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腹黒な王子 【ブログ転載】(カミュ視点)

 カミュ視点で、時間軸は賢者編【35-1話 壊れかけな未来予想図】の話です。

 混融湖の事件から月日が経ち、僕やライは学校を卒業した。そして僕らよりも2年は長く学校に留まらなければいけないオクトさんも同時に卒業した。

 ……普通に考えて計算が合わないのだが、それが事実なので仕方がない。その結果、最短で卒業したカザルズ魔術師と同じ期間で卒業した賢者だという伝説を学校に残した。もちろん混ぜモノな上に、他国で暴走を起こしかけたということで、学校側がオクトさんを長期に手元へ置くことを渋ったというのも、卒業が早まった原因の一つだろう。それでも、それなりの頭脳がなければ無理である。それはきっと賢者だから、どうにかなるものでもない。オクトさんは間違いなく秀才ではあるが、きっと天才でもあるのだろうと最近思うようになった。


 そして天才というものは、昔から紙一重だと言われている。

「オクトさんっ!!」

「……ん?」

 1人暮らしをし始めたオクトさんの部屋にやってきた僕は、ひときわ山になっていた本を慌ててかき分けた。そしてその山の中からようやく、オクトさんの姿を発見することができてほっとする。

 本の中からできたオクトさんは、寝ぼけ眼で僕を見上げた。一応意識はあるようだ。

「なんで、家で遭難しているわけ?!」

「……へー、そうなん?」

 ヒトが心配したというのに、まったく分かっていないようなぼんやりとした返答に、僕はぶちっときて、オクトさんを本の中から引っ張り上げていた手をパッと放した。するとオクトさんは受身を取ることもなく、そのまま本の山へ再び飛び込む。

 少しは痛みで目を覚ませばいいのに。

 オクトさんのところまで来る時間を作るのに、僕がどれだけ苦労していると思っているのだろう。まあそれに関しては僕の意志でもあるのだから、別に恩着せがましく言うつもりはない。

 でも、もう少しそれ相応の態度というものがあってもいいだろうに。

 ただしそれを言えば、すべてを斜め上に昇華するオクトさんのことだ。どうしてこんな辺鄙な所に来ているんだろうかと少し考えれば分かりそうなことを疑問に思い、面倒なら止めればいいとか、別に来なくても構わないのにとかという結論に結び付けそうだ。

 例え僕の立場を思ってのことだとしても、それはそれで腹が立つ。


「心配して来てみれば……っ!どうしてまた寝ようとするのかな?」

「いや、背中痛いし……。おやすみ」

「だから寝ないでくれないかな。ちょっと、本当にこれ以上寝ると死ぬから!」

 混融湖での事件の後から、オクトさんは良く眠るようになった。きっと起こさなければ、一日中寝続けるのも可能ではないだろうか。

 たぶん精霊と契約したのが関係しそうだが、精霊と契約をするなんて事例は少ないため、どうしてあげればいいのかもよく分からない。

 とはいえ、今回本の山の中で遭難しかけているのは、明らかにオクトさんが悪い。

 事件直後は痛々しくて見ていられないほど傷ついていて、色んな物事を煩わしく感じていたのも知っている。でも今は絶対違う。

 オクトさんがものぐさなだけだ。

 アスタリスク魔術師と一緒に住んでいた時は、あんなにかいがいしく世話をしていたのに、いざ1人暮らしをし始めたら速攻で栄養失調になった。何をやるにしても、自分の事を後回しにしてしまうという悪習慣の結果だ。しかもものぐさで、できるだけ怠けようとするので、削る部分はやっぱり自分の事。


 綺麗な金色の髪は寝癖でぼさぼさ。服はくしゃくしゃの白衣。部屋の中は、魔術関係の本があふれかえり、とても女性の部屋とは思えない。オクトさんは結構綺麗な顔立ちで、混ぜモノでなければ、異性から好意をもたれそうな外見だ。でも今は残念たる結果しか存在しなかった。

 本当に、どうしてこうなった。

「定期連絡が昨日からないと、アロッロ伯爵から連絡があったんだよ。嫌な予感がしたから来てみたら、案の定本で生き埋めになっているし。オクトさん死にたいの?ちなみに死にたいなら、僕が馬車馬のように死ぬまで使ってあげるから、資源の無駄遣いをしようとしないでね」

「……あー、ごめん」

 たぶんどうしで僕がこんなに怒っているのか分かっていないだろう。でもヒトの感情に機敏ではないオクトさんには、気長に分かるまでこうやって教え込んでいくしかない。

「これは貸しにしておくからね。とりあえず、急いで来たから朝ごはんがまだなんだけど」

「私はいままで遭難していたような……」

「今は遭難していないよね」

 そういうと、しぶしぶといった表情でオクトさんは起き上がった。きっと僕の分を作ってと言わなければ、最後までご飯を食べることすらしなかっただろう。

 ここまでしないと起きないとか、本当に寝ることに対しては何処までも貪欲だ。その欲を他にも向ければいいのに。


 オクトさんは、混融湖の事件の後、アスタリスク魔術師の養子を抜けた。元々旅芸人だったオクトさんはこの国に籍がない。そもそもアスタリスク魔術師を通して繋がっていただけだ。

 そして結果的に、オクトさんは兄ですら手が出しにくい、無国籍の者、旅芸人と同じ立場に戻った。元々旅芸人生まれのオクトさんが戻る国はないのだ。そして旅芸人には手出しをしない。それが神の取り決めで、王族は特に厳しくその決まりを守らなければならなかった。

 なので僕はオクトさんの監視件、勧誘要員として、兄からオクトさんのところへ通うのを許されている。監視はオクトさんが反王家側についてしまわないように。勧誘はアールベロ国の国籍を取得するようにだ。


 もちろん、そんな命令聞く気はないけれど。


 別にオクトさんがアールベロ国の人でなくても国に損害はない。ならば適当に誤魔化せばいいだけだ。流石にオクトさんがアールベロ国の誰かと結婚するとなれば必然的にアールベロ国に所属する事になる。でもそれまでは、申請なんて方法がある事をオクトさんに教える必要もない。

 それが彼女を守るには一番いい方法だ。


「王子様の口に合うような高級食材なんてないから」

「言えば何でも持ってきて上げるのに。遠慮する必要はないよ?」

 そう言うと、オクトさんはこれでもかというぐらい嫌な顔をした。昔だったら無表情でスルーだったので、気を許してくれてはいるのだろう。

 でも気を許すなら、プレゼントぐらいさせてくれてもいいのになと思う。もともとオクトさんの料理はおいしいから、どんな食材であれ、口に合わないなんて事はないのだけど。

 まあでも、そういう部分はオクトさんらしいとも言えるし、徐々に僕からのプレゼントを受け取るのを慣らしていくのも楽しそうだ。少しずつヒトの好意を素直に受け入れられるようになってきてはいるが、まだまだな部分も多い。


「ほらほら。ダラダラしない。オクトさん、最近魔の森には『ものぐさな賢者』がいるって噂になっているんだよ。よりによって、ものぐさだよ。ものぐさ。残念だと思わないかい?」

「いや、別に」

 というか、その呼び名を広めたのは僕だけどね。

 オクトさんは未だに山奥で1人暮らしを夢見ている。そんな事許す気はないが、突然居なくなられると探し出すのに苦労しそうだ。

 そこでオクトさんを有名にしてしまおうと思い、絶対誰とも被ることがないだろう2つ名を広めてみた。賢者で薬師と聞けば、誰だって興味を持ち、何か困っているモノは、必ず会いに来るはずだ。

「せめて、森の賢者とか、もっと格好のいい呼び名もあったはずなのにって、オクトさん聞いてる?」

 こう言っておけば、僕がオクトさんを有名にして、ひっそりと隠れ住むのが難しくなるように仕向けている事に、オクトさんは気がつかないだろう。

 結構オクトさんは単純だから、一度信じると、意外にいつまでも信じてしまう。

 

 でもそれでいい。

 オクトさんは、僕のことを友達だけど、油断ならない相手だと思っていてくれている。きっとオクトさんは友達である僕の言葉を信じるだろう。

 でも油断ならないと思っているから、必ず警戒してくれるはずだ。僕は最期までオクトさんの味方でいるつもりだけど、僕の背景はそうは行かない。


 僕を信じて欲しい。

 そして僕を疑い続けて欲しい。

 

 それがきっと、オクトさんの幸せに繋がるだろうから。

 キッチンへ向かったオクトさんの背中を見つめながら、僕は少しずつ立ち直り、成長していく彼女が幸せになれるようそっと祈った。


 以上、カミュ視点小説5連発でした。

 初めて会った時と最後では、おもいっきり思考が変わってしまっていますね(苦笑)そして、鉄壁の精神の持ち主なので、大人げない魔族様や、思春期真っ盛りの将来の図書館の館長とは違い、オクトに気持ちを感じ取らせません。

 だから本編では、ある意味全く関係ない話かも……。

 きっとオクトが気がつくときは、カミュが気がつかれてもいいと判断した時ですので、そんなときが来るのかどうかはカミュ次第です。

 でもカミュは、近い場所だけど、オクトを自分の人生に巻き込まずにいられるぎりぎりである今の関係を気に入っていそうです。


 では、ここまでお付き合いありがとうございました。

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