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はじまりな伝承(語りべ:カザルズ)

 ただカザルズが、龍玉の世界の始まりについて語っているだけです。

 どういう世界なのかは何となく分かると思いますが、読まなくても特に問題ない話で、設定話のようなものです。

 おや、こんにちは。わざわざ貴方が私に会いに来るとは、珍しいですね。

 私にどんな用件ですか? とうとう、魔王を引き継ぐ気になりました?


 ――はあ、この世界の始まりですか。神話でしたら、貴方も知っているでしょう? えっ? ああ、ファンタジーには興味がないと。神話の前の話が知りたいなんて、知ってどうするんです?

 何でもいいから話せとは、色々横暴ではないですか? --ほう。確かにこの精霊に関する書物は珍しいものですね。まあ、うちの馬鹿の為……仕方がありませんね。

 ただ魔族はかなり新しい種族ですので、【魔王】が持っている【はじまりな伝承】も結局は実体験に基づいたものではありませんよ。御託はいいって……はいはい。もう少し、愛想を良くしないと、娘さんに嫌われても知りませんからね。


 この世界に最初からいたヒトは、人族であったと言われます。

 魔力も、獣痕もなにも持たない種族でした。唯一持っているのは知恵のみ。それでもその知恵のおかげで、その最初の世界では繁栄できていたそうです。

 そんなヒトが初めて滅びの危機を迎えるのは、1つの大きな地震が起きた時でした。この世界の内部にあった新しいエネルギー、今でいう魔素が地上へ噴出し、たちまち世界は濃い魔素で覆われる事になりました。

 その頃のヒトは魔力を持っていない、つまり魔素の耐性がなかったので、ヒトは魔素中毒に陥ったそうです。ええ、貴方の娘さんの弟子がそうですよね。あんな感じなのですが、勿論魔素なんて未知な物体を誰も知らない為、魔素や魔力を吸い込む魔法石なんて存在も知るはずがなく、多くのヒトが亡くなったそうです。

 ただヒトは脆弱でしたが、今の人族と同じで柔軟でした。

 魔素を入れないシェルターという空間を作り出し、ヒトはそこで細々と生き残りました。その時代を第2の世界としています。そこの頃から魔素の耐性を持ったヒトが生まれるようになり、それが今の人族となったそうです。

 また耐性を持つヒトを研究した学者が、人為的に魔素の耐性を作る薬の開発に成功しました。その薬を投薬されたヒトは、魔素を魔力、そしてそのまま体力へと速やかな変換をするする事ができるようになり、シェルターの外でも過ごせるようになりました。

 ただしこの薬を投薬された者は、獣痕が現れ、人族とは外見が変わってしまいました。彼らは後に獣人族と呼ばれるようになります。色々この辺りで、迫害などのもめ事もあったようですが、今は獣人族が多く繁栄しているので、それなりの解決をしていったのだと思いますよ。

 また魔素耐性を持ったヒトの中にも巨人族や小人族など今の少数民族の外見をした物も現れ、ヒトは様々な外見をしたモノに分かれていきました。

 そしてシェルターの外へ出られるようになると、シェルターの中に入る事ができなかった者達もまた生き残っている事を知ります。

 

 シェルターの外で生き残ったヒトは、エルフ族と呼ばれるようになります。ヒトがかつて人族一種族だった時代に考えていた架空の存在ととても外見が似ていたことからそう呼ばれるようになったそうですよ。

 彼らは長い耳と美しい外見をし、どの種族より長い寿命を獲得していました。その外見の為に、彼らはシェルターから出てきたヒト達に狩られる運命にあるんですけどね。エルフ族は狩られ、人身売買されたりするようになり、今のエルフ族の民族主義を作り出すことになります。エルフは売られた結果、違う種族との間に望まない子供を産むこと事もあり、彼らは今でもエルフ族の血が入っている者に対して大切にしています。彼らにとって、ハーフの子供は被害者であり、守ってやれなかった罪と考えているようです。


 まあそんな形でシェルターの外で再び人族が繁栄するようになる第3の世界が始まりました。

 魔素の耐性ができたヒト達は、魔素を使う事を考える様になります。かつては毒だったそれは、とても魅力的な新しいエネルギーに彼らは感じるようになり、魔素を使った魔法がこの時どんどん生み出されていったようです。

 魔素には属性がある事、魔法陣のような幾何学模様に反応を示すことなど、今の魔法の原点もこのころに発見されていったようですね。

 またこの時代に、不老不死を研究したモノが肉体をなくし生きるという方法をとるようになり、彼らは【精霊族】と名乗るようになりました。ただ精霊族は、記憶を濃い魔素の中に焼き付けるという方法で生まれる為、精霊族となったモノが果たして本当に肉体を持っていたモノと同じかどうかは分かりません。それでも納得して肉体を捨てるものがいたのは事実です。


 そして魔素を使った魔法で繁栄をしていったヒトでしたが、再び滅びの危機を迎えるようになります。

 何故ならば、魔素には限りがあり、魔素耐性ができたヒトは魔素がなければ生きられない体になっていたからです。間抜けですよね。ギリギリになってからそれに気が付くなんて。

 この第3の世界の最後の方は、魔素を節約する魔法と、それまであまり注目されていなかった、魔力を使う魔法が発達し始めたみたいですね。

 そしていつしか魔素は節約するだけではもたなくなり、魔素を使う事が禁止され、魔力を使う魔法が中心となりました。しかし魔力を体力に変えてしまうため、魔力の小さい獣人族などは、魔法が使えず生活水準に差が出てきたようです。

 そして第4の魔素を節約し続け、魔力が大きいものと小さいものが分かれた国が増えた世界が始まります。でもそれでも魔素はどんどん目減りし、魔素が足りなくて倒れるヒトが出始めました。精霊族の中にも消えてしまうモノも現れ、徐々に世界は恐慌するようになります。

 そんな中、【混ぜモノ】と呼ばれる複数の種族の血を混在させた存在が、ささやかですが魔素を自分で生み出している事に気が付いたそうです。そして生体魔法科学の研究者の1人が、魔素を作り出すヒトを生み出すことに成功しました。それは彼らの魔素を生み出す能力を最大限に引き上げるという方法でした。

 ただし魔素が増え過ぎれば、今度は魔素のバランスを崩すと考えた研究者は、【混ぜモノ】を魔素を効率的に生み出す事のできる【龍神】へと変える石を主魔素属性の数である12個だけ作ったそうです。学者はかつて自分の先祖が住んでいた国の古代語を使い、各石に名前を付けました。それが今の神の名前であり、今でも神が関わった場所では古代語を使うそうですよ。


 そして、今度は【龍神】の取りあいが始まる第5の世界が始まります。

 どこの国でも、魔素は喉から手が出るほど欲しいものでしたから。そんな中、生体魔法科学を発展させたある国が魔力を最大限に大きくし、その魔力が最も活性化する20代から30代の状態で長く生きる人体兵器を作るようになりました。それが私たち【魔族】の始まりです。そんな形で唐突に生み出された種族だったので、異世界からやって来た種族なんていう馬鹿げた噂があるのですけどね。

 ただ魔力馬鹿である魔族をただ造り、野放しにするのは研究者も怖かったのでしょう。いつか魔族が反乱を起これば負けるのは分かりきった事でしたから。

 だから遺伝子という、生体を作る核のような部分にある細工を施したんです。魔族が主人に対して絶対服従であるように。それが今の魔族の歪んだ性癖の部分です。

 そうして各地で戦争が起こり、ヒトは滅ぼしあい、やがてこのままではいけないと考えるようになりました。

 その結果、【龍神】は誰にでも平等な代わりに、誰も侵害してはいけないというルールが定められました。また多くの魔素がなければ生きられない精霊族は、【龍神】に絶対服従を誓い、彼らの世話焼き係となります。不老不死を追い求めた結果が下僕とか面白いですよね。

 そして戦いの為に生み出された魔族にも人権をという話が上がります。魔族は執着していれば幸せですから私たちの先祖にはまったく不満はなかったんですけどね。でも自分たちの物差しでしか測れないヒトが、魔族の解放を訴え始めました。

 ただし魔族は主人がいない状態では生きられない。だから【魔王】という存在を新たに作り、魔族の遺伝子に加えました。もしも主人がいなくて辛ければ、【魔王】に傾倒できるように。

 おかげで今の魔族の現状が誕生しました。


 こうやって、ある程度落ち着いた世界でしたが、今度は【龍神】の消失が開始される世界が始まっていきます。

 ここからは、今ある神話とさほど変わりませんよ。ファンタジー要素を取り除いて現実的な目で読んでいけば、大体あっていると思います。どちらにしろ、【龍神】もまたヒトでしかないので、愚かしい事もおかしますから、永遠を紡ぐには不完全なんですよ。


 おや、もうよろしいですか?

 はい。では精霊族の本は確かに。

 何をしようとしているのかは知りませんが、くれぐれもこの世界を壊そうとはしないで下さいね。面倒ですから。

 きっと、貴方の娘さんも、この世界の終わりは望んでいませんよ。はいはい。睨まないで下さいよ。

 では、さようなら。また魔王になる気が起きたら、立ち寄って下さい。

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