偽物な賢者(4)(主人公オクト視点)
「……流石」
『こんな器用な事ができるのは、ムツキさんかミナちゃんだけよ』
それでもまったく驚いていないハヅキの声を聞く限り、やはり彼女もまた神様なのだと実感する。実際家に大木を突然生やした奇跡も見た事があるわけで。
私とミウはさっきまで薬屋の休憩室に居たはずなのに、瞬きをする間に、滞在場所が変わった。魔動電話でどこで偽物を見たのか具体的に聞こうとしたら、見に行った方が早いと移動させられたのだ。原理は転移魔法だは分かるが、その方法が凄い。電話で会話しているだけなのに、ミナが私たちの場所を特定し、別の場所へ転移させたのだ。しかもたぶんここは青の大地ではないだろうか。
アスタってチートだよなぁと思っていたが、神様はそれどころではなかった。色んなものをすべて丸無視している。
『私は全然だよ。カンナやハヅキさんほど魔力もまだ強くないから、コントロールを磨いているだけだし』
「十分だと思います」
神様の魔力で強くないというならば、私の魔力なんて赤子と変わらないという事だ。私自身は少年漫画の主人公のような強くなりたい願望はないので特に問題ないのだけど、軍人系の魔術師にとっては、嫌味にしか聞こえないだろう。
「……オクトちゃんの知り合いってどうなってるの?」
少しだけ震える声でミウが尋ねる。私の知り合いがどうなっているというか……うーん。少し考えて豪華絢爛だよなぁと遠い目になる。私がすごいわけではないのに、どうしてこうなったレベルだ。
「あー……まあ、いろんな人がいるのは確かだけど、私が凄いわけではないから」
「いや、あのね。前から思ってたけど、オクトちゃんは十分凄いの部類だからね?」
「ありがとう。でも気を使わなくていい。私にはこんな転移魔法は使えないから」
それどころか、対人スキルの低さで、人並み以下になりそうな状況。体力だって以前に比べれば回復はしてきているが、まだまだ低い部類だろう。私が自信を失わないように、声をかけてくれるミウは、本当にいい子だと思う。
「たぶん、色々比べる相手に問題があるような……。そういえば、ここは何処なの?」
『青の大地の国だよ。偽物がいる場所の近くの私の社に転移したから探してみて』
色々な常識を覆されるような方法に頭がくらくらしてくる。
でも嘘は言っていないんだろうなと思うぐらい、元々いた緑の大地とは雰囲気が違う。ホンニ帝国でだってここまでの違いはなかったけれど、何というか、前世の知識を使うと東洋風という言葉が似合いそうな町並みだ。
平屋建てで、石造りではなく木製の建物。というか……神社? 鳥居のようなものも見える。
「青の大地?! ウソ。本当に?! えっ?」
青の大地と言う言葉に、目を見開いて、耳をピンと立てた。よっぽど驚いたのだろう。
「そう言えば、ミウはどうやって緑の大地に来たの?」
「商人の船に乗せてもらって、白の大地まわりで来たんだよ。だから青の大地に来たのは初めてなの」
龍玉は丸い形をした大地からできているので、白の大地まわりになると、青の大地は反対となる。大地同士の交流自体が少ないので、とてもやって来るのは大変だっただろう。しかもミウは当時10歳程度だったはずなので、その年齢で1人で旅をしてくるなんて凄いなの一言しかない。
「青の大地なら、赤の大地まで近いような」
「うん。これだけ簡易に移動できれば、実家にも顔を出しやすいのにね。でも転移系の魔法は、私は苦手だからなぁ」
転移魔法は、空間を立体的に捉えなければいけない為、苦手な人は苦手だったりする。確かライもあまり得意ではなかったはずだ。逆にたぶんだけど、遠い場所を見ることができる、密目族のディノは比較的早く取得する気がする。
『だったら、オクトが手伝ってやればいいじゃん?』
「は?」
勿論手伝ってあげたいにはあげたい。何といっても、ミウは私の数少ない親友の1人なのだから。でも私は青の大地が初めてならば、赤の大地など足を踏み入れた事もない場所。
転移魔法の基本は1度行った事がある場所に限られる。勿論地図を使えば、できなくはないけれどそれほど精度の高い地図は存在しない。
『今いる青の大地のミナの社を覚えておいて、後はフミヅキからちょうど転移しやすい場所の情報だけ送ってもらえば簡単だし。なんなら、出口に魔法陣を置いてもらって、そこに繋げるだけでいいんだろ?』
「青の大地って、黄の大地の隣ですよね?」
私が住んでいる緑の大地の隣が黄で、更に隣という事だ。遠い。とてつもなく遠い。
やった事がないので、できるのかどうかさえ分からないレベルの遠さだ。とても簡単に言ってくれるが、なにその無茶ぶり。
『大丈夫、大丈夫。オクトの魔力は年々増えてるから、それぐらないらもつさ。それにオクトは今、無国籍――』
パシンと何か叩かれる音が魔動電話から聞こえ、カンナの声が途切れた。
『今回折角手伝ってくれるのだから、実家までの往復はできるようにしておくわ。カンナちゃんは無茶なこと言わないでちょうだい』
『俺は無理な事なんで言ってないだろ?!』
魔動電話の向こうで口げんかが始まったので、とりあえず、私は通信を一度切った。とりあえず、早めに偽物を捕まえて戻らないと、ミウやミウの店に迷惑がかかってしまう。
「とりあえず、探そうか」
「うん。そうだね。青の大地出身となると、誰なんだろう」
ミウは一生懸命、会員の顔を思い出そうとしているらしく、首をかしげる。
青の大地の出身者は、水属性が多いので、それ系の人の可能性は高いが……と私も考えてみたが、自分では考えても無駄かと、早々に誰かを考えるのは諦める。そもそも私の知り合いはかなり少ないのだ。
ただ、どうやって探すかだけど……。
「オクトちゃん、あっちに人がいっぱいいるみたいだから行ってみよう」
ミウに手を引っ張られて、私は鳥居の外へ向かって小走りで移動した。
鳥居の向こうは階段が続いていて、その下には出店のようなものもみえる。その通りを結構な人が歩いていた。
ただ、階段を上って来る人が1人もいないのは、もしかしたら一般の人は入って来てはいけないという決まりがあるのかもしれない。
「ミウ、ちょっと、早い。それと、このまま堂々と出ていったら、怒られる気が」
しかも私は混ぜモノだし。
色々、この状況不味いでしょうと私はミウに伝える。迫害とか無理。心も折れるけれど、肉体的にも私最弱だよと訴えたい。
ミウは獣人だから石が飛んできても逃げられるけれど、私は石が飛んできたらむしろぶつかりに行ってしまいそうな運の悪さがある。
無理、無理だから。
階段を駆け下りてきた私達に気が付いた人達が、こっちを見て指をさしている。
ほら、ほら、ほら。
こちらを見上げている人達の髪の色は青色だ。逃げたとしてもこの中に紛れ込むことはできないだろう。
5段ほど階段を残したところで、ミウが立ち止ったので、私も立ち止まる。
「神様の使いじゃないか?」
「巫女様?」
「えっ? 巫女様?!」
「ありがたや、ありがたや」
何故か周りから拝まれ始めて、私は固まった。何故拝む。いや、ご利益ないよ。というか、巫女様って何? 青の大地というか、この地域の文化が分からないので、それが何かもわからない。
ただ妙に有難がられ、私の顔が盛大に引きつる。何、この状況。
「あ、あの」
勘違いをとりあえず解かなくてはと思い、声をかけるが何をどう言えばいいのか分からない。
「あれ? ミウちゃん?」
ひぃぃぃぃと私が慌てていると、不意にミウの名前を呼ぶ声が聞こえた。
そちらを見ると、紺の髪のエルフ族らしい女性が居た。
深い紺は黒にも見えるが、太陽の光加減で青だという事が分かる綺麗な色だ。エルフ族らしい丹精な顔は……はて。どこかで見た事があるような、ないような。
「ユーリ先輩! お久しぶりです」
ぺこっとミウが頭を下げたので、私も慌てて頭を下げる。
そして、ユーリ先輩という言葉に、そう言えばと思い出す。確か女性からも絶大な支持を集める、魔法学校の先輩だ。男っぽく、それでいて綺麗で、ユーリ先輩が本当に男だったらよかったのにと思っている人達で、ファンクラブが結成されているとかいないとか。
この辺りはミウから教えてもらった話なので、隣にいるミウの方が良く知っているだろうが、そんな先輩とミウが知り合いだったとは初めて知った。
「ま、まさかその隣にいるのは……」
わなわなとユーリ先輩が震える。
もしかしてユーリ先輩は混ぜモノが駄目な人だろうか。コンユウなど、混ぜモノという事だけで拒否反応が出てしまう人はいる。私はその辺りは爬虫類が苦手とか、蛇が苦手とか、もう根本的な嫌悪感であって仕方がないと割り切っていた。出会った当初のコンユウの様に無駄に突っかかってこなければ別に気にしない。
「……萌っ!」
もえ?
なんだか見た目に反した言葉が聞こえた気が……。しかも鼻のあたりを抑えているが……もしかして鼻血を出している?
私は何が何だか分からない状況に、来て早々家に帰りたいと切に思った。




