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大忙しなお祭り騒ぎ(5)  【10/26】(主人公オクト視点)

「オクト、ペルーラ、今日は本当にありがとうね」

 フウカさんに御礼を言われて私は首を振る。

 何とか団員達の体調不良も改善し、一応公演は問題なく終わる事ができた。公演にもゲスト出演してみないかと言われたが、もしもヘキサと一緒にアスタが見に来ていたらばれる様な気がして辞退させてもらった。やっぱり舞台に立つとしたら、インパクト的な関係で混ぜモノと言う事を明かす事になるだろう。

 混ぜモノなんて珍しい存在はほとんどいないので、今度こそヘキサ兄にも気がつかれてしまう。

 

「オクトお嬢様が昔御世話になった場所ですもの。当然です」

「ペルーラ、ありがとう」

 本当ならペルーラは関係ないのに、私につきあって手伝ってくれたのだ。

「そんな、オクトお嬢様の御役に立てて私も嬉しいです」

 顔を真っ赤にしながらペルーラは笑った。本当にいいヒトだ。


「オクト?」

 フウリがぎゅうと私の服の裾を掴んだ。その顔は何処か不安そうな顔をしている。どうやら、私が帰る事をなんとなく空気で察したようだ。

 その姿が、凄く可愛くて、カメラやビデオがないこの世界を初めて不便に思った。電話もないので、連絡を取り合う事もできない。

 とりあえずフウリの顔をよく見る為、私はしゃがみ少しだけ見上げるような姿勢になる。

「今日はお疲れ様」

「おつかれ?」

「私はもう帰るけど、フウリは頑張って」


 また会おうねなんて無責任な事も言えず、私はフウリを励ます事にした。

「オクト、いっちゃうの?」

「うん。待っているヒトがいるから」

 たぶんそろそろ帰らないと、アスタの方が先に伯爵邸へ帰ってきてしまうだろう。そうすると、言いわけが色々大変になりそうだ。

「フウリ。オクトお姉ちゃんにバイバイしようか」

「やっ!」


 フウリはギュッと私に抱きついてきた。……ああ。何か凄く可愛い。

「オクトあそぼ!」

 私にもこんな時代あったのかなぁと思うが、よく考えれば私はこんな可愛らしい子供じゃなかったなぁとちょっと遠い目になる。前世の記憶がある所為で、今とそんなに変わらない。うん。そりゃ、一座でも浮くわ。

 あの時は色々混乱もしていたし、仕方がない話だとは思う。でも今ならもう少し上手くやってけるだろうなとも思った。ただ私は今の生活も気にいっているので、過去に戻りたいとは思わない。

「ごめん」

 そう言って、私はフウリの頭をそっと撫ぜた。どれぐらいの力で撫ぜてもいいのか分からないので不安だったが、痛がっている様子はないのでたぶん大丈夫だろう。


「ほら、フウリ。オクトお姉ちゃんが困ってるでしょ。それにまたここに公演に来るわ。その時、またオクトも会いに来てくれるわよ」

「……ほんと?」

 うっ。

 フウリの大きな目はうるうると潤んでいた。流石にこんな眼差しで見られたら、否定はできない。

「うん。また会いに来る」

 




◇◆◇◆◇◆◇





「……アスタ」

 机の上に広げられた御土産を見てくらりと目まいがした。

「オクトは勉強ばかりだから、少しでも祭りの雰囲気を味わってもらえるといいなと思ってさ」

 机の上に広げられた食べ物の数々。

 1個や2個なんてものではない。まるでメニュー表のここから、ここまで1品づつ持ってきてと注文したかのような量だ。よく持ってこれたなぁと思うが、よく考えれば魔法で伯爵邸まで転送したのかもしれない。

 ……子爵邸の皆への御土産にするにも、明らかに多いよなぁ。

 

 アスタの目は、褒めて褒めてと言うかのようにキラキラしているので、否定もしにくい。流石ヘキサ兄の親だ。考え方が一緒である。

 でも折角私の為に買ってきてくれたのだ。

「ありがとう。……伯爵邸の皆と一緒に食べていい?」

 1人で食べろと言ったら無理に決まっている。なので先手でお伺いを立てる事にした。


「もちろん。これはオクトに祭りの雰囲気を味わうために買ってきた物だから。それからオクトのお土産は――」

「えっ?!まだあるの?」

 マジか。

 机いっぱいに並んだ料理だけではなく、他にも買って来ただなんて、どれだけ散財してきたんだ。庶民感覚の自分では目まいがする。

「いや、アスタそんなには……」

 いくらなんでも貰えない。流石に申し訳なさすぎる。


「もう買っちゃったし」

 そう言ってとりだしたのは、腕輪だった。どうやら石が数珠のように連なったタイプだ。庶民からしたら結構高価な装飾品だが、貴族からしたらそうでもなさそうな作りである。

 ただ私はその腕輪が、ただの腕輪ではないのではないかという勘がピンと働いた。

 だって、あのアスタだ。あれだけ楽しみにしていろと豪語していたのだから、絶対何かある。もしくは、腕輪だけではないかだ。


「この腕輪の石には魔方陣が描いてあって、色々補助してくれる仕組みだから――」

「えっ。魔道具?!」

 まさかの魔道具?

 しかも装飾品の形をした?!どれだけ高価なもの買ってきてるのさ!しかも私はただの魔法使いの卵。そんなただの子供にぽんと買い与えていい品物ではない。

 血の気がさぁぁっと引いていく。


「あ、アスタ。悪いけど返品して」

 嘘までついて祭りに参加していたので、もう心が痛くて泣きそうだ。しかもお土産のおねだりをしたばかりに、とんでもない高価な物を買ってくるなんて。

 嘘はどんなに小さなものでもついちゃいけません。その意味が分かった気がする。心も頭も痛くてたまらない。

「ええ。もしかしてデザインが気にいらなかった?だったら今度は一緒に――」 

「い、いい。そうじゃないから」

 買い直すって、心臓に悪いから止めて。

 私はぶんぶんと首を横に振った。


「こんな高価なもの、お土産でもらったら困るというか……」

「そう?だったら、進級祝いと言う事で」

「はい?」

「ほら、特に何も上げてなかったし。というか貰ってくれないと、ゴミになっちゃうんだけどな。俺は使わないし」

 ですよね。

 何と言っても、国一番の魔法使いだ。補助的役割の魔道具なんて、必要としていないだろう。それにこの魔法具自身、淡いピンク色をしており女性物だと思いっきり主張している。


 貰うのも困るが、捨てるのはもっと申し訳なくて困る。

「だったら……」

「じゃあ、つけてあげるから手を出して」

「あ、うん」

 手をアスタの方へ伸ばそうとした所で、私は動きを止めた。

 ……あぁぁぁっ?!

 そう言えば祭りで祝い婆に腕に絵を描かれたんだった。流石にこれを見られたら言いわけができない。やっぱりこれ、祝いじゃなくて呪いだろ。自分のうかつさを罵りたい。


「どうしたんだい?」

「えっ、いや。その」

「ほら」

 ぐいっと腕を引っ張られて私は覚悟した。……アスタって怒ると怖いのかなぁ。

 ギュッと衝撃に耐えるように目を閉じる。 


「ああ、ここにも祝い婆が来たんだね」

「へ?」

「ちゃんと占ってもらった?」

「あ、うん」

 目を開ければ先ほどと変わらないアスタがいた。

 どうやら祝い婆は、祭りだけに来るわけではないようだ。特に気にした様子もないアスタにホッとする。もしかしたら祝い婆は、各家を回ったりするのかもしれない。


「祝い婆はたまに悪戯好きな精霊が混じっている事もあると言う話だよ。精霊は気にいった相手に印を残すと言われているからね」

「へぇ」

 もしかしたら私が会った祝い婆は精霊だったのかもしれない。そうでなければ、一座に会いに行く前に塩を手に入れる事なんてないだろう。

「じゃあ、食べ物は皆で食べられるように声をかけてくるよ」

 そう言ってアスタは私の腕を放した。

 

 ああ。もしかしたら、今日の中で一番疲れたかもしれない。

 そんな事を思いながら腕輪に目を落とすと、廊下へ出ていこうとするアスタの方から鼻歌が聞こえてきた。……それも私が知ったメロディーでだ。

「ア、アスタ?」

 ダラダラと冷や汗が流れおちる。

「ん?どうした?」

 どうしてそのメロディーを知っているのだろう。だってそれは、私がビラを配った時に歌ったもので、この世界の歌ではない。


 ……コレは、バレてますよね。

 アスタは何でもない顔をしているが、私がいくら鈍くたって流石に分かる。これは勝手に祭りに参加した事を知っているのだと。しかもしっかりとその姿を目撃されていたのだと。

 嘘はつくものではない。

 にっこり笑っているアスタにぺこりと頭を下げた。


「アスタ、ごめんなさい」


 翌日、私はアスタと一緒に祭りを回る事になり、感動的な別れをしたはずのグリム一座ともう一度会う事になるのはまた別の話だ。






 さらにそれから数日後。


「あ、あの。ヘキサ兄……」

 相変わらずの氷の眼差しを受けながらも、私はヘキサ兄から貰った蜂蜜で作ったパンケーキを片手に勇気を振り絞って声をかけた。

「お土産ありがとう」

「いや、高いものではない。気にするな」

 相変わらずのそっけなさにちょっと泣きそうだが、頑張れ私。たまには努力するべきだ。それにほら。あの時のヘキサ兄は優しかったし。大丈夫。とって食われるわけじゃないんだ。


「一緒に、お茶……どうかなと。ケーキ焼いてきたから」

 そろりとヘキサ兄の顔を見上げるが、いつも通りの何とも言えない鉄面皮だ。これは、やっぱり失敗だろうか。

「……少し後でもいいか?」

「う、うん。大丈夫」


 こうして私は、ようやくヘキサ兄と交流を開始した。

 以上、オクトが祭りを回る話とその後日談でした。数回に渡る長い話、ここまでお付き合いいただいた方ありがとうございます。


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