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偽物な賢者(1)(主人公オクト視点)

 この話は主人公視点で、本編終了後の話となります。

「すみません、こちらに【ものぐさな賢者】が住んでみえると聞いたのですが」


 人々が魔の森と呼ぶそんな場所の麓で、薬草摘みしていた私は声をかけてきた人にこう答えた。

「さあ」

 私の名前は、オクト・ノエル。そんな面白おかしな中二病を患ったのか、ただ単に変人なのか良く分からない名前ではない。

「そうなのね。あなたは、お母さんのお手伝いをしているの?」

 大きめの帽子を深めにかぶり、うつむいていたので、私が【混ぜもの】だとは気が付いていないらしい。親しげに声をかけてきたのでどうしようかと考える。

「いえ……仕事で」

「ごめんなさい。もう働いていたのね」

「大変だな。小さいのに」

 小さいだろうか。

 確かに私の身長は、かなり低い。今後成長期が来るのだと信じたくなるような背丈だ。でも幼児期からは脱却はしている。これぐらいなら、働いていたって別におかしくはないと思う。


 最近気がついたのだが、どうやら私の体の成長はエルフ寄りのようだ。エルフにしては少し早めではあるが、これは獣人の血が少し早めてくれているのかもしれないし、精霊族のように精神に合わせての成長をしているのかもしれない。それでいくと、私の精神年齢は小学校高学年ぐらい――ということになってしまうが……このあたりは確認のしようがない。

 ただ【混ぜもの】は魔力が大きく暴走を起こしやすいと嫌われるぐらいなので、血筋というよりは、ただ単に魔力が大きいから成長が遅いというのが正解なのかもしれない。どちらにしろ、最近どんどん成長が遅くなっている気がするので、変わった成長には違いないだろう。

「えっと。それで、その【ものぐさな賢者】に何かご用ですか?」

 知らないと言ったのでさっさと立ち去ってくれればいいのに、2人組の足がその場から動く事がないため、私は諦めて質問する。

 対人スキルが低値でも、昔よりは鍛えられてきているので、私だってやればできる……はずだ。何となく、誰かが無理無理と言っている気がしたが、いやいや。気のせいだ。私だって、きっと無難なコメント選択を行って、最後まで私が誰か気が付かせずに追い返せるはずだ。


「最近私が住んでいる地域やフミヅキが住んでいる地方で【ものぐさな賢者】はとても有名だから、ちょっと本人を見てみたいと思ったの。それと色々気になる事があるから教えてあげようかと思って」

 ……地域と言ったという事は、王都ではないのか。

 変な噂が広がり続けている現実に、ずどんと落ち込む。カミュの噂は適切に消えていくのに、どうして【ものぐさな賢者】の噂は消えないのだろう。有名人度はカミュの方が絶対上なのに。

「というわけだ。だから、【ものぐさな賢者】に会わせろ」

 薬草を掴んでいた腕を男の方に掴まれて、ビクッとする。

 これは……転移魔法て逃げるべきか。しかし、アユム達を家に残して逃げるのも心配だ。

「やめなさい。鉄面皮がいきなり手を掴んだら怖がるでしょうが」

 パシッと音がするので、頭か背中辺りを女の方が叩いたようだ。私は自分の顔を見られないようにする為に、あえて顔を上げてないので、この2人がどんな顔をしているのかも確認していない。なので鉄面皮なのかどうかは分からないが、驚いたには驚いた。

「ごめんなさい、驚かせて」

「いえ」

「口下手だから、どうしても手が出るのが早くて」

 口下手の部分に共感はするが、私は余り手を出すことは少ない。というか、手も足も口も出したくなかった。できることなら面倒な事には関わらず引きこもっていたいタイプだ。

「ただハヅキさんの住む場所で薬草を摘んでいるなら、もしかしたら知り合いかなと。確か、【ものぐさな賢者】には弟子がいるとか」


 弟子……弟子……。

 嫌な単語に、脳みそが拒絶反応をして、意識が遠ざかりそうになる。

「先生! お客様来てるよ!」

 ほら、噂すると影じゃないか。

 私は自称私の弟子の声に頭を抱えたい気持ちになる。……やっぱり逃げよう。しかし、家の方に客が来ているならば、家に引きこもる事は出来ない。となるとここは別の場所に――。

「あっ」

 いきなり、私の帽子をとられて、私は顔を上げてしまう。きっと私の顔の痣もばっちりと見えただろう。

 ……まあ、今更だけど。自称弟子が出てきた時点で、たぶん私が【ものぐさな賢者】と他称されている人物だという事に、目の前の男女も気が付いていた気がする。

 目の前にいるのは、黒髪に赤い瞳の褐色の肌をした男と、紺色の髪に紫色の瞳をした女だった。黒髪に赤い瞳は自分の元義父と同じ色だが耳の形は人族のものなので魔族ではない。自分も人の事は言えないが、この2名、カラフルな彩色だなと思う。

 ただあまり見かけない色合いの外見なので、下手すると出身大地も緑の大地ではないのかもしれない。

「あれ? 先生、こっちでもお客の対応中だったんだ?」

「……前々から言っているが、私は先生ではない」

 以前、ホンニ帝国で関わった事件で色々あり、この少年を魔法学校に入学させる為に一時的に私の家に連れてきたが、彼の先生になる事を承諾した覚えはない。

 しかしこの少年は、図太い神経の持ち主だったようで、どれだけ否定しようとも私の事を先生と呼び続ける。私のレベルで先生とか、恥ずかしいから止めて欲しい。

 先生と呼ばれるたびに、周りから嘲りの笑いが聞こえてくるようなそんな被害妄想が湧いてくる。うん。これはきっとうつ病だ。お家に引きこもって、ボッチを満喫しなければ――。


「はいはい。それで家の方に見えているお客は、師匠の叔母と地主だと言われるんだけど、どうしたらいい?」

 叔母と地主……ポンと頭に浮かぶ人達に対して、そんな軽々しく人の前に現れていいのだろうかと思う。詳しくは分からないが、確か神様は、王族にしか会ってはいけないとかなんとか、あった気がする。

 私がハヅキ様の愛児となり、私の屋敷がハヅキ様の領地となった事から、ある程度私に会いに来る為の条件は緩められたとか聞いたけれど……いいのだろうか。

 いや、まあ。私の叔母の方は、食道楽に走り、ちらほら町中に出没しているという噂もあるので、余り考えてはいけない事なのかもしれない。神話はファンタジーだと思えと昔言われたこともある。

「えっ。叔母という事は、カンナも来てるのかぁ。タイミングがいいというか、悪いというか……」

 ……まさか、知り合い?!

 ふと、そう言えば、サラッと先ほどハヅキ様の名前も女性の口から出ていた気がする。ハヅキ様がこの森に住んでいる事を知っているのは、王族ぐらいのはずなのに。

「でもちょうどいいかも。私達もお邪魔させてもらえないかな? 小さな賢者様?」

「……知らない人を連れてきてはいけないと言われてまして」

 主に、心配性の元義父と、私が歩くと厄介事に当たると信じている友人辺りから。

 しかし、この2人の正体が薄々分かってきた今、いきなりとんずらすると、天罰が当たるのではないかとも思ってしまう。

 というか、世の中の神様は暇なのだろうか。

 世界は広いのに、どうしてこんな辺境めいた場所に集まるのだろう。ここは観光名所ではないので、そんないいものはないと思う。集まるなら、もっと観光地に行って欲しい。


「私の名前はミナ。今は水の神をしてるよ。こっちはフミヅキで、火の神よ。住所も伝えた方が良い? 怪しいものではないのだけど」

 まさかその自己紹介で知り合いですと言いたいのだろうか。言いたいんですね、分かります。

 私は逃走後を考え、……逃げるという選択を諦める。誰だってわが身は可愛いモノだ。

「いえ。結構です」

 住所まで教えられて、今度遊びに来てねと言われない為に、私は早々に白旗を振り、さっさと家に案内する事にした。

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