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嵐前

2-9


「そういえば、さっき話しそびれたんですけど」

 放課後。新聞部が企画した、『学内のプリンス&プリンセス決定戦』のためのインタビューを行うために呼び出された、新聞部の部室前の廊下で久留井彰が口を開いた。

「何?」

「どうかしたの、彰?」

 側にいる兄の誠一、祥吾が尋ねる。

「本家に行った時のことなんですけど。僕、アスカ先輩と一緒にトコヨノ国に行ったんです。先輩に本当に巫女の能力が備わっているのか確かめるために」

「あれだろ、そこにいた老婆の魂から、お前そっくりの女に会ったことがあるって言われたって話だろ? それなら昨日、俺たちも恭子さんから聞いたけど」

 話のショートカットをしようとした誠一だったが、彰は「それもあったんですけど、違うんです」と否定し、話を続ける。

「僕は老婆が攻撃してきたので応戦していたんですけど、途中で周囲の風景が変わったんです」

「風景が変わった……?」

 自分の言葉を反芻する祥吾に、彰は「ええ」と頷き、更に続ける。

「具体的に話すと、老婆の魂が造り出した森林が、学校の教室に変わりました。こんなこと、僕は今まで体験したことないんですが、兄さんたちはありますか?」

 彰の問いかけに、誠一と祥吾は首を横に振る。

「んなこと一度もないよ。なぁ、祥ちゃん?」

「うん。トコヨノ国の魂が造り上げた空間を変えるなんて、よっぽど強い魂の持ち主じゃないと出来ない芸当だと思うよ。彰、そんな力あったの?」

「ありませんよ、そんなの。それに、僕はあの時戦闘に集中していて、学校のことなんて全く考えていませんでしたし、学校が僕の一番印象に残ってる場所とも思えませんし」

「じゃあ……琉奈ちゃんってこと?」

 誠一の一言に、祥吾と彰は沈黙する。

 長きに渡ってトコヨノ国と関わってきた久留井の人間ではない飛鳥川琉奈。

 彼女は久留井家の者ではないにも関わらず巫女の能力を得た上、トコヨノ国の魂を凌ぐほどに強い力を得たというのか?

 だとしたら、何故彼女はそんな力を得ることになったのか?

 一体彼女に何があったのか?

 疑問に次ぐ疑問に頭を悩ませる誠一、祥吾、彰の三兄弟の元へ、「お待たせしました!」と新聞部員の松下綾がやって来る。

「綾ちゃんも大変だねぇ、みんなからインタビューなんて」

 先ほどまでの険しい表情から一転、朗らかな笑顔で誠一が綾に話しかける。

「大変だけど、楽しいですよ。じゃ、せっかくなんで、三人は一緒にお願いします」

 三人は綾に促されるまま新聞部の部室へと入っていった。




 翌日になっても雨は降り止まず、自転車通学をしている琉奈や綾は、親に車で送ってもらい、登校した。

 土砂降りの雨は絶え間なく降り続け、その雨音は時折、談笑している生徒たちの会話をかき消すほどに激しく教室中に響き渡る。

「琉奈琉奈琉ー奈!」

 巨大な水溜りと化してる校庭を窓越しに見下ろしている琉奈に、綾が教室に入ってくるなり声をかける。

「お、おはよ、綾……。朝から元気だね」

 綾のハイテンションぶりに顔を引き攣らせつつ琉奈が言う。

「あのねっ、さっき職員室に行って、転校生の顔を覗いてきたんだけど、めっちゃ可愛いの! も、超っ絶美少女!! アイドルみたいだった!!」

 興奮気味に「なんでうちのクラスじゃないんだろう!?」と喚く綾を、琉奈は苦笑しつつ見つめる。

「朝からテンション高いね、松下さん……」

 遅れて登校してきた久留井祥吾が言う。彼の表情は暗く、かなりのローテンションだ。

「おはよう。どうしたの、祥吾くん?」

「昨日、兄貴と一緒にうっかり徹夜でプレステやっちゃってさぁ」

「なになに、エッチなやつ?」

「なんでそうなるの、松下さん!? ただのレースゲームだよ。兄貴はやり込んでるから上手くて、徹夜の変なテンションで挑み続けちゃって、気付いたら朝だよ……」

 げんなりしている祥吾に、琉奈と綾は哀れみの目を向ける。

「きっと久留井くんも転校生の顔見たら元気になるよ!」

「転校生? ああ、昨日話してた?」

「そうそう! もうね、有り得ないくらい可愛いの!! 目の保養になること間違いなし!!」

「へぇ。けど、俺は目の保養は必要ないかな。アスカさんと松下さんで十分だよ」

 穏やかな微笑みを浮かべて話す祥吾に、琉奈と綾は思わず赤面し、彼らの近くにいた女子生徒たちまで顔を赤らめ、祥吾に視線を送る。

「何だよ、その女たらし発言」

 いつの間にか朝練を終えて教室へやって来ていた秋川浩太が祥吾を睨む。

 浩太の中で、祥吾は完全に敵に戻ったようだ。

「おはよ、秋川くん。最近また当たりが強いね……。ていうか、今のが女たらし発言だと思うってことは、秋川くんはアスカさんや松下さんが側にいても目の保養が必要なんだ?」

「え!?」

 想いもよらない祥吾の逆襲に浩太がたじろぐ。

「そ、そんなこと……俺だって、アスカがいれば目の保養なんて……」

「浩太、キモい」

「あたしはぶさいくだっての!?」

 更なる琉奈と綾からの攻撃でますます後退する浩太に、祥吾が思わず苦笑してしまった。

番外編的短編小説を書いてみました。

浴衣と神輿と寂しい笑顔 http://ncode.syosetu.com/n8885v/

転校初日の久留井三兄弟 http://ncode.syosetu.com/n1198u/

久留井三兄弟のお引越し http://ncode.syosetu.com/n1078u/

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