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1 白き意思と聖剣儀式

俺に取っての正義とは何だろうか。彼に取っての正義とは、また彼に取っての正義とは何だろうか、俺はそのことを考え続けている。

雨が降っていた

燃え盛る一軒屋、女の亡骸が横たわる家の中で少年は祈った

勇者様が助けに来てくれるんだ!勇者様が助けに来てくれるんだ!勇者様が助けに来てくれるんだーー!

目の前にいた魔物は少年にさげすんだ目を向けると

「ばーか!勇者がここに来るわけねーんだよ!」

そう言って斧を振り上げる

「それじゃあ、ミンチタイムといこうか!おーらぁー!」

斧が降り下ろされようとしたときだった

「ぐがゃぁー!」

悲鳴をあげる魔物、見れば斧を持っていたほうの腕がスッパリ切断されている

目の前には剣を持った白い騎士がいた。

「消えなさい!」

騎士がそう言ったあと

シュ!

風を斬るような音がして、次の瞬間魔物がバラバラに両断される

あとには血と肉が残った。

その騎士は純白の全身甲冑を着ていた。フルメイルだ。

騎士は聞く

「大丈夫ですか?」と

「は、はい!騎士様!」

「ここは危ない。すぐに逃げなさい。」

「ありがとうございます!ありがとうございます!」

少年は何度も感謝し立ち去ろうとする。

「ちょっと待ちなさい」

それをひき止めたのはまぎれもない騎士本人だった

「はい?」

少年は不思議そうに返事をする

「この人たちを殺したのはあなたですね?」

目の前に転がる人間の死体を前にして

焦った少年は弁明を始める。

「えっと?えっと!それは!そこの魔物が!」

「違いますね。あなたのその腕まわりだけ多い返り血、そしてこの場に残された住人の遺体、この魔物が斧でつけたにしては傷口が小さすぎる。それに・・・」

すっ、と目にも止まらない速さで剣を振るい

少年のポケットを切り裂けば

ジャリン!

金銭が入った袋が落ちた

「これが証拠です。」

少年は言葉を失い。無言でうつむくとキッと目をつり上げて叫んだ

「い、生きるためさ!しょーがねーだろ!それに!どうせ魔物の大群が攻めてきてるんだ!一人や二人死人が増えたって変わりゃしねえよ!それどころか俺がこいつらの分まで生きてやるんだ!感謝こそされ恨まれる筋合いなんてないね!」

騎士は剣を握る手に力を込める。

「本性を現したか。」

「じょ、冗談、だよな?」

少年が後ずさる

「言い残すことはあるか?」

「あんた大人だろ!騎士だろ!大人は子供を守るものだ!」

「その子供の領分を踏み越えたあなたはもはや子供の物差しで計れるものではない。」

「そ、そん・・・そんなことで・・・ふ、ふざけんな・・・ふざけんなよ!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんなああああああああああーー!」

「私が・・・・・・冗談を言っているように見えますか?」

善意に溢れた鋭い二つの目が少年を見据えていた。

「俺は・・・俺は・・・子供だぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

騎士は胸の前に両手でつかんだ剣を持ってくると、縦にピンと剣先を立てた

剣のつかから剣先まで光が充満して最大の力を収束させていく

「亡き人々の無念を胸に死してわびるがいい!」

「光の剣、シャイニング・スラッシュ!」

「ぐぎゃああああああああああああああああああ!」

少年が圧倒的な聖なる力に斬り捨てられる

正義は成された。

剣をさやに納める。

「可哀想にとむらってやらなければ。」

騎士はそう言って少年に切り捨てられた無惨な女の亡骸を抱き抱えるといまだ戦火広がる町へとゆったりくりだしていった。

数十年前

王都の教会

「おお、今日この日に生まれたからには、この子は聖アカーテスの加護があるに違いない!」

両親たちに生まれを喜ばれ

3歳、異世界に転生した俺は新たな家族から新たな名を得た。

フレイルそれが俺の名だ。

さきぼど岩に突き刺さった剣に誓った。

剣に誓う。

前世では叶わなかった正義を示す。

今度こそ俺はこの世界で正義を成すのだ。

目指すは誇り高き正義の騎士。

儀式を追え、遠く田舎の村に帰ると

それから俺の過酷な日々が始まった。

毎日決まった時間に森でゴブリンを殺して回った。

ゲーム感覚だ。

ステータスの概念があるこの世界でなら俺は経験値として命を消費できる。

やつら大したことがない。まるで赤子に剣を振るっているようなそれくらい身体能力に開きがある。

「はぁ!やぁ!だぁ!」

ゴブリンたちはおもしろいように倒れ、まるで命を狩ることで敵の力をすいとっているような錯覚におちいる。

肉を斬り裂き、骨を引きちぎる。血を浴びて、敵を殺すたびに血がたぎった

「俺は強い!俺は強い!俺は強い!俺は最強だああああああああああ!」

そう自覚すると自信が我が身に肉付けされていく感覚になる。

震える腕にはわずかな罪悪感、剣の重みの鈍さ、得も言えない高揚感がにじみ出ていた。

血に染まった手を見つめる。

「邪悪な、俺は邪悪だ。これも人の持つ獣性か・・・だがこの歪んだ性質も正義のために使えるなら。」

そう考えしばらく気分が悪くなった。

最初はゲームなのだと思っていた。それがいつの間にか長い年月を経ていく内、罪悪感を覚え、リアルに置き変わったのだと思う。

だがゴブリンは魔物だ。人を襲い、殺す。

気にする必要はない。

圧倒的な数の優位を使い森の10割りを支配していたゴブリンたちを絶滅させた頃、10歳になっていた。

日課の訓練はここまでだ。

俺は荷物をまとめると騎士になるため王都に出向いた。

雨が降っている

王都に夢を抱いてやって来た。

雨だからか人の出が少ない。

無数の小国同士が一つにつながった巨大な国家、ここが王都シルキリア。俺が守る予定の街

到着すると住人たちの会話が聞こえてくる

「まったく、あんなに殺してどうする。」

「ああ、まったくだ。死体みたいな目して、ひでえことしやがる。勇者様がいたら違ったのかもな騎士団の仕事でお忙しいんだろう。どうだ?気を取り直して今晩酒でも」

「いいな。それじゃあ後で。」

住人たちの雑談から察するに処刑が行われたようだ。

嫌な気分になる。

とても精神的に貧しい街だ。これが王都とは信じられない。

街には貧しい人があふれている

スラムはもちろん、普通の街並みもどこか寂しい

それにしても勇者か、前世の記憶のある俺からしたら世間の人々から勇者様はヒーローだなんだ。といくら言われてもいまいちピン!と来ない。

ただ剣と魔法のうまい人くらいのイメージだ。それは英雄譚を聞かされたとてあまり変化はない。

ただ周囲が尊敬しているのだ。せめて敬意は払うことにしておこう。どちらにせよ俺のようなやつとは縁遠い話だから。

街をしばらく歩いていると岩の中央に聖剣エクスカリバーが刺さっていた。

王都の中心部に安置されたこの聖剣の岩、美しい剣だ。

俺はそれを横目に騎士の詰め所に入る

通路を通ると広大な訓練場にはすでに人だかりができており、これから同期になるだろう騎士学生たちが集まっている。

「フレイル!」

明るい声のしたほうを振り返ると見知った顔の女が鎧を着ていた

さっぱりした中程度の長さに束ねた髪、長身でスタイルもよく男受けのいい美貌を持つ麗人。

姉の女騎士エリシュだ。

俺よりも剣術に長けた尊敬できる凄腕の剣士。

「久しぶりエリシュ姉さん」

「ああ!よく来たな!元気だったか?」

「うん!」

「いま騎士たちは長期遠征で遠く城を出払っているが、戻ってきたらちゃんと礼義を尽くしなさい。皆、先輩になる方たちなんだから失礼のないようにしな。」

「はい!」

「おっと、そろそろ騎士長が現れるころか。」

エリシュ姉さんの言う通りベテランの風格ある騎士が現れる。

騎士長は一瞬俺のほうを見ると、すぐに視線をそらし見習いたちの前に立った

「皆よく集まってくれた。俺は騎士長のクルーズ。お前たちと共に戦える日を楽しみにしている。」

クルーズ騎士長の手短な演説が終わると

騎士学生たちがクラスにわけされるのは前世の学校と同じだ。

「エリシュ姉さん、それじゃあ!」

「ああ!頑張れよ!」

エリシュ姉さんと分かれてクラスで他の騎士学生たちと初対面する。

数週間が経過する頃、クラス内でいくつかのグループができあがっていく。

「フレイル元気してる?」

そう話しかけてきたのは勇者ロイド・ラフガディオ

伝説の勇者ラフガディオの血を引く男だ

性格がよく成績優秀、容姿も優れている。

孤立してる人にもたまにこうして言葉を投げ掛けて気にかけてくれる優しいやつだ。

彼は普段5人のメンバーに囲まれている

男は3人、ベンノ、ヨーアキム、セロン

女は2人、カルラ 、アーリー

みんなに囲まれてクラスの中心でわいわい騒いでいるそういう子だ

なんでも騎士学校に騎士の剣術を学びに来た勇者の血筋の者だそうで。

「あんなに人望があってかっこいいしすごいやつだよ。」

そう素直に関心する。

俺は、と言えば、グループに誘われたが断って他人と距離を置いた。

コミュニケーション能力乏しい前世の記憶を持つ俺はコミュニケーション能力が乏しいまま今の年齢を迎えたのだ。

改善できるよう努力はしたさ!そうして今がある。

授業前にトイレに行こうと廊下に出たときだった

「おい!どけ!」

ドン!と突き飛ばされよろめいて壁に手をつく

振り返ると男と目が合った

・・・。

「何見てんだよ!」

・・・。

俺は何も言わず男が過ぎ去るのを待った

「はん、キモッ!」

そう捨てセリフを吐き男は行ってしまう

こ、こえええ・・・。

ウエイダー・ラフガディオ、意地の悪い男だ。

この男もラフガディオの血を引く者、つまり勇者だ。

ロイドと同じ実力者だが、ロイドとは違い才能はあるが努力をしない。

そのくせ実力だけは天性のものがあり結果は出す。

そんななんとも言えない憎々しいやつだ

性格がとにかく悪い、意地悪くて好戦的だ。

強力な魔法を使え。剣術もありえないレベルで強い

頭の回転が早く、知略に長け、スタイルもまずまず悪くなく、口もうまい。

強気で乱暴で悪ぶっていてズルや悪いことはするが要領がよく。うまいところだけ食べていくそういうタイプの人間だ。

仲間うちの評判は良い奴だが、こと自分に無関係な他人に関しては徹底的に冷酷な人間

実力だけは俺も大いに認めているのだが

悲しいかな俺が気に食わないようで目の敵にされ嫌がらせを受けているのだ。

バレないように軽度の暴行を受け、バレないように悪口を言われ、バレないようにものを壊され、隠され、汚され、そんなことを日々受けている。

ああ、酷い時には背中を針で刺されたこともあったな。

彼に取って取るに足らないただの遊び、ストレス解消、罪にならないギリギリのラインを行く男、そんなやつの蛮行を前に

キレそうな気分になるのを日々、悶々と我慢して送っていた。

これも騎士になるためだ。

我慢だ。卒業すればウエイダーとは別の配属になれるかもしれない。

騎士とは戦うことで高い地位を得た貴族、ということになっている。

クラスメイトの誰もが貴族になることを夢見るが

俺がなりたいのはそんな権力者ではない。騎士の権威と肩書を持ちそれを行使できる正義の使者だ。なんなら権威すらいらない。正義を行うのに便利だから騎士になるのだ

勇者と言えばこのクラスだけではない。

ほかのクラスにも勇者はいて全員伝説の勇者ラフガディオの血を引く腹違いの兄弟たち、それが十数人くらいいる。勇者候補だらけだ。

勇者ラフガディオと言えば絵本に出てくる魔王ゼロスと戦った伝説の戦士、皆が尊敬する人類の希望。

その血を引く子供たちは才能だけでなく優しく人格者が多い。と思う。

勇者の家系は自然と尊敬のまとになる

普通に生活しているだけでこんな声が聞こえてくる。

ロイドって素敵よね~。

窓辺で本を読んでなんて知的なのかしら、まったくだわ~。

とロイドの親友の女子カルラとアーリーが雑談しているのが聞こえた。

2人ともクラスで1,2を争う美少女だ

「カルラはロイドのことが好きなのね。」

「アーリーこのことは秘密だからね!」

「えーどうしよう!」

「もうう!」

茶番、自分には一切関係なく特定の人間だけが人気者として優遇されていく。

目を覆いたくなるような茶番のような現実が繰り広げられていく。

ロイドに恨みはないが羨ましくないと言えばウソになる。

だがロイドはいいやつだ。陰ながら幸せを願っている

剣術の訓練時には

「さすが勇者の血筋、ロイドさんすげえよ!3人をあんなあっさりとのしちまった!」

「ははっ!ナイス!ロイド!」

「いいぞ!」

「さっすが!」

ロイドの親友の男子たちベンノ、ヨーアキム、セロンと笑顔でハイタッチしている

「クラス内で対等にやりあえるのは同じ勇者のウエイダーだけだな!」

等々、称賛の声でにぎわう

俺は隅のほうで誰に何を言われるでもなく黙々と剣を振った

騎士になれさえすればいいのだ。無理に関わる必要はない。

それに騒がしいのは苦手だ。他人は俺を傷つける。そういう生き物だ。

その日の訓練が終わり酒場に飲みに行く

ロイドたちも酒場に来ていた。

カルラが言った

「ロイド!次いきましょう!次!」

仲間の騎士学生たちがそう騒ぎたてれば酔った勇者ロイドは

「いいね!行こうか!」

そう言ってドカドカと木製の床を歩いていく

酒に酔ったカルラは言う

「ロイドってまるで女の色気と男と雄々しさをかねそなえてるみたいです。」

「ふふっ、こんばん試してみるかい?」

「いやだあー!きゃぴきゃぴ!」

そう言ってカルラを誘惑する。その一方でアーリーが酔いながらロイドの腕に抱き着く

「だーめ!ロイドは私のものなのー!」

「ええっ!困るよ。アーリー。」

そう言いながらロイド自身、顔まで真っ赤に赤面させているがまんざらではないのかうれしそうだ。

俺は視線をそらしてチビチビと氷水を飲んだ

ウエイダーが男連中と大いに盛り上がっている。

気にくわないがやはり奴も一角の人間ということなのだろう。

認めねばなるまい。人を引き付ける強いカリスマ性を持っているのだ。

顔に水をかけられたのでハンカチで拭く

思えばあれから3年がすぎた。

その間、学園生活は地獄だった。

ひたすらウエイダーにいじめられて3年が経過し、13歳になった。それは訓練が3年目を迎えたことも意味する。

ゴブリンを狩り続け強くなった気になっていた

ウエイダーは俺の努力をたやすく超える実力を示し格の違いを見せつけた

そうして君臨すると思うがままに俺をいじめぬいた

ウエイダーは言った。

「謝罪しろ!謝罪!」

「は・・・はい・・・。」

俺は地面にはいつくばると意味もいわれもない謝罪をするために地に頭をこすり付けた

全身が恐怖で震えている。

悔しさと悲しさが押し寄せるようだった。

暴力を振るえば退学だ。手は出せない。

「どうして、どうして、」

それでも頭を下げなければまた殴られる。

それも周囲にバレない程度に痛めつける形でだ

ウエイダーは言った

「どうしてお前みたいなクズがここにいるんだよ。俺らは勇者になるためにいるんだぞ!」

力を振るい他者を(しいた)げることを何とも思っていない。

他人の命を自分の物と思っている。

言い換えれば資源として考えている人間

自分のおこないを強者の特権と考えて疑わない傲慢な男が目の前にいた

だから俺はこう思った。

お前は勇者などではない。

勇者とは誰よりも強く、誰よりも自分を犠牲にし、人々を守る。

そして人の気持ちに寄り添える優しさと強さを持った高潔な存在だ!

お前は断じて勇者などではない!

とは言えなかった。

あいつが怖くて怖くてたまらなくてそんなこと言えなかった。

その頃には俺の中でウエイダーは恐怖の対象と化していた。

人を傷つけることをなんとも思っていない。

本人に言えばそんなことはないと否定するだろうが。

口先だけだ。行動がすべてを証明している。

少なくとも俺から見ればそう見えているのだ。実害も受けている。

それが動かぬ事実、俺にとってウエイダーはまるで怪物だった。

そんなこと思ってはいけない。いけないのだ。相手は人間だ。たとえ衝突しても冷静に話せばわかる。

そう思いながらウエイダーの獣性におびえる、いよいよ追い詰められ教師に相談してみることにした。

相談した教師は言った。

「ああいう振る舞いをするのは弱いからだ。だから一番守ってあげなきゃいけないんだよ。」

もっともらしいことを言って煙に巻いているのはすぐにわかった。

あんたいつも勇者、勇者言ってるじゃないか。勇者が弱いわけがない。

それに、その弱いやつにさんざん罵倒されていじめられてる自分は何なのか強い人間だとでも言うのか?

守られる存在ではないのか?

中世ヨーロッパ程度の文明レベルの教師にこんな先進的な人権意識をとやかく言うほうが馬鹿なのかもしれないが、どうにかしてほしかった。

いや、違う。現代社会でも同じような問題は起きているのだ。

またある教師は言った

「あの子たちは純粋なだけなのよ。」

純粋なだけでちっとも優しくなんてない。純粋だったら人を罵倒して死ぬほど追い詰めてもいいのか?

俺の不満が顔に出ていたのか教師は言った

「ならあとで決闘でもする?」

「いえ、それは・・・。」

怖い・・・。無理だ。この世界では暴力はいけないが、決闘は認められている。だが無理だ。怖すぎる

またある教師は言った

「ああ、いつものいじりでしょ?わざわざ止めるまでもないし。ああいう子なのさ。」

「そんな、なんとかしてください!」

「そういわれてもなぁ~。」

誰も理解してくれない。

やはりあいつは怪物だ。

他者と交友関係のない俺のつらい学園生活をさらに地獄にする魔物も同然の存在。

なぜやつが人の姿をして自分と同じ空間で勉学に励んでいるのかそれこそ疑問だ。

凶悪で凶暴な同期を同じ部屋に閉じ込めて学ばせようとするこの世の理不尽なルールとそれを作ったやつらを呪った。

人が醜いからそうなのだと人間そのものにすら絶望を思えてしまうほどの毎日だった。

その日、俺はトボトボと帰り道を歩いた

訓練のしごきでヘトヘトだった

「おらあああああ!」

「うっ!」

突然、誰かが後頭部を殴り飛ばされ地面に倒れた。ウエイダーだった。

「ぐあ!うあ!が!」

ウエイダーとその仲間たちの暴力が俺を襲った。

まるで訓練の憂さ晴らしをするかのような攻撃で俺の意識は薄れていく

こんな・・・リンチなんて・・・酷すぎる。

同級生の女たちが高笑いする声が響いた

顔は痛くない。

でも胸も腹も腰も背中も全身が痛かった

散々、痛めつけられ、酷く傷ついた俺はあてもなく歩き続けた

すると、すぐ脇道に見なれない教会を見つける

中に入ってみると後光の差し込む教会だ。

窓には聖人や聖なる神器、あるいは天使のようなもの、そう言った聖なるものをかたどったステンドグラスが輝いている

教会の最奥、主神パリョ・テオスを模した石造の前に膝まづく

神様なんて信じていなかった。でも、いまはとても疲れていて・・・心が疲れていて・・・。

祈りを捧げてみるのもいいかもしれないと思ったんだ。

「主よ。俺はもうダメです・・・。主、パリョ・テオスよ。お救いください。俺はもうダメなんです・・・。ダメなんだ。誰も・・・誰も助けてくれない・・・。助けてくれなかった・・・。」

絶望と苦痛で心が満たされていた。

生きているのがつらい。

もうダメなんだ。

終わりなんだ。

「あああああああああああああああああああああ!」

失意のどん底に落ちて、目をつむり耳もふさぎ、景色も音もすべてを拒絶したそのときだった。

「もし、どうかされましたか?」

顔をあげると

白いローブを着た女が立っていた。真っ赤な口紅が印象的だ。

「わたくしはアカーテス、もしよろしければお話を聞かせていただけますか?」

俺はつらかったこと、苦しかったことをすべて洗いざらいぶちまけた

彼女はつらかったね。苦しかったね。頑張ったね。

そう言って俺の頭を撫でながら慰めてくれた。

彼女の優しさが温かい力が体にわきあがってきて、心を包んだ。怒りが薄れ、悲しみが癒されていく。

俺のようなものにこのようなことをしてくれて何と慈悲深いお方なのだろうか。

俺はボロボロと泣きじゃくりながら言った

「アカーテス様、ありがとうございます・・・。」

「何かを成せとは申しません。ですが痛みを知ったなら誰かに優しくしてあげられる人になってあげてください。」

「はい!アカーテス様!必ず!」

「さあ、参りましょう。」

「はい!」

俺はアカーテス様の手を取ると共に歩き出した。

最初にアカーテス様から教わったこと

「貧しい人、傷ついた人を助けなさい。きっと救いになるはずです。」

夜、ロウソクの明かりの灯った家で怒声が響き渡る。

「おらあああ!」

強烈な蹴りが自分の肩を蹴りつけた。何度となく激痛が走る。

部屋の隅ではボロボロの母親が壁にもたれかかっていた

「いいからお前は!言われた!とおりに!酒を!買ってくれば!いいんだよ!」

「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」

目から涙がこぼれたが、それどころではない。

ウエイダーは両腕の中の弟を強く抱きしめた。

何度叩かれようと自分が母と弟を守らなければならない。

2人を守れるのは自分だけなのだ。

自分には、この怪物のような親父を怒らせず息を殺して、ただ嵐が過ぎるのを待つしかできなかった。

俺はウエイダーとロイド、それにクラスメイトたちと一緒に笑顔で剣術の稽古(けいこ)をしている。

互いに剣が上達していき仲良く剣術の話で盛り上がり

誰もが笑顔で幸せそうだった

気が付くと騎士学校の机の上だった

眠ってしまっていたようだ

夢の中で俺はウエイダーやロイドと楽しそうにしていた。

まさかあんな夢を見るなんて・・・。

俺は自分でも気が付かない無意識のうちにウエイダーやロイドと仲良くしたかったのかもしれない。

理想でありこんなものは幻想だ。

外はすでに暗く人の気配がなかった

「帰ろう。」

夜道を歩いていると通りの家の扉が勢いよく開く。

信じられないことに中からウエイダーが転がり出て来た。

見ればボロボロで顔には殴られた跡がある。

中年の男がウエイダーを突き飛ばし家から追い出したのを見てすぐに気が付く

両親に虐待されているのだと

ウエイダーがこっちに歩いて来る

ビクッ、と体がかたまった。

怖かった。

ウエイダーは地面を見ながら歩いて来ると俺に気が付かず行ってしまう

そんな彼を哀れに思った。

マスターアカーテスの教えのとおりエイレースケイアの教義に従えば彼を助けなければならない。

優しくしなければならないと思った

同時にウエイダーの真実を垣間見た気になった。

理屈はこうだ。

ウエイダーは自分がやられているから俺をいじめるのだ。

ウエイダーを守らなければならない。倫理観、漠然とした正義感が俺にそう言い聞かせた。

だが守るとはなんだ?

あの両親をどうにかすることは俺にはできない。どころか助けに行った俺のことをウエイダーは余計ないことをするなと敵視するだろう。

彼が可哀想だから俺は彼にいいように殴られ、馬鹿にされて、そうして彼の心を救えばいい。とでもいうのだろうか。

そんな話が通用するわけがないのだ。

彼が地獄なら俺もまた地獄

そのうえその地獄を作り出したのが当のウエイダー自身なのだ

多くの人々はウエイダーに全面的に同情するだろう。

だが少なくとも俺から見れば彼は絶対的な加害者であり、怪物にすぎなかった

それでも俺は味方になろうと思った。

思いはしたが具体的に何かできるわけでもなく。

俺はウエイダーをどうすることもできないまま、ウエイダーにいじめられ続けた。

可哀想だと思う気持ちは殴られたり罵倒されたり屈辱的なことをされるたび徐々に小さくなりその分だけ憎しみがつのって行った。

ある日、ロイドやウエイダーを含め俺たち騎士学生たちは街の中央、聖剣岩の前に集まった。

雨が降っていた

遠征に行った騎士たちもそろそろ戻ってくる時期だろうか。

そんな彼らにもこの聖剣は抜けなかった。

選ばれし者にしか引き抜くことができず、勇者にしか扱うことができないと言われる聖剣か・・・。

周囲には数百もの聖剣の出来損ないの準聖剣がいくつも突き刺さっていた。

聖剣に選ばれずともその力を扱う片鱗を持つものが準聖剣を手にし、聖なる武器を振るい魔と戦うのだ。

騎士の学び舎に来て数年、今日は聖剣儀式だ。

気が付けばエリシュ姉さんが来ていた。

「フレイル!」

「エリシュ姉さん!」

「これから聖剣儀式だろ?お前のことが気になってな。」

「そうでしたか。」

「剣に思いっきりぶつかって来い!」

「うん!」

エリシュから見れば、そこは、はい!と言えと言いたくなるが可愛い弟の無意識の甘えなのだと割り切ることにした。

聖剣に祈りをささげるのが騎士見習いの儀式。

ちょうど訓練3年目、記念すべき日に祈りをささげる習わしだ。

騎士長クルーズは聖剣に視線を向け、剣の前で膝を折る。

俺たちも騎士長に習い剣の前に片膝を付くと全見習い騎士が祈りをささげた。

・・・・・★○★。

堅苦しい祈りが終わると剣を引き抜けるか調べる儀式が始まる。

これを抜ければ血筋だけでなく正式な勇者になれるそうだが。

まずそんなことはありえないことも織り込み済みの儀式だ。

準聖剣ならまだしも聖剣はここまでの年月で抜けた者など一人もいない。

姉エリシュいわく街が巨人の襲撃を受けたときその巨人ですら抜くことができなかった代物だと聞く。

ほかの騎士世代にも勇者の血筋はいるが抜けないで儀式を終わらせたそうだ。

誰かが言った

「今年はロイドがいるしきっと抜けるだろうな。」

「どうかなああ~!」

「いいや、彼は人間の希望になるさ!」

ロイドに向けそんな称賛の声が聞こえてくる

「ウエイダー頼んだぜ!」

「デカいの頼んだぞ大将!」

「おう!任せろ!」

大きくわけて二つの勢力が騒がしい

同期の騎士学生たちが順に剣を引き抜こうとして引き抜けずにいる。

等々、俺の順番が回って来た。

剣に手をかけようとしたときだった

「なんだあれは!」

巨大な鳥の魔物がバサバサと羽を広げ空を飛んでいく

誰かが叫ぶ

「魔王ゲルマだと!」

魔王ゲルマ、その名を知る者は多い。別名、狂鳥ゲルマ。

邪教へキサセクスに所属する狂暴で獰猛な鳥の魔王だ。

クルウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!

咆哮するゲルマ

「わああああああああああああああああ!」

俺は悲鳴をあげて逃げた

そして振り返った

とにかくデカい

羽が8mくらいある。

ドシュ!ドシュ!ドシュ!ドシュ!ドシュ!と音を立て

ゲルマが体から奇妙な形の卵を打ち出す

「な、なんだ!」

卵から奇声をあげネチョネチョした粘液まみれの化け物たちが姿を現す

「ギシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!」

「う、うわあああああああああああああああああ!」

それも一匹ではないドンドン数を増やしていき

その中の一匹が民衆に襲いかかった

「わああああああああああああああああ!」

悲鳴があがり、それを皮切りに次々と襲いかかって来る

「こ、こいつら!わ、わ、わああああああああああああああああああああああああああ!」

「来るな!来るな!来るな!うわあああああああああああああああ!」

「ギシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!」

化け物の口の中にカルラが下半身を呑み込まれる

「ロイド!助けてえええええええ!」

「カルラ!」

慌ててロイドたちがカルラの手をつかむ

「いやああああああああああああああああ!いやああああああああああああああああああああああ!」

丸のみにされバリバリと食われていく

まるで悪夢だった

グシャ!

「うわああああああああああああああ!」

大量の血がロイドたちの顔面に降りかかった

奇声をあげる幼体たちに民衆も騎士学生たちも次々と殺害されていく

誰かがつぶやく

誰か助けてぇ。

誰かが何とかしなくちゃ!・・・俺が何とかしなくちゃ!

俺は無謀にもゲルマに向かって走った

「このおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

瞬時にゲルマの足が迫る!

運よく剣で受け止めるも

バキ!

大きな音がして

「うげ!」

のどから短い空気が漏れる。

気が付けば砂まみれで転がされていた

体感とは大きく違ってかなりの距離を蹴られたのか、事件現場の端の方までふっとばさている。

手を見れば剣は真っ二つに折れ

頭から血が流れてきていた。

「たすけてえええええええええええええええええええええええええええええええええ!」

また悲鳴が響き渡る

「大丈夫か!」

助けにこたえるように飛び出してきたのはロイドだった

はあ!

剣で幼体を1体薙ぎ払うが、

ダメだ。緑の血を噴射しただけで幼体は生きている

さらに果敢に戦いを挑む数名の騎士学生たちも

ゲルマが両腕を振るえば瞬く間に殺害されていく

「つ、強すぎるだろ・・・。」

尻もちをついておびえる騎士学生たちにゲルマはニヤリと笑い顔を見せる

人の血肉が飛び散る様を見て喜んでいるのだ。

クルウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!

騎士長が叫ぶ

「ロイド様!おさがりください!」

「騎士長!俺はロイド・ラフガディオ!代々ラフガディオの名を受け継ぐ勇者の子孫、決して逃げなどしない!」

俺は思った

人類の希望、名ばかりではない。彼は本当の英雄なんだ!と

ゲルマの前に幼体の群れが姿を現す

ギシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!

「来るなら来い!はあああああ!」

幼体の一撃を剣で受け止めはしたが

「う、うあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

すごい勢いでロイドが吹き飛ばされて壁に激突した。

凄まじい怪力だ

ロイドは頭から血を流しながら

「こ、こんなバカな・・・こんなやつ一撃で倒せるはずなのに!」

ギシュウウウウウウウウウウウウウウウウ!

化け物たちが迫る

「う、うう・・・。」

ロイドが倒れた。

傷をおって動けないのだ!

そう思ったがよく見ると俺と目が合った

「よ、弱ったふりをしている・・・。」

あのロイドが・・・命惜しさにやられたふりをしている・・・そんな・・・。

強い失望を覚えた

ギシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!

うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

叫び声がした。

声のしたほうを見るとウエイダーだった。果敢に立ち向かっていく

俺はやつの背中を見ていた。

たった一人であんな怪物に立ち向かっていく

ウエイダーのやつ怖くないのか?

な・・・なんで!なんで、こんな化け物相手に逃げないんだよ!

俺はそのときウエイダーをすごいと思った。

戦いを恐れたロイドよりもずっとすごい!

いつも強気な発言をしているやつだったが口だけではない。そう思った。

いざというときに臆せずこんな怪物に戦いを挑めている。

なんて!なんて!勇敢なんだ!

エリシュ姉さんが叫ぶ

「ウエイダー様!」

騎士長も叫ぶ

「我らも加勢しますぞ!」

「すまない!」

魔王ゲルマが威圧の咆哮をあげ突撃をしかけてくる

クルウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!

騎士長が叫ぶ

「ウエイダー様!来ますぞ!」

ウエイダーは余裕の笑みを浮かべて宣言した

「ふっ、魔王ゲルマ、すでに勝負は決している!」

そう言ってウエイダーは地面に刺さっていた聖剣に手をそえると

ま、まさか!

「はあ!」

聖剣をあっさりと抜き放った。

まばゆい白い光が周囲を照らす。

エクスカリバーが主である勇者に反応している!

「おお!なんと神々しい!」

騎士長もエリシュ姉さんも声をあげて感動していた。

「長きにわたる封印、このウエイダー・ラフガディオが祖先に代わり解き放った!覚悟しろ!ゲルマ!」

クルウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!

ゲルマが腕を振るうと凶悪な爪が聖剣とぶつかり火花が散った。

騎士長が叫ぶ

「すごい!鉄をも引き裂くと言われるゲルマの爪を受け止めたのか!」

「おらああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

聖剣を手にウエイダーがとびかかったときだった

ゲルマの口から炎が飛び出すとウエイダーの身を包む

「ぐおおおおわああああああああああああああああああああああああああああ!」

絶叫し、火だるまになって転がりまわるウエイダー、聖剣の光がウエイダーを守ってくれたがそれまでだ。

カランカランと聖剣が地面を転がっていく。

そのままウエイダーはぐったりと寝そべり動けなくなってしまう。

傷が深すぎるのだ。

「きゃああああああああああああああああああああああああ!」

「勇者様!」

「嘘だろ!」

戦いを見ていた民衆や騎士学生から悲鳴があがる

クルウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!

ゲルマの勝利を確信した咆哮が街中に響き渡たった。

「に、逃げろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「わあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

その声で我に返った民衆と騎士学生たちが一斉に逃げだしていく

ギシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!

そのあとを追うように化け物たちが逃げまとう民衆たちを襲っていき。

ついには俺たち以外、広場に誰もいなくなった。

いや、どこかから仲間の騎士たちが来てくれるはずだ。しかしそれまでもつのか?

そのとき、騎士長とエリシュ姉さんが叫びながら突撃していく

「ウエイダー様!お逃げください!」

「うおわ!」

ゲルマにあっさりと殴り飛ばされた騎士長をエリシュ姉さんが目で追う

「騎士長!」

そう叫んだ直後

「ぐはっ!」

エリシュ姉さんの胴体がわしづかみにされ、もちあげられていく

「くっ!離せ!」

手足をバタつかせ抵抗を試みるもビクリともしない

クルウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!

咆哮すると

「ぐはっ!ぼえ!」

エリシュ姉さんが羽の下に隠れていた丸太のような腕で何度も殴りつけられていく。

「姉さん!」

助けなきゃ。

そうは思っても怖くてそれを見ていることしかできなかった。

グッタリとして鼻から血を流しながらエリシュ姉さんは言う

「ぐえ・・・ふ、フレイル・・・逃げろ・・・。」

ゲルマは口を大きく開けると

う、嘘だろ!やめろ!

ゴクン!

姉を食べてしまったのだ

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

満足げな顔をしてゲルマはウエイダーを見ると

次の獲物を食い殺そうと歩み始めた。

俺以外でここにいるのは戦意を喪失したロイドと負傷したウエイダーくらいだ。

周囲には誰もいない。

味方はまだ来ない。

ギシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!

幼体たちがゲルマの前をガードするように歩き始めると

いよいよゲルマは羽を折りたたみもはや空を飛ぶ必要すらないのだと言わんばかりにゆっくりと歩く

「ロイド!」

「・・・。」

呼びかけるも反応はない。

意識はあるはずなのにだ

「ロイド!」

「・・・。」

「ロイド!」

「・・・。」

ダメだ。ロイドは立ち上がれない。怖いんだ。責められるものではない。

相手はあの化け物だ。熊なんて目じゃない。トラックよりも大きい、ほとんど怪獣じゃないか。

誰だって怖い。俺だって怖い!けれど泣きたくなる。

強くて優秀で彼からすれば酔狂だったとしてもほんの少しの優しさを持っていたロイドがおびえて動けないふりをしているなんて信じたくなかった。

ロイドはもうダメだ。俺はウエイダーに駆け寄った

「ウエイダー!しっかりしろ!」

「うう、お前・・・。」

ウエイダーの口からドロッとした血とよだれがしたたり落ちる。

「いつもあれだけ大口叩いてたろ!立てよ!どうしたんだ!ウエイダー!」

「うるせえ!・・・わかってんんんだよおおおお!このクソ野郎ううううう!」

ウエイダーはギロリと俺をにらむと震える足で立ち上がろうとして膝を付く

俺は心から一切の打算なく叫んだ。必死だった。

一瞬虐待されたウエイダーの姿を思い出し、それでも彼を哀れんだことを思い出し、そして彼を憎んだことを思いだした。

自分の中の倫理観と正義と、どうしようもなく彼を憎む自分とを考えた。

それでもそんな憎しみ吹き飛んでしまうほどに彼に頼るしかなかったのだ

自然と俺の声は震えていた。

「お、俺のことが気にくわないならそれでもいい。嫌ってくれてかまわない!だから頼む!エリシュを!姉さんを助けてくれ!」

「・・・。」

ウエイダーは答えなかった

「頼む!・・・・・・ウエイダー・・・。」

「・・・。」

「頼むよ・・・・・・勇者様ああああ!」

ウエイダーはばつの悪い顔をすると

「もう・・・無理だ・・・。」

信じられない言葉を耳にする。

「え・・・?」

「こんな化け物・・・勝てっかよ・・・!」

その言葉を聞いた瞬間、信じられないくらい怒りが沸き上がるのがわかった。

我慢していたものが一気に噴き出して、胸ぐらをつかんだ

「ふざけるな・・・ふざけるなよ!お前!何だよ!それ!お前!お前!・・・あんなに威張り散らして!あれだけ大口叩いて!それで!それで・・・!それでも・・・勇者かよ・・・。」

ウエイダーは俺をにらむと叫ぶ

「・・・・・・お前なら・・・・・・何とかできんのかよおおおおおおおおおおおお!」

ウエイダーのその言葉を聞いた瞬間、俺は絶望した。

現実を突きつけられ、頭がグラグラして目の前が真っ暗になったような深い闇にとらわれた気分になる。

先の見えない絶望で立っているのもつらくなってきた。

ただただ、気持ちが悪い。吐き気がする。

人の希望である勇者が負けを認め、諦めるのか・・・?

ならエリシュは・・・姉はどうなる・・・。

こんなわけのわからない化け物に食い殺されていいわけがない・・・いいわけがないんだ!

この世界に来た日を思い出す。

俺はこの世界に転生してきた・・・そしてひたすら力を求めた。

自分の価値観で考えても異常な量の修行を重ねてきた。

それは俺が転生する前の世界では悪に屈してしまったからだ。

人は俺を馬鹿なやつ、独りよがりの独善野郎などと呼ぶ。

だが俺はそうは思わない。

俺は正義だ!

独善だろうと正義なのだ!

前世ではなしとげられなかったその独善的な正義感。

この世界で俺は俺の誇りを貫くために生きたい。そう思いながら今日まで生きてきた。

その正義をいまこそ果たす。

だから戦う!

誰に煙たがれ誰に否定されようと!

絶対に!

絶対だ!

正義を成せ!俺の信ずる正義を!

気が付けば俺は地面に落ちていた聖剣を握りしめていた

すぐ隣でウエイダーは言った

「よせ、聖剣は勇者にしかつかえない。犬死するぞ。」

「黙っていろ!」

殺気だった剣幕で怒鳴りつけるとウエイダーは息を呑んだ

俺はただただ苛立っていた。

この世の理不尽の権化であるこの魔物という生命体に。

人を傷つけ奪い取る者たちに激しい怒りを抱いていた。

俺は剣先を構えた。

「お前ら魔物は人から大事なものを奪っていく!勇者が正義を示さないなら、俺が正義を示す!」

聖剣が圧倒的な白い光をおび発光していく

ウエイダーは目の前の奇跡にただ戸惑っていた。

なんだあの光は!

自らが発した光よりも、目標とする戦士よりも、下手をすれば伝え聞く祖先よりも、強大な白い光が剣からほとばしっていたからだ。

エクスカリバーは使用者の心の光に影響されその強さを増す。

だからこそ、神から天命を受けた我が一族にしか・・・勇者にしか・・・エクスカリバーの真価を発揮できないのだ!

だというのに勇者ではないこの男はエクスカリバーを自分以上に扱えている!

目の前の男の放つ、圧倒的な光、勇者一族以上のエクスカリバーの使い手だとでも言うのか!

この男は・・・いったい・・・!

フシュー。深呼吸をしたのに合わせて

ギシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!

幼体たちが襲い掛かる

「はあ!」

聖剣を右斜めに振るい、

降りかかる幼体の爪を首を左にひねって避け

「はあ!」

左斜めに振るい、

さらに迫る爪を首を右にひねって避け

「でや!」

右に一閃、

勢いをつけ駆けよると幼体の肩をつかんで飛び越え背後を取り

「はあ!はっ!はあ!はあああ!」

瞬間的にX字に切り刻む

4体が同時に爆散した。

ドカーン!

クルウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!

幼体を殺され激怒したゲルマが左右に大翼を広げ、上昇していく。羽根を広げ、羽ばたき、右に旋回、俺目掛け滑空して襲い掛かる

手に持つ光剣を目の前に、縦にピンと突き立てて持つ。

「俺が・・・・・・。」

「はああああああああああああああああああああああああああ!」

深く呼吸をすれば剣がさらなる白い光を発揮する。

誰もが驚愕しただろうその圧倒的な光こそ。聖なる法則をつかさどる力、聖法の光

剣のつかから剣先まで光が充満し最大の力を収束させていく

「俺が・・・・・・勇者だ!」

「光の剣、シャイニング・スラッシュ!」

白い閃光がゲルマを両断する

ギリィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィシュ!

断末魔の悲鳴をあげ、瞬時に浄化されていく。

莫大な光の粒子が天を突き、闇を打ち払う。

ウエイダーは男のその雄々しき背を見ていた。

正義に燃える男の背を

これが後に清廉騎士と呼ばれる存在の誕生した瞬間だった。

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