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疑問

1-13


「変なことだらけ!」

 昼休み。

 綾は灰色の雲に面積の大半を奪われた空に向かって叫んだ。

 ベンチに腰掛けている琉奈も深々と頷く。

「なぁんか江田さんウキウキだし、アスカに対するいじめストップしたし、久留井くんと秋川は何やら話し合いしてたし。何がどうなって何が起きてるの!?」

 一頻り喚き終えた綾が琉奈の隣に座る。

「……浩太が久留井くんと話してたのは、多分あたしのことだと思う」

「アスカのこと? 何、二人でアスカの取り合い?」

「なんですぐ考えがそっち行くかな」

 苦笑する琉奈。だが、すぐに真顔になる。

「昨日ね、久留井くんたちと一緒にトコヨノ国に引きずり込まれたの」

「トコヨノ国って……アスカがいつも飛ばされるところだよね?」

「うん。でも、昨日はいつも飛ばされるところじゃなくて。別の魂に引きずり込まれたせいで、遊園地みたいなところだった」

「遊園地? アパートじゃないんだ?」

「そう。で、結構怖い目に遭っちゃって。久留井くんたちは慣れてるのか、へっちゃらな顔してたけど。それで、一人で帰る気分じゃなかったから、浩太と一緒に帰ったの。浩太に心配させないように普通に振舞ってたつもりだったけど、モロバレだったみたい」

「そっか。それで秋川は何があったのかって久留井くんを問い詰めたってことね」

「多分そういうことだと思う」

「ていうか、そういうこと」

「「!!」」

 予期せぬ第三者の声に琉奈と綾は飛び上がる。

「お、驚かせないで下さいよ、先輩!」

 目論見どおりの展開になり、満足げに微笑む久留井誠一に琉奈が抗議する。

 しゃちほこ張り、「こ、こんにちは、誠一先輩!」と声をかけてきた綾に、誠一は「こんにちは、綾ちゃん」と笑顔で返す。

 彼を見つめる綾の瞳には巨大なハートマークが浮かんでいる。

「祥ちゃん曰く、かなりの剣幕だったみたいよ。アスカに何したんだ! って。ごめんね、昨日は怖い思いさせちゃって」

 頭を垂れ、謝る誠一。

 琉奈は「もう大丈夫ですから、頭を上げてください!」と慌てる。

「彰の奴がねー。一昨日の時点でちゃんと散らしといてくれたら、あんなことにはならなかったのに」

「散らす……?」

 綾が不思議そうに誠一の言葉を反芻する。

「悪い魂を退治することを、俺たちは散らすって勝手に言ってんの。俺らが倒したり。穢れが溜まって弾けた魂は消滅するんじゃなくて、細かく散っていくだけだからね。本来はその後、ただのエネルギー体になって、別の魂に吸収されたり、新しい魂を生むエネルギーになるんだけど、たまに一度分散しても、再び結合して魂としての力を取り戻す場合もあんの。だからいつも注意しろっつってたのにさぁ……」

 一通り説明した誠一は、不甲斐ない弟を思い出し、深い溜息をついた。

「まぁでも、どうにか倒せたから良かったけどね」

「……先輩たちはいつもあんな危険なことを?」

「まぁね。俺らは小さい頃からあんなことしてるから慣れてるけど、初めての人は怖かったよね。ホントごめんね」

「! いえ、そんな……」

「もうあんな目に遭わせたりはしないから。俺はもちろん、祥ちゃんも彰も気をつけるし」

 はっきりと明言する誠一。

 安堵の表情を浮かべる琉奈の横で、綾は嬉しさと悲しさが入り混じった複雑な顔で琉奈と誠一を見つめている。

「あ、祥ちゃんといえば。クラスでの嫌がらせは止まった?」

「え?」

 突然の、思いもよらない質問に、琉奈は唖然として誠一を見つめる。

「クラスメイトの子に祥ちゃんのことで嫌がらせされてるんでしょ?」

「ええ、まぁされてるといえばされてますけど。……あ、でも、今日は何もなくて」

「今日何もないってことは、きっともう大丈夫だよ」

「……それってどういうことですか? 先輩、何か知ってるんですか?」

 訝る琉奈に誠一は笑いかけ、彼女の肩をぽん、と叩く。

「祥ちゃんが説得したんだよ。近々一緒に出かけようっていう約束と一緒にね」

「「え!?」」

 琉奈と綾は顎が外れんばかりに大口を開け、目を瞬かせる。

 誠一はそんな二人をよそに、話を続ける。

「説得っていうか、いじめってカッコ悪いよね的なことでも言ったんじゃないかなぁ。祥ちゃん口が達者くんだから、そのあたりうまいことやったんだと思うよ。それプラス、一緒に出かける約束を取り付けることで、江田さん……だっけ? 祥ちゃんは私が好きって彼女に思い込ませて、彼女の目を琉奈ちゃんから逸らせるって寸法」

「じゃあ、久留井くんは江田さんのことは……?」

 にんまりと笑みを浮かべ、ピースサインを作る誠一に綾が尋ねる。

 誠一はそのままの笑顔で「全然」とあっさり断言した。

「酷いって思うかもしれないけど、俺らとしては琉奈ちゃんには今回の件に集中して欲しいし、単純にいじめって大っキライだし。祥ちゃんの力で事態が好転するならやった方がいいって話になったの。まぁ、江田さんに叶わぬ夢を見せるのはちょっと可哀相だけど」

「久留井くんが江田さんを好きになることはないんですか? あの人、見た目結構可愛くて、本性知らない男子の中には恋しちゃってるのも何人かいるくらい――」

「絶対ないよ」

 誠一が言い切る。天地が逆さになっても不変だと言わんばかりの口吻で。

「祥ちゃんは誰に対しても優しいけど、誰かを好きになることはないの」

「なんでそう断言できるんですか?」

「……それはいつか、本人が言いたくなった時に聞いてあげて」

 詳しいことは口にせず、ただ微笑む誠一。

 けれどその笑みはどこか寂しげだった。




「……アスカ、ごめん」

 昼食を終え、教室に戻る途中。綾はそう言って足を止める。

「え? 何が?」

「アスカのメアドと番号、あたしが誠一先輩に教えたの。聞き忘れたから教えてって。江田さんのことも、昨日誠一先輩と電話した時、心配過ぎてつい喋っちゃって……。先輩たちがあんな行動に出るとは思わなかった。……嫌な気分になったよね?」

「……正直言うと、江田さんとのことに介入されたのはいい気分じゃないけど、いじめが止まること自体はありがたいことだし。だいたい、綾のことを怒ったりはしないよ」

 しょんぼりと落ち込み、俯く綾に琉奈が語りかける。

 更に歯を見せて笑いかけ、綾に対して不快感がないことを強調する。

 その笑顔に綾もようやく胸を撫で下ろした。

「にしても、久留井くんが誰も好きにならないってのはなんでだろうね? あれだけカッコイイならより取り見取りだろうに」

「なんでだろうね、ホントに?」

 綾の問いかけに、先ほどの誠一の言葉を脳裏で反芻させながら、琉奈は首を捻る。

「心に決めた人がいる、とか?」

「それだと誰かは好きってことでしょ。誠一先輩は誰も好きにならないって言ってたから、それはないんじゃない?」

「だよね……。何だろ? トラウマ的な何かがあったのかな?」

 いくら話し合ったところで結論は出ず、二人はただ首を傾げるしかなかった。

番外編的短編小説を書いてみました。

転校初日の久留井三兄弟 http://ncode.syosetu.com/n1198u/

久留井三兄弟のお引越し http://ncode.syosetu.com/n1078u/

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