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偽物な賢者(2)(主人公オクト視点)

「ししょー、お帰り」

「ただいま」

 家に帰ると、アユムがバタバタと玄関まで出迎えてくれた。

 

 ホンニ帝国に出かけている間に、ヘキサ兄が独断と偏見で私の家を劇的ビフォア―アフターしてしまったのでリビングから玄関までが結構遠い。

 最終的にアユムが独立し、自称弟子であるディノが学校へ行けば、ここに住むのは私だけになる。時折アスタが居候したりするかもしれないが、それでもこの家は広すぎると思う。薬屋も兼用しているとはいえ、色々無駄遣いだ。

 将来的には、小さな小屋をもう一度用意するべきかもしれないと老後?のことを実はこっそり考えていたりもする。将来的には、今度こそ、心配をかけない範囲で引きこもるつもりだ。

「あのね、今ね、カンナ達がきてるの」

「うん。そうらしいね」

 神様を玄関先で追い返せなんて流石にいえないので、招き入れたのは正しい判断だろう。私だって、唯一の血のつながりがある人を無下にするつもりはない。……ただ、普段あまり来ない人物が来ると、面倒事が舞い込んできた気がして、憂鬱なだけで。


「あれ? こっちにも、おきゃくさま? えっと、こんにちは!」

「こんにちは」

 私の後ろの人物に気がついたアユムが挨拶が大きな声で挨拶すると、ミナもしゃがんであいさつをする。アユムは私と違って、順調に対人スキルを伸ばし、愛想もいいので、ミナが可愛いと思って悶えているのが空気でわかった。うん、うん。可愛かろう、うちの子は。

「ちゃんとあいさつができて偉いね」

「えへへ」

 くすぐったそうにアユムは笑って私の方を見上げる。……何て可愛い生き物なんだろう。私の幼少期とは大違いだ。

 よしよしと頭をなぜて私も誉める。

「アユムはいいよな。あいさつしただけで誉められて」

「あら? お兄ちゃんも褒められたかったの?」

「美人の姉ちゃんにならどれだけでも」

 ……ディノもアユムと同じで愛嬌があるよなぁ。

 ぺろっとそう言う歯が浮くようなセリフを言えるディノは今まで私の周りに居るタイプとは違う。私と同じように幼少期は他人から忌避されていたはずだけど、性格は私と180度違うように思う。魔法使いになりたいからとはいえ、よく私についてくる気になったものだ。まあこの情熱だけは認めているので、将来的には誰かに押し付け――もとい、教師に向いている魔術師を紹介してやるべきだろう。


「とりあえず、移動しましょうか」

 玄関先で神様を立たせているのは色々不味い気がして、私は奥へ進む。

「広いな」

「ええ。領主様……兄がとても気前がいいので」

 実のところ、私はこのヘキサ兄の独断と偏見で建てられた屋敷のお金は一銭も出していなかったりする。出すと言ったのだが、義父を預かってもらう上でのお礼だと言われて払わせてくれなかった。……義父を預かるって、ヘキサ兄にとってアスタはどんな立ち位置なのだろう。確かにアスタは子供っぽい所もあるけれど。

「こんにちは。ごめんなさいね、突然押しかけてしまって」

「オクト、やっと来たか。邪魔してるぞ。……ん? なんだ、ミナと、フミヅキも来たのか」

「……ダイジョウブデス」

 ふと、この広い世界に6柱しかいない神様のうち4柱がこの家に居る状況ってどうなんだろうと、チラッと頭に浮かぶが、気にしたら負けだと常識を脳内から追いやる。そうでないと、今すぐ引きこもりたくなりそうだ。

「やあ、オクトさん。遅かったね」

「あれ? カミュも居たんだ」


 神様2柱だけかと思ったが、部屋の中にカミュも居た。

「王族がいた方が、色々神様の規律に触れなくて住むからね」

 拉致されてきたという言葉が今の内容に隠れている気がして私は苦笑した。カミュも思いつきに巻き込まれたんだ。

 可哀想にと思うが、巻き込まれているのは私も同じである。

「別にカミュちゃんが、どんな話をしても何も文句を言わないのなら別にいいのよ」

「謹んで立ち会わせていただきますよ」

 何か弱みでも握られているのだろうか。それとも、それほど私が頼りないのか。

 いや、相手が神様だからカミュも大人しいのかもしれない。きっと、カミュが小さいころからハヅキ様は知って見えるだろうし。どちらにしてもカミュがこれだけ素直なのは珍しい。

「えっと、ミナ様とフミヅキ様も座って下さい」

 私は席を勧め、お茶でも入れて来るかと思ったのと同時に、部屋の扉がノックされる。


「失礼します」

 とてもタイミングよくペルーラがお茶を持って入ってきた。どうやら、アユムが私を呼びに行ってくれている間にお茶の準備をしたらしい。流石過ぎる。

「ペルーラありがとう」

 しかもカップの数はミナとフミヅキの分もある。プロの仕事だ。

 ペルーラがいてくれてとてもありがたいけれど、何だかこのまま甘やかされると、そのうちアスタ並みに家事ができないダメ人間になりそうだ。アスタは貴族だからいいが、私はそうではないので余り甘やかされると困る。

「オクトさんも座ったらどうだい? ペルーラが椅子を折角運び込んでくれたのだし。 ディノとアユムは別の部屋で待っていてくれるかな?」

「了解。 アユム、行こうぜ」

「うん」

「ペルーラは2人の遊び相手になってくれないかな」

「かしこまりました。では、行きましょうか」

 3人が出ていく姿を見ながら、なら私もと言ってしまいたかったが、無言の圧力を感じて諦めた。うん。ですよね。分かってるから、そんな目で見ないで欲しい。


 私は諦めて、一番隅の椅子に座った。

「あの、ご用件は」

「実はさ、最近【ものぐさな賢者】の偽物が出没していてさ」

「は?」

 何を言われるんだと身構えていたが、カンナから言われた言葉に目をパチパチと瞬かせた。【ものぐさな賢者】の偽物?

「えっと、偽物ですか?」

「そうなのよ。緑の大地だけではなくて、カンナちゃんの黄の大地でも」

「あ、それ、私も」

「ミナちゃんもなの?」

 ミナが手を上げる。

「青の大地と、後赤の大地でも【ものぐさな賢者】と名乗る人が現れて。カンナからオクトさんの事は聞いていたし、今回教えてあげようかと思って来たの。あっ。もちろん緑の大地に来る申請はちょっと遅れたけど、出してあるから」

 そう言えば2人は水の神と火の神と言っていたっけ。地域と言っていたので、アールベロ国内のどこか又は、緑の大地内の話かと思っていたが、規模が予想以上に大きい。

 というか――。

「【ものぐさな賢者】を名乗る利点がないような」

 これで【死色の賢者】だったら、怖がられそうだが、なんといっても【ものぐさ】だ。まったくもって、威厳もなにもない。

 むしろ私としては、それほど名乗りたいのなら、早々に譲ってしまいたいような名前だ。むしろそっちが本物で構わない。

「オクトさん……顔に、そっちが本物でもいいのにと書いてあるよ」

「えっ」

 いや、思ったけど。

 直接書かれているわけではないとは分かっているが、ゴシゴシと顔を擦る。私はどちらかと言うと表情が豊かな方ではないのに、流石カミュだ。


「あ、その。【ものぐさな賢者】を名乗っている方は何をしているんですか?」

 私が有名なのは、薬や魔法といった所だろうか。

 確かに【ものぐさな賢者】と名乗って、偽薬を作って法外な値段をもらったり、魔法で悪い事をされて私にしっぺ返しがくるのは困る。

 ただ犯人が【ものぐさな賢者】という名前を知っているとなると、アールベロ国に元々いた人物という事だろう。わざわざ混ぜモノのふりをするなんて変わっているというか……。

 とりあえず、各地で現れる【ものぐさな賢者】は同一人物なのか、どうなのか。

「布教活動」

「は?」

「確かに。私もそれが一番あっていると思うかな。【ものぐさな賢者】の名前でいい事をした後に、この本を配っているから」

 フミヅキの予想もしていなかった単語に、一瞬何を言われたか私は分からなかったが、ミナは違ったらようだ。その言葉を肯定すると、私に本を差し出す。

 表紙には龍玉語で【新・ものぐさな賢者】と書かれていた。

 【ものぐさな賢者】と言えば、古典で存在し、【混ぜモノさん】の原書にもなった話だ。その為、その話とは別の話という事を指したくての【新】だとは思うが……。なんだろう。この手の本に見覚えがある気がする。


 ぱらっとめくって……状況が大体呑み込めた。

「謎は全て解けました」

 版画で刷られたらしい、可愛らしい挿絵が付いたそれに、その本が何なのかを一瞬で理解した。このイラストには覚えがある。というか、最初は手書きだったはずなのに、いつの間に版画なんて方法をとるようになったのだろう。

「ああ。これね」

 カミュも私が受け取った本を覗き込んで、納得する。……いや、納得したという事はカミュもこの本を見た事があるという事だろうか。

 その事にぎょっとするが、いや、まあ、カミュなら知っていてもおかしくはないかと、納得もする。

「とりあえず、出所に聞いてみます」

 まさか、まだ存在していたんだ。

 私が学校を卒業して、結構経ったし、と言うか途中で授業もまともに出席できなくなって自然消滅したとばかり思っていた。


 オクトファンクラブ。


 私の黒歴史はまだ続いていたらしい。 

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