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最強な母(3)(オクトのママ視点)

 強い耳鳴り。悲鳴。

 シートベルトをしているにも関わらず感じる激しい揺れ。隣の通路を何かが転がり落ちていく。


 そしてスローモーションのように、重力を忘れた荷物が天井へ浮く様子を見ながら、ああ、これは夢なのだと思う。

 子供に覆い被さる前世の私を見つめながら、意識が引き上げられる感覚を覚える。そして次の瞬間には、現実の中で目を開けていた。

「……はぁ」

 気分の悪い目覚めに、ため息しかでない。どうやら、本を読みながらうたたねをしてしまったようだ。


「最近、多いなぁ」

 最近になって前世の夢を見る事が増えてきた気がする。この世界で生きていく覚悟を決めたつもりでいたのだけれど、心のどこかでまだ前世に未練があるのだろうか? 勿論後悔は永遠に消えないとは思っているけれど……毎日の様に変えられない映像を見るのは辛い。心が弱っているから、余計にこんな夢を見てしまうのだろうかと思うが無意識の事を変えるのは難しい。


「聖夜様? また夜更かしをされたんですか?」

「そんなにはしてないよ?」

 後ろに控えていた光凜は私の言葉を信じていないようで、私を咎める様な目で見てくる。夜更かしをしていないのは本当だ。

 できるなら夜更かしをしてでも、色々調べておきたい事はあるのに、眠気が勝って夜遅くまで起きていられない。

「明日は風神祭りなんですから、今夜はちゃんと寝て下さいね」

「分かってるわ」

 明日は風神祭りで、私もこの国の聖女として出席する。この国で、私のイメージは『聖女』なんて呼ばれるぐらい良く、人気がある。特に政治的力もない、前王の娘でしかないけれど、王家の印象を良くする看板としては抜群だ。

 私は精霊族とのハーフであるがゆえに、結婚という形で利用できない。だから、タダ飯食らいにならない為にも、こういったイベントには必ず出席しなければならないのだ。


「明日は旅芸人の芸も見られるんですから、うたたねなんてしていたら、後悔なさいますよ」

「旅芸人?」

「はい。確かグリム一座という名前で、見上げるほどの大男が団長だって噂が流れていますわ」

「……旅芸人って、他の大地も行ったりできるのよね?」

「そうですね。お話なさったら、色々な話を聞けると思いますわ」

 旅芸人は、どんな国へも行く事ができる存在だったはずだ。本来なら大地を跨いでの人の行き来は許されない。ただし王を通して神が許可を出せば、それが可能となる。

 どうしてそんな制限があるのかは分からないけれど、この世界では大地を移動するというのはとてもハードルが高いのだ。


 もしかしたら、これはチャンスなのかもしれない。

 私は母親から教わった、時の精霊との会う方法を思い浮かべた。



◇◆◇◆◇◆◇



「時の精霊なんて初めて聞きました」

 精霊族というのは、魔力と同じで、風、火、水、樹、地、光そして闇の7種だけだと思っていた。私が知らないだけで、この世界には『時』という魔力が存在しているのだろうか?

「時の神が表舞台から消えてから、かなり経つからな。そもそも時の神が混融湖なんてものを作り出した時に、時の精霊達は時の流れを調節するだけの存在へと変わったから、普通は会う事もないし、まあ知らないのも無理ないさ」

「混融湖って、世界の真ん中にある湖ですよね?」

 一度沈めば決して浮かび上がる事はないという話がある、不思議の塊のような湖のはずだ。以前神無に話を聞いた時は、海の様に広く、波があると話してくれた。また波があるゆえに、色んなモノが流れつく事があり、流れ着いたモノはお守りとして販売されているそうだ。

 

「ああ。元々は紫の大地と碧の大地の一部があった場所だったが、時の神が全ての時間が入り混じる湖に変えちまったんだよ。おかげで、時折タイムパラドックスが生じるらしくて、時の精霊族は歪みを最小限に抑える為の概念に近い存在になっちまった。何でそんな事態になったかまでは当人達しか知らないけれど、とりあえず混融湖の中に時の精霊族達が居るのは間違いない」

「えっ。混融湖の中ですか?」

 一度沈めば決して浮かび上がる事はないという湖の中に居るという種族にどうやって会えというのか。そもそも、概念に近い存在って……それは会話可能な状況なのだろうか?

 混融湖自体を、実際に見た事のない私にはちょっと想像がつかない。


「ああ。これはあくまで想像だが、たぶん時の精霊は人の形を保ててないと思う。時が壊れないように管理するとなれば、かなり膨大な情報を扱う事になるはずだからね。でもそんな事は『人』には無理だ。だから、それだけに特化した『システム』という形でアイツらは存在していると思う」

「システムとしてって、そんな相手とどうやって話せばいいんですか?」

 ようは、コンピューターと話をしろと言っている様なものだ。話が出来るコンピューターならいいけれど、そうではなかったとしたら、どうしろと。更に混融湖の中に居るような相手とどうやってコミュニケーションをとればいいのか。


「混融湖で『常磐ときわ』と時の精霊族の長の名前を呼んでやればいいさ。聖夜は風の精霊族の血を引いているんだ。音は風の精霊族そのもの。話しかけてやれば、必ず届くさ。ただすでに人で居た時の姿も声も失っているだろうからな。一緒に時の精霊の姿や声のイメージも送ってやりな。後は話しかける時に、新しい時の神という餌をやれば、必ず目の前に現れるはずだ」

「イメージを送る?」

「具体的に想像してやればいいのさ。精霊族は姿を保った状況でさえ、他人の意識に同調しやすいんだよ。意識が半ばないなら、なおさらそのイメージに同調して姿形を作るはずさ」

 見た事も聞いた事もない時の精霊の姿や声を想像するなんてできるだろうか?

 やってみなければ分からないことばかりで、不安になる。

「まあ、駄目もとでいけばいいさ。それよりも問題は、どうやって混融湖まで行くかだよ。悪いが、流石に精霊族の長として、一国の姫を勝手に国外へ連れ出す事はできないからね」

「いえ。相談に乗っていただけただけで、とても感謝しています」

 ママとして話してくれた内容は、私が書庫を永遠にさ迷ったとしても、得られるものではなかったものだ。

「混融湖へ行く方法は自分で考えます」

 元々、この子を産むと決めた時点で、この国にい続ける事は出来なくなったのだ。

 どうにか国を出て、生活していく方法を考えなければいけない。不安だらけではあったが、やるしかないのだからと、私は悪い方へ考えないようにして笑った。 



◇◆◇◆◇◆



 風神祭りは、一週間かけて行う祭だ。

 初日は開会の儀があり、国で選ばれたモノが神に捧げる舞と歌を披露する。以前はこの踊り子の役は様々なモノが行っていたが、ここ数年は『聖女』である私が行っている。

 そしてその舞と歌が終わると、国中の人が祭壇へ巡礼し、供物を備える。

 勿論すべての国民が一ヵ所に集まる事は不可能なので、その一週間の間に、豪族がその土地のモノ達の代表として王都を訪れる。勿論祭りの期間に一般人が巡礼に来ても構わないし、王都で巡礼すれば、その一年は風神の強い加護が与えられると信じられてる。

 その為この期間は、王都にいる人の数が爆発的に増えるのだ。

 人の数が増えると、それだけぶん飲食が必要となり様々な商人が集まってくる。また巡礼者プラス商人の宿泊場所も必要になるわけで、観光業的な分野が栄える様になっていた。

 

 舞台の上で、聖歌を歌い終わった私は、頭の上に乗せていた飾りを取り外し、椅子に座り込む。石が飾り付けられた冠は華やかだけれどとても重く、これをつけた状態で舞を舞うのは結構大変だった。

「大丈夫よね?」

 お腹には力を入れないようにはしたけれど、無意識にお腹に手がいく。後はのんびりとして、必要な場面で笑顔を振り撒いていればすむはずだから、無理をすることもない。


「聖夜様。少しよろしいでしょうか?」

 控え室で休憩していると、光凜が声をかけてきた。

「ええ。何?」

「私の思い違いなら、申し訳ありません。……お腹に子がいるのではないですか?」

 特に今まで指摘されたこともなかった為に、予想外の言葉に私は反応できずに固まった。特にまだお腹が目立たない今ならとぼけることも可能だっただろうが、この沈黙が光凜に確信を持たせてしまったようだ。


「いつですか? 相手はどなたなんです?!」

「こ、光凜。落ち着いて」

「これが落ち着いてっ!!」

「お願いだから」

「……――申し訳ございません」

 眉を吊り上げ声を荒げる光凜に、私は必死に懇願した。光凜ならまだしも、他者に知られるわけにはいかないのだ。

 光凜の目は言いたいことがまだたくさんあると訴えてはいたが、深呼吸したのち、普段通りの声の大きさに戻してくれた。


「ですが、教えて下さい。いつでございますか? あの体調が悪かった時にはもう?」

 光凜の問いかけに、私はこくりと頷いた。

「相手は、同族ですか?」

「……いいえ」

 下手に誤魔化しても仕方がない。

 私は正直に答えた。その答えに、光凜は傷ついたような悲しそうな顔をする。


「お願い。誰にも言わないで」

 しばらく光凜は沈黙した。

 たぶんそれほど長い時間ではなかったと思うが、私はとても長い地獄の裁判を受けているような気分だった。ここで光凜が父や、現王に伝えれば、今日まで努力が無に帰る。お腹の子が殺されてしまう。

「……言える訳ないじゃないですか」

「光凜っ!」

「既に安全に堕ろせる時期を過ぎています。もしも確実にこの世に生まれないようにするには、聖夜様を殺さねばならないのですよ」

 堕ろせなんて酷いと言いたかったが、今にも泣きそうな顔をしている光凜を見ると何も言えなかった。光凜は私の為に苦しんでいるのだ。

 苦しませてごめんと謝りたい。でも謝ったらお腹の子を私まで否定しているような気がして、それも言えなかった。


「どうなさるんです。前王は混ぜモノの存在を認めて下さいませんよ」

「分かってるわ。だから私は、この国を出ようと思うの」

「何を言ってるのです?! 混ぜモノを連れて、どうやって生活する気ですか? この国を出たところで、混ぜモノを歓迎してくれる国などありませんよ」

「ええ。混ぜモノの暴走の傷跡が残る黄の大地ではね。でも他の大地は違うかもしれない。だから、この子が生きていける大地を探すわ」

 それは容易い事ではないだろう。でも、それ以外の方法が見つからない。

 この子が生きていける場所を探すしかないのだ。その為には安全に産む事が大前提で、まだまだ問題は山積みなのだけれど。

「他の大地って、そんなのどうやって――」

「旅芸人に入れてもらえるよう頼むわ。今この国に訪れているのよね。緑の大地には、魔法を学ぶ学校もあると聞くし、もしかしたら、そこなら受け入れてもらえるかもしれない。そこで駄目でも、他に5つも大地があるし、その大地の中に国が一つしかないなんて事はないはずよ。すべての国を回れば一つぐらい混ぜモノを受け入れてくれる国があるかもしれないわ。それでも、どの国も受け入れてくれなければ、ずっと旅をしていればいいと思うの」

 夢物語と言われてしまうかもしれない。実際私も、現実味が欠けているような話をしていると分かっている。でもできると信じて進むしか道はないのだ。


 光凜も同じことを考えたのだろう。彼女は私の言葉を否定も肯定もしなかった。ただ、じっと私のお腹を見つめた。

「……ならば、私も連れていって下さい」

「駄目よ」

「何故です? お一人で育てるのは大変でしょう。ましてや聖夜様は一人で生活をなさったこともないのですよ」

 その点も考えた。

 私はずっとこの国に飼われている立場だったのだ。生まれ変わってから、料理一つ作った事もない。前世の記憶を使えば何とかなるかもしれないが、それもどこまで役立つのか分からない。

 だとしたら、光凜の申し出はとてもありがたいものだ。

 でも、駄目なのだ。


「光凜には、やってもらいたい事があるの」

「やってもらいたいこと?」

 光凜にバレてしまったのならば、協力してもらいたい事がある。私がこの国から抜け出すために思いついた、今とれる最善の方法を成功させる為に。

「私を殺してほしいの」

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