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遭遇

2-14


 翌日以降も、佐虎野乃による久留井祥吾への、久留井誠一曰くの襲撃は続き、その姿を見る度に飛鳥川琉奈や松下綾は心の中でエールを送った。

 そうして日々は過ぎていき、日曜日がやってきた。


 休日ではあるものの、特に出かける予定もなく、出かける気もない飛鳥川琉奈はソファの上に寝転び、ぼんやりとバラエティ番組を見ていた。

「琉奈、ご飯食べてすぐに横になったら太るわよ」

「それって嘘らしいよ。右向きに横になると、消化の助けになるんだって」

「もう、ああ言えばこう言うんだから……」

 母の溜息に琉奈が楽しげに笑った時、不意に飛鳥川家のインターホンが来客を知らせる電子音を鳴らした。

「あら、誰かしら?」

「お前が頼んだダイエット食品が来たんじゃないか?」

 夫の意地悪な一言に、「そんなもの頼んでません!」と反論しつつ、琉奈の母が応答する。

「はい。……ちょっと待ってもらえるかしら? 琉奈、あなたにお客さんよ」

「え? あたしに? 綾?」

「ううん、久留井くんって男の子」

「男!?」

 琉奈より先に、父親が素早く反応する。

 父親は読んでいた新聞を折りたたみ、鋭い眼光と共に娘に問いかける。

「……彼氏か?」

「違うから。ただのクラスメイト!」

 否定したにも関わらず、「ホントか!? ホントにか!?」としつこく訊いてくる父を無視し、琉奈は玄関へと向かった。


 飛鳥川家の門の前にいたのは久留井祥吾、久留井彰、そして佐虎野乃の三人だった。

「ごめんね、突然押しかけて」

 側にやってきた琉奈に祥吾が謝る。

「ううん、構わないけど……。どうかしたの?」

「ちょっとアスカさんに訊きたいことがあって」

「訊きたいこと……?」

「とりあえず、あなたの家にお邪魔させてくれない? こんな所で立ち話もなんでしょ?」

 祥吾と琉奈の会話に、不機嫌そうな野乃が割って入る。

「野乃!」

「いいよ。確かにいつまでも外で話してるのもなんだし。上がって」

 琉奈の言葉に甘えることにした祥吾と彰は申し訳なさそうに、野乃は澄ました顔で飛鳥川家の門をくぐった。


 客人たちを自室に通し終え、飲み物などを用意するために一階へ降りてきた琉奈を待っていたのは、興味津々顔をしている両親だった。

「な……何?」

「琉奈、いつの間にあんな綺麗な子たちと知り合いになってたの!?」

「いったいどっちがお前の彼氏なんだ、琉奈!?」

 娘に詰め寄る両親たち。その姿に、ソファで寛いでいる琉奈の兄は深い溜息を零した。




 松下綾は駅の側にあるショッピングモールへと向かっていた。

 ファッション誌で見つけたワンピースが欲しくなり、小遣いをはたいて買うつもりだった。

 しかし、彼女の予定はすぐに変更されることになる。

「……あれ?」

 モールの入り口までやって来た綾の視界に、一人の男性が不意に飛び込んできたのだ。

 綾は彼の元に駆け寄り、その肩を叩いた。

「誠一先輩!」

「! あ……綾ちゃん。おはよう」

 肩を叩かれた瞬間、久留井誠一は警戒心剥き出しの表情を浮かべるが、自分に声をかけたのが綾だと分かった途端、その顔は柔和な笑みに変わった。

「奇遇ですね。朝から先輩に会えるなんて!」

「ホントだねぇ」

 心底嬉しそうに微笑む綾。

 誠一もまた笑顔を浮かべてはいるものの、その表情はどこか固い。

「綾ちゃんは買い物?」

「はい! 誠一先輩も買い物ですか?」

「いや、俺はちょっと遠出しに」

「どこに行くんですか?」

「えっと……その……」

 答えを言い淀む誠一。

 いつになく歯切れの悪い誠一の姿に綾は小首を傾げる。

 やがて、誠一はジーパンのポケットにかけている手を強く握り締めた。

「――綾ちゃん」

「あの、言いたくなければ言わなくていいですから」

「じゃなくて。もし良ければ、今日俺に付き合ってくれないかな」

「え?」

 突然の懇願に、綾は大きく眼を見開いた。




「で、あたしに訊きたいことって?」

 予め作り置きしておいたアイスティーを注いだマグカップを祥吾、彰、野乃に配りながら、琉奈が問いかける。

「ええ、それなんですけど。先週うちの本家でトコヨノ国に一緒に行った時のことなんですが」

「彰くんと一緒に行った時……って、お婆さんの魂と会った時だよね」

「え? あなた、この前のが初めてじゃないの?」

 いきなり話の腰を折った野乃を、「後で説明するから」と祥吾が窘める。

「……続けますね。その時のことなんですけど、僕たち、森林にいましたよね」

「うん。あのお婆さんが造った森林だよね」

「ですよね。でも、僕があの魂と戦っている時、途中で風景が森林から学校の教室に変わったんですよ。あの空間にいた三人のうち、僕は何もしていませんし、驚いていたようなので、老婆にとっても予想外のことだったと思うんです。……先輩、何かしましたか?」

 琉奈は顎に手を当て、当時のことを無言で思い起こしていたが、しばらくして、「あっ」と手を打った。

「あそこに行く前、トコヨノ国では魂の力が大きく作用するっていう資料をたくさん読んでたの。で、彰くんが戦ってる最中、あたしの魂の力はうまく使えないのかなって考えてて。それで、あの空間ってきっと魂にとって次男の言い空間だろうから、それを変えちゃえばこっちに有利になるんじゃないかと思ったの。で、あたしと彰くんの共通点ってので咄嗟に学校が思い浮かんで、そうなるようにずっと念じてはいたけど。それかな?」

 琉奈は淡々と話していたが、話の終わりに琉奈が祥吾たちに問い返した時、彼らは驚愕のあまり絶句していた。

「……えと、ヤバかった?」

「ヤバイなんでもんじゃないよ……」

 静かに答える祥吾。そして彼は琉奈の手を取り、

「すごいよ、アスカさん! トコヨノ国の魂が形成した空間を変化させるなんて! そんなことができる巫女なんて今までいなかったんじゃない!?」

「ですね。それにしても、魂の力を肉体にも分散させている人間に比べて、魂の力を純粋に自分の力として使えるトコヨノ国の魂の方が、基本的にトコヨノ国の空間に干渉する力は強いはずなのに。アスカ先輩はどうしてそんなことができるのでしょうか? 相当魂の力が強くないとできない芸当ですよ? そもそも、先輩は久留井と無関係の人間なのに」

「魂の力の強化……ってもしかして、アスカさんの本当のご両親が関係してるんじゃない!?」

 祥吾の指摘に、琉奈と彰が同時に「あ!」と声をあげる。

 と、突然バンッと何かを叩きつける音がして、琉奈たちの思考を一旦停止させる。

 音の原因は野乃で、彼女は話に加わることができない苛立ちから、テーブルを平手で叩いたのだ。

「ちょっと! 何のことか全っ然分かんないんだけど!? 分かるように説明してよっ!」

 怒りを爆発させる野乃。そんな従姉妹に、祥吾と彰は顔を見合わせ、溜息をついた。

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