クールな義兄 【7/12】(ヘキサ視点)
幼少編でオクトが伯爵家への訪問が終わったころと、学生編でオクトが受験するころの小話です。
視点はオクトの義兄であるヘキサで、内容は彼とオクトの出会いです。
「アスタリスク様が子供を引き取られた?」
あの義父が?
夏になり学校が休みに入った為伯爵家へ戻った私は、帰って早々とんでもない話を耳にした。何の冗談だと言いたくなるが、使用人が嘘をついた様子はない。そもそも嘘などつく必要もない。
「はい。混ぜモノのお嬢様で、名前をオクト様といいます」
「混ぜモノ……」
一体何処で、そんな伝説の生き物を見つけてきたのか。せめて人買いからとかではない事を祈りたいが、アスタリスク様は破天荒な性格だ。下手したら、たまたまその辺りに居たからという理由で、攫ってきたという可能性もあった。頼むから犯罪だけは侵さないでほしい。悪気はないとはいえ、もみ消すこちらの身にもなってもらいたいところだ。
「親御さんはどうしたんだ」
「どうやら、すでに他界しているようで、引き取られる前は、旅芸人に身を寄せていらしたそうです」
旅芸人。
アスタリスク様とは縁遠そうな場所である。別にそう言った類を嫌っているわけではないが、公演を見に行く時間があれば、研究をやるような方だ。宿舎と研究室を往復するだけの生活で、伯爵家どころか、子爵邸にすら中々帰らない。出かけるといっても、異界屋ぐらいだろう。どこで、どう繋がって、義妹と出会ったのか。
「旅芸人という事は、すでに大きいのか?」
「いえ。年は5つと聞いております。ただとても利発な方で、玄関に飾られてる紙細工は、オクト様がメイド達に教えたものです」
あれを?
確かに玄関に入ってすぐに、紙でできているらしい鳥の置物が吊るしてあった。あの不思議な細工を5歳の子供が教えたというのか。
アスタリスク様が引き取るぐらいなのだから、普通の子供ではないとは思ったが、本当に普通ではないようだ。
「その義妹は、今は何処に?」
伯爵家に居ないのだから、たぶん子爵邸だろう。しかし使用人からは、予想をはるかに上回る返答が返ってきた。
「アスタリスク様の宿舎に住まわれてるようです」
「は?宿舎?」
アスタリスク様が5歳の子供と一緒に2人きりで住まわれる?
どんな無茶ぶりな生活だ。アスタリスク様に子供の面倒がみれるとはとても思えない。アスタリスク様は私の面倒もろくすっぽ見れていなかった駄目大人だ。成長してからは、勉強の面倒を見てくれるなどしていただいたが、その他は相変わらず使用人任せ。
幼いころは義理だし嫌われているのだろうかと思った事もあった。しかしなんて事はない。あの方はそういった類の事が一切できないだけだ。時折、虐められているのだろうかと思うぐらいに、構われた事もあり、幼い私はしばらくして悟った。
あの方は、育児音痴なのだと。
「家事や食事……育児はどうしているんだ?」
まさかとうとう宿舎に使用人を入れたというのか。
料理は食堂、洗濯物は子爵邸に転送、風呂は水魔法又は子爵邸。あの場所は寝たり、独りでいる為だけの空間だ。決して家などではない。私ですら、あの場所は出入りを禁じられている。
しかし5歳では、どれだけ敏い子供だとしても、1人で宿舎に残しておくわけにはいかない。もしそうなら、ただの育児放棄である。
「どうやら、オクト様がしておられるそうです」
「は?」
「オクトお嬢さまは見た目こそ、5歳より幼いですが、すでに知識の面では、10歳の子供超えておられると思います。アスタリスク様は今も宿舎に誰かが入る事を良しとはされておりません。家事は一切オクト様が請け負っているそうです。洗濯に関しては体格的に難しいという事で、今も子爵邸へ転送という形をとっているようですが」
一体、義妹はどんな娘なのか。
体格的に難しいという事は、体さえ大きくなれば、すべてこなせるという事だろう。それがまだ5歳。世に言う神童というものだろうか。それとも混ぜモノとはそういうものなのか。
とりあえず言えるのは、まったく想像がつかないという事だけだった。
◇◆◇◆◇◆
いつの間にか義妹ができてから約2年ほど経った。しかし一向に義父が紹介しない件について。
「いくら私が仕事で忙しいとはいえ……普通ないだろう」
宿舎には行けないので、突然訪問するわけにはいかない。そして私自身、学校の長期連休以外は教師塔宿舎で寝泊まりをしている。アスタリスク様は義妹をつれて年に1回は伯爵家へ赴き、時折子爵邸にも行っているようだが、どうにもタイミングが会わなかった。
ここまで来ると、自分から紹介して欲しいなどとは中々言えないタイミングだ。何かきっかけがあれば会いに行けるのだが……。そもそも、義妹ができてからというもの、アスタリスク様とお会いしていない。
元々義父は魔族な為か時間感覚が若干おかしい。きっと数年会わなくても、最近会っていないなぁ程度にしか思っていないはずだ。どういうつもりだと、怒るのも馬鹿馬鹿しい。
アスタリスク様はそういうヒトだ。
「よ、ヘキサ。元気か?」
そうそう。音信不通になったとしても、こんな感じでふらりとやってきて――。
「アスタリスク様?!」
職員室で1人残業をしていると、突然背後から声をかけられて、私は慌てて椅子から立ち上がった。
噂をすれば影とはいうが、……本当に唐突なヒトだ。せめて、前もって連絡を入れるとかして欲しい。私はずり落ちかけたメガネをかけ直す。
最近、視力が落ちてきた為、ドワーフに作ってもらったのだが、やはり遠くのものはあまり見えない。
「お父様でいいといってるだろう?にしても、相変わらず真面目だなぁ。もう、誰も校舎で仕事をしていないぞ」
「私は仕事が遅いだけです。それより、どうしたんです?こんな真夜中に」
「ああ。今度、お前の義妹がここを受験するから、よろしくと言っておこうと思って」
……はい?
義妹が受験?義妹というのは、たぶん会った事もないオクトの事だろう。
「相変わらず突然ですね。でも確か、オクトは5歳の時に引き取られたと聞いていますが……」
「ああ。そうだけど?」
そうだけどじゃない。
5歳の時に引き取られたなら、今は7歳もしくは8歳だ。大抵この学校を入学する子供たちは、10歳を超えている。それよりも年をとってからという事はあっても、それ以下という事はほとんどない。いくらなんでも早いだろう。
「ああ。それと、カミュ達と同じクラスにする事にしたから」
「は?」
「つまり2年飛び級して、3年から。ヘキサ、よろしくな」
「よ、よろしくじゃありません。何がどうしてそうなったか、きっちり説明していって下さい」
「えー、お前。父のいう事が聞けないのか?しかも可愛い義妹の為なんだぞ。一肌脱ごうとか思わないのか?」
偏頭痛がして、私は眉間をマッサージした。
別に妹の面倒を見る事が嫌だとか言っているわけじゃない。どうしてそういう結論になるのか。
「そうではなく、しっかり説明してもらいたいだけです。そもそも、私はまだオクトを正式に紹介されていませんから、可愛いかどうかなど分かりません」
「ああ。まだしていなかったっけ。そんな拗ねるなって」
よしよしと幼いころされたように頭を撫ぜられるが、私は決して拗ねているわけではない。何がどうしてこうなっているのかが分からないだけだ。
「学校に通いたいと言いだしたのは、オクトの方なんだよ。受験できないなら家出するって脅すし」
「は?家出?」
なんとも子供っぽい脅し方だ。10歳未満の子供では、働き口もままならないだろうに。どうやって生きていく気だというのか。そんなもの脅しにも何にもならない。
「実は5歳の時に攫われた海賊だったら匿ってくれるとか言いだしてて。これがまた、甘い部分はあるけれど、現実的に何とかなってしまいそうなプランなんだよなぁ」
「海賊?攫われた?」
「うちの子可愛いから」
……最後は冗談という事にしておいて、一体オクトはどんな子供なのかさらに謎が深まった。海賊に攫われたってどういう状況だったのか。しかも攫われたのにそこなら匿ってくれるとか、家出も現実的に可能とか、意味が分からない。
「でも、オクトは混ぜモノだろう?今は王家と魔法使い共の関係も危ういし、巻き込まれないためにも、本当は学校に通わせたくはないんだけどな」
「……それだけしっかりしているなら、正直にその事をお話なさってはいかがです?」
「オクトは混ぜモノである事に、すでに負い目を感じてるんだよ。オクト自身ではどうにもならない事で、これ以上自由を奪いたくはないんだ。聞けば必ず、学校へ行く事を諦めるだろうしな」
どうにも、アスタリスク様は義妹にとても甘いようだ。
私が義妹の立場なら、本当の事を言って欲しいと思うだろう。しかし10も満たない子供に、魔法使いのきな臭い関係とかを話すのもどうかというのも一理ある。
「カミュとライは王家側だけど、王家と魔法使いの全面対決は望んでいない。オクトの事も幼馴染として大切に思っている節もあるし、あいつ等なら任せてもいいと判断した。オクトを多少利用するかもしれないが、オクトが不利になる事はしないだろ。行きと帰りは、俺が送り迎えをするから、近寄ってくる馬鹿はいないだろうしな」
……過保護だ。
若干過保護過ぎる気もしなくはないが、混ぜモノが関わっているとなれば、これぐらいしなければいけないのかもしれない。混ぜモノならば、欲しがるのはこの国モノだけとは限らない。様々な国のモノが通うこの場所では、それ相応の対策が必要だろう。
「そして俺が今の教師で信用しているのは、ヘキサだけだ。できれば、専門分野へ進学するまでは担任をして欲しい」
「……私の一存でどうにかなる話ではないのですけど」
義父に信頼されている。それは存外嬉しいものだ。しかし、できる事とできない事がある。
「それなら、第二王子様のお力があるから大丈夫だよ。そもそも同じクラスにしたい旨は、カミュからの申し出だったわけだしな」
すでに王族に目を付けられているとは、なかなかに運のない子供だ。第一王子や王ではないだけ、マシかもしれないが。
自分としてはそこまでお膳立てされていれば、断る理由もない。私はアスタリスク様の申し出を了承した。
◇◆◇◆◇◆
「受験番号111~120番まで来なさい」
確か義妹は119番だったはず。
結局アスタリスク様が私にオクトを紹介することはなく、そのまま受験当日を迎えた。確か金髪碧眼で小柄な子供と聞いていたが……はて、どれだろう。
視力の問題で、近くはみえるが遠くは良く見えない為、今も子供たちの顔があまり良く見えていない。混ぜモノならば顔に痣があるので分かりやすいはずだが、今の視力では、痣なんてまったく分からなかった。早めにメガネを調節しなおした方がいいかもしれない。
何処だろうと見渡していると、ピンクと茶色の頭の間に一回り小さい金色の頭が見えた。たぶん、あれが義妹だろう。8歳だと聞いていたが、思ったよりもさらに小さい。
どんな顔をしているのだろうとじっと目を細めるようにして見ていると、ふとオクトも私の事を見ている事に気がついた。
もしかしたらアスタリスク様から、義兄が試験官だと聞いているのかもしれない。ここは一つビシッとしたところを見せなければ。私は仕事に頭を切り替える事にして、義妹から目をそらす。
「し、試験場所に移動します。番号順に並びなさい」
若干緊張で口が上手く回らなかったが、なんとか言いきった。周りより幼いにも関わらず、義妹はおしゃべりをする事なく、普通に並んだ。……アスタリスク様が1人で育てたというわりに、とても礼儀正しい。使用人達がいうように、敏い子なのだろう。
ふと義妹が、私に向かって微笑みかけている事に気がつきどきりとする。
やはり私が兄という事に気がついたのだろう。ここはちゃんと見本にならなければ。そう思いながら、生徒達を試験会場へ案内した。
試験といっても、すでに筆記は終わっている。なので後は魔力の有無の確認だけだ。どれぐらい魔力があるのかやコントロール能力、魔力の種類などを確認し、入学後のクラス編成で参考にする。
魔力が多くコントロールが得意でないモノや特殊な魔力の持ち主だった場合は、それなりの教師を担当につけなければならない。かといって、全員が問題児ばかりのクラスを作っては、教師の方がやっていけないので、何事もバランスだ。
私も子供たちの魔力確認をする為、こっそりメガネに魔力を通した。そこでありえない光景を目にしてしまい、がく然とする。
なんだ、アレ。
義妹の周りには、ありえない量の精霊が漂っていた。よくもまあ、あれだけ精霊を侍らせて、倒れないものだと感心したくなる量だ。精霊は魔力や魔素を食べて生きている。あんなに精霊がいては、オクトの周りは魔素不足になりそうな気がするのだが……。やはり混ぜモノというのは、特別な存在なのだろうか?
『3号館、303号室から、魔力暴走が起こりました。試験官は受験生の安全を図り、ただちに避難して下さい。繰り返します――』
突然の警戒音と共に、アナウンスが流れた。3号館の303号室と言ったら、この隣じゃないか。ぱっとそちらを見れば、赤い光が漏れている。どうやら火の属性の魔力が暴走したようだ。
今からここを離れるという行動では間に会わないと判断した私は、慌てて試験中の部屋の扉を開ける。
「結界を張ります。教室の中に入りなさい!」
幸い私は水の属性と土の属性を持ち合わせている。この二つの属性で部屋ごと結界を張れば、なんとかせき止められるはずだ。頭の中に魔法陣を創造して、それを展開する。
繰り返し生徒に中に入る様に促せば、茫然としていた生徒たちも慌てて教室の中に入ってきた。これで何とかなるはずだ。しかし義妹とピンク色の髪の子供がその場を動いていない事に気がついた。
「何をしているんです。早くこちらへ来なさい」
そう声をかけるが、彼女達は動こうとしない。
これでは間に合わない。そう思った私は教室を飛び出そうとしたが、部屋を飛び出す直前に腕を掴まれる。何をするんだと睨みつけるが、同僚の青年もまた切羽詰まった顔をしていた。
「結界を作ってるお前が行ってどうするんだ。全員見殺す気か」
水属性を持ち、すぐに発動できるのは、今いる職員の中では私だけだという事に思い至った。しかし私に義妹を見殺せというのか。アスタリスク様に頼まれているというのに!
「私は――」
「風よ。我が声に従い、我が示す場所から立ち去れっ!!」
私の言葉をうち消すように放たれた呪文は、義妹の口から発せられたものだった。
火なのに風魔法?そう思ったが、一瞬で廊下に溢れて来ていた炎が消滅する。何が起こったのか分からず、私と同僚はぽかんとその光景を見つめた。鮮やかなんてものじゃない。水魔法だってこんなに鮮やかに消し去ることなどできない。
「なんだ、あの子供は。……賢者か?」
ぽつりとつぶやいた同僚の言葉を、私は否定できなかった。もしかしたら義妹はとんでもない逸材かもしれない。
私達は義妹がその場に倒れるまで、茫然と立ち尽くしていたのだった。
以上、ヘキサから見た、オクトとの出会いでした。
本編で、オクトちゃんが少しヘキサの事を勘違いしていますが、彼は視力が弱いだけだったという、上手く使いこなせなかったネタでした。