です。」
女の子、まだ裳着して間もないくらいの。子供であった。
「そうか、よかった。ケガとかも無いみたいだね。」
「お兄さんは不思議な格好をしてますね、どちらからいらしたのですか?」
「甲斐から・・・、あ、いや、ハル様からは異世界と言われた。」
「そうなのですか!城内でお話は聞いてますよ。」
十になったほどの子であろうに随分と大人びた雰囲気だな。
しかし、どうやら俺のことは城内で噂になっているらしい。
「あ、そろそろお昼の時間ですね。お部屋に戻られた方が良いですよ。」
「もうそんな時間か。ありがとう、部屋に戻るとするよ。」
「えぇ。お気をつけて。」
なんだろう、この子からは不思議な感じがするな。
そう思いながらも部屋に戻ることにした。
昼食を終えた俺はハル様達の待つ会議室に移動した。
「お待たせしました。」
「おぉ、待っていたぞカツヨリ。そこに座るが良い。」
「はい。」
中を見るとハル様以外にもエリシス、シンク、ハブ、マリーチェが腰掛け座っている。
ノルは居ないようだ。
空いている席に座るとハルが口を開いた。
「部屋の方に不満はないか?」
「いえ、大丈夫です。畳でなかったので少し違和感はありましたが。」
「タタミ・・・。私達には無い文化だな、それについてもまた教えてくれ。」
畳は無いのか・・・。部屋の床は木の板に釉薬を塗ったようなものだった。
「まずはカツヨリにこの世界について知って貰おうと思う。カツヨリの世界の話は追々でよい。」
「わかりました。」
「では、エリシス。頼む。」
「かしこまりました。」
説明をしてくれるのはエリシスか。
右目のことには触れるのだろうか・・・。
「ワタクシからこの世界のこととサンホーン大陸について説明させていただきますわ。
少し長くなるのでご辛抱願いますわ。」
既にシンクはつまらなさそうにしている、マリーチェは寝ている・・・。
「よろしくお願いします。」
俺がそう伝えるとエリシスの講義が始まった。
決算に突入するので次回は来週予定です。
初評価、お気に入りを頂きました。これを励みに頑張りたいです。