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幻な子(主人公オクト視点)

 この話は、ものぐさな賢者Ⅱ辺りの話です。

「未来の自分?」

「そう! 未来の自分ってどんな感じか見たくない?」

 私の家に遊びに来たミウが、目をキラキラさせてそんな話を持ち出した。

「それは、状況をという事?」

 未来というのは、いくつにも分岐しているというのは、コンユウやエストのおかげで知っている。なので、基本的には未確定といってもいいだろう。

 ミウが言っているのは、占い的な事を指しているのだろうか?

 

「状況も知れたら面白いかもだけど、知りすぎても面白くないと思うんだよねー。そういう未来じゃなくて、未来の姿。えっと、ようは大人になった時の姿が先取りして見れたらいいなって思ったの」

 何十年後かの自分かぁ。

 そういえば、あくまで予想図だけれど、前世でもそういったものがあったなぁと思いだす。染みが肌に出るとか、皺ができるとか、そういうものを事前に知っておいて対策する感じのソフトだ。

 とはいえ、その状態も、生活状況によってかなり変わってくる。

「えっと。美容的な意味で?」

「美容?」

 どうやら私の考えているものともちょっと違うようだ。ミウがきょとんとした顔で、首を傾げる。そもそも褐色の肌であるミウは太陽の光に強いようで、いつでも綺麗な肌だ。それに、学校で学んだ薬草の知識を生かして、美肌パックなどもしていると聞いているので、たぶんいつまでもきれいなお姉さんでいる気がする。

「えっと、ミウの場合成長期が過ぎているように思うからどういった意味合いか分からなくて」

 スレンダーだけれど、すでに出るところはちゃんと出ているのだ。身長も結構あるし、たぶん成長期はほぼ終わっていると言ってもいい。だとすると、そこまで大きく外見が変化する事はないように思う。


「ああ。ごめん、ごめん。私じゃなくて、オクトちゃんの未来が見てみたいなあって思ったの」

「私?」

 何故、私。

 普通は自分の未来が見たいというものではないだろうか?

「色々考えていたんだけど、私の魔力からすると、オクトちゃんより私の方がずっと早くおばあちゃんになって、死んじゃうわけじゃない? で、もしかすると、私ってオクトちゃんが大人な感じになった時を見る事ができないかもって思ったら、どうにかできないかなって思ったの」

「えっと。流石にミウが死ぬより前には、大人になれると思うけど」

 恐ろしい呪いを吐かないで欲しい。

 本当に地味にだけど身長も伸びているのだし、たぶん大丈夫。うん。混ぜモノだから、若干成長速度で何かトラブルが起きる可能性は否定できないけれど、毎日牛乳も飲むようにしているのだし。いつまでも合法ロリは勘弁だ。

「そうかなぁ。でもペルーラも見てみたいと思わない?」

「そうですね。見る事ができるなら、是非」

「……私の大人姿を見ても何も楽しくないと思うけれど」

部屋でお茶の準備をしてくれていたペルーラまでそんな事を言いだして、私は溜息をついた。

「そんな事ありません。特に私の場合は、オクトお嬢様の子供の顔も拝見できないかもしれないのですし。せめて成長した姿だけでも冥土の土産に見たいものです」

「いや。私の子供は、たぶん私より長生きした人でも見られないから」

 たぶん私が結婚する事はないと思う。

 そもそも、混ぜモノの子供は混ぜモノ。自分のこれまでの人生を振り返るかぎり、おすすめ出来る人生ではない。


「せめて結婚式だけでも見たいんです。そして着飾りたいんです!」

「あ、分かる! オクトちゃんの結婚式ってどんな感じになるんだろうね」

「勿論、伯爵様が盛大な結婚式を計画して下さいますわ。パレードで街中をまわり、領民も一緒にお祝をするのではないでしょうか」

「でも、案外身内と知り合いだけかも。その分、ドレスとか装飾品にお金をかけて。エステとかもいいよね。オクトちゃん、全然美容に興味ないから、本当に勿体ないし」

「ちょ、ちょっと、待って」

 何恐ろしい妄想をしているのだろう。

 結婚するという事は相手がいるという事だ。いま二人の頭の中に居る相手は一体誰なのか。

 それはないと言う為にあえて聞く事もできるだろうけれど、何だかドンドン藪蛇な方向へ話が進む気がしてならない。

「とにかく、大きくなった私が見たいという事でいいの?」

「うん。結婚式は大きくならなくても見られるしね」

「そうですね!」

 そこ、意気投合しないで下さい。

 私は小さくため息をついて、ちょっと考える。


 未来の姿という事は、時魔法を使うのがベストだろう。しかし現在の時魔法は、時間を止めるぐらいしかできない。

 時間を進めるというのはちょっと応用すれば出来そうな気もするが、その場合時間を遡るという事が同時にできなければ大問題だ。それに直接人体に魔法を使うのは、あまりいい事ではないので、鏡に映し出すなどの別の道具を使うなどしなければいけないだろう。

 あまりに時属性の研究が進んでなさすぎる為、すぐにその魔法陣を構築する事は難しそうだ。

 せめて、もう少し時魔法に精通している人がいれば、また話は変わって来るだろうけれど――。

「あー、トキワさんなら、方法を知っているかも」

「トキワさん?」

「えっと。ホンニ帝国に行った時に知り合った、時の精霊族の人」

 最初に出会ったのは、私がまだママのお腹の中に居る時、もしくは赤ん坊の時となるのだけれど、全く記憶がないので、ホンニ帝国へ行った時に知り合ったといっても間違いはないと思う。

「ちょっと、連絡をとってみるけど、期待はしないで」

 そんなくだらない事をと、トキワさんに言われそうだ。しかしこのまま結婚の話をされるのも色々困る。今はアスタが仕事に出かけているからいいものの、ここにアスタが加わったら、話が何処へ転がるか分からないので恐ろしい。

 私は恐ろしい想像をあえて考えないようにしながら手紙を書き、魔法でトキワさんの所へ転送した。




◇◆◇◆◇◆




「未来の姿だけを見るとは面白い発想じゃのう」

 精霊族って、何でもありなんだろうか。黒の大地はアールベロ国がある緑の大地からかなり遠いと言うのに、連絡をとってすぐにトキワさんは目の前に現れた。そういえば、龍神であるカンナさんも呼んだだけすぐに現れたりするので、精霊族にとって距離などはあまり関係がないのかもしれない

 でも連絡してすぐに来られるなんて、トキワさんって暇なんだなぁ。

 これがアスタだったら、たぶん仕事をほっぽりだしたに違いないので暇とは思わないが、トキワさんだったら私を一番に優先してしまう事はないだろう。

 そんな事を思いながら、ふよふよと浮いているトキワさんを見上げる。ただしこちらから連絡をとっておいて、暇だななんて言った日には、確実に機嫌を損ねる事が分かっているので、心の中にとどめておく。

 

「できそうですか?」

「写真みたいな感じでよければできるぞ。勿論白黒ではなく、色も付けられるのじゃ。ただし可能性が最も高い未来というだけであって、本当にそうなるとは保障できんがのう」

 そりゃすごい。

 可能性が最も高いというのは、今太っていれば未来も太っているし、痩せていれば痩せているという事だろう。怪我をするしないは分からないので、こちらも今怪我がなければ、映し出された未来にも傷跡はないという事か。

「オクトちゃん、写真って何?」

「何じゃ。この国にはカメラはないのか」

「えっと、姿絵のもっと本物に近い感じかな? カメラと呼ばれる機械で姿を紙に写す方法」

 ホンニ帝国は、機械関係が発展している。異界の物に対する研究もアールベロ国よりもずっと進んでいる気がした。カメラもその辺りが関係して、既にホンニ帝国では使われているのだろう。

「へぇ。面白そう」

 前世の記憶でも、女の子はプリクラや携帯電話などで写真を撮りまくっているイメージがあるので、もしもこの国にそんなものができたら人気が出そうだなと思う。


「とりあえず、まずはオクトからでいいか?」

「あ、はい」

 トキワさんは紙を召喚すると、そこに何やら書き始めた。たぶん時魔法の魔法陣と、その他の属性の魔法陣だろう。

 しばらくすると、トキワさんは手を止めた。

「ゆくぞ」

「えっ?」

 ピカッと突然フラッシュの様に紙が光った。本当にカメラみたいだなと思いつつ、光るなら事前に言ってもらいたかったなと思う。

「ざっと、こんな感じじゃ」

「えっ。見せて。見せて!!」

 私の方へ出来上がった紙をトキワさんが渡してくれたのを受け取ると、ミウやペルーラがそれを覗き込んだ。


「ええっ。凄い美人!!」

「本当ですね。少し痩せすぎてるのが心配ではありますが」

 そこに写っていたのは、金髪の髪の長い女性だった。今の私と同じように一つに髪は結んであり、顔に混ぜモノ特有の痣がある。

 かなり細身というか、華奢な体格をしているが……胸はちゃんとあった。でも――。

「トキワさん。この服は?」

 金髪の女性が来ている服は、今私が着ている服でも、アールベロ国で主流の服でもない。何というか、アラビアンな感じの服で、へそが出ている。丁度、トキワさんの服装に近い気がする。

「もしも神様になった時のオクトにしてみたのじゃ」

「……つまりトキワさんの願望?」

「一番可能性が高い未来じゃ!」

 ……うーん。別に露出の多い服に抵抗があるわけではないけれど、この服装を私が着ているイメージがあまりない。やっぱりトキワさんの願望が強く出ている未来の一つではないだろうか?


「この絵って、貰ってもいいですか?」

「えっ?」

 ミウはオレンジ色の瞳をキラキラさせて、トキワさんを見ていた。

「いいぞ。持って行くが良い」

「わー。ありがとうございます!」

「ミウ、それ、貰ってどうするの?」

 自分の写真ならいざ知らず、私の未来写真がそれほどいいものだとは思えない。

「え? 資料の一つにするだけだよ?」

 資料って、何の資料ですか?

 もしかしなくても、オタ活動の資料ですか?

 えへっと笑うミウは可愛いけれど、内容は全然可愛くないように思えてならなかった。

「ほらほら、気にしない。あ、そうだ。アユムちゃんや、ディノ君とかもやってもらったら、面白そうじゃない?」

 私が胡散臭げな目で見ていた事に気がついたらしく、ミウが話を変えた。

「きっと、アユムちゃんて美人になると思うんだよねー」

「そりゃ、アユムは可愛いから……」

 今はボーイッシュな姿をしているけれど、かなり可愛らしい顔をしていると思う。日本人なので、アールベロ国の人とはちょっと違う感じもするけれど、成長したら絶対奇麗系になると思うのだ。

「折角だから連れて来ようよ」

 なんだか誤魔化された気がしなくもないけれど、確かにアユムの未来予想図とか見てみたい。

 私はミウに言われるまま、我が家のチビっ子組を呼びに行った。



◇◆◇◆◇◆



 その後私の未来写真の話を誰から聞いたのか、アスタが見たいとごねた為、ミウから未来写真を借りて来る事となった。更にチート能力でその写真を複製が作られ、私の頭痛が増えたのは別の話だ。

 またこの未来写真は、別の場所でも頭痛の種を撒いてしまったようで――。

「なあ、オクト。この、エキゾチックな紫の目の美人さんって誰だ?」

「へ?」

「黒髪だし、ホンニ帝国の子なのか? それとも魔法学校の子か?」

「えっと……」

「こんな美人の知り合いが居たなんて。今度紹介してくれよな」

 偶々遊びに来たライが未来写真を見つけ、その未来写真に写ったアユムがストライクゾーンど真ん中だったというミラクルを起こしてくれた。

「あー……十年後ぐらいには紹介できるかも」

「何で、十年なんだよ? もったいぶるなよ」

 現在アユムに懐かれているライだけれど、十年後はどうなっているだろう。魔力があるライは十年後も多分今とそれほど変わらない姿だろう。一方、魔力のないアユムは――。

 私は頭痛の種になりそうな現実から、そっと目をそらした。

 

 未来なんて、事前に知るものではないと思いながら。

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