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異世界なクリスマス【ブログ転載】(主人公オクト視点)

 この話は以前ブログで掲載していたものです。

 賢者編辺りの話で、オクト視点になっています。

「オクトー!サンタさん」

 薬の計量をしていると、アユムがひょこひょこっと寄ってきて、描き終わったイラストを見せてくれた。

 アユムが持ってきた絵には赤色の服をきた、ヒゲの生えた人物が描かれている。確かに前世で見たサンタの配色と同じだ。アールベロ国にはクリスマスがないので、この奇抜な色彩の服を見たのは久々である。

 今思えばどれだけ自己主張の激しい爺さんなのだろう。

「サンタさんって何?」

 本日は仕事が休みな為、私の隣でダラダラと本を読んでいたアスタは一度閉じると、アユムが描いた絵を覗き込んだ。


「いい子にしていると、プレゼントくれるの!」

 ……間違ってはいない。間違ってはいないけれど、ちょっと説明不足かもしれない。アスタがキョトンとしている。

「アユムがいた世界にいる人で、冬のクリスマスと呼ばれる日に、いい子にしていた子供にプレゼントを配ると言われている」

 私は不思議そうにしているアスタにそう説明を付け加えた。

 ただアユムの夢を壊していいかどうかが分からないので、具体的な説明は避けておく。クリスマスがないこの世界では今更かもしれないが、夢はやっぱりできるだけ壊さない方がいいだろう。

「そのサンタは、なんの見返りなしにプレゼントを配るのか?」

「……まあ、一応」


 実をいうと私も何でサンタさんが子どもにプレゼントを配るのかを知らない。元々クリスマスなんて日本になかった文化だ。そして私が知る限り日本のクリスマスは、クリスマス商戦という意味合いが強すぎる気がする。

 クリスチャンは教会に行くらしいが、生憎と私の前世の人はクリスチャンではなかったらしく、そういう知識は持ち合わせていなかった。ただプレゼントを子供が貰ったり、ツリーを飾ったり、チキンを食べるというイメージだ。

「アユムはサンタさんに会った事があるの?」

「ないよ。だってね、ねてる間に、サンタさんはエントツから家の中に入ってくるから。それでね、プレゼントをくつしたの中にこっそり入れてくれるの」

 ……アユムの説明は間違っていないのだが、明らかにアスタの眼がうろんなものになった。

「それって、ただの不審者――」

「す、ストップ。まあ、サンタさんは凄くいいお爺さんだから。うん。ちょっと親切心が行き過ぎてるかもしれないけど」

 確かにアスタのいう通り、日本でイメージされているサンタは、ぶっちゃけ不審者だと思わなくもない。

 真夜中に勝手に煙突から家に侵入してくるのだ。本当にそんなヒトが家の中に居て、鉢合わせしたら怖すぎる。そもそも日本の家は基本煙突がないので、もしも侵入するなら玄関か窓……。うん、一歩間違えば犯罪者だ。

 だけどアユムの夢を壊す発言は控えて欲しい。

 常識で考えれば色々間違っていても、しょせん伝説の生き物的な存在なのだ。


「あとね、サンタさんはね、赤い服きてね、トナカイにのって空をとぶの」

「サンタは、魔術師なのかい?」

「……ジャンルは近いかも」

 魔術師ではないが、何処からともなく調達してくるおもちゃやら、空飛ぶトナカイを考えると近いものを感じる。

 というか空想の人物に現実的なツッコミをしちゃいけないんだと思う。


「でね。クリスマスはね、ケーキ食べてみんなでお祝いするの」

「えっと。なんの?」

「……まあ、異世界の神様のお祭りかな」

 何度も繰り返すが、日本はクリスチャンよりも仏教の盛んな国。25日にクリスマスパーティーをして、31日に除夜の鐘を鳴らして、元旦に神社へ初詣に行く。ぶっちゃけ、ただイベント大好きなだけだろうという感じだ。何でそれをやっているのか分からない人も多いと思う。

 私の知識も結構曖昧なので、あまり深くつっこまないで欲しい。

 恋人のいるリア充とそうでない人に分かれる程度の事しか分からない。


「今年はサンタさんこないかなぁ」

「あー……」

 さすがに、超古代文明とかした日本からサンタが来る事はできないだろう。というかぶっちゃけ、サンタさんはアユムの両親だ。

 となればどう頑張っても無理だ。

「クリスマスのサンタさんというのは一人なのかい?」

「ちがうよ。おじいさんだけじゃなくて、ミニスカサンタさんもいるの!」

「「は?」」

 ミニスカサンタだと?

 さすがに今のアユムの話は私の中でも予想外だった。……ミニスカサンタって、お姉さんが着るサンタ衣装の事だよね。

 よくクリスマスシーズンになると、そんなコスプレ衣装が売っているが、まさかアユムの口から飛び出てくるとは思わなかった。


「あのね、赤い服をきたおねーさんサンタでね、前ケーキやさんであったの。サンタさんのデシなんだって。みじかいスカートはいてるからミニスカサンタなんだって」

 それは初耳だ。

 うんまあ、状況は分かるよ。多分サンタの格好をしたケーキ屋のバイトの子が、咄嗟にそうやって説明したのだろう。

 でもまさか、ミニスカサンタという新しいキャラにしてしまうとは。恐るべし。


「ふーん。じゃあ、オクトにもサンタさんに弟子入りしてもらおうか」

「へ?」

 何を言い出すんですか、アスタさん。

「オクトなれるの?」

「オクトは賢者様だからね。サンタさんと連絡を取る事ができるんだよ。異世界からサンタさんは来る事ができないけれど、きっと代わりにオクトが何とかしてくれるよ」

 いやいやいや。

 何言っちゃってくれているんですか。

「オクトすごーい!」

 しかしキラキラした目でアユムに見られると、できませんと言えなくなる。

 

「つまりサンタはお伽噺のヒトという事なんだよね?」

 ぼそぼそっとアスタに耳打ちされて、私は頷いた。どうやらこの拙い説明の中で、アスタは空気を読んでくれたみたいだ。

 自由人なアスタだが、一応アユムの夢を壊さないように考えてくれたらしい。

「……アユムがいい子にしていたらね」

 折角夢を壊さないようにアスタが話を進めてくれたのだから、こうなったら諦めて演技をするしかない。

 まあサンタに弟子入りなんて新しいネタだが、ようはお母さんがサンタさんに連絡してあげるから欲しいモノを教えてと聞くのと似たようなものだ。やってやれなくはない。


「よし。じゃあさっそく、ミニスカサンタの衣装を作ろうか」

 えっ?そこから?

「いや。別に服はこのままでも――」

「何を言っているんだい。サンタさんの弟子になるなら、まずは服装から。そうじゃないと失礼にあたるだろう? それが彼らの正装なんだから。アユム、ミニスカサンタの制服は、赤いスカートなんだよね」

「うん!」

 アユムは元気に返事した。

 って、いやいや。待って。

 もしもサンタさんがミニスカの衣装の子しか弟子に取らないのだとしたら、とんだエロジジイだ。

 だからお願い。そんな期待した眼差しで見ないで。


 やられた。これは、アスタが私にスカートをはかせるための作戦だったのか。そう言えば最近オクトが女の子らしい恰好をしてくれないだの何だのとブツブツ文句を言っていた気がする。

「じゃあオクトがミニスカサンタになれるまでいい子にして待っているんだよ」

「うん。いい子にして、待ってる!」

 ……マジですか。


 結局アユムの期待した眼差しに負け、後日私は恥を忍んでミニスカサンタをやる事になった。さらにカミュ達を呼んでケーキパーティーを開く事になるのはまだ別の話。

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