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偽物な賢者(3)(主人公オクト視点)

「ミウ、居る?」

 神様たちをカミュに任せ王都へやって来た私は、ミウが働いている薬局に顔を出す。後で押しつけてきたカミュから文句を言われそうだが、さっさとこの問題を解決しないと神様たちも自分の家へ戻ってくれないだろうし、これしかないのだ。


 この薬局は、海賊の嫌がらせや、薬の販売を独占したい商人にも負けず、私の薬を置いてくれる奇特な店だ。実際は私の努力のたまものではなく、魔法薬学部を卒業したミウがこの薬局で、商業の勉強をしながら働いている為、置いてもらえているだけなのだけど。

 ミウは将来自分の薬局を開きたいらしく、今はここで働いて一生懸命お金を貯め勉強していた。

 現在この薬局では、彼女が描いた飲み方のイラストが薬に付いてくるのが評判となり、他の店よりも繁盛している。どうしても識字率があまり高くないこの国では、赤い丸薬は腹痛に効くなどの絵が付いていると、何の薬かが分かりやすくありがたいのだ。


「オクトちゃん、久しぶり!」

 店の奥から出てきたミウは、私の顔を見ると、笑顔で駆け寄ってきた。ウサギ耳がピコピコと揺れ嬉しさがこちらまで伝わってくる。

 昔はウサギ耳が生え、ふわふわのピンクの髪で可愛いという感じだったが、年々可愛いから綺麗へと変わってきていた。最近はミウ目当てで薬屋へ足しげく通う男もいると聞く。それでも揺れ動く耳を見るたびに変わってないなと思う。

「薬の納品はもう少し先だったのに、どうしたの?」

「ちょっと確認したい事があって」

「じゃあ、ちょっと休憩してくるって店主に伝えて来るね。待ってて!」

 今じゃなくてもいいと伝える前にミウは店の奥へ入っていってしまった。相変わらず行動が早い。なんだか申し訳ない事をしてしまったなと思いつつ、待っているとすぐにミウはやって来た。

「お待たせ。奥の休憩室使っていいって言われたよ」

「ありがとう」


 ミウについて、私も薬局の奥に進む。

 途中、店主である老人とすれ違い、頭を下げる。店の奥を使わせてくれるなんて、ミウはかなり店主に気にいられているのだろう。元々明るい性格なので、接客業も性に合っていそうだ。それに比べて自分を思い出し――全然駄目だなと思う。

 今のところは知り合いがフォローしてくれているから何とかなっているが、私は多分誰よりも長生きをしそうだし、それなりに努力しないといけない。もしくは老後の資金を今から積み立てておいた方が良いだろう。ある程度の老後の資金があれば、森の奥で引きこもっていても生活できるだろうし。

「そう言えば、ミウは国に帰らないの?」

 元々ミウは赤の大地出身で、アールベロ国とはかなり離れた場所から来ている。

 魔法学校の寮を使っていたので、しばらくはアールベロ国で働かなくてはいけないが、将来的には戻るのだろうか?

「んー。一度ぐらいは親の顔を見に帰ろうとは思っているけれど、この国に腰を据えるつもりだよ。なんだかんだ言って、やっぱり魔術師には暮らしやすい国だし」

「そうなんだ」

「あっ、オクトちゃん、座って」

 部屋につくと、ミウに椅子をすすめられた。

 特に長話をしに来たわけではないが、折角なので座らせてもらう。


「つまらないものだけど、店の皆で食べて」

「やったっ! オクトちゃんの手作りおやつだよね。ありがとう」

 とりあえず家に作り置きしてあったクッキーを渡すと、ミウは笑顔で受け取ってくれた。本当は何処かのお菓子屋さんで買った方が良いよなとは思うが、知り合い以外の店に顔を出すのは苦手なので申し訳ない限りだ。

「えっと。それで話なんだけど、ミウが学生の頃に私のファンクラブを作ってたと思うんだけど、それは今はどうなっているのかなと。あ、勿論、やって欲しいと言っているわけではなくて――」

 自分で自分のファンクラブについて尋ねるのは、何というか自信過剰っぽくて恥ずかしい。自然消滅したならば、現在の私の偽物達は何が目的なのかを知りたいだけ。別にやっていない事をとがめるつもりはないですよというニュアンスを何とか伝えようと頑張る。

「今でも定期的に会報誌を作ってイベントしてるよ」

 そんなのあったっけとか、自然消滅した的な言葉が返って来るかと思いきや、存続している事が前提な言葉が帰って来て、私は固まった。

「相変わらず凄い人気で、オクトちゃんが幼少の頃の絵とか、かなりプレミアもので、高額取引がされているみたいなんだよね。でもあんまり商業主義に走りたくないと私は思うの。やっぱりファンクラブなんだし、純粋にオクトちゃんの活躍を応援したいんだよね」

「えっと、……ごめん。まだあったの?」

「もちろん」

 いや。もちろんって。


 おかしいぞ。

 確かファンクラブ会長はエストとミウで、エストは現在行方不明扱いになっている。ミウも卒業試験で忙しかっただろうし、私が学生でなくなった以外の理由でも消滅するものだと思っていた。

「大変じゃ……」

「図書館の先々代館長も今の館長も色々手伝ってくれるから、私だけの負担でなくてもすんでるし。会員も昔に比べてかなり増えたから」

「えっ」

「あれ? 言ってなかったっけ。前館長は会員番号3番で、学校で行っていた本の売買関係でトラブルが出た時も助けてもらったんだよ」

 ……マジですか。

 館長は、えっとエストの未来というわけで……エストまた参加してるんだ。もの好きというかなんというか。

「会報誌は、ヘキサ先生も買って下さっているんだよね。会員メンバーは、オクトちゃんの知り合いもいるし教えようか?」

 ミウ以外に知り合いが加入してるんだ……。誰のことか気になるような、気にしたらいけないような。もしも知ったら、地中奥深くに引っ越して、誰にも会わなくてすむ生活をしたくなるような……。


「でも、どうして突然ファンクラブが気になったの? まさか誰か、会員の鉄の掟を破って、オクトちゃんに迷惑をかけたの?!」

 鉄の掟……ははは。

 一体それはどういうものか聞いた方がいいのか、聞かなかった事にした方がいいのか。

 とても反応に困る単語に苦笑するしかない。

「迷惑というか、私の偽物が現れたと知り合いから聞いて」

「偽物?!」

「あ、うん。大地を跨いで広範囲に出没してるらしい。その時、配られているのが、これらしくて」

 私はミナから預かった薄い本をミウに手渡した。

 この本に書かれた可愛らしい絵は、まさしくミウのイラストだと思う。私がこの絵のモデルだとすると、そこには深く大きな溝があり、嘘大げさ紛らわしいが詰まった美化がされていることになるけれど、絵のタッチはミウのもので間違いない。

「なるほど。イベント以外でのコスプレは厳禁と言ったのに、一般人に迷惑をかけてるのね。ましてや、オクトちゃんに迷惑をかけるなんて、言語道断!」

「えっ」

 コスプレ……。

 私のコスプレ……。

 まったく、利点が見当たらない。


「ミウ。コスプレって何?」

 もしかしたら私の聞き間違いかもしれない。もしくは私が知らない意味がそこに隠されているのかもしれない。そんなわずかな希望を持ってミウに聞く。

「えっと、2.5次元的な感じかな? コスプレは【新・ものぐさな賢者】に出て来るキャラクターの恰好をする事なのだけど、きっとやってしまった子達も悪気はなかったと思うんだよね。アールベロ国というか、ウイング魔法学校の近くに住んでいるとイベントも行きやすいけれど、地元に戻ると中々イベント参加もできないし。だから仲間を増やしたくて、活動してるんだと思うの」

 仲間を増やしたくて活動……。それは、確かに布教活動だ。

「地域によっては、そういうイベント活動がまったくない国や大地もあるみたいで、皆嘆いているんだよね。せめて学生時代の仲間と連絡が簡単に取れればいいのだけど、手紙のやり取りも大変なぐらいだし。先輩にも、一度は地元に戻ったけれど、萌が足りなくて結局アールベロ国に戻ってきて就職したって人もいると聞いたよ」

 えっ。戻ってきた原因、そこ?

 いやいや、きっと別の理由もあるけれど、おまけでそういう理由もあるという事だろう。それが主な理由だったら、その先輩は色々考え直した方がいいと思う。

 ……まさかミウがアールベロ国に残るのはそういう理由じゃないよねと聞きたいが、聞くに聞けない。

「えっと、話が合う人がいなくて、さみしくてやっているという事?」

「本人に聞いてみないと分らないけれど、たぶんそういう事だと思うよ」

 まあ、私の話は置いておいて、魔術師のネットワークがない地域は職業的にも立場的にも確かにつらそうだ。黄の大地や赤の大地は獣人が多く、魔法が全く使われない地域もあると聞く。

 地域によっては魔女狩りに近い場所がないとも限らない。

 そうすると、魔術師に優遇された、アールベロ国はとても住みやすい地域となる。


「とりあえず、実際に偽物をやっている人と会う事ができないか聞いてみる」

 私は最近アユムやディノの為に作った魔動電話の子機を鞄から取り出し、自宅へ電話をかけた。

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