ある夏の夜の恐怖
ある夏の日。
廃墟探索を趣味としている彼は、仕事の休みを利用して、某県にある廃病院を訪れた。
その病院は外科手術を専門にやっていて、とある医師による重大な医療ミスで患者の死亡事故が起こり、それがきっかけで潰れてしまったという経緯があった。
とはいっても、「幽霊が出る」といった噂はない、ただの廃病院だ。
いつものように廃墟内を巡り、一定の満足感を得て帰宅した。
築50年の古びた安アパート。
1DKの一室が、彼の家だ。
カップラーメンで夕食を済ませ、シャワーを浴びて寝間着のTシャツを着る。
いつもと変わらない、ごく普通の日常だ。
寝る前にテレビでも見ようかと、リモコンのスイッチを押す。
テレビでは、心霊特番をやっていた。
「廃墟心霊特集 憑りつかれた訪問者」というタイトルのようだ。
廃墟という単語に興味を惹かれ、思わずじっと見入ってしまう。
「……ん?」
しばらくそれを見ていた時、息苦しさを感じた。
首を絞められるような、妙な違和感。
『憑りつかれた訪問者の末路は……』
テレビでは、霊に憑りつかれた男が首を押さえ、白目を剥いて唸るイメージ映像が流れている。
彼の背筋に、嫌な汗が流れた。
だが、今日訪れた廃病院は、心霊スポットなどではない。
自分が憑りつかれるなど、あるはずがない。
そう自分に言い聞かせながらも、だんだんと息苦しさが増している気がする。
彼は不安に駆られ、「自称霊感持ち」の友人に電話をかけた。
事情を話すと、友人はこう言った。
「……お前さ。さっきから、男の苦しそうなうめき声が聞こえてるぞ」
その言葉に、彼は慌てた。
どうすればいい、と友人に問う。
「とりあえず、部屋の四隅に盛り塩をしろ。それでもダメなら、明日、近所の寺に一緒にお祓いに行こう。お前、かなりヤバい状況だぞ」
電話を切り、台所から食塩を取って来て、小皿に盛る。
食塩なんかでいいのかという疑問はあったが、今はこれしかない。
部屋の四隅にそれを設置してしばらく様子を見たが、息苦しさは相変わらずだった。
『かなりヤバい状況だぞ』
友人の言葉が、より一層恐怖を増幅させる。
「明日、お祓いに行こう……」
そうつぶやき、歯を磨こうと、テレビを消して洗面所に向かう。
今日はさっさと寝て、明日起きたらすぐに友人を呼び、お祓いに行くと決めた。
鏡の前に立ち、コップに水を入れる。
ふと、鏡を見た。
「うっ!?」
鏡に映った自分の姿に、彼は思わず息を呑んだ。
彼は、Tシャツを前後逆に着ていたのだ。
夏なので、ホラー?な短編を書いてみました。




