表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/49

決意

1-20


 久留井家の人々は、祥吾に連れられてやって来た、目を真っ赤にした琉奈を暖かく自宅へ招き入れた。

 優しく、一体何があったのか問われ、琉奈は少しずつ、ゆっくり話し始めた。

 自分が二歳の時にあった出来事を。

 父が酔った勢いで母を殺したこと。その父を、殺すつもりはなかったとはいえ、己が手に掛けたこと。やはり今の両親は本当の親ではなかったこと。

 飛鳥川夫婦から知らされた真実の全てを彼らに話した。

 彼らは黙って琉奈の告白に聞き入った。

「てことは、やっぱりあの二つの魂は琉奈ちゃんのご両親のものだったんだね」

 全てを聞き終え、誠一が言う。

「ですね。先輩に攻撃を仕掛けたのが父親の魂で、あの時僕らをトコヨノ国から脱出させたのが母親の魂と考えるのが妥当でしょう。父親の魂は殺された恨みから先輩をトコヨノ国に引きずりこんで殺さんとし、母親の魂は先輩を守るためにトコヨノ国から脱出させていた。そういうことでしょうね」

「飛鳥川さんはどうしたい?」

 祥吾の言葉に琉奈は首を傾げる。

「君の父親の魂をどうしたいかってこと。俺たちは父親の魂を散らすことができるけど、君の父親の人格が魂に存在している以上、君の許可なしに散らすことはできないから」

「散らして欲しい」

 琉奈は即答した。

 一切の逡巡のない返答に、久留井家一同は少々面食らう。

「話してるうちに落ち着いてきて、冷静に考えられるようにんったんだけど、自分の本当の親とはいえ、人殺しのろくでなしに成り下がった人間の魂なんだよね。それなら、他の魂の為になるように散らしてしまった方がいいんじゃないかなって。

 正直、穂積悟が本当の父親って言われても実感がないの。あたしの両親は今あたしが住んでる家にいるし。あたしが穂積悟を殺してしまったっていうのはショックだし、彼に殺されても仕方ないのかもしれないけど、あたしはまだ生きたい。殺されないで済む方法があるのなら、そっちを取る」

 琉奈がきっぱりと言い放つ。

 その言葉は全てが揺るぎない強さを持っており、迷いなど欠片もないことが伺えた。

「琉奈ちゃんがそこまで言うなら、俺らは協力すうしかないな」

「だね。力になるよ、飛鳥川さん」

「僕たちが全力でサポートしますよ」

 三兄弟の力強い申し出に、琉奈は「ありがとう」と、ようやく彼らに笑顔を見せた。


「……それで、いつ父の魂を散らしてもらえるんですか?」

 琉奈の素朴な質問に、それまで頼り甲斐に溢れていた三兄弟は一様に、石化したように動かなくなってしまった。

「昔はね、現世の人間をトコヨノ国に送り込める、巫女と呼ばれる人がいたんだけどね」

 そう話しながら歩み寄ってくるのは、三兄弟の母である恭子だ。

 彼女が手にしているトレーには、緑茶とマドレーヌという不思議な組み合わせが人数分並んでいる。

「残念ながら、今はその力を持つ人がいないのよ」

「ということは、向こうがあたしを引きずり込むのを待つしかないってことですか」

 恭子の言葉の真意を察し、琉奈は肩を落とす。

「でも、できるだけのことはするから」

「そうそう! 俺も祥ちゃんも彰も側で、いつ引き込まれても対処できるようにするから!」

「はい。ありがとうございます、先輩」

 琉奈は微笑むが、どこか不安を残した笑みだ。

「……あら、もうこんな時間。どうする、飛鳥川さん? 帰るなら送らせるけど」

 恭子の提案に、琉奈は俯いて考えあぐねる。

 確かに三兄弟に送ってもらえばまだ十分安全な時間ではある。けれど、今は帰っても両親や兄の前でどんな顔をすればいいのか分からない。

「なんなら泊まってく?」

 琉奈の心中を察し、恭子が言う。

「……いいんですか?」

「服は私のでよければ使ってもらって構わないし、お風呂は……この子たちが使った後だから、シャワーでいいなら。遠慮することはないわよ」

「……じゃあ、お言葉に甘えていいですか?」

「もちろん! 子供なんだから、大人には甘えないと」

「大人ぁ? 恭子さんが?」

「少なくとも、あんたよりは大人よ、誠一。……あんた、飛鳥川さんのシャワー覗き見したりしたらダメよ?」

「そんな、するわけないじゃん! しないからね、琉奈ちゃん!」

 恭子の忠告を否定しつつ、思わず身構えた琉奈に弁明する誠一だが、恭子は更に追い討ちを掛ける。

「そう? あんたの本棚の奥にある本の数々を見る度に、あたしはあんたの性癖が心配で心配で」

「え? それはこの前クローゼットの中に移動させたはず――ッ!!」

 誠一は慌てて両手で口を塞ぐが、時既に遅し。

「彰、今度はクローゼットの中らしいわよ」

「ありがとうございます、母さん」

「なんっつー母親だ……」

 誠一の軽口に対して十倍以上の仕返しを成功させた恭子を見つめ、祥吾が呟く。

「飛鳥川さん、こいつらは私が見張ってるから、安心してシャワー使ってね。親御さんには私から連絡しておくから。今日はここを我が家だと思って寛いでね」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ