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腐海な本達(主人公オクト視点)

 この話はものぐさな賢者Ⅱの時間軸の話で、オクト視点となっています。

 出版作品である『ものぐさな賢者3』のあとがきに書いた『二次創作な話(オクト視点)』とリンクしています。

「じゃあ、お菓子を持ってくる」

「おー」

「ありがとう。オクトさん」

 久し振りに家へやって来た、王子とその護衛を追い返せるはずもない私は、作り置きしておいた菓子と茶をとりに台所へ向かった。

 ペルーラは本日お休みで、アスタは仕事中。アユムとディノは現在村の子と遊びに出かけているので、久し振りに一人の時間を満喫していたのだけれど、世の中上手くいかないものだ。出来ることなら、急ぎの仕事もないこの時間を本を読んだりしてのんびりと過ごしたかったのだけれど、致し方がない。


「最近時属性の魔法について調べる時間もないしなぁ」

 作り置きしておいたクッキーを盛りつけながら、溜息をつく。コンユウやエストに対してどうするかは、一応一つの案は出来上がったわけだが、それが最善というわけでもない。私が神様になるまでの期間は、たぶんまだかなりあるだろうし、その後上手く彼らが一番望む形へ時を変えられるという保証はないのだ。

 大々的に調べまわれば、トキワさんが不審に思い色々言ってきそうなので、私は空き時間を使って地道に時属性や時魔法について調べていた。本を読んだり多少魔方陣の設計をしている分には、図書館の事があるからなどいくらでも誤魔化せる。しかしディノやアユムの勉強を見るという時間作ろうとすると、意外にまとまった時間が取れなかった。

「何かもう少しいい方法があるといいけれど……」

 薬草の栽培実験も進めていきたいし、やりたい事は結構ある。でも体はひとつしかないので、もどかしく感じる事も多かった。……もともとそれほど働きものではないはずなのに何でこうなっているんだろうなぁと思うが、隠居生活というものは子供が自立した後ぐらいと決まっている。なので私はアユムやディノが独り立ちするまでの間の辛抱だと思い、頭を切り替える事にした。


 紅茶も準備し部屋へ戻ると、ライとカミュが部屋の中にあった本を読んでいた。別に勝手に読まれる分には構わないのだけれど、何故かライの表情が悪い。隣のカミュはいつも通りに見えなくもないけれど……いや、でも微妙に違和感がある気がした。

「おまたせ」

 とはいえ、その事を指摘して何か厄介事が降りかかって来るのも面倒なので、私は何も気が付かなかったふりをしてお茶を配る。

「なんだこりゃぁぁぁぁっ!!」

 一通りお茶を配り終えた所で、唐突にライが叫び声を上げた。勢い良く、本を机に置い為、カチャリとカップが揺れる。カップの中身はこぼれていないけれど、ライが乱暴に扱った本はきっとこの部屋にあったものだと思い、私は眉をひそめた。

「本を乱暴に扱うなら読むな」

「乱暴に扱ったのは悪かったけど、気になったから仕方がないだろ。でも激しく俺は今後悔しているだよ!」

 気になった?

 ライが気になるような本を私は持っていただろうかと思い首を傾げる。基本的に私が買う本は魔法に関する専門書が多い。そしてライはそいういう本を進んで読んだりしないタイプだ。時折は娯楽本を買ったり、アユムの為に絵本を買ったりはするけれど、この部屋に何か置いていただろうか?

 

 ライが読んでいた本の表紙を覗き込んだ所で、私は固まった。

「あー……それ読んだんだ」

「読んだんだじゃねぇよ。何だよコレ」

 ライの手元にある本の表紙には、【戦乙女~公爵様の最愛の娘~】という題名が書かれていた。それを見た瞬間、その本が何だったかを私は思い出す。

「オクトさんの部屋にある本としては珍しいと思ってね。ちょっと気になったんだけれど……」

 そう言うカミュの手にも戦乙女シリーズの本が握られている。確かに私の部屋にあるには、かなり違和感のある本だろう。そもそも私は恋愛がメインの小説をあまり読んだりしないのだから。読んだとしても、冒険ものにちょっと恋愛を絡めた程度のものである。それですら、蔵書としては少ない。

「まあ、それは貰い物だから」

 たぶんこの題名からして、普段の私なら避けるだろう本だ。貰い物でなければ、ここにはなかったと思う。

「貰い物って、誰からだよ!!」

「ちゃんとその本を読み進めれば分かると思うけれど……オクトファンクラブの会長様から」

 オクトファンクラブ。

 それは、私の学生時代に作られた黒歴史と言っても過言ではない集まりの名称であり、一度許したばかりに、現在も生き残ってしまっている団体名だ。

 そしてその会長というのは、私の友人であるエストとミウであり、その本の送り主は現在も会長を務めているミウだった。そろそろ引退して、解散して欲しい所なのだけれど、中々その夢は叶っていない。


「ファンクラブ会長?」

「ミウの事」

「勿論それは知っているけれど……。という事は、やっぱりこの話は――」

「エストが書いていた『新説・混ぜモノさん』の番外というか、同人誌。作者は、ファンクラブに所属している誰かで、読者も同様の内輪で楽しんでいる二次創作活動」

 そう。エストとミウが始めたオクトファンクラブはいつの間にか斜め上に進化し、同人活動が活発化するという、オタクな方向へ進んでしまったのだ。

「でもこの話のモデルって。いや、でも。まさか――」

「ライとカミュで間違いないと思う」

 先ほど本を乱暴に扱った上に叫んだぐらいなのだ。薄々というか、この本の内容がどういったものか少し読んで気が付いたに違いない。それでも言いにくそうにしているライに対して、私は真実を伝えた。

「うわぁぁぁっ!! やっぱりか。やっぱりそうなのか?! 痒い。体が痒いっ!!」

 知ってしまった真実に、ライは頭を掻きむしる。

 まあ、私も正直その話を最初に読んだ時は、一気に鳥肌が立ったものだ。


「題名からすると、ライが女の子という事でいいのかな?」

 カミュの言葉に私は頷く。この小説は、公爵子息が乳兄弟として育った護衛の娘を溺愛するという内容だ。そして乳兄弟として育った娘は、王道の男装令嬢として公爵子息を守りつつ、恋心を隠しながらも、どうしても惹かれてしまう焦れ焦れ的内容だったと記憶している。

「何で俺が女なんだよっ!!」

「その方が面白いから」

 いや、でもこの内容でもしも男同士だったら、もっとショッパイ気分になったと思う。新説混ぜモノさんというフィクションに出て来るキャラクターを使った二次創作だったとしても、カミュとライの事に違いないのだから。

 流石に知り合いのBL小説は勘弁して欲しい。……私が知らないだけで、誰かが作っていそうではあるけれど。

「面白いって、カミュが女役でもいいだろ?!」

 ああ、そう言う事。

 BLがお望みかとちょっと思ってしまったが、違ったことにちょっとホッとする。

「女子は権力を持ったヒーローと平凡な共感できるヒロインのカップルが王道的に好きだったりするから。公爵子息と思われているカミュが男役の方が人気が出ると思う」

 前世の知識の中でも、間違いなくそういったライトノベルが多かったと思う。

 ライトノベルでなくても、シンデレラや親指姫、美女と野獣もヒーロー役は王子様と決まっている。平凡ヒーローが悪いとは言わないが、スーパーヒロインと駄目男ヒーローな話は女性向けではあまりない気がした。


「それにライはライスもやっていたんだし、いいんじゃないかな? この間も、忘年会で女装させられたって聞いたよ」

「げっ。何でそのネタをカミュが知ってるんだよっ!!」

「僕の情報網はライスちゃんだけじゃないという事だよ」

 うわぁ。今もそんな事させられているんだ。

 顔に傷を負った時に、これで女装をしなくても済むと、結構本気で喜んでいたっぽいのに。ライは別に女っぽいという感じでもなければ、身長が低いというわけでもないので、たぶん冗談的な感じだろうけれど。

「くそぉ。でも、オクトも、こんな話が出回っているって知ってたなら止めろよ。友達だろ?!」

 友達だろと言う言葉に、私はフッと鼻で笑った。

 勿論ライの事は友人だと思っている。思っているけれど――。

「エストが『新説・混ぜモノさん』を書こうとした時に、勝手に私の情報を売ったのに?」

 あの話の所為で、ファンクラブの会員は増え、今でも存続するきっかけを作ってしまったのだ。

「それは――」

「因果応報だと思う」

 別名、ざまあw的状況だ。数年経ってブーメランでその罪が戻ってきた友人に対して、私は冷たく伝え、運んできたお茶をのんびりとすすった。

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