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不思議な図書館  【8/22】(アリス視点)

 ものぐさな賢者で、オクトが魔法学校に入学し図書館を訪れたあたりの話です。視点は図書館の先輩である、アリス魔法学生視点です。あの日の図書館サイド側とオクトが図書館で働き始めたばかりのころの周りの反応といった内容です。



「これからたぶん子供たちが来るから、来たらわしの部屋まで通して欲しいんじゃけど」

「はい?」


 館長の言動が吹っ飛んでいるのは昔からだけど、唐突な言葉に私は反応が遅れた。

「あの……、入学式が終わったばかりなので、ここに来る子供は、かなり多いんですけど」

 今の時期、図書館の利用方法を知った新入生たちが、わらわらと押しかけてくるのは毎年の事。そんな子供を全員館長室に案内したら、パンクするに決まっている。

 そもそも、どうして今年に限ってそんな事を言ってくるのか謎だわ。また読み聞かせとか、何か企画しているのかもしれないけれど、館長室に招く必要はないし。


「ああ。すまんすまん。全員じゃないんじゃよ。カミュエル魔法学生という緑の髪をした子供と、ライ魔法学生という赤茶の髪をした子供が、新入生を数名連れてくると思うんじゃ。その子供たちが来たら、案内してやって欲しいんじゃよ」

「事前にアポがあったんですか?」

「いや。そんなもんはない」

 そんなものがないなら、どうして来ると言いきれるのだろう。

 皆は賢者だからで済ませようとするが、私は絶対何かからくりがあると踏んでいる。館長の頭がいいのは確かだけど、だからといって未来が分かるとかそういった類の頓珍漢な説を、私は信じていなかった。

 館長も謎だけど、どうしてそんな説を皆信じられるのかしら。


「それでも今年入学した、図書館利用が許されなかった子供は必ずくるはずじゃ。わしが会ってみたいのは、紫の瞳をした時属性の持ち主、ピンクの髪をした獣人の少女、茶色の髪の犯罪者の弟、そして金髪の混ぜモノじゃ」

「混ぜモノ?!それに時属性の持ち主って……」

 なんてレアな新入生。

 今までも図書館の使用を制限された魔力持ちの獣人は見た事がある。しかし混ぜモノも時属性も、図書館に勤めて長くなるが、初めてだった。


「是非とも一度会って話がしてみたくてのう。きっと君とも長い付き合いとなる子供じゃと思うよ」

 一体いつの間に新入生について調べたのかしら。

 もちろん館長は無駄に長生きな分、知り合いはかなり多い。だとすると、どこからでも情報は入ってくるか。特にそれだけ派手な特徴を持つ子供ならば、なおさら有名かもしれない。

「長くなるとはどういう意味です?」

「さあてのう。ただわしも少し長生きしすぎたと思っておるんじゃ」

「……少しどころではないと思いますけど」

 実際のところ館長が何歳なのかは知らがないけれど、500歳は超えているのは間違いないらしい。それどころか1000歳に近いのではないかという荒唐無稽な事を言うのヒトもいるのよね。長生きな種族のエルフや魔族だって、そんなに生きているものはいない。

 それを少し長生きと言えるのは、館長ぐらいのものだと思う。


「そうかのう。わしはまだまだ長生きする予定じゃからのう」

「一体、何歳まで生きるつもりですか?」 

 もちろん館長が長生きしてくれる事は喜ばしい事だ。なんだかんだと言ってこの館長から学ぶ事はとても多い。叶うなら、ずっと生きていてもらいたいと思っている。

 しかし現実的に考えて、それはそれでどうなのか。……若干化け物じみているわよね。1000歳なんて普通骸骨だ。


「年は数えておらんからのう。まあ言わば、永遠の100歳であるわしも夢が叶えば、それで満足じゃしのう」

 100歳はすでに結構な年齢で、若くないと思うんですけど。せめてそこは永遠の10代とか分かりやすく言って欲しい。人族なら100歳と言っても納得の外見だし、獣人族ならとっくに鬼籍のヒトなのだ。

 しかし私はあえてその言葉を飲み込んだ。いちいち付き合っていたら、話が進まない。

「叶えたいって、どんな夢なんです?」

 ヒトというのは、年をとっても夢を持っていられるものらしい。でも館長の夢は一体何なのかしら?ちょっと気になる。それが長生きしたい理由だとすればなおさらだ。


「な・い・しょ・じゃ」

「その喋り方、ウザイと思います」

 てへっといった様子で可愛い子ぶる館長をみて、私はこめかみを押さえた。ふわもこでぬいぐるみのような外見と定評される館長だけど、それとこれは別だ。尊敬しているので、できればあまり残念な姿を見せないで欲しい。……まあ、そんな淡い希望無駄だと知っているけどね。


「とにかく、アリス魔法学生。よろしく頼むよ」




◇◆◇◆◇◆




 まさか本当にやってくるとは。

 金髪の混ぜモノがやってきたのを見て、私はドキリとした。事前に聞いていなかったら、もっと驚いていたに違いない。

 館長が言った通り、カラフルな色どりの子供たちがカウンターの前に集まった。


「3年のカミュエルと申します。館長にお会いしたいのですが」

 どうやら緑色の髪をしたこのカミュエル少年が代表のようね。

 混ぜモノや時属性は特殊過ぎるので、おいておくとして、獣人の子を図書館に招き入れるのは、実のところあまり嬉しくない。もちろん全ての獣人の手癖が悪いとは言わないし、獣人族といっても色々ある。しかし今まで図書館で受けた被害を考えると、どうしても差別的な考えが浮かんでしまう。

 図書館は中立。そうあり続けたいのならば、例え獣人の子でも対等に扱わなければいけないのも分かっているんだけどね。それに館長もちゃんと招き入れろと言っていたわけだし。


 意識を切り替えてカウンターから立ち上がると、ギュッと何かを握らされた。

 ……賄賂か。くれるというのなら、ありがたく貰っておくけど、賄賂を差し出すぐらいなら、事前にアポを取ってみれば良いのにと思ってしまう。もともと館長が会いたいと言いだした事なので、例え獣人相手でも、私がここで止めたりすることはありえない事だ。

 そもそも、賄賂を貰ったって、館長が拒否すれば私達は決して取り次がない。ここは館長の意思を第一とした中立の場なのだ。


「どうぞ。ご案内します」


 まあそんな事わざわざ教えてはあげないけど。無駄な賄賂ありがとうねと心の中で呟く。

 そんな中、私の手を凝視する混ぜモノの子の視線に気がついた。

 何だかショックを受けているような表情だけど……もしかして賄賂を渡している事にショックを受けたのだろうか。もしそうだとしたら、どれだけ潔癖な国の出身者なのだろう。

 図書館では無駄の産物でしかないが、この国ならば別にそれほど驚くようなものでもない。それにそんな国の方が普通だと思うけれど。

 もしくは混ぜモノなだけあって、結構変わった身の上の可能性もあるわよね。

 とりあえず、館長が長い付き合いになると言っていたし、色々観察してみようかしら。そう思いながら、私は館長室へ向かった。




◇◆◇◆◇◆◇ 




「それは、違う」

「はあ?何が違うって言うんだよっ!」


 ああ、また激しくやりあっているわね。

 新しく図書館のバイトをする事になった、ツンデレ君と混ぜモノちゃんはどうにも相性が悪かった。どちらかというと、ツンデレ君が一方的に混ぜモノちゃんを虐めているのかしら。まあ、混ぜモノちゃんも意外に頑固だし負けていないんだけど。


 館長室に子供たちを招いて数日後。

 時属性の少年であるコンユウと混ぜモノの少女のオクトが、図書館のアルバイトに加わる事になった。普通なら、ただのアルバイトだって、試験があるのに、館長の一存で決めてしまうなんてかなりの特例だ。特にコンユウはまだ1年生。魔法の理解度の問題で、普通は3年生からしか雇わないから特例中の特例と言ってもいい。

 ……一体、何を考えているのかしら。

 特に館長はこの2人を定期的に館長室へ呼び出す。もちろん私達だって定期的に館長との面談があるので、入らないわけではないけれど、彼らの回数には遠く及ばない。

 誰から見ても、明らかな特別扱い。


「かと思えば、仕事は普通だし」

 館長が仕事内容で口を挟んできたのは、できるだけ2人をペアにする事のみ。後は普通に新人アルバイトがやる事と同じ内容だ。ゴミ捨てとかそういう雑務も免除にはならない。ペアにするのだって、2人の仲が業務に支障をきたしかねないほど悪いから、仲良く協力できるよう努力しなさいという意味合いでだ。

 もしかしたら館長は2人を図書館の後任者として育てようとしているのかもしれないと思ったが、それにしては、そういった方面にはあまり力が入っていない気がする。でもあの時、自分が年をとったとか、気弱な事もいい出しているのよねぇ。もちろん仕事内容まで贔屓が出たら、他のアルバイトの子だっていい気がしないだろうし……。


 んー。謎だわ。

 今の状態だと館長の思いつきで、自分と同じ属性の子供と混ぜモノを観察してみたくなっただけの可能性も捨てきれない。私だって魔法使いの端くれ。時属性とか混ぜモノとか、気にならないわけじゃないわけで。

「アリス先輩。何とかして下さいよ」


 ぼんやりと喧嘩し合う2人を見ていると、後輩のシャオロンが助けを求めてきた。

「貴方の方が先輩なんだから、注意してあげれば良いじゃない」

「だって、混ぜモノですよ。危険じゃないですか」

「ふーん。私は危険にさらされてもいいのね」

「そ、そういう意味じゃないですけど……」

 シャオロンは意地悪く言い返した私に少したじろぐと、しぶしぶ2人の喧嘩を止めにいったようだ。

 確かシャオロンは黄の大地出身だったはず。黄の大地は、表向き歴史の中で、混ぜモノが最後に暴走をした地域となっている。だとしたら、この国生まれの私よりも、混ぜモノは危険だと教え込まれているのかもしれない。

 

 もちろんすぐに恐怖はぬぐえないだろうけれど、これから一緒に仕事をしていくならば、ちゃんと克服してもらわなければ困る。

 特にこの混ぜモノちゃんは、たぶんかなり大人しい部類なので、慣れるには最適な人材だと思う。コンユウが混ぜモノちゃんの逆鱗に触れない限り、彼女はとても従順だし真面目だ。少々無口な所もあるけれど、必要な事はちゃんと聞いてくるので、その点は偉いと思う。分からない事は聞くというのは当たり前だけど、中々これができない新人というのは多いのよね。

 確か8歳のはずだけど、どこかで仕事の経験があるのかしら?でも普通奉公するのは10歳からよねぇ。


 必要最低限の履歴は貰ったが、細かな事は記されていなかった。まあ、私もいい経験よね。

 もう少し積極的に関わっていこうと私は決めた。 

 以上、相変わらず館長は謎なヒトという話と、オクトが図書館業務をしている時にあまり他人と関わっていなかったので、少しどんな立場にいるのかという補足的な話でした。

 最初は怖がられていたオクトですが、1年、2年と経つうちに、ちゃんと打ち解けていき、普通に後輩として扱われるようになります。


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