賢者な人生相談2【ブログ転載】(主人公オクト視点)
この話は、ブログに掲載していた話です。
時間軸は、賢者編辺りとなっており、オクト視点になっています。
「最近、アスタリスク魔術師……義父の考えが分からないんだが」
「私はいつも分かりません」
はい終了。
部屋の中に沈黙が落ちる。いや、別に私もヘキサ兄の悩み事を聞きたくないわけじゃないんだよ。そもそもヘキサ兄が珍しく微妙な表情で考え込んでいたから、私の方からどうしたのか聞いたわけだし。
でもね。
「……たぶんですが、アスタの考えが分かる人は、アスタだけだと思います」
一緒に暮らして数年。さらに別れて、再び一緒に暮す事になったという、奇異な経験をしているが、一向にアスタの考えは分からない。もしも分かるという人がいたら、私が是非ご教授いただきたいくらいだ。
アスタの考えは私にとって宇宙人である。
「はいっ!あーちゃんは、アスタ、好きだよ?」
キラキラとした笑顔でアユムがお通夜のようだった話に加わった。それだけで、ぱあぁぁっと明るくなった気がする。
まあ、まったくヘキサ兄の質問の答えにはなっていないが。
「オクトもヘキサ兄も好きだよね?」
流石お子様。……なんとも率直に答えづらい事を聞いてくれるものだ。アユムはまるで春のような笑顔だが、私とヘキサ兄は凍りつく。そして微妙な表情でヘキサ兄は私を見た。多分私も同じような表情だろう。
「……嫌いではないかな」
「尊敬はしている」
たぶん好きか嫌いで聞かれたら、私もヘキサ兄も答えは好きに決まっている。ただそれを素直に口に出す事がはばかられる相手なのだ。
「と、ところで、どうして突然義父が分からないと悩むことになったんですか?」
何とも微妙な会話を続けるのもあれで、会話を私は元に戻した。ヘキサ兄は私よりもアスタとの付き合いが長い。
アスタが分からないなんで今更な気がする。それなのに、なぜ悩むのか。
「実はこの間、アスタリスク様が、オクトはヘキサにとっての何?ととても恐ろしい笑顔で聞いてきたんだ」
……うわぁ。
何やってるんだろ、あの人。いや、でも。私はアスタの娘ではなくなったわけなので、連動してヘキサ兄の妹でもなくなっている。
確かに、傍から見たら、どういう関係なのかと聞きたくなるかもしれない。
「……それは、なんというか、すみません。それで、何と答えられたんです?」
「伯爵家へ薬を納めてくれる専属の薬師であると同時に、妹のように思っていると説明した」
「えっと、最後の言葉は余計だったかもしれませんね」
「いや、私としては最後の言葉の方が大切だと思うのだが?」
そんな真顔で言われると、恥ずかしくなるんですけど。
いまだに妹のように扱ってくれるのはありがたい話なんだろうけど……アスタ的にどうなんだろう。今のアスタは、どうも嫉妬深いというか、自分のおもちゃをとられまいとする子どものように人を威嚇してくる。
それが冗談のように見える時もあれば、本気に見える時もあったりで、その真意は私ごときでは計り知れない。
「アスタ……大丈夫でした?」
いや、アスタが大丈夫というか、ヘキサ兄が大丈夫だっただろうかというか……。アスタはヘキサ兄の父親なので、無茶な事はしないと思うけれど。
「答えた後は凄くいい笑顔だった。そして私の頭を幼子にするようになぜられた」
「……ヘキサ兄のですか?」
「ああ」
それは――とんでもない光景ですね。
ヘキサ兄はすでに成人した外見をしている。そして身長も高く、アスタと同じぐらいではないだろうか。そんな大人の男が、同じくらいの男に笑顔で頭を撫ぜられる。
……親にとって子どもはいつまでも子どもというが、若干視界の暴力ではないだろうか。いやでも二人とも美形の分類だから、そうでもないのか?
そうは思っても、自分の頭が想像を拒む。
「そして、オクトの絵姿をいくつも取り出すと、オクトについて語り始めた」
「はっ?絵姿?」
「いや……絵姿というにはかなり精巧なものだったので、魔法で作り出したのかもしれない。さらにその絵が動くものも見せてもらった」
……それは、いわゆる写真や動画というものではないでしょうか?
実際に見ていないのでなんともいえないが。でも、えっ?ちょっと待って。私、写真をとられた覚えも、ビデオのようなもので、動画を撮られた覚えもなんだけど。
それは盗撮とかには当てはまらないんでしょうか?
色々頭痛がする話に、私は眉間を押さえた。
「なので、私もオクトに貰った数々のものを見せたり、色々思い出話をした」
「えっ?」
「そうしたら、最後は義父が半泣きになりながら、『俺はこれからオクトと思い出を作っていくんだ』といって去っていった」
……本当に、あんたら何をしているんですか。
想定外の結末に私は肩を落とした。うん。自分の父親が、半泣きで、逃げるように帰っていったら、確かに引く。そして色々分からなくなるのも納得できる。
「その時、この間オクトに貰った焼き菓子を持っていってしまったので、今日出来たらもう一度もらえないかと思ってきたのだが」
「へ?」
ヘキサ兄がうちに来るなんて珍しいなぁとは思ったが、そんな事で浮かない顔をしてここまで来たんですか。何だか色んな話が、私の常識の範囲を超えている気がする。
「別にただの焼き菓子なので、気にしなくてもいいですよ」
きっとヘキサ兄の事だ。折角貰ったのに食べた感想を言わないのは失礼に当たると思ったのだろう。普通に考えれば、伯爵家の専属の料理人の方が腕は上なので、わざわざ私の菓子を食べる必要はない。
「私はオクトの焼き菓子が食べたかったんだが……。無理にとは言わないが――」
ヘキサ兄が何処かシュンとした様子になり、私は慌てた。あげたくないとかケチりたいわけではないのだ。
「だ、大丈夫です。いくらでもあげますから」
「本当か?!」
……ヘキサ兄、本当にいいヒトだ。
ヘキサ兄はお金持ちだし、もっと美味しいもが色々食べられるはずなのに、わざわざ妹分の為に演技までしてくれるなんて。
「なら、また作った時は、アユムと一緒に持ってきてくれないか?今度は伯爵家で作った菓子も用意しておこう」
うーん。伯爵家のお菓子に見合うものが私のレシピの中にあっただろうか?
しかしヘキサはもう決まったとばかりの表情なので覆すのは難しそうだ。お菓子の交換なんて、まるで女子のようだが、まあいいか。
ヘキサ兄も物好きだよなぁ。
「それで、アスタリスク様だの事だが……オクトは、どう思っている?」
おっと。話もちゃんと元に戻すんですね。
どうって言われてもなぁ……魔法に関しては凄いし、仕事もできる男なんだろう。頭も、顔もかなりいい方だと思う。子爵なので、地位もある。
でも性格にかなり癖がある。それから――。
「あー、高齢者……です」
「は?」
「歳をとると、子どもに戻るといいますし」
アスタはよく子どもっぽくなる。
何処でも抱きつこうとするし、ひたすら一緒にいたがるし、たまに添い寝してくる。お菓子が好きだから、私が作ったお菓子を欲しがるし――。
「それだけか?」
「そうですけど?」
するとヘキサは視線をさ迷わせた。何か言葉を探しているようだ。お茶を飲みながら次の言葉を待っていると、しばらくしてからヘキサ兄は再び口を開いた。
「突然抱きつくのは――その。どう思っているんだ?」
「スキンシップが高いなと。でも子どもって、よく親に引っ付きませんか?」
きっと私の事は、抱き枕か何かと勘違いしているのだろう。アユムも良く抱きついてくるし。
「……そうか」
どこか疲れた様子でヘキサ兄が溜息をついた。
浮かない様子だが、ちゃんと解決したのだろうか。
「いや。逆にそれぐらいの方がいいのかもしれないな」
何がですか?
勝手に一人で納得し、頷くヘキサ兄を、私は首をかしげて見つめた。




