病弱な少年からの手紙 【5/1】(オクトの弟子視点)
この話は、ものぐさな賢者のずっと先の話です。ただし内容は、とある病弱少年からオクトへ宛てられた手紙(3P)となります。
手紙の内容は、幼少編と学生編の間になります。
ある日ボクは、師匠の部屋を掃除中に古い手紙を見つけた。
日に焼け黄ばんだ封筒は、本棚の後ろに隠れるように置いてあった。ちなみに一通だけではなく何通もだ。差出人は同じなので、たぶん文通をしていたのだろう。
「って、文通?!」
自分で考えた言葉が信じられず、ボクは叫んでしまった。そして慌てて口を手でふさぐ。しばらく聞き耳を立てたが、師匠が部屋に入ってくる様子はなかったので、ホッと肩の力を抜いた。
それにしても、あのズボラで、面倒くさがりで、引きこもりな師匠が手紙?謎すぎる。
師匠は女性とは思えないほど悲惨なものぐさだが、知り合いは多い。もしかしたらその知り合いの誰かかも。でも師匠が文通する相手って誰だろう。
……気になる。
「バレなきゃいいよね」
ボクはそっと手紙を開いた。
『こんにちは。混ぜモノさん。お元気ですか?僕は元気です。
僕は今、フラム伯爵のところにお世話になっています。フラム伯爵はとてもいい方で、僕の事を本当の息子のようにあつかってくれます。ライお兄ちゃんも、とてもやさしくて、いつも遊んでくれます。だからとても楽しいです。これで楽しくないと言ったらバチが当たってしまいます。
でも少しだけ、姉上に会えないのがさみしいです。あんなに怖かったのに、変だよね――です。
ライお兄ちゃんは、僕がいい子にしていたら、会えると言っていました。ただ本当に会いたいのかよく分からないです。
話は変わって、最近ほとんど病気にならなくなりました。ライお兄ちゃんに、オクトから病気の治し方を教えてもらったと聞きました。やっぱり、オクトは混ぜモノさんなんだね――ですね。ありがとうございます。もう少し体力がついたら、ぶじゅつくんれんというものをやるそうです。楽しいといいな。
また手紙を書くので、オクトも書いて下さい。さようなら。』
『敬語を使わなくてもいいと書いてくれたので、敬語は止めるね。実は苦手なんだ。姉上は敬語を使えないとろくな大人にならないと言っていたから、本当はダメなんだけどね。そうそう。オクトは文字を書くのが苦手と書いてあったけど、ちゃんと読めたから大丈夫だよ。オクトも勉強を頑張ってるんだね。
僕は最近武術訓練を始めたよ。おかげて毎日体中が痛いかな。師匠が容赦ないから。オクトは魔法を勉強中なんだよね。アロッロ子爵はきびしい?僕の師匠は凄くきびしいよ。嘘ついたら怒るし、礼儀とかうるさいし、無茶苦茶な修業ばかりさせるんだ。でもね、頑張った後は師匠に褒めてもらえるんだよ。
それからね、ライお兄ちゃんがこの間、剣をくれたんだ。もっと上手になったら使っていいんだって。凄くかっこいいんだよ。
今度オクトにも見せたいなぁ。じゃあまたね。
字とか気にしなくていいから、早く書いてよ。待ってるから。絶対だよ!』
◇◆◇◆◇
どうやら手紙は師匠が幼いころに文通したものらしい。
……でも師匠の小さいころって、あまり想像ができないんだよなぁ。文通をするほどのマメさがあった事すら驚きなのだ。生まれた時から今のままと言われても納得できてしまいそう。
「でも、どんな子供だったんだろう……」
カザルズ魔術師と師匠は、魔法学校で最短で卒業した事で有名だと、以前師匠の友人というヒトに教えてもらった。あまり師匠は自分の事を話さないから、ボクは師匠の過去をよく知らない。
「これはきっと、もっと読めという事だよね。技術は盗め。分からない事は調べろって師匠よく言うし」
ただし時間もないので、順番に読まずに、ボクは適当に手紙を引っ張りだした。
『オクトは本当にアロッロ子爵の事が大好きなんだね。ああ、否定しなくてもいいよ。この間いいわけで手紙の大半が埋まってたから。
でもさ勉強したまま寝ちゃった時は子爵と一緒に昼寝したりするんでしょ?僕は小さいころはよく姉上と一緒に寝たけど、大きくなってからは一人でベッドで寝ているよ。好きじゃないと一緒には寝れないと思うんだ。
あ、でもオクトぐらいの時はまだ姉上と一緒だったかも。オクトが進んで一緒に寝ていないなら、この場合は子爵がオクトの事が好きなのかな?でも僕も負けないぐらいオクトの事が好きだよ。
だってオクトは僕の命の恩人だし、混ぜモノさんだもんね。もし一緒にお泊りできたら、一緒のベッドで寝て、いっぱいお話しようよ。オクトも一人部屋なんでしょ?だとしたらこっそり夜更かしもできるね。』
『返事が遅くなってごめんね。この間、姉上に会ってきたんだ。姉上の髪、凄く短くなっていた。綺麗な髪だったから勿体ないって言ったら、姉上はさっぱりしたと言って笑ってたんだ。おかしいよね。
それから、姉上がした事も聞いたよ。
あれからずっと僕はその事を考えていたんだ。まだ頭の中がぐちゃぐちゃで整理はついていないけれどね。でも納得はした。どうして一緒に居られないんだろうって思ってたし、冷たい目を向けられる事があったから。
でもライさんやフラム伯爵が僕を守ってくれてたから、聞くまでは全然知らなかった。オクトも姉上の事知ってたけど、僕の事を守るために何も言わなかったんだよね。ありがとう。
そしてごめんなさい。姉上からオクトを連れ去った事聞いたよ。本当にごめん。本当はオクトは僕と文通したくなかったのかもしれないけれど、僕はオクトと文通できて嬉しかったんだ。
ずっと家に閉じ込められる事はなくなったけれど、外出は許されていないから。僕の友達はオクトだけで――本当は友達じゃないかもしれないけれど。でも僕は、本当にオクトが好きだから、友達になって欲しいんだ。
こんなことを書いて困らせてしまったらごめん。
まだどうしたらいいか分からないけれど、僕は姉上と一緒に罪を償おうと思う。』
◇◆◇◆◇
『手紙、ありがとう。凄くうれしかった。
僕は大丈夫。ライさんやフラム伯爵がいるし、師匠もいるから。オクトは凄く優しいね。
色々考えたけれど、僕は混ぜモノさんやオクトみたいにになりたいと思う。傷つけたヒトよりももっと多くのヒトを助けられたら、それが償いなると思うんだ。もちろん罪が消える事はないって分かってるけどね――。
――また手紙書くね。親愛なるオクトへ。エストより』
……読んではいけないものを読んでしまった気がして、ボクは慌てて手紙を元の位置に戻した。
まだまだ手紙は続いているので、この後も師匠は手紙のやりとりをしたのだろう。でもこの先を読むのは、師匠というより、エストさんに悪い気がした。
なんとなく、エストさんの気持ちが友達ではないベクトルに進んでもおかしくないと思えたからだ。
これはただのボクのカンだから、もしかしたらこの後の手紙も、文通友達な内容かもしれない。でもなぁ。師匠は天然タラシな部分があるしな。
それに例えエストさんの気持ちのベクトルが変わったとしても、師匠の総スルーも想像できる。それはそれで、やっぱり手紙を読むのはエストさんに悪い。
「師匠、こういう事に関しては鈍いからなぁ……」
わざと鈍く見せかけているのか、本当に鈍いのかは判断に迷うけれど。
「掃除終わった?」
「--ひゃほうっ!」
「……何やってるんだ?」
突然扉が開いて、ボクは変な声を出してしまった。師匠は挙動不審なボクをみても、いつもの事と思ったらしい。呆れたようなため息をついた。
って、いつもの事って、酷い。ボクだって、いつも変な声を出しているわけじゃないのに。
「ご飯できたから、適当なところで止めて来て」
「はーい」
このネタは、今度薬屋の姉ちゃんに話してみよう。あの人師匠のファンクラブに入ってるし、エストさんについて何か知っているかも。
ボクは師匠の手料理を食べる為、外へ出た。
以上、エスト君からオクトへの手紙でした。
ちなみこの後、エスト君のオクトへの気持ちは斜め上に進化し、最終的にファンクラブ創設者となった事をオクトの弟子は知ります。
そして弟子は何がどうしてそうなったのか、もんもんと考えるはめになったりします。