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いい兄さんな日々1(オクト視点)

2020年、11月23日(いい兄の日)ネタです。

 お昼寝に丁度よさそうなうららかな午後。

 あくびをかみ殺しながら、調合しつつ薬屋の店番をしていると突然目の前に子供が現れた。

 普通に考えて、ドアも空けずに子供が現れるなんてあり得ない。ちなみに私が養っている、アユムとディノは自室で勉強中だ。ディノの入学が近づいているので、分からないことがあったら店に聞きに来るように言ってある。

 本当なら私が教鞭をとるべきなのだが、店もそれなりにやらないといけないので、どうしても自主勉強の率が増えてしまう。

 困った。本気で私の体がもう一つ欲しい。いや、でも、混ぜモノである私がもう一人いたら、ものすごく面倒な事になる気がする。そう思うと、やっぱり混ぜモノなんて面倒な生きものは私一人で十分だ。

 となると、あれだ。時間の流れがゆっくりになる部屋を作って作業をしたい。そうすればしっかり睡眠時間も取りつつ、色々有意義に時間が使える——。

 

 —―話がそれたが、目の前には紫の瞳と髪色をした美少女がいた。アラジン風の服装の彼女はあまりにも異質で、すぐに誰かは分かった。分かったが……、分かるからこそ、凄く面倒事が起こる気がする。いや、事件は既に起こっているのだろうか。

「……お客様。本日は休みです。お帰りはあちらです」

「わざとらしすぎるじゃろ。ちょっとばかし離れておったからって、わらわの顔を忘れたとは言わせんぞ?! そもそも、商売するならせめて、またのご来店お願いしますじゃろ。商売を舐めとるのか?!」

 ですよね。

 怒涛のクレームの嵐に客対応を間違えたなと思うが仕方がない。久々のゆったりとした時間だったので、つい面倒事から逃げようとしてしまった。これは私が悪い。 


「ごめん。あまりに忙しすぎて。それで、トキワさん、どうしたの?」

 幼女なのに、キャラづくりでもしてるのかというぐらいの、老人のような喋り方。さすがに存在感が濃すぎて、忘れようとも忘れられない。

 ただし彼女は黒の大地にあるホンニ帝国に身を寄せているはずなので、本体なら緑の大地であるここにはいないはずだ。元々は時の精霊なので、時の神の神殿が正確な居場所となるが、そこだって緑の大地ではない。

「それがな。ちと風の神がこうるさくてのう」

「カンナさんが?」

 風の神であるカンナさんは、私の叔母にあたるヒトだ。本来なら様々な手続きを取らないと人と接触をしてはいけないとなっているが、色々理由をつけて会う事があった。でも言われてみると、最近は会っていない気がする。


「忙しすぎて姪っ子の様子を見に行けんと嘆いておる」

「へえ」

 別に特にこっちは変わりがないので気にしなくてもいいのに。見目こそ幼いが、私も既に働ける年だ。

 そう思うが母と双子であった関係もあり、私の事が気になるのだろう。

「そこでじゃ。風の神が樹の神と協力し合ってわらわを脅し——ではなく頼んできたんじゃ。お前を手助けするだろう兄の人となりを見てきてほしいとな」

「はぁ。なるほど。でも私に兄はいないけど」

 さりげなく脅しという聞いてはいけないキーワードが聞こえてきたのであえてスルーする方面で私は動いた。

 すると、トキワさんはドン引きしたような顔をした。……いや。だって、指摘もしたくないんだもの。


「お主、クロというものがありながら……」

「えっと、……クロは兄枠でいいのかな?」

 あっ。そっちにドン引きしたのか。

 確かにクロとは幼馴染的立ち位置で兄弟のように育った仲だが、それも五歳までのこと。離れて暮らした期間が長すぎて兄と呼ぶには色々微妙だ。そもそも見た目こそ差ができているが、年齢差はほんの少しだ。

「それから、ほれ、あの魔族に息子がおったじゃろ」

「ヘキサ兄の事? えっと。今の彼は、兄と呼んでも差し支えのない立場ではないというか……」

 確かに一度は私もアスタに引き取られたので、ヘキサ兄は義兄だった。しかしすでにアスタとの親子関係は解消。さらにヘキサ兄は伯爵となり、私は親無しの無国籍者だ。立場が違い過ぎる。

「家を建ててもらっておいてどの口が言う」

 うっ。それを言われると苦しい。

 

 しかし家を建てて欲しいなんて一度も言っていないと私は声高らかに訴えたい。ホンニ帝国に行って帰ってきたら建っていたいたのだ。とはいえ、この家は彼の義父であるアスタの為で——というには、色々苦しすぎるだろう。しかも今も色々融通してもらっているわけで……特別枠であるのは、重々承知している。それにあまり文句を言うと、いつも忙しそうなヘキサ兄に悪い気がするし、むしろ気にかけてもらってそれに対して文句とか何様だという感じもしてしまう。

 でも考えれば考えるほど、私はヘキサ兄に甘えすぎな気がしてきた。しかもヘキサ兄は既に結婚している。それなのに元義妹に色々融通しているとか、アリス先輩にも悪い気がする。

「やっぱり、私はヘキサ兄から、もう少し自立した方が——」

「やりたくてやっているのだから、やらせておけばいいのじゃ。お主が動くと、絶対悪化するぞ」

「うっ」

 失礼なと言いたいところだが、私の対人スキルはいまだに低い。どうにも先読みが上手くいかない事の方が多いのだ。ここはトキワさんの意見に従い、急激ではなく、徐々に甘えをなくす方向で動いた方がいい気がする。


「それから、カミュとライだって、兄的立場ではないの——」

「違う」

「……違うのか?」

 言い終わる前に私は否定した。確かに年齢的には二人の方が上だ。私の事を心配する年上的なところもある。でもそれ以上に厄介事に巻き込んでくるのも彼らだ。ない。絶対ない。あれが兄とか、あり得ない。ヘキサ兄の爪の垢を煎じて飲んだ方がいいと思う。

「……彼らは友人ではあると思う。でも兄はない。兄なら妹に迷惑をかけないはず」

「それは、幻想じゃよ。オクトの母も言っておった。純粋で可愛いツンデレな妹も、スパダリで妹を甘やかす兄もいないとな」

 確かに二次元妹のような妹は滅多にいない。兄もまたしかりと、前世の知識が訴える。しかし、却下だ。あれらは兄ではない。


「まあ、よかろう。後は、あの魔族は……何枠じゃ?」

「……兄ではないと思う」

 元義父だが、年齢は90代のお爺ちゃん。色々悩む関係だが兄ではないだろう。

「後は海ぞーー」

「トキワさんは私の兄っぽい立場の人を知ってどうするつもり?」

 どんどんおかしな枠組みのヒトを兄枠に押し込めようとする姿に、嫌な予感を覚え遮った。海賊ならロキが一番優しい兄的な人だが、トキワさんが何を言い出すのか分からない以上、下手に兄枠を増やしたくない。


「わらわが考えたんじゃない。考えたのあの神々じゃ。彼女らはオクトの兄がどこまでオクトの願いを聞き届け、オクトの助けになるか見届けたいそうじゃ」

「やっぱり、私には兄などいないから」

 思った通り、ろくでもない話だった。

 クロやヘキサ兄たちに私の事で手を煩わせるのは憚られる。しかも私の願いを叶え助ける? そんな斬新な迷惑のかけ方、やめてほしい。

 

「大丈夫じゃ。オクトが小首をかしげて『おねだりしてもいいですか?』と言ってみるがいい。きっと誰もが動くはずじゃ」

「絶対嫌」

 なんだその、微妙な媚び方は。私がそんな事をいきなりしたら、まず熱でもあるのではないかと心配されそうだ。それはそれで、トキワさん達の目的は達成できるのかもしれないけれど、私には何の利点もない。むしろ自分のキャラがブレブレすぎて、胃痛で倒れそうだ。

 過労でふらふらになりがちなのに胃痛まで加わったら、本当にストレスで過労死してしまいそうだ。

「何も大丈夫じゃないし」

「何故じゃ? あの魔族じゃったら、可愛くお願いすれば、魔道具で動画までとり始めて永久保存するはずじゃぞ?」

「……待って、そんな魔道具あるの?」

「さて、どうじゃったかな。そんな事より、言い方を変えるにしても、何とか兄枠の人にお願いごとをして欲しいんじゃ」

 そんな事と言っていい単語ではない気がする。でもアスタなら開発していてもおかしくない気がしてしまうけど……えっ。なんか色々どうなんだろう。

 アスタに直接確認してみたいような、聞かなかった事にしたいような……。でも聞かなかった事にするなら、最初から聞かせないで欲しかった。

「オクトに心強い兄がおると分かれば、神々も安心されるはずじゃ」


 ……本当に安心する為だけだろうか?

 色々思うところはあるが、トキワさんも断れないからここに居るのだろう。そして私も神様に逆らうのはさすがに無理だ。

 誰に犠牲になってもらおうかと考えながら、私はため息をついた。

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