終わりな始まり【ブログ転載】(コンユウ視点)
コンユウ視点で、本編でオクトの元へ大量の手紙が届いた時のコンユウ側の話です。
時間的には、本編終了時より、はるか未来の話で、意地っ張りな少年の懺悔、些細な嫌がらせの話の後の話となります。
「うん。なんとか無事手紙は過去に届けられたみたい」
そう言ってオクトは大きなあくびをした。神秘的な紫色の瞳はとろんとしており、あくびによる生理的な涙で潤んでいた。
「じゃあ、そういうわけで、お休み」
「お休みじゃねぇ!」
俺はそのまま、ぐうっと惰眠をむさぼり始めそうなオクトの肩を掴むと肩を揺すった。俺が死ぬ思いをしながら、時を渡り歩き、ようやく目を開いたオクトに会えたと思ったのにこの仕打ち。
最後に見た時よりもずっと成長しているけれど、相変わらずこの女、最悪だ。
「ヒトに何百枚も手紙を書かせやがって、それなのに何のいたわりの言葉もなく寝るだと?!」
「コンユウ、気持ち悪っ……うぷっ」
ぐわんぐわんと俺が肩を揺すったことで、オクトは寝るのを諦めたようだ。気だるそうな顔で目を開ける。
実際眠いのだろうけど、俺だって大変だったのだからお互い様だ。
「……いたわれって言われても、手紙に関しては最初に説明したはず。私はまだ時の干渉に慣れていないから、確実に届けるには数打つしかないと」
時の神になったオクト曰く、【下手な鉄砲数うちゃ当たる】作戦らしい。
俺は時の神となり、眠り続けているオクトを無理やり起こすことに成功したところで、オクトが神になる分岐点に俺を飛ばす事を提案した。
しかしオクトは、それは無理だといい、代わりに手紙を届けるぐらいならばと代案をだしてきたのだ。ただしそれすら、過去の自分を受信機代わりにするから失敗する可能性も高いと言った上、山ほど手紙を書かされ、現在にいたる。
「それはよく分かった。なら何で、オクトは時の神のままなんだ」
手紙に関しては俺も納得した事。だから本当に気になっているのは、それではない。
俺が過去のオクトに送った手紙は、すべてオクトに時の神になるなと伝える為のものだった。
はるか昔、混融湖にオクトを落とそうとして失敗した俺は、逆に自分が混融湖に落ちてしまい、未来へ飛ばされた。もちろん俺が混融湖に落ちたのは自業自得で誰かを恨んだりする気は全くない。
唯一後悔があるとしたら、エストを巻き込んでしまった事ぐらいだ。
しかし未来へ流れ着いた先で見たものは、時の神になるために長い眠りについたオクトだった。オクトは世界を守るために眠りについたとされ、死んだように静かに横たわっていた。
公爵を引退し、年老いたカミュエル先輩がそんなオクトを守っていて、俺は彼からそんな事情を聞かされた。そしてそんな未来がこない為に、俺は時をめぐる事を決意したのだ。きっとこれは俺がアスタリスク魔術師を殺してしまい、エストを巻き込んでしまったからと考えて。
「何でアンタは、貧乏くじを自分から引こうとするんだ?!」
オクトがあまり物事に執着できない性質だというのは知っている。また自分自身を好きになれずにいた事も知っていた。
何が起こっても、流される。例えそれが自分が不幸になる事でも。
「あー、たぶんその選択が一番楽だから――」
「楽?ああ、楽だろうな。アンタはずっと寝ていればいいだけなんだからなっ!」
オクトの中で一番めんどくさいと思っている事は、人づきあいだ。だからよく考えず、さっさと分かりやすい神になるとかいう結論を出してその他を丸投げしたに違いない。
周りがどう思うかなんて、考える事すらしないで。 自分がどれだけヒトに影響を与えているかも分からない馬鹿だから。
「……寝起きに騒がれると、頭が痛いんだけど」
「ここでそういう発言ができるオクトに、俺は頭が痛いけどな」
どうせ、説明が面倒だなぁとか思っているに違いない。後世にまで知れ渡っていた【ものぐさな賢者】という二つ名は伊達じゃないと改めて実感する。
「別に、まったく時間が変わっていないわけじゃない。コンユウの手紙を送り届けた場所からこの時間までが結構離れているから反映に時間がかかっているだけ」
「なら、神じゃなくなるのか?」
「いや。神になるに決まっている」
「って、おい」
ここまでやらせておいて、俺が変えたかった未来が変わらないと本人に否定されるとは思わなかった。シレッと言われると、イラッとくる。
俺がどんな思いで、この時間にやってきたと思っているんだ。
「確かに最初の私は、親しいヒトを置き去りにして神になったから、未練がないわけじゃない。けれど神になった事を後悔もしていないから」
そう言ってオクトは淡く笑った。
「私は、たぶん私が思っている以上に、友人たちが好きなんだと思う」
「でも、もう誰もいないだろ」
「うん。そうなんだけど。実は眠っていても、面白い事に意識はあってさ。だから大切なヒト達の子孫が何人もいて、この時間にずっと繋がっているのも知っている。だから彼らが生きていた証があるこの世界が続くようにできる立場というのは、悪い話ばかりじゃない」
ああ。なんだか、変わったな。
ものぐさな事には変わりがないけれど、俺が知っているオクトよりもずっと柔らかくなった。不幸ではなさそうな様子に、俺は少しだけほっとする。
「ん?そう言えば意識があったって?」
「肉体は寝てしまっているから起き上がれないけれど、ずっと意識はあった。だから魔法で人形を動かして皆と話したりしてたから、時代の流れにはついていけてるかと」
「はぁ?!」
「もちろんたまには精神を休ませなければだから、本当に眠っていたりもしたけれど。精霊族の血筋のおかげか幽体離脱みたいな事が出来て、その時に人形を使って話す方法を他の神に教えてもらったから。さほど不便もなかったし……コンユウ?」
あれ?
オクトは、覚めない眠りについていたんじゃ。
いや、待て。確かに肉体は眠り続けているのだから、間違いじゃない。果たして、俺はどうしてオクトが死んだように眠り続けていると思いこんだんだろうか――。
「あんの、腹黒王子っ!!」
「は?何?」
俺はよぼよぼで、耄碌したっぽいカミュエル先輩にオクトの現状を聞いたんだった。まさか俺がオクトに声をかけた時は、普通に熟睡していただけだなんて、誰が気が付けるだろう。
何がよぼよぼだ。まったく耄碌なんてしていない。あの男、何もあきらめちゃいない。
「ちなみに、俺が手紙を送った事で何が変わったんだ?」
「あー、たぶん私が神になるタイミングが遅くなっただけかと」
やっぱりそうだ。
カミュエル先輩は人形と話すだけじゃなくて、普通にオクトと話せないかなぁとか思って、俺という存在を上手く利用したのだ。
やられた。
本気でやられた。
「コンユウ?」
「もういいっ!疲れたから、俺もここで寝る」
「な、何が?!えっ、ちょ。何勝手に結論出して。いや、色々不味いから。精霊に一緒に寝ている姿を見られたりしたら、何を勘違いされるかっ?!」
勝手にあわててろ。
確かにもう子供ではない、男と女が同じ部屋で寝ているのは色々おかしな勘違いをされそうだ。でも勘違いすればいい。
何年俺がオクトを想っていたと思うんだ。その形には、友情とも愛情とも名前をつけていないけれど、大切で大事なことには変わりない。
だから、ライバルの居ない世界で、俺はのんびりとオクトと時間を過ごさせてもらう。その間にいつか何か答えも出るだろう。
そう思い、俺はそのまま不貞寝した。……目を覚ました時、またオクトに会えると分かったから。
以上、本編終了後のあたかもしれない未来の話でした。
コンユウはライバルがいないとたかを括っていますが、そんなはずがないというのがこの世界のお約束です。予想では、精霊やカミュの子孫辺りが、ひたすら邪魔をします。
またコンユウは成長していますが、やっぱり持病のツンデレが治っていないので、ツンデレ萌え属性のないオクトとの進展はない気が……(笑)
いつも通りの軽口的な言い合いを永遠としていそうです。これもある意味幸せかもしれませんが。




