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意地っ張りな少年の懺悔(6)(コンユウ視点)

「……合法ロリ?」

 なんだそれ?

 聞いた事のない単語だが、常磐がこれほどまでに自信満々な態度で言うのだから、凄い単語ではあるのだろう。

「そう。大人でもあり、子供でもある、過去と未来が混在した存在じゃ。既に滅んでしまった古代文明で使われておった単語なのじゃ」

「古代文明……」

 さすが時の精霊を名乗るだけある。古代文明とか、俺の想像を超えている。


「とはいっても、わらわも教えてもらった側じゃがな。それで、お主はわらわに何の用じゃ。できれば聞きたくないから、何も語らず帰ってくれるのが一番なんじゃがのう」

「聞きたくないって……時の精霊だから、俺の未来も見えるのか?」

 時を司り、古代文明の言葉すら操る存在だ。未来の事を知っていてもおかしくはない。何の用じゃと言いつつ、聞きたくないという事は、俺が何を言おうとしているのか分かっているのだろう。

「未来ではなく、限りなく可能性が高い未来を予想できるだけじゃ。時は変動するもの。だからわらわ達は、時の流れが壊れてしまわぬように管理しておる。じゃから、お主が何を言おうとしているかを予測することはできるが、それが絶対とは言えないんじゃよ」

 時は変わる。

 常磐の言葉に俺はドキリとする。変えたい【時】があるならば、それを覆す事もできるという意味だから。

 でも常磐が言う【時】は未来を指し、現在でそれを選択できるいう意味だろう。時の流れは必ず、過去から現在、未来なのだ。この先の未来は定まってはいないが、過去は定まってしまっている。

 もしもオクトが神にならないという選択をしたいなら、エストを巻き込まないという選択ができるとするならば、それは現在ではなく、さらに前の過去でしかない。

 

「時の神がいなくなってからは、時の流れはより不安定になっておるしのう」

「不安定ってどういう意味だい?オクトさんでは駄目だったという意味かい?」

 常磐の言葉にカミュエル先輩が俺より先にすかさず聞いた。でも、カミュエル先輩の言う通りだ。オクトが自分を犠牲にして時の神となったにも関わらず安定しないでは、一体オクトは何のために犠牲になったのか。

「厳密にいえば、まだオクトは神ではないからのう。混融湖が消え、女神の力がオクトの中にすべて吸収されぬ限り、あの中の時は過去と現在と未来が融け混ざりあっているからのう」

「……どういう意味だ?」

 常磐の言葉は抽象的すぎて理解を超えていた。過去と現在と未来が融け混ざるとか、意味が分からない。だって、過去と未来は混ざるはずがないものではないだろうか。

 でも俺が知りたい話にとても近い気がして、俺は流すのではなく、その意味を尋ねた。

「何を言っておるんじゃ。コンユウはすでに体験しておるじゃろうが」

「体験?」

「混融湖の中に時の秩序はなかったじゃろうが」

 混融湖に……秩序はない?


 その言葉に、俺は雷に打たれたような衝撃を覚える。そうだ。確かに俺は、時の流れを無視してここにいる。初めて混融湖に落ちた時は100年後、さらに落ちてもう100年。もしも混融湖に落ちずにいたならば、俺はもっと年を取っていたはず。

「混融湖の中は未来につながっているからか?」

「いや。混融湖に融けているのは未来ではなく、あらゆる時間じゃ。じゃからたまにおかしなことになる。本来は繋がるはずのない違う時間のできごとが繋がってしまう事もあるのでのう。多少の変化はまだいいが、大きく時の流れが変われば調整するのが大変じゃ。本当に嫌になるのう」

 違う時間に繋がる。

 それは未来とは限らず、過去の可能性もあって。そして過去が変われば未来も変わる――まだ変えられる。

 この現実を【今】変えられないならば、【過去】で変えればいい。

「すみません。カミュエル先輩、オクトがこれまで何をしてきたか教えて下さい」






◇◆◇◆◇◆◇







「……何やってんだアイツ」

 カミュエル先輩から、彼が知っているだけのオクトの人生を聞いた。

 さらにものぐさな賢者について書かれた本を、片っ端からすべて読んだ。そして読んでいくうちに分かったのは、アイツのお人よしは、神として眠りにつくまで変わらなかったということ。アイツはヒトから逃げて、でも逃げきれずに、結局おとぎ話の魔法使いのように他人を幸せにする。

 ただし偽善者のように積極的に他人の為に尽くそうとするのではない。書いてはいないが、オクトの事だ。絶対他人の為ではなく自分の為とか大真面目に思って行動していたに違いない。

「馬鹿だろ」

 いや。そもそも、自分の殺そうとした相手、しかも自分の育ての親を殺した相手に対して、償いをしようとするとか、卑屈すぎて意味が分からないレベルだ。オクトが歩んだ人生を客観的にみると、怒れてくるやらあきれるやらだ。

 しかし今文句を言ったって、眠りについてしまっているオクトには通じない。こうなったら目を覚ましたオクトに文句を言ってやるしかない。


 そしてオクトの人生を調べているうちに、俺はもう一つ気が付いた事があった。

「館長は何者だ?」

 オクトと同じように、【賢者】と呼ばれていたヒトで、俺と同じ時属性の持ち主だ。時属性を持っているならば混融湖に一度は落ちた事があるという事。俺みたいな例があるのであり得ない話ではない。

 でも気になってしまうのは、上手く言葉で表せないもやもやがある所為だ。

 館長が図書館をつくり、中立を掲げ、俺やオクトを呼び寄せ、俺らを後任者として指名した。

 たまたまですべてが偶然と言われればそうかもしれない。そうかもしれないが、俺の勘がそれだけではないと訴えている……気がする。

「いや、だって。偶然だとしても――」

 館長の行動はまるで俺やオクトを待っていたかのようなのだ。

 でもなぜ俺らを待っていたのか。もしも待っていなかったとしても、館長は何がしたかったのか。中立の立場を作ったのは何故なのか。

 人生をかけて作った場所を、俺とオクトに託そうとしていたのは何故なのか。


 その何故が、すべての答えな気がして、俺は館長についても調べ始めた。


 そして色々調べていくうちに、俺は一つの結論に達した。

「なあ。アンタはもしかしてエストか?」

 カミュエル先輩の伝手で中に入らせてもらったウイング魔法学校の図書館で、俺は気が付いた真実を呟いた。

 エストが好きだった【混ぜモノさん】の著者が館長だった。もちろんそれだけで、館長=エストなんてつなげてはいけないだろう。でも館長の行動のいくつかは、まるでオクトを守るためのようにも見えた。

 またエストは歴史も好きで色々な戦記を読んでいた。どんな戦争でも先を読み、国の為にその力を振るったという館長。そんな館長の代わりを、エストならば引き継ぐことも可能だ。エストだったら、戦が起こるたびに、その結末がどうなるかなどをすべて知っていたに違いない。

 そして一番気になるのは、【混ぜモノさん】の内容。

 【混ぜモノさん】の内容は色々ぼやかしてあるが、まるでオクトが歩んだ経歴のようだった。混ぜモノが面倒だと言いながらも人助けをする話。主人公の性別は書かれていないが、男装した少女だろうというのが通説。そしてものぐさな賢者について書かれた書物にも、オクトがものぐさな賢者と呼ばれていたころは、白衣とズボンという男のような服ばかりを着ていたと記載されている。

 そんな【混ぜモノさん】の原書とされるのが【ものぐさな賢者】と題された古典。その題名は、オクトが呼ばれた2つ名と同じもの。オクトの2つ名はこの古典からとられたのではないかとも言われているが……これらは偶然だろうか?

 

「一体、どれが始まりなんだ?」

 オクトが歩んだ、ものぐさな賢者の人生が始まりなのか。それとも【混ぜモノさん】が先なのか。【混ぜモノさん】はオクトが生まれるより前に生まれた書物で、さらに【ものぐさな賢者】はそれよりも前とされる。

 でも内容は未来であるオクトの事。

 まるで過去と未来と現在の流れがおかしくなっているかのようだ。そしてそれは、常磐が言った、混融湖の話に似ていた。

「エストも、この運命を変えたいと思っていたのか?」

 館長がエストだったとすると、彼が変えようとしていたのは、混融湖での事件か。自分の近くに俺やオクトを置いて、流れを変えようとした。

 ……とはいえ、それは予想に過ぎず、実際に知っているのは館長だけだ。だとしたら、俺は館長に会うしかない。

 彼が誰だったとしても、オクトの為に動いていたのには変わりない。


「なあ。女神様たまには俺に微笑んでくれよ」

 俺は女神が作り出した混融湖で2度もすべてを失った。

 だからその中の1つでも取り戻すために動くのだ。ある意味ギャンブルな方法で。

「アンタも大切なヒトに会いたかったんだろ?」

 運命を捻じ曲げきる事が出来ず、ずっと大切なヒトを眺めるだけの混融湖を作り出した女神様。だからきっと、強く大切なヒトを思い続ければ、共感して運命を変えられる場所へ連れて行ってくれるかもしれない。

 それにもう、俺には何もないのだ。

 この時間には俺が大切にしていたヒトは誰もいない。あるのは、オクトとエストに対する懺悔だけ。だから何度だって時を渡れる。例え女神がほほ笑んでくれなかったとしても、この命が続く限りは何度でも繰り返せる。 

「俺も大切なヒトを助けたいんだ」

 エストが混融湖に落ちるなんて間違っている。オクトが神となり眠り続けなればならないなんて間違っている。時を捻じ曲げるのが例え罪深い事だとしても、俺にとってはすでに背負った罪より重いものではない。


 だから。

 俺は俺の望む【時】を紡ぐ為に、混融湖へ向かって転移をした。

 これにて、コンユウの時を渡りはじめる話は終了です。この後、彼はいろんな体験をし、少しずつ時を捻じ曲げていきます。

 ……何度も何度も、懲りずに時を変えるので、そりゃ時の精霊も嫌がるはずだと思わなくもない(笑)

 でもすでにコンユウが捻じ曲げたことによって紡がれた【時】もあるので(エストがオクトが神になる事を知ってしまったのはコンユウの所為)、時の精霊もむやみにコンユウの行動を制限できないのだと思います。

 ではここまでありがとうございました。

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