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大切な幼馴染(2)  【1/19】(クロ視点)

「火事?」

 とんでもない言葉が聞こえた方を見ると、そこには空にどす黒い煙が上がっていた。どうやらあの煙の先が火事らしい。

 さらに火の手が上がっている方からは、多くのヒトが走ってこちらの方へ逃げ出てきていた。

「やばくね?」

 ちょうど火の手が上がっているだろう辺りは住宅街だ。消火が上手くいかなければ、大規模に燃え広がっていくだろう。ホンニ帝国だと、火事が起こった時は、周りの家屋を壊して燃え広がるのを防ぐがこの国はどうやってやるのか。

 海が近いから水をかけるのかもしれないが、たぶん俺の国と同じで、危ないのには変わりない。

「オクト、今日は戻ろうぜ」

「あ、うん」

 オクトはじっと煙を見上げていたが、俺の言葉に頷いた。はぐれてしまわないように、オクトの手を握り、俺たちは今来た道を戻ろうと歩き始めた。


「誰か魔術師の方は見えませんか?」


 しかし、その言葉を聞いた瞬間オクトの足が止まった。

「水属性又は闇属性の魔法使いの方!人員が不足しています!どなたか、見えませんかっ?!」

 どうやら魔術師や魔法使いを探す声にオクトは反応したようだ。

 この国では、魔術師や魔法使いが火消しを行うらしい。俺の国には魔力を持っている人が圧倒的に少ないので魔法に頼ることはなかった。でもこの国は積極的にそういう人を集めているし、俺の国よりも魔力を持っている人の割合は多い。ところ変わればというものなのだろう。

「オクト?」

 しかしそんなものは大人の役目だ。

 だからオクトがどうして立ち止まってしまったのか分からず、俺は呼びかけた。

「ごめん。行ってくる」

 すっと俺の手を離したかと思うと、突然オクトがヒトの流れとは反対に走り出した。一瞬何が起こったか分からず反応が遅れたが、慌ててオクトを追いかけると、俺はその腕を掴んで止める。

 オクトがそれほど足が速くなくてよかった。


「って、待てって。行くってどこにだよ」

「火事が起こっている場所。時間がないから、クロ、離して」

「はぁ?!」

 これを聞いて手を離す馬鹿はいないだろう。

「何でオクトがそんな危ない場所に行くんだよ?!」

 意味が分らない。

 こんな小さなオクトよりも、ずっと大きな大人、しかも男だって逃げだしてきているのだ。それなのに、全く無関係なオクトが行くなんて間違っている。


「そんなの大人に任せておけばいいだろ」

 オクトは正義の味方じゃなくて、ただの女の子だ。逃げだって誰も恨んだりしない。

「クロ。あの辺りは、私がよく買い物に行く店の人達の家がある」

「だからなんだっていうんだ。そんなの専門の奴が行かないと、余計邪魔になるだけ――」

「私は水属性の魔法使いだから」

 そう言ったオクトの目は、今までに見たことないぐらい真剣だった。

 そこにいるのは俺が知っている小さくて守らなければいけないと思った妹でも、傷ついてボロボロになっている女の子でもない。

 気がつけば俺の掴む手をすり抜け、オクトは再び走り出していた。


「なんだよ、もうっ!」

 オクトがただの子どもではない事は知っている。船長ですら一目を置いていて、誰も知らない事をいっぱい知っている。でもオクトは間違いなく子供で、俺はオクトのお兄ちゃんなのだ。

 オクトが守りたいものがあそこにあるのは分かったけれど、オクトはきっと自分の事を守ろうとはしない。だったらオクトを守るのは俺の役目だ。

「待てって。そんなに走ったら、倒れるだろっ!」

 そう言って、俺はオクトを追いかけた。




◇◆◇◆◇◆





「だから、走ったら駄目だって言っただろ」

 オクトはしばらくすると、息切れで座り込む事になっていた。

 ……普段のオクトの様子を考えればこの結果はすぐに分かりそうなものだが、当の本人が自分の体力のなさを計算に入れていなかったようだ。

 その為俺はオクトを背負って火事の現場に向かっている。


「うー……ごめん」

 背中から、ションボリとした声が聞こえてくる。まあ焦っていたという事はよく分かるから、オクトをそこまで責める気はなかった。それに背負っている事に関してもオクトぐらい軽ければとくに負担はないし問題はない。でももっと自分を大切にして欲しいと思うのはいつになったらオクトに伝わるだろう。

「そうだ。クロ。気休め程度だけど」

 そう言ってオクトは布を渡してきた。受け取ったそれは、水で湿っているようだ。

「濡れた布で口を覆った方がたぶんマシだから」

「マシ?」

「火事の時は、有毒ガスの方が危ない」

「ふーん」

「目に見えないけれど、本当だから」

 確かにあの真黒な煙が体にいいものだとは思えないので、俺は言われるままに布で口を覆う。少し息が吸いにくいが、吸えないほどでもない。

 それにしても有毒ガスを吸いにくくする方法とか、本当にオクトはどこで知ったのか。ここにいるオクトは旅芸人で一緒だった小さなオクトではない。きっとオクトの知識は、俺なんかよりずっと上なのだろう。


「オクト。俺さ、別にオクトが何もできないって思っているわけじゃないから」

「……本当?」

 微妙な沈黙の後にオクトは小さく訪ねてきた。うーん。これは俺の言葉を疑っていそうだ。確かに火災現場に1人で行かせようとしなかったわけだしなぁ。でもそれはオクトの能力を疑ってというわけではない。

「本当だって。たださ、俺はもっとオクトに自分の事を大切にしてもらいたいんだ。オクトが自分の事をないがしろにするから、俺は代わりに心配しているだけなんだし」

 オクトの顔は見えないので、どんな表情でそれを聞いているのかは分からない。それでも反論をしないところをみると、一応は俺の言葉を聞く気はあるのだろう。

 そう簡単に自虐癖が治るとは思えないけれど。


「そう思っているのは、俺だけじゃないと思うぞ」

「……うん。知ってる」

 知っているけど心配させるなんて、普通に考えたらかなり性格が歪んでいる奴の対応だ。でもオクトの場合は、たぶん自分自身、どうしていいのか分からないのだろう。

 誰かに心配させたいと思っているわけではなく、どうにか心配させないようにしたいとは思っているようだし。だけど自分を愛せないから、結局自分の事がおろそかになって、周りは心配してしまう。

 自分を愛せないって……どうしたら変われるんだろうなぁ。

 こればかりは、オクト自身で解決していくしかない。オクトはいい子で、そんな嫌う必要性など全くないのだから。


「こっちは危険だ。早く逃げなさい」

 火災現場まで来た俺らは、魔術師らしい男に止められた。まあ確かに、オクトはどう見ても子供だし、俺も魔法使いには見えないだろう。実際、俺は違うわけだし。

「私は、水属性の魔法使いです」

 オクトはそう言うと、俺の背中から降りた。

「ま、混ぜ物っ?!」

「ああ?だから何だっていうんだよ。こっちは手伝いに来てやったっていうのによぉ?」

「こっちはチンピラ?!」

 誰が、チンピラだ。

 俺がガンを飛ばすと、男はひっと小さく悲鳴を上げた。きっと大した事のない魔法使いなのだろう。俺の知っている魔法使いは、もっと不遜で、この程度の事で悲鳴なんて上げたりしない。


「クロ……止めてあげて。それで、水属性の魔法使いは集まったんですか?」

「い、いや。この通り、到着が遅れていて。この人数では大した雨も降らせられないんだ」

「ああ?こんなに居るのにか?さぼってんじゃねーぞ」

 男の他にも魔術師は10名ぐらいはいた。それなのに、彼らが何かをやっている様子はない。普通なら、周りの建物を壊すなり、バケツリレーをするなりしなくちゃいけないはずなのに、ボーっと突っ立っている。

「クロ。自然を操る魔法は結構大変だから。それに今日は空に雲もないし」

 そう言ってオクトがすっと上を見たので、俺もつられて空を見上げる。確かに雲ひとつない見事な晴天だ。それと雨を振らせる魔法がどう関係するのかは分からないが、オクトが言うならばたぶん仕方がない状態なのだろう。

 

「だったら周りの建物を壊して、火事が広がるのを防ぐなり、やる事があるだろうが」

「建物を壊す?」

「燃え広がったら、余計に消しにくくなるだろうがっ!」

 頭の働きが遅いおっさんだなっ!

 俺は魔法使いの胸倉をつかもうとしたが、その前にオクトが俺の服の裾を掴んだ。

「そうか。江戸時代の消火方法っ。火の方は私の方で他の魔法使いが来るまで食い止めます。なので、皆さんは延焼を予防するため、燃え広がりそうな風下の家屋を取り壊して下さい」

「はあ?なんとかって――」

「えっと、ただし私がいいというまで、庭の中には一切入らないで欲しいんですけど。その……危険ですので」

 明らかにおっさんは、この子供は何を言っているんだという顔になった。まあ確かに、オクトみたいな小さな子にそんな事を言われたら、そういう反応になっても仕方がない。それでも、俺はオクトがすごい事を知っているし、オクトの味方でいてやる事を決めたのだ。

「どうせ他の魔法使いとやらが来ないと何もできないんだろうが。だったら、ごちゃごちゃいってねーで、オクトが言う通りにしろ。じゃねえと、耳の穴から手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタ言わせたるぞ、ごらっ?!」

 俺は昔旅芸人にいたころに教えてもらった脅し文句を使ってみた。







◇◆◇◆◇◆







「クロって、本当に海賊だったんだね」

 すべての消火が終わった後、オクトは疲れた様子で、燃えていない建物を背にして座り込んだ。その隣で俺もしゃがんでいると、オクトがぽつりとそうつぶやいた。……んー、本当は海賊じゃないんだけどな。

 ちょっと見分を広げてこいと知り合いに無理やり乗せこまれた場所が海賊船だっただけで、ぶっちゃければ別に海賊になったつもりはない。

 しかしこれを説明しようと思うと長くなる上に、俺の身の上話はオクトをドン引きさせそうなので、とりあえず黙っている。オクト自身自分の事でいっぱいっぱいなので、あまり俺の事でわずらわせたくない。

 それにオクトが海賊だと確認をするのは、今回俺が魔法使い達を脅したからだろう。あまりこういう、荒っぽいところはオクトに見せたくなかったのだけど、緊急事態だったから仕方がない。


「俺の事怖い?」

 その言葉に、オクトは少し考え首を振った。

「怖くない。むしろ私の事の方が怖くない?」

「何で?」

「いや……えっと。一瞬で火を消すとか、クロ達みたいな魔法を使わないヒトには怖いかなと。いや、まあ。魔法使いとか魔術師にも怖がられてるんだけど……」

「何で。俺らそれで助かったんじゃん」

 俺は何も分からないといった様子で、オクトの言葉に返事をしたが、オクトが言いたい事も分からないくはない。

 確かに火が消された後、魔法使い達は誰一人オクトのそばへやってこようとはしないのだ。でもそれはオクトが一瞬で火を消したからだけではないだろう。

 あいつ等はオクトが混ぜモノであると言うだけで近寄ってこないのだ。知識があるぶん、他にも理由があるのかもしれない。でも面白くはないのは確かである。手伝ってやったのだから一言ぐらいねぎらいの言葉を言いに来たって罰は当たらないだろうに。

「それで、あれって、どうやったわけ?」

 そんなアホどもの所為でオクトが自分が嫌われていると思うのは癪なので、俺は話をそらす為、別の話題をふった。

「あー、庭の中の空気の出入りを遮断して、燃えないようにしただけ。中にある酸素を使い切ってしまったら燃える事は出来ないから。でも熱が消えたわけじゃないから、その魔法を解除したらまた燃える。だから他の魔法使いを待っていた」

「へー」

 さっぱり分からん。

 やっぱりオクトの方が俺よりもずっと頭が良くなってしまったようだ。なんだか寂しいが、こればかりは仕方がない。

「クロこそあの脅し文句、どこで覚えたの?」

「旅芸人の一座にいた時にさ、教えてもらったんだよ。後は、海賊たちにさ、適当にわけのわからん言葉を怒声で叫べば、たいていビビるって教えてもらったんだよ」

「……へえ」

 あれってギャグじゃないんだとオクトが小さな声で言ったが、俺にもそれは分からない。まあそれっぽく言えば、なんだって脅し文句っぽく聞こえるのだし結果オーライだ。


「嬢ちゃんっ!」

 オクトと今までにどんな脅し文句を教えてもらったかを話していると、俺らの方へ獣人達がやってきた。明らかに魔法使いには見えないので、この辺りに住んでいるヒトだろう。

「あ、八百屋の……」

「嬢ちゃんが火を消してくれたんだってな。ありがとうなっ!」

 そう言って、獣人の男はオクトの手をとるとぶんぶんと振った。

「い、いや。私は手伝っただけで――」

 オクトはそう言うと俺に助けを求めるように視線を寄こした。まあ確かに、最終的に雨を降らせたのはオクト以外の魔術師だ。でも最初に火の勢いをそいだのはオクトで、オクトが動かなかったらもっと被害は大きかっただろう。そう考えれば、オクトがその賛辞を受けるのは間違っていない。

「うん。うん。ここにいる賢者様が、的確な指示を出してこの町を救ったんだ。見事なもんだったぞ」

「クロっ?!」

 オクトは、何を言い出すんだとばかりにぎょっとした様相をした。でも俺が言っているのは嘘ではない。

「さすがは賢者様だ」

「魔法学校で優秀だって聞いたよ。小さいのに、すごいわね」

「俺はこの賢者様を小さいころから見てるんだが、この子は普通と違うと最初から思っていたよ」

 すると獣人達はオクトをほめたたえ初め、オクトは大きくうろたえた。顔を赤くしながら、必死にそんなことないだの、これは普通だのと叫んでいるが聞いてもらえていない。


 ああ。オクトはこの町で生きてきたんだな。

 オクトを遠目でしか見ていない魔法使いとは違い、獣人たちはオクトの周りから離れようとしない。中にはオクトの頭をなでくりまわしたりして、完璧に子供扱いしているものまでいる。オクトが混ぜモノだという事を気にしている奴はそこにはいなかった。

 オクトと再会した時、オクトは独りぼっちだと思ったけれど、そうではないようだ。オクトがここでしてきた事はちゃんと積み重ねられていて、オクトが今まで関わってきたヒトは、決してオクトを1人にしない。

 これなら大丈夫だ。これだけオクトが愛されていれば、オクト自身だっていつかは自分の事を好きになる事も出来るだろう。 

「クロ、ちょっと!助けてっ!」

「はいはい」

 もう少し愛されて、少しは自分を大切にしない事を反省すればいいのにと思わなくもないが、これ以上は少し可哀そうか。時間はたっぷりあるのだし、今日はこれぐらいしてあげよう。

 そう思い、もみくちゃにされてしまっている、幼馴染の手を握り俺は自分の方へ引っ張った。

 以上、アンケート3位だった、クロ視点のお話でした。2位のエルフさんとは違い、今回のクロの話は少ししんみりとしたものになってしまいました。

 本当は、クロとオクトがお互い残念に育ってしまったところを嘆くネタ話でもよかったんですけどね。でもそれだと、事件が何も起こらないので、久々に現代知識の活用術の方にしました。

 でも、もう少し明るい話も書いてみたいなぁと思ってしまったり(苦笑)

 ではアンケートご協力ありがとうございました。

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