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隣の部屋なエルフさん【4/6】(エンド視点)

 この話は、アスタリスクの隣の席で仕事をし、なおかつ隣の部屋で生活する腐れ縁なエルフさんの話です。

 時間軸は、オクトがアスタの実家に初めて訪問する前後となります。

 ※ロリコンっぽい内容が含まれますので、そういったものに嫌悪感のある方はご注意ください。

 

 最近隣の席で仕事をする魔族が変である。

 いや、前から変ではあったのだが。娘が海賊に攫われ、戻って来てから、さらに変になった。ニヤニヤと笑ったかと思えば、せつなげなため息をつく。

 何があったのかは知らないが、正直鬱陶しい。


「はぁ」

「アスタ。お前はどこの恋する乙女だ」

 今すぐにでも花占いとかをし始めそうな様子に、鳥肌が立つ。へこまないし、傷つかないぐらい図太い神経の持ち主がセンチメンタルな様子を見せれば仕方がない事のように思う。

 正直――。

「気持ち悪い」

「……少しはオブラートに包めよ」

「包んだら、伝わらないだろ」

「人間関係というものはな、そういう些細な気遣いから初めて進展していくんだよ」

 人間関係云々についてはアスタには言われたくないので、私の表情が憮然としてしまったのも致し方ないと思う。


「オクトが帰ってきてすごい嬉しいんだけどさ。この後両親の所に連れていかなければと思うと……はぁ。それにもう一人厄介な奴に目を付けられかけているし」

「例の混ぜモノの子がか?」

「そう。うちの子可愛いから」

 今のはただ言ってみたかったんだな。言った後に、ニヘニヘとしまらない笑みを浮かべている。

 普通の奴ならこの親馬鹿めと思う所だ。しかしアスタが言うと、会った事もない混ぜモノの子供に同情してしまう。海賊に攫われた事で、一層コイツの独占欲が引き出されている気がする。


「そうか」

「そう。今朝もねパンケーキをあの小さな体で、一生懸命焼いていてくれたんだ。健気だろう?」

 健気というか……前も言ったと思うが、それは虐待に入らないのだろうか。

 自分と接点のあるエルフ族の子供は、獣人や人族と比べると成長が遅いので、余計にそう思うのかもしれない。エルフ族の5歳児は遊ぶ事が仕事である。

 混ぜモノという言葉はおとぎ話の中でしか聞いた事がないぐらい、有名だけど珍しい単語だ。普段は会わない存在なので、比較対象がいないのが悔やまれる。


「エルフの血が流れているんだ。少しは大切にしてやれ」

 同情はする。しかし会った事もない私がその少女にしてやれるのは、結局の所、アスタに忠告する事ぐらいしかなかった。




◇◆◇◆◇




『良ければ食べて下さい。いらなければ、捨てて下さい。アスタリスクの娘より』

 

 そんな手紙を見つけたのは、アスタが一週間の有給をとった翌日だった。部屋の前に置かれた食材を見て、そう言えばアスタの娘は料理が得意だったと言っていたのを思い出す。

 しかし、まさか玄関に食べ物を置くとは。とりあえず自分は食べ物を恵んでもらわなければならないほど貧窮しているつもりはない。ただ、悪気があったわけではないと言う事は手紙を見れば分かる。

 

 アスタの娘は確か5歳。それまでは旅芸人として生きていたと聞く。ならば文字などまったく書けなかったはず。

 手紙と呼ぶのはおこがましいぐらい短い文章で、お世辞にも上手とは言えない文字だ。しかし、一文字、一文字、相手に分かりやすいようにと、丁寧に書かれている。

「相手の事を考える、優しい娘なんだろうな」


 少なくとも、アスタならば例え貧窮している相手だろうとも、何かを恵んでやろうなどという愁傷な心がけはないはずだ。アイツの頭の中にあるのは、楽しいか、楽しくないかの2択のみ。楽しくないと思えば興味を示す事すらしない。

「……アイツが親で大丈夫だろうか」

 混ぜモノといえども、エルフ族の血を引く娘だ。同じ一族としては、悪影響しか及ぼしそうにない里親に預けておくのは、いささか心配だ。

 これでアスタが魔族でなければ、自分が引き取ってもいいと思えたが、生憎とアスタは魔族。さすがに魔族のものに手を出す面倒さを請け負ってもいいと思えるほどには思い入れはない。

 可哀そうだとは思うが、アスタは魔族の中でもマシな方だと思うし、運がなかったのだろう。


「さてそれにしても。どうするか」

 自分が作る料理は基本サバイバル料理ぐらいで、普段はほぼしない。そしてそのサバイバル料理は、緊急時用というだけあってあまりおいしいものではなかった。平常時ならば、あえて食べたいとは思わない。

 となれば、捨てずに済みそうなのは、そのまま食べられる物ぐらいか。全て捨てるのも忍びないので、フルーツぐらいならば食べておこう。他には何かないかと探っていると、何か調理したものも入っている事に気がついた。

「ケーキか?」

 箱の中に入った焼き菓子らしきものからは、甘い匂いがする。

 これならば切ってすぐ食べられそうだ。貴族であるアスタが美味しいと言うのだから、多少親のよく目があったとしても吐き出すようなものではないだろう。

 

 私は箱を持って、部屋の中に入った。




◇◆◇◆◇




「アスタ、結婚を前提にお付き合いさせてくれ」

 有給が終わり、ようやく仕事に復帰したアスタを見て、私は開口一番、コイツが休みの間ずっと考えていた言葉を伝えた。

 しかしアスタは聞くや否やざっと私から離れ、私の顔を凝視した。まるで未知の生物でも見たかのよう動きだ。

「エンド……いつまでも嫁を貰わないからまさかと思ったが。そう言う趣味だったとは」

「そう言う趣味?」

「悪いな。俺はノーマルなんだ。リストにしておけ」

「僕も男の子ですよっ!!」


 何の話だ?

 まわりを見れば同僚達も顔を青くしている。

「もちろん今すぐにとは言わない。文通から始めたいと思っている」

「文通?!」

 同僚のリストが素頓狂な声を上げた。そう言えば、リストは女癖が悪いと聞く。清純派な付き合い方は、理解できないのかもしれない。

「あー、お前の事は友人だと思っているけどさ」

「やはりまずはお互いの事を知るべきだと思うんだ」

「いや、もう十分知っているというか、俺は知りたくないと言うか――」

「私も彼女の事が知りたい」

「――はっ?彼女?」

 私は彼女がくれたプレゼントを思い起こし、切なくなった。ああ、あのケーキ、もう一度食べたい。


「幸い彼女はエルフ族の血も流れているから、民族主義な我が一族の反対も少ないだろう。いや、私が守って見せる」

 彼女と彼女の料理は。

「だから結婚前提でお付き合いをしたいんだ。義父さん」

「えっ。もしかして付き合いたいのって、アスタリスク魔術師の娘さんですか?」

「ああ。私は彼女に一目ぼれしてしまったんだ」

 

 アスタが有給をとった際に彼女がプレゼントしてくれたケーキ。

 真ん中に穴が開いており不思議な形状をしていた。一見それほど凝ったものには見えない形だ。しかし一口食べた瞬間、今まで一度も食べた事のないふわりとした柔らかい触感に私は心を奪われた。あんなケーキ、初めてだ。

「……よし、表に出ろ。ロリコン」

「私はロリコンではない。だから彼女が成長するまで待とうといっているんだ。幸い私の結婚適齢期はもう少し先だ。彼女が成人するまで待つ事ができる」


 老化が遅いエルフ族ならばこれぐらいの年の差は問題ない範囲だ。

「待つなっ!!今すぐお前はどっかの同族と結婚しろ」

「ちゃんとプレゼントも家の前に置いてきた。気にいってもらえるだろうか」

「話を聞けよ」

 今頃手紙を読んでくれているころだろう。花束は好きだろうか。何がいいのかよく分からな方ので、色々置いてみた。

 それにしても、考えれば考えるほど切なくなる。


「はぁ……」

「エンド魔術師、気持ちが悪いです」

 恋愛要素のなかった幼少編の裏では、実は妙なフラグが立っていたという話でした。

 この後このエルフさんがちゃんとオクトと出会えているかどうかは、実は学生編ですでにチラリと語られているという(笑)

 今後もまったく本編には関わってこない裏話ですので、ご了承ください。

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