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嘘つきな海賊少年(2) 【4/24】(ライ視点)

 ライ視点で、時間軸はオクトが海賊に攫われたあたりの話です。

 嘘つきな海賊少年(1)の続きとなります。

 とんでもない言葉を聞いて俺はオクトを振り返った。

「本当か?」


 海の精霊の呪いを消せるなんて聞いたこともない。しかもこんな子供が。

「……本当」

「逃げる為に、嘘つくと大変だぞ。ここにいたら、少なくともオクトは何もされないんだからな」

「治せるよ」

 オクトはちゃんと俺の事を怖がっている。しかしその目は嘘を言っているようには見えなかった。


 だとしたら、これは凄い事ではないだろうか。いや、凄いを通り越して、恐怖さえ感じる。誰も知らない事を知っているなんて普通ではない。

 数点質問を繰り返してみたが、自分が助かる為に嘘を言っているようではなかった。若干母親に聞いた云々が怪しい気はしたが、まあ情報元を隠されたとしても、内容が本当ならば問題はない。


「分かった。信じるよ。で、どうやって治すんだ?」

「取引したい」

 まさかの返された言葉に、やはりオクトは見た目通りではないと確信する。にしても真面目な顔で言っているが、凄く見た目とアンバランスだ。

 微笑ましいと言えばいいのか。何とも反応しづらい絵面である。

「それは俺と?」

「違う。海賊の一番偉い人。それだけの価値がある情報だと思う」


 確かにその通りだ。

 というか、もしその情報が本当ならば、それ以上の価値といってもいい。誰も治せない未知の治療法なのだ。なのにそれを海賊との交渉材料にするという。

 何と言うか、色々危険なんじゃ……。誰だよ、幼児にそんな情報をあげたのは。


「ま、そうだな。その話が本当なら、船長も会うだろ。分かった。連れてってやるよ。ちょっと待ってろ」

 これは早めに俺の方で保護しておいた方がよさそうだ。

 南京錠に手をやったところで、捕虜となっている女達が息をのむのが分かった。あー、やばいなぁ。俺ぐらいなら何とかなるんじゃないかと思っている奴らがちらほらいる。

 そもそもここに連れてこられた女性達は全員魔力持ちなのだから、多少使えるものがいたとしてもおかしくはない。

 できるならば、傷を付けずに、戦意を喪失させておきたいんだけど――。


 仕方ない。チラリと、カミュの命令で潜入している女をみた。

 女も俺の視線に気がついたようで、ぎょっとした眼で見返す。俺は自分に襲いかかってこいという意味で首を小さく振った。


 あーあ。なんか泣きそうな面になっている。もしかしたら俺の実家を知っているのかもしれない。一応死なない程度に、手加減はするつもりはあるんだけどなぁ。

 俺は南京錠を外し、オクトに話しかけるふりをしながら、軍人であろう女に声をかけた。

「来いよ」


 少しだけ青ざめた後、意を決したように女は息を吸った。


「どけぇぇぇぇっ!!」

 んー。その掛け声はないわ。

 とても体育会系で悪いとは言わないが、巷の女はたぶんもう少し女らしいんじゃないかなぁ。でも俺の視線に気がつき、なおかつやられ役になる覚悟だけは認めよう。ご苦労様。


 俺は真っすぐに襲いかかってきた女を投げ飛ばした。




◇◆◇◆◇




「――というわけなので、今日のメインはトマトをたっぷり使った煮込みハンバーグにしたい。これなら柔らかいし食べやすいと思う」

 オクトが船長と取引して数日。

 今日も小さな体で頑張っている。オクトの料理は何度か食べたが少し変わっていた。よくグルタミン酸なんちゃらとかイノシン酸がどうとか、相乗効果とか良く分からない単語をつぶやいては、頭をかきむしっている。

 どうも俺らの知識とオクトの知識には深い隔たりがあるようだ。オクト自身あまりしゃべる方ではないので、上手く伝えられなくてイライラしているらしい。


 ついでにお腹も痛いのか良く押さえている姿を見かけた。オクト曰く、ストレスによる胃痛だから問題ないとの事。胃壁はストレスがなくなればすぐ治るからと言って遠いまなざしをしていた。

 船長との取引が上手くいけば、家に戻れるのだからストレスもなくなるんだろうが……でもなぁ。


「肉は牛だけじゃなく豚も使いたい」

「ん?それは値段の問題か?」

「違う。その方がおいしいから。無理ならいい。それと、つなぎで卵とパン粉と――」

 厳つい顔をした料理長に必死に教えている姿は微笑ましい。できる事ならば無事に家に送り届けてやりたいが、最近船長がご飯の度にうきうきしているのだ。俺も同じものを食べているのでその気持ちは分かってしまう。確かに美味しい。

 

 オクトは船長が苦手なのか、できるだけ会わないようにしているようだが、はたしてそれが吉と出るか凶とでるか。病人も順調に回復に向かっているけど、ちゃんと手放す気あるかなぁ。

 混ぜモノを手元に置くのは危険も伴うのだが、賭けごととか大好きなタイプなのであまり気にしなさそうだ。

 一応言った事は守るというのをポリシーにしていると聞いたので、一度は返してもらえそうだが、もう一度攫うとかやりかねない。もしくはオクトが自分から海賊になりたいという様に仕向けるかだ。

 しっかりしているようで、抜けたところもあるオクトの事だから、まんまと罠にはまりそうで怖い。


「先生!手伝いに来たっす!」

「ロキ」

 厨房にあらわれたバンダナ青年を見て、オクトは少しほっとしたような顔をした。

 確かに料理長に比べてこの青年は、人畜無害そうな顔をしている。でもそいつ、副船長だぜと言おうか言うまいか、俺はずっと迷っていた。言ってもいいのだが、後が怖そうな気もするし。

 それにオクトに対しては、副船長は本当に人畜無害なので本人が言うまで黙ってても問題はなさそうだ。

 

「へえ。今日はハンバーグっすか。先生の料理好きだから、楽しみっす。玉ねぎ頑張ってむくっすね」

 オクトと副船長は、俺がいない間に仲良くなっていた。聞いた所によると、腕力不足で厨房でおたおたとしていたところを、色々助けてもらったらしい。 

 基本的には一緒に行動するようにしているが、料理中は別の仕事をするので一緒に居てやれないのだ。

「……ありがとう」

 オクトははにかんだように小さく笑った。 


 んー。本当に人畜無害だろうか。

 何だかオクトが副船長にほだされていっているようでならない。副船長という事を知っていたらもう少し警戒するだろうが、ロキと名乗り、下っ端のふりをしているのでオクトの警戒心は凄く薄かった。

「いいっすよ。先生の為っすもん」


 そう言って笑う副船長の真意を俺は読みとる事ができなかった。



◇◆◇◆◇



「あーあ。折角捕まえたのなぁ」

 女性を解放しきった俺は、殻になった牢屋を見てため息をついた。

 折角機転を利かせて小芝居までして逃走意欲を喪失させたというのに。投げられた軍人のお姉さんは投げられ損である。ご愁傷様だ。

 今は使われなくなった牢屋を箒で掃いている所だ。地下にある為か、すぐにほこりが溜まる。


「先に捕虜を逃がすって事は、船長……何か悪だくみしているよな」

 一緒に捕まった女性の釈放をオクトは交渉の条件として挙げていた。

 しかしきっとオクトにとっては、家に無事に帰る方が最優先事項だろう。なのに何の承諾もなく先に女性を解放。絶対オクトを逃がしたくなくなったに違いない。


「でもまあ。それはそれで幸せかもなぁ」

 オクトは働き者なので、最近は調理長たちにも気にいられていた。オクト自身も楽しそうにしている時がある。

 かくいう俺も結構海賊の生活は気にいっていた。

 少々下品だったりもするが、彼らとの会話は楽しい。何のしがらみもなければこのまま海賊になってもいいなとも思っている。もちろん、何のしがらみもないわけではないので、ありえない話でもあるけど。

 なんだかんだで、やっぱり王子を裏切る事はできないなと思っている自分がいるのだから仕方がない。

「ここに居れば、国のごたごたには巻きこまれないだろうし」


 混ぜモノは忌み嫌われると同時に、権力者に欲しがられる。何故ならば混ぜモノがいれば、それは武力として他国に示す事ができる強いカードになるからだ。

 カミュの兄王子がその事に気がつかないはずがない。運が悪ければ、一生飼い殺される事になるだろう。または魔術師どもに利用されるか。……どちらにしろ、ろくなものではない。


「んー。どうしたら一番いいんだろうなぁ」

 1週間、寝食を共にしていれば、流石に情もわく。もちろんたった1週間程度の絆なので、王子が最優先な事には変わりない。それでも、弟ができたみたいで、面倒を見るのも悪くないと思っていた。

 ああ、オクトは女だから、妹か。貴族のお嬢様と雰囲気が全然違うから、どうも女の子というのを忘れてしまうけど。

 でもそんな事はどうでもよくて。とにかく、オクトが泣くのは嫌だと思っている自分がいた。


「やっぱりカミュに相談するしかないよな」

 動く事は得意なんだが、どうしても知略をめぐらせる類は苦手だ。女性が解放されてしまった事も連絡しなければいけないし、いいタイミングだろう。

 カミュはなんだかんだで優しいから、俺の弟分と知れば、悪いようにはしないはずだ。オクトが家に帰れるとは限らないけれど。


「ライ!いつまで牢屋の掃除をしてるんだ!」

「はいはい。今行くよっ!!」

 

 俺はそう言って、牢屋を後にした。 


 以上、ライが海賊をやっている間の話でした。

 幼少編が長くなりすぎてしまうと考え、さっくりカットされたオクトの海賊生活が少しだけ書けたかと思います。胃痛持ちだし、終始イライラしたり落ち着かなかったオクトですが、それなりに海賊の生活を満喫していたようです。

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