賢者な人生相談【ブログ転載】(主人公オクト視点)
オクト視点のお話で、時間軸は賢者編ぐらいと思って下さい。
こちらはブログから転載したものです。
内容は樹の神様とオクトとカミュが話しているだけの話です。
「というわけで、今日は女の価値について話そうと思うの」
ある晴れた穏やかな日。
唐突すぎる議題の切り出しに、私は目を瞬かせた。
何がどう、というわけなのだろう。そんな事を思ったが、ツッコミを入れるのは躊躇われ、私は大人しく頷いた。
躊躇った理由は、相手が樹を司る神だからというわけではない。明らかにハヅキから危機迫るような迫力を感じたからだ。
「あの、女の価値って……僕が聞いても差し支えないのでしょうか?」
今回突然ハヅキに呼び出されるにあたって、カミュもまた私の付き添いとして呼びだされた。張り付いたような笑みでハヅキに話しかけたカミュだが、面倒くさいから逃げ出したいと思っているのが、つきあいの長い私には良く分かった。
何一人だけ逃げようとしてるんだと、私はカミュの袖を引っ張って睨みつける。
「かまわないわ。むしろ殿方の意見も聞いてみたい所でしたの」
ナイス、ハヅキ様。
逃げ道を失ったカミュを見て、私はにこりと笑ってやった。私の能力じゃ、ハヅキから絶対逃げきれない。こういう時は最後まで付き合うのが友達というものだ。
「オクトさん」
「何?」
「……いや、何でもないよ」
カミュも諦めたらしく、小さくため息をついた。
「あの、それで、女の価値ってなんですか?」
とても聞くのは面倒だが、聞かなければお家に帰れない。その為、私は色んな葛藤の飲みこんで質問した。
「良く聞いてくれたわ!私は、女の価値は胸の大きさじゃないと思うの!」
あー……。
「そーですね」
瞬時にハヅキの身に何が起こったか理解した私は、若干棒読みになりながらも神妙に頷いた。
コレはたぶん、自分の叔母であるカンナがまたハヅキのコンプレックスを攻撃したに違いない。特にカンナは十分な大きさの胸を持っているので、余計にハヅキのプライドを刺激するのだろう。
男っぽいのに出る所が出ているカンナと、女っぽいのに凹凸のないハヅキ。……神は何故、必要な場所に必要なモノを与えなかったのか。ああ、でも悩んでいるのは当の神様だった。
「胸の大きさがなんぼのものよ!うぅぅ。どうせ、私はまな板よ!でもそんなの仕方ないじゃないの。カミュちゃんもそう思うでしょ?!」
「えっ、あ……そうですね」
カミュも困ったように頷いた。
これを否定したら、たぶん血の雨が降る事になるだろう。例えカミュが巨乳好きだったとしても、素直にそれを言う事はできまい。というか自分のポリシーを曲げることになっても、もうこれ以上刺激しないで上げて下さい。
「女の価値は胸じゃないの!胸じゃないのよっ!!」
うわぁぁぁんっと泣きだしたハヅキを見て、私はどうしようとカミュを見た。同じくカミュもどうしようといった顔で私を見ている。
「えーっと。オクトさん、何かいい方法はないかな」
いい方法って、何をどうする方法だ。
先手でカミュが私に話を振ってきて、ぎょっとする。いや、待て。こうやって気にしているヒトは、大抵色んな事をすでに試し済みなのだ。私が身長を伸ばそうと牛乳を飲んでいるのと同じ事で。
それなのに、今更私がどうこうできる方法を知っているはずがない。
しかし都合よく、こういった話は耳に入ってくるようで、ハヅキはピタリと泣きやむと、私の方を期待した眼差しで見てきた。
……マジですか。
「えっとですね。実は胸が小さいというのには……色々とても重要な理由がありまして……」
私はダラダラと冷や汗を流しながら言葉を探す。ここでしくったら、私に明日はないかもしれない。ここは本人を傷つけず、かつ心の痛みを半減させる必要がある。
しかし遺伝とか、幼いころの生活環境とか、そんなどうにもならない事をいっても無意味だろう。かといって、このデリケートな問題では、半端な慰めは命取りだ。
「重要な理由?」
「なんだい、それは?」
こうなったら。
私は前世の知識をフル稼働させた。
「実はとある地域では、こういういい伝えがありまして。巨乳は皆の夢が詰まっているから大きい。それとは反対に、貧乳は夢を皆に与えているから小さいというものです」
「は?」
「夢を与える?」
私は大まじめな顔で頷いた。話している内容は、全く正反対だが。
この格言は、とある地域というか、ネット民の間で伝わるものだ。他にも、貧乳はステータスやら希少価値という言葉もあった気がする。自分の知識に若干ドン引きしそうだが、今役立っているのだし、まあ結果オーライとしておこう。
「そもそも、貧しい乳と書いて貧乳と言うのがよくないと思います。微乳は美乳。美しいんです。それに小さければ、年をとっても垂れません。いいですか。大切な事なので、もう一度言います。微乳は年をとっても美しい姿のままです」
これでいいのか私の前世。
残念な知識に涙が出そうだ。果たして私は、ない乳に悩んでいたのか、それともない乳が好きだったのか。……止めよう。考えてはいけない。
「そうよね!そうだわ!ありがとう、オクトちゃん。さっそく、カンナちゃんに、今の格言を伝えてくるわ!!」
「えっ?」
伝えてくる?
……伝えてくるですと?!
「ちょ。まっ――」
まさかの発言に私は慌てて止めようと手を伸ばす。しかし私が止める前にすでに、ハヅキの姿は目の前から消えていた。……まさかたった一人の肉親に、自分の残念すぎる発言が知られてしまうなんて。
自分の命を救うために、大切な何かを差し出してしまった気がして、私は残酷な現実に顔を覆う。
そんな私の肩をぽんとカミュは叩いた。
「今のは、普通に見た目じゃなくて、内面が大切だって話をすれば良かったんじゃないかな?」
そういうのは早く言え。私は恨みがましく、カミュを睨んだ。その手があったかというか、普通に考えたらそれだよなと今更ながらに思う。
でも咄嗟に思いつかなかったのだから仕方がない。
「……で、カミュは女性の価値は中身だと思う紳士なわけ?」
八つ当たり気味に尋ねると、カミュはキョトンとした後、にこりと笑った。
「内面だけでヒトは作られていないし、外面だけで作られているわけでもないんだから、トータルで見るに決まってるよね?」
素晴らしい、優等生な回答で。だったら最初から、そうハヅキに伝えて欲しかった。
「あ、でも。虐めがいがある子は好きだよ」
「そんなカミングアウトいらない」
すでに十分カミュがドS様だって事は知っているから。
私はがっくりと肩を落とした。




