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いい兄さんな日々2(クロ視点)

クロ視点です。

「俺は、カズの奴隷じゃない!! ちくしょう!!」

「本当にクロは馬鹿ですね。こんなに優雅な生活する奴隷なんて、この世に存在しませんよ」

「馬鹿って言う奴が馬鹿なんだよ。馬鹿、ばぁぁぁか!!」

 そんな捨て台詞を吐いて、俺は城から逃げ出した。

 大の大人が馬鹿みたいな捨て台詞を吐いて何やっているんだと言われそうだけど、時折逃げ出さないと発狂するぐらい俺には辛い日々なのだ。


 俺は、元々孤児だ。生まれた時は旅芸人だったが、母と一緒に抜けてしばらくして、母が死に孤児となった。路上生活で、同じぐらいの子供と一緒に盗みやスリをして、生きながらえていた底辺も底辺な人間だった。

 学という学はない。それでも母から字を学んでいたので読み書きが最低限できた。孤児にとっては読み書きができるだけで頭がいいと思われ、腕っぷしも強かった俺は気が付けば子供だけの窃盗団のリーダをやっていた。別にその生活をしていた事に対して不満はない。ただ、同じ旅芸人として育ったオクトが一緒に居ないのが寂しいなと思うと同時に、こんな路上生活させなくてすんで良かったと思う事はあった。

 生活自体に不満はないが、路上生活で窃盗団など、胸を張れる生き方ではない。

 それでも、俺らは生き残る為に必死に食料や金を集めた。


 そこから変化が起こったのは、海賊の船を狙ってへまをしたからだ。

 停泊している海賊船。病人もいるという噂だったので、昼間の人が少なくなる時間帯なら忍び込めると思っていた。でも結果は惨敗。俺は仲間と一緒に捕まった。

 ただしそこで何故だか船長に気に入られ、俺は機械屋のじいさんに育てられることになった。他の仲間も別々の里親に引き取られた。幸運だったと思う。本来なら殺されても仕方がなかったのだから。

 そこから俺は、じいさんに反発したりしつつも、色々世話になり、自分もいつか機械屋で働くんだろうなと思っていた。


 でもある日、世界は一転し、突然くじ引きで王子候補になり、気が付けば次期王という立場になっていた。本当に意味が分からなさ過ぎて混乱するしかなかった。運がいいだけで王子になるってどういう事だよ、皆止めろよと思うのに、誰も止めない。

 そして候補の時からずっと俺を王として扱ってきたのがカズだ。ホンニ帝国にはほぼ居ない魔術師であるカズは、ずっとスパルタ教育で俺に王となる為の教育をしてくる。

 馬鹿野郎、俺は元孤児だと叫んでも、親が居なければ誰だって孤児になるでしょうがと同情するどころか、何を当たり前の事を言っているのだといった様子で、教育の手を止めない。

 孤児でも王子でも態度が変わらないのはありがたい気もするが、元々孤児な俺は勉強があまり得意ではない。機械学などはじいさんの店を継ぐつもりで真面目に勉強してきたが、王が知らなければいけない知識など勉強してきているはずがないのだ。その為、大人になってからの詰め込みに詰め込まれる教育は、いつだって俺を発狂させる。


 ついこの間までは、別の国の状況など実地で学ぶために、無理やり海賊船に乗って緑の大地まで行ったが、とうとう帰って来ることになりまた勉強の日々だ。

「あーあ。癒しが欲しい……」

 正直に言おう。俺は見た目に似合わず可愛いものが好きだ。

 女になりたいとか女装したいという趣味はない。ただ可愛いものが好きなだけなのだ。舐められるといけないから、普段は隠すようにしている。

 そんな俺の一押しの可愛いもの。それは妹だ。


 そう。緑の大地の魔法が異常に発達している国へ行った際、なんとオクトと再会できたのだ。ずっと気になっていた幼馴染との奇跡の再会。なんという幸運だろう。たぶん、俺の運はそこで使い果たした。だから俺を王にしたってこの国にいい事など起こらないと思うのだけど——っと話がずれたな。

 とにかく再会したオクトは、魔力が強いからか、それとも混ぜモノだからか俺よりずっと小さくて、少し体も弱くて、可愛いかった。そう、とにかく可愛かったのだ。

「何でオクトは帰ったんだ……」

 オクトが帰りこの国に残ったのは、気の強い女性陣と年齢性別共に不詳のカズのみ。あんまりだ。

「うう。可愛い妹が欲しい」


「そんなクロに朗報じゃ!」

「ん?」

 俺が癒しのない世界にしょぼんとしていると、唐突に頭上から声が落ちて来た。

 実際声を発した人物はぷかぷかと浮いている。精霊族って、本当に変わっているよな。他の精霊族にも会ったことがあるが、皆何故かよく浮かんでいる。オクトとオクトの母ちゃんはそんな事がなかったのに。

 やっぱり肉体を持たない種族とか言われているから、浮くぐらい軽いのだろうか? もしもそうなら、よく体重を気にしている姫様とかご令嬢達から呪われそうな体質だ。


 そんな事を思ったら、何故か背中がぞくっとした。

 いや、俺は、別に皆が太っているなんて一度も思った事なんてないからと、心の中で一生懸命いいわけをしておく。俺の周りにいる女性達は皆一様に気だけでなく、力も強い。そして口に出してなくてもどこかで察知していそうな空気を持っているのだ。

 心の中で思うぐらい自由にさせて欲しいが、まあ仕方がない。


「トキワさん、どうしたんだよ?」

「実はな、オクトが困っておって、ちと、クロの力を貸してほしいそうなんじゃ」

「えっ。オクトが?」

 多少困っても絶対助けを求めなさそうな、あのオクトが力を貸してほしい?

 それはどれだけ大困難に陥っているのだろう。逆に恐ろしい。

「なら、今すぐに、オクトの所に行かないと! ええっと、海賊はまだ帰ってきてないし。他に旅芸人ってこのくにに来ているっけ?」

 今行ったら、カズに怒られそうだけど。

 いや。もう、この際辞表を出そう。俺には王様なんて無理だったんだ。

「それでなんじゃが、今だけ特別に、わらわが転移をしてやろうと思う。クロのオクトを思う気持ちに敬意を表してじゃ。むろん、用事が終わったら、また転移魔法でホンニ帝国に送ってやるぞ。さあ、どうす——」

「トキワさん、いい奴だな!」

 俺は上の方に手をのばし、トキワさんの手をギュッと握った。

 転移で行って帰ってこれるなら、カズに文句を言われずにすむ。本当は辞表を出したいぐらいだけれど、中途半端で投げ出すのは良くないとじいさんからも言われている。


「……お主、人を信じすぎるなと散々カズに言われておるだろ」

「言われるけど、トキワさんなら大丈夫だと思ったんだ。初対面相手だったら、こんな怪しい誘い乗らないぞ?」

 いや、オクトに会えるならと多少クラッと来るかもだけれど、そもそも転移で大地を跨ぐなんて無理だ。魔力馬鹿な魔族だって出来ない。上位の精霊族だからこそ、できる技。だから相手を見てその言葉を信じているつもりだ。

「流石、精霊タラシの血筋じゃな」

「は?」

「何でもない。あまりクロを借り過ぎると、カズが五月蠅いからのう。ほどほどで帰ってこよう」

 確かに。

 カズの怒りの鉄槌を思い出して、ブルリと震えた。魔術師なのに、あいつは物理攻撃も半端ない。

「それは聞き捨てなりませんね? 私はいつだって、とても優しいカズさんですよ?」

 トキワさんと話していると、気配を消してカズが背後まで来ていた。ごごごごごごと背中からどす黒いオーラが出ている気がするのは、俺にやましい心があるからだと思う。


「か、カズ……えっと。これは……その」

「一日でしたら、いいですよ。ただし、私も折角なので便乗させて下さい。いいですよね?」

「しかしクロとお主では、移動制限が違うじゃろ。クロは旅芸人の枠組みに入れられるが——」

「そんなもの書類上だけの問題でしょう? なら、私は大丈夫ですよ」

 大地を跨いで渡れるのは、旅芸人のみとされている。俺が前にいた海賊も、一応旅芸人に分類されているらしい。どういう判断基準なのか分からないが、この世界にいる生き神が認めれば旅芸人を名乗れる。そしてその旅芸人について行けば大地を渡れると言った、ちょっと緩いところのある決まりだ。

 ゆるさの理由は、いちいち一人一人に許可を出していたら、神様が大変だからなのかもしれない。

「私は直接移動を許可されていますから」

 にこりとカズが笑う。……本当にコイツ謎が多いよな。

「……ならばよい。では、行くのじゃ。手を放すでないぞ」

 俺はトキワさんの手をもう一度握り直すと、反対の手をカズと繋いだ。

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