前途多難なクラブ活動 【7/28】(ミウ視点)
ものぐさな賢者の学生編で、オクトが9歳ごろの、オクトファンクラブの小話です。視点は、ミウとなっています。
今回は、全く主人公が出てきておりませんのでご了承下さい。
「エスト、これはゆゆしき問題だと思うの!」
私は、エストの席まで行くと、彼の机を力いっぱい叩いた。私の様子に、エストは大きく目を見開く。他のクラスメイトも注目したけど、今の私には関係ないことだった。
「ちょっ。ミウ、落ち着いて」
「こんなの落ち着いてられないわ!私達、全く何も活動できていないのよ!折角、オクトちゃんのファンクラブを作ったのにっ!この間なんか、エルフ族のユーリ先輩ファンクラブに鼻で笑われたのよっ!!」
オクトファンクラブ。
結成して結構経っているけれど、加盟者は相変わらず私とエストだけの超弱小ファンクラブだ。私達だけしかオクトちゃんのいいところを知らないというのはちょっと気分がいいが、馬鹿にされるのはいただけない。
「あー……。それでこの間、取っ組み合いの喧嘩になってたんだ」
「私にかかれば、口ほどでもなかったけどねっ!」
「いや、拳で勝ってどうするのさ。というか、ミウ。オクトの前で猫かぶり過ぎでしょ」
「別に被ってないもん」
獣人は暴力的だって陰口をたたくヒトもいるけど、私だって好きで喧嘩しているわけじゃない。相手が、私やオクトちゃんの事を馬鹿にしてくるのが悪いのだ。生まれしか自慢できない、へなちょこ魔法使いのくせにっ!
その点、オクトちゃんはそんな酷い事を言ってくる事はないので、私は女の子らしくいられる。決して猫を被っているわけじゃない。
「あーもう。今思い出しても、腹が立つ!!」
「見た目はウサギなのに……あの時、取っ組み合いで見せた蹴り。肉食獣のようだったよね」
「確かに耳はウサギっぽいかもしれないけど、別に私の親がウサギじゃないからね」
「分かってるよ」
苦笑しているエストを見て、私は少しだけ落ち着こうと深呼吸する。
エストはあのヒト達みたいに悪意を持って、ウサギに似ていると言っているわけではない。ただ魔法使いの中には、魔力の低い獣人を、畜生だと言って馬鹿にしてくるヒトもいるのだ。確かに私達ラビ族は、ウサギを聖獣としている。でも私達は、畜生ではなく、まぎれもなくヒトだ。
「って、そんな愚痴を聞いてもらいたいんじゃないの。私達はもっとちゃんと、クラブ活動をするべきだと思うの!これじゃあ、帰宅部と変わらないわ」
オクトファンクラブ活動計画は、オクトちゃんと遊ぶとか、オクトちゃんに勉強を教えてもらうとか、普通よりふれあいが多い内容となっている。……でも、これって別にクラブ活動じゃなくない?と思える内容だ。
「でも何するのさ」
「だから、それを考えるのっ!」
そうなのだ。とりあえず、ファンクラブを作ってみたは良いが、何をすればいいのかがさっぱり分からない。
ユーリ先輩は運動系の部活に所属しているので、その応援といったような活動がある。また他の先輩だと、先輩についてお茶会で語り合うとか、影からひっそり見守って、先輩に悪い虫がつかないようにガードするとかあるのだが、どれもオクトちゃんには向かなかった。
オクトちゃんの場合、放課後は運動系の部活ではなく、図書館のバイトをしている。静かにしなければいけないあの場所で、応援をしたら迷惑がかかってしまう。かといってお茶会で語り合うと言っても、会員はエストしかいないし、オクトちゃんのガードはすでにカミュエル先輩やライ先輩で十分な状態。一体この状態で何をすればいいのか。
「やる事ないなら、ファンクラブを止めれば良いだろ」
「絶対嫌。何処にも所属できなかったコンユウは黙っていてよ。とにかく、ユーリ先輩ファンクラブをぎゃふんと言わせる、大きな活動がしたいの!」
「俺は所属できなかったんじゃなくて、しなかったんだ」
「はいはい。2人とも、ここで取っ組み合いは止めてね。でも活動を続けるとなると、とりあえずメンバーを増やす必要はあるかもね」
「俺は入らないからな」
「私の方から、御断りよっ!頼んだって入れてあげないんだから」
ふんと、私はコンユウから顔をそむけた。
コンユウの事は別に嫌いじゃないが、ことあるごとに、オクトちゃんを馬鹿にするから、そこが腹立つ。オクトちゃんが、コンユウに何をしたというのか。
「だから、喧嘩しないでって言ったよね。するなら、外でやってよ。ほら、もうすぐ授業が始まるから、席に戻って。オレも少し考えてみるから」
確かにもうすぐ授業が始まってしまう。エストに言われ、わたしはしぶしぶ、自分の席に戻った。
◆◇◆◇◆◇
「確か、ミウは絵が上手かったよね?」
「へ?」
放課後になってエストと再びファンクラブについて考える事になった。
しかしエストから言われた言葉に首を傾げる。ファンクラブ活動と、絵を描く事が上手い事の繋がりが見えない。
「まあ。下手じゃないとは思うけど……」
「ミウの友達が、この間褒めてたじゃないか」
「あー。アレね。絵は好きだけど、あれは故郷で流行っている本の絵を描いただけだよ」
この国に来て、絵本の絵とかが、自分の住んでた国と違う事に気がついた。どちらも可愛いイラストだけど、微妙に違う。
この違いは、特に人を描いた時がより鮮明に出るかもしれない。どうも私の国の絵は、人の目を大きく描く。もちろんただ大きいだけじゃ変なので、しっかりとバランスをとるのだけれど、明らかに現実より大きく、見たままを描くこの国の絵とは違う。
ただ絵の描き方なんて国によって違うし、青の大地から来た友達の絵の方が、もっとこの国の絵と違い、とても個性的だった。
「ちょっと考えたんだけど、オクトは混ぜモノだからヒトがあまり近寄らなくて、いい所を知ってもらう機会が少ないんだよね。まあヒトが近寄らないのは、あながち混ぜモノだからというだけでもないんだけど」
「うん。それで?」
確かにオクトちゃんの良さを知ってもらうにはオクトちゃんを見てもらうのが一番だ。でもオクトちゃんはあまり前にでて何かをするタイプじゃないし、エストが言う通り混ぜモノという事もあって、中々近づきにくい。
「だからオレ達がオクトを宣伝したらどうかな?」
「宣伝?」
「そう。ミウがオクトの絵を可愛く描いて、皆に可愛さをアピールする。オレはオクトが今までやってきた凄い事を文章にして、それを皆に知ってもらう。もちろん絵や文だけじゃオクトのファンになってはくれないかもだけど、興味は持ってもらえると思うんだ」
なるほど。
オクトちゃんの素敵な所をアピールかぁ。オクトちゃんを絵に描くのは、既存のキャラクターを描くよりも難しいとは思う。でもそれはとても楽しそうだ。
「私は良いけど、エストは大丈夫なの?」
私の場合は、絵を描く事は嫌いじゃないし、オクトちゃんを何度も描いて練習すれば、何とかなるだろう。でもエストの場合は、オクトちゃんの今までの事を文章にするのだから、色々調べなければならない。恥ずかしがり屋なオクトちゃんの事だ。素直に今までの活躍を話してくれるとは限らない。
むしろ気がつけば、オクトちゃんの義父様について自慢されてそうだ。オクトちゃんの凄いの基準はどうもアスタリスク魔術師というヒトらしい。オクトちゃんの魔法も凄いはずなのに、なぜかいつも『アスタに比べたら全然』という話になる。
「うん。オクトとは付き合い長いから、結構色々知っているし大丈夫。それに、ライさんはオクトの幼馴染だからね。色々聞くとオクトの小さい時の話を教えてくれるしね」
「……何ソレ。自慢?」
オクトちゃんの小さい時の話。そんなの、凄く聞いてみたいに決まっているっ!!
以前オクトちゃんに小さいころの話を聞いたら、普通だったとか、旅芸人に所属していたけど役立たずだったとか、絶対嘘だと思うような話しか返ってこなかったのだ。
嘘と言い切るのは駄目かもしれないけど、でもあのオクトちゃんが普通とかありえない。
「自慢……かな?」
「きぃぃぃっ。ムカつくっ!!」
「ああ。ごめん。ごめん。ほら、カミュエル先輩から聞いた、オクトが歌姫だった時の話を教えてあげるから」
胸ぐらを掴むと、エストが笑いながら手を上げた。その余裕な所が、ムカつく。ムカつくが……。
「むぅ」
聞きたいという欲望に負けて、私は手を放した。
だって、歌姫って何って感じだもの。オクトちゃんが素直に話してくれるとは思えないし。
悔しい。悔しいけど、まだエストの方がオクトちゃんとの仲良し度が上なのだ。高々数年出会うのが遅かっただけなのに。
「むくれないでよ。オクトが、異界の歌を歌う奇跡の歌姫って呼ばれた時のとっておきの話を教えるからさ」
「えっ?!何ソレ。どういう事?!」
奇跡の歌姫。
そのフレーズだけで心躍る。
いいもん。男は将来たった一人を選ばれて、後はサヨナラだけど、女なら旦那に疎まれる事もないし、一生の友達でいられる。
見てなさい。いつか、エストよりもずっとオクトちゃんの近くにいてやるんだから。
私はそう思いながら、エストの話に耳を傾けた。
以上、オクトファンクラブの活動が、段々おかしな方向へ向かっていった、過程の一部でした。
この後、2人は友達から徐々に布教活動し始めます。そして将来、この学校のファンクラブ活動は、イラストを描いたり、本やグッツを作ったりする事は当たり前となります。そこから2次創作が発生するといった様々な活動が広がっていくのですが、オクトがその事実に気がつくのは、もっとずっと先という……。