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いい兄さんな日々3(ヘキサ視点)

ヘキサ兄視点です。

 私は仕事の手を止め、とある魔同装置に目をやった。……使うか、使うまいか。

 前回使ってから、およそ一日と三時間。前までなら使っていた。これまでは、一人暮らしをさせていたので、生存確認の為必要な手段という理由があったからだ。しかし今はそうではない。こちらから派遣したメイドもいるし、養い子が二人に増え、更に私の義父もいる。

 ……ん? 何だか、仲良し家族が形成されていないだろうか? むしろ本来なら、私が義父と義妹と一緒に暮らすべきではないだろうか? 義父の家督を受け継ぎ伯爵になったのに、何故か私だけが家を出たような状況にもやりとする。


 勿論、私も成人し、所帯も持っている。妻との関係も問題なく、もうすぐ子供も生まれる。

 そう考えれば、離れて暮らすのは普通だ。そして離れていると言っても、領地内なのでとても近い。昔は義父も王都で過ごされていたし、連絡が年単位でとれていない事もざらだった。そう思えば、以前よりもずっと話しているだろう。

「そんなに気になるなら、【電話】をすれば?」

「……いや。まだ、前回魔同装置を使用してから、一日と三時間しか経っていない。そう、頻繁に【電話】をかけては迷惑になるだろう」

「細かっ! 近所なんだし、普通に、ちょっと遊びにいらっしゃい。美味しいお菓子があるのですむと思うんだけど。特に、オクトちゃん。周りが休ませないと、休まないタイプだし。昼食食べながら本を読んだり、ダラダラしていると言いながら調薬するタイプでしょ? 声をかけてあげるのは善意よ善意」

 私が書類と書類の合間に何度も魔同装置に目をやってしまう為、妻のアリスに気が付かれてしまった。

 彼女は、義妹が図書館で働いていた時に先輩の先輩にあたり、義妹とも顔見知りだ。悔しいが、義妹であるにも関わらず一緒に暮らした事のない私よりも義妹の事を把握しているかもしれない。

「そうなんだが……。あまり干渉が過ぎると鬱陶しがられないだろうか? それに君は、嫌じゃないか? 私が義妹ばかりにかまけているというのは。アリスも、今は大変な時期だ」

 そろそろ彼女も臨月に入った。

 いつ生まれてもいいように子供用品の準備は欠かせないし、体にだって負担が今まで以上にかかる。幸いつわりがあまりなかったので、健康ではあるのだが。


「分かっていて結婚したし、私もオクトちゃんはほっとけない妹分だからね。それに、別に私の事を気づかっていないわけではないでしょ? 子育てについても勉強しているみたいだし」

「当然だ。自分の子供なのだから、私にはおしめを変えたり、沐浴をする権利がある。しっかりできるようにしておかないといけないだろう」

 色々育児書を読んだが、どうやら生まれたばかりの赤子は、三時間おきに乳を飲むそうだ。しかも昼夜問わず。そんな状態ではアリスが大変過ぎる。

 勿論使用人に子供の面倒をみさせ、彼女にはできる限り休んでもらおうと考えているが、彼女はたぶん自分の子を他人ばかりに面倒をみられるのは嫌なタイプだと感じている。となれば、もう一人の親である私が可能な限り子供の面倒を見るのがいいだろう。

「それで十分よ。それに臨月だからって病気じゃないんだし、私だってオクトちゃんと話をしたいわ。だからいっそ、電話ではなくて、こっちに遊びに来させなさいよ。オクトちゃんのお弟子ちゃん達も暇してるんじゃない?」

「いや。どうやらディノの方は、もうすぐ受験する為、それなりに忙しいらしい」

「あら、すぐに入学させるのね。でも、そうよね。黒の大地から来ているのだから、滞在する限りあまり入学を遅らせるのはよくないわね」

 本来は大地を跨ぐのは旅芸人しかできないが、アールベロ国はウィング魔法学校に入学する事を条件に、他の大地の者も滞在することができる珍しい国だ。

 そんなわけで義妹の養い子の一人は、年齢も十分だという事で早々に学校へ行かせる必要があった。


「前回の電話で、学業の面倒を見てやりたいが、中々時間が取れないと言っていたな。今年は駄目でも、来年までには何とか最低限の学力を身に付けられるよう頑張っているらしいが……」

 義妹は無駄に忙しい。

 人に仕事を振るのが苦手なのに、仕事が自分の方にやってくるタイプだ。こなせるだけの能力があり、責任感があると言えば聞こえがいいが、結局は器用貧乏となる。そしてオーバーワークだ。最近はメイドが入り、保護しなければいけない養い子ができた為少しはマシになってはいるが、一時期は本当に死んでしまうのではないかという顔色をしていた。忙しくなる度に削る部分が自分の時間なので、当然の結果でもある。

「また厄介事を持ち帰ってきたって事ね。……まあ、弟子を取ったのはいい傾向だと私は思うけど。でも、今は手一杯よね……。あっ。だったら、図書館のバイトに勉強診てもらえるように手配させるとかどう? エナメルなら、自分から挙手しそうだし」

「それは彼らの本来の仕事の領分を超えたものだ。むしろ、誰か雇い入れた方がいいのではないか? 未就学児への指導なら、学生バイトでもできるだろ」

 仕事をするならば、業務内容の契約がある。それを超えるものをさせるというのは良くない。


「お金は問題ないでしょうけど、それこそ混ぜモノに理解がある子で、オクトちゃんと相性がいい子じゃないと、彼女の胃に穴が開くわよ。その前に、貴方の義父様が犯罪者になりかねないし。その点図書館組は、全員何らかしら家庭問題を抱えているから差別とかには敏感だし、オクトちゃんに対しても時属性の魔法の関係から尊敬と感謝の念を持っているもの」

「しかし、やはり業務内容を超えるものは良くないと思う。彼女と相性がよく、混ぜモノに理解がある人物か――」

 義妹は人見知りがあるので、相手から歩み寄るタイプでないと基本打ち解けない。しかしそれがぐいぐいと来すぎるとストレスを抱える難儀な性格だ。

 打ち解ければ面倒見もいいので、それほど付き合いにくい性格はしていないと思うが、義妹と仲良くなるにはこの第一関門が突破できなければいけない。しかも混ぜモノであるため、そもそも近寄られにくかった。


「そういえば、女子の友人がいなかったか?」

 学年は違うが、確か一人いたはずだ。珍しい獣人族の魔力持ちの子で、赤の大地から来ていた気がする。

「ああ。ミウちゃんね。たしか魔法薬学部を去年卒業して、今は魔法薬学部の教授のところで授業の補助と赤の大地の学生寮の補助に入っているはずよ。ほら、寮を利用すると、強制的に数年学校からの指示に従った場所で働かなきゃいけないでしょ?」

「なるほど」

 他の大地から来ると、ほぼ間違いなく寮生活を選ぶ。そして寮生活を選ぶと、色々サポートが受けられる代わりに、卒業後の数年間、強制的に学校の指示に従った仕事をしなければいけなくなるのだ。これは他の大地から来た者をそのまま自国へ返さず還元してもらう為のシステムだった。

 かくいう私も、その関係で数年学校の教鞭をとっていた。


「寮の方はそれほど仕事があるわけじゃないと思うわ。赤の大地は人数が少ないから。どちらかというと、学生たちの悩み相談に乗る仕事でしょうね。魔法薬学部の方は分からないけれど、まあ、教授への話の持って行き方次第で時間を作れるんじゃないかしら?」

 魔法薬学部に進学できるほど優秀ならば、未就学児への勉強を教えるのも問題はないだろう。何より、義妹の事を分かっているのはとても頼もしい。

「ならば、彼女に頼む方向で、色々根回しをしよう。給料は——」

「そりゃ、伯爵家のお抱え薬師の仕事が滞りなく進められるようにだから、こちらから出しても大丈夫でしょ?」

 義妹は絶対遠慮するし、友人関係に金銭を入れるのは義妹が対処しきれなくなる可能性が高い。友人だろうと労働をして貰えば対価を渡すのは当たり前で、そこは納得するだろうが、その後も何かある度に、些細な事でお金を払わなければいけないのではないかとグルグル悩みだしそうだ。自分は無料で引き受けているにも関わらずだ。

 それでは友人も困るだろう。

 少々過保護すぎるかもしれないが、もうしばらく義妹には保護者が必要だと思う。彼女はとてもアンバランスな部分がある。


「君も賛成してくれるなら、そうしよう」

「なら、早速連絡ね——」

 そうアリスが言った時だった。

 壁にかけてある、【電話】がなった。

 この電話は、義妹が作ったものであり、義妹の家とのやり取りしかできない。

「どうかしたのか?」

 義妹はあまり連絡をしてこない。もしもあった時は緊急の可能性が高い。義妹でなくても、養い子からかもしれないが、どちらにしても意味もなくかけてくるような子達ではない。


「あの……。申し訳ないのだけど、少し、お願いしたい事があって。今日伺ってもいい? あっ。駄目なら、駄目と言ってほしい——」

「問題ない。今すぐ来なさい」

 何故駄目だという選択肢があると思うのだろう。ちょうどいい。今、アリスと話し合った内容もその時伝えよう。

 その後しばらく受話器の向こうで、唸る声と、忙しいなら断ってくれて構わないのだと念を押されたが、断る理由が分からない。なので、そんな話をする暇があるなら、今すぐ来なさいと言うと、隣でアリスが笑ったのだった。

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