18 マスターホワイトの帰還
へキサセクスの魔女のせいでルナーナと戦った
ルナーナを斬ることでへキサセクスの魔女を倒し元の世界へと戻って来たのだ。
前世よりも前世の人生を知ることになったことで私の心は少し豊かになった。
魔女は死に、ルナーナはいまも元の世界で平和に暮らしているはずだ。
帰って来た王国はどこかいままでと雰囲気が変わっていた。
少し近代的になったような気がする。
目の前にあるのは見なれたエイレースケイアの大聖堂。
大きな正門をくぐる。
質素でありながら洗練された建物だ。
まさしく歴史と研鑽の賜物、神聖な通路を真っすぐ進むと
いくつもの神官たちと軽く会釈をして横を通り過ぎていく。
ただ以前来た時と雰囲気が変わっている。
特に数キロはある広大な中庭では大勢の騎士たちが剣を交わして修行をしていた。
はあああああああああああああああ!
やあああああああああああああああ!
目の前で互いに威嚇し合う二人の騎士、騎士学生だろうか?
それはあちこちで行われていた。
訓練場を通り過ぎ、門の前に来ると青マントの騎士が番人をしていた。
青マントの騎士たちが一歩前に出る。
美しい麗人の騎士だった。
お話はうかがっております。
ようこそおいでくださいました。
偉大なる清廉の騎士マスターホワイト。
奥の間でマスターアカーテスがお待ちです。
な、何?
奇妙な呼び名で呼ばれたがそれは今はいい。
さあ、奥へ
しかたがないと思い。
わかりました。と返事をする
うながされるまま、門を開くと我が師は主神パリョ・テオスの像に祈りをささげていた。
その姿は儚く可憐だった。
片膝を付き首を垂れる
師の命により、フレイルここに馳せ参じました。
マスターは祈りを捧げ終え、ゆっくりとこちらを振り返った。
明眸皓歯な目が私を見ている。
待ちわびましたよ。フレイル、300年ぶりですね。
300年?意味がわからない。
マスターは言った
あなたは聖剣の力で消滅したあと、魔女に出会い、世界ごと異世界に再生したのです。そして次元と時空を旅した。
次元を旅した。魔女との戦いのことだ。しかし、時空と言ったのか?
ここはあなたがいた時代から数百年後の未来のウィンザー王国です。
な、なんと!
驚愕する。
時間を渡り歩いてしまったとはにわかには信じがたい。
しかし、ちょっと待ってほしい。その話が正しいとするなら、なぜマスターはあの頃と変わらない若さなのか?
マスターは自らその疑問の答えを教えてくれた。
私は不死不死の身を持つ存在です。歳は取りません。この身を壊すことは容易い。
ですが、いましばらく、生きながらえるつもりです。いずれ来る役目を果たすその日まで
邪悪騎士は魔女を殺し、ますます力を増し、新たに闇騎士へと進化しました。
あなたが戦った魔女は邪悪騎士に敗れた魔女の力の欠片
本体は邪悪騎士に取り込まれています。
闇の魔女アぺルピスィア・マギサ、彼女の本来の名はウィン、ごく普通の少女でした。
そして邪悪騎士は魔女を殺すことで魔女の取り込んでいた魔女の姉にして魔女と対になる光の聖女エルピス・サン、あなたの本来の師、マスターミリアをも取り込んでしまったのです。
ど、どういう意味ですか!
聞き捨てならない言葉に思わず身を乗り出す
あなたは本来この世界の人間ではないのです。
あなたが持つ記憶は部分的に修正されたもの、あなたの師マスターミリアの手によって、この世界に適応しやすくなるよう改変されたものです。
そのおかげであなたは違和感なくこの世界に適応できた。
あなたの師はあなたを守り魔女に討たれたのです。
マスターの話が本当なら私が知らない師がいることになる。
だがマスターアカーテスが嘘をつくとも思えなかった。
一度に多くを話すよりも、今日はお休みなさい。
明日、またお話しをしましょう。
その後、私は部屋に通され眠ることにした。
自分が知らない恩師の存在を知り、自分がただ転●してきたわけではない。他の世界から来たことも知り、悩み抜いて、疲れた。
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シスタードミの墓の前まで来た。
マスターアカーテスが管理してくれていたそうだ。
享年25歳、この世界の生活水準で言えば十分長寿な人生だ。
その生涯は自らの命を信仰に捧げた殉教者そのものだったそうだ。
エイレースケイアと多くの恵まれない子供たちを救い、多くの人から慕われた。
シスタードミ、遅くなりました。
墓に手を添えて追悼を祈った。
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次の日、パリョ・テオスの像の前でマスターアカーテスが祈りをささげていた
来ましたね。
それではお話の続きをしましょう。
そう言ってマスターアカーテスは重く口を開いた
・・・あなたがいなくなったあと世界を守ったのは光の騎士、ロイド・ラフガディオ。
彼がエイレースケイアの剣となり闇騎士たちへキサセクスから世界を救いました。
あのロイドが力の責任を理解してくれたことに感動し、ウエイダーが世界を支配しようとしたことに驚いた。
信じられない話だ。
ロイドはどうしました?
彼は闇騎士との死闘の末、命を落としました。
そ、そうですか・・・。
聞かなくてもなんとなくそうではないかと思っていたが。ロイド、せめて和解したかった。
あなたも伝説の騎士のひとり王国を救った英雄、マスターホワイトなのですよ?
私が英雄?
ええ、
当然のようにうなずかれる
私は言った
私がホワイト・・・ですか・・・?
マスターは言った
あなたはフレイルとは名乗りませんでしたから。そのほうが都合がいいかと思いホワイトと名付けました。
マスターに言われてふに落ちる。
そうだ。私は清廉騎士として戦ってはいたが最後までフレイルとは名乗らなかった。
自分のしていることが正しいと思えなかったからだ。
食べていけないからと殺人を犯した子を殺した。
そのときは正しく感じたがあれは本当に正しかったのか?
助けられたのではないか?
他にも間違いがなかったかと聞かれれば自信がない。
自分は間違っている。とは思うが同時に正しいとも感じている。
そのうえウエイダーに対する憎しみに駆られそうになりながらギリギリで踏みとどまり悪を裁き、清廉騎士としてだけでなくフレイルとしても思うがままに剣を振るい悪を罰していた。
身元を隠したいようで隠したくない、完全に自己矛盾している。
自分を正義だと思い肯定する自分と、自分は正義ではないと思い否定する自分の間で揺れ動いていた。
それはどちらも私でありどちらも正しいのだ。
マスターは言った
今後はマスターホワイトとフレイルを使い分けることを進めます。
二つの名を使い分け、争いと平穏とを行き来しやすくする。
マスターはそんな私の弱さをも見抜いていたのかもしれない。
わかりました。
ところで正門にいた青マントの彼女、名はピアース。
彼女が光の騎士の剣技を継ぐ者の筆頭のひとりです。
筆頭は全部で7人います。
赤のマスター
青のマスター
黄のマスター
緑のマスター
桃のマスター
空のマスター
灰のマスター
7人のマスターたち
いまや光の騎士の剣術も数十世代は受け継がれ、弟子の数も数えきれないほどいます。
彼ら彼女らは自らのことを希望の剣士と名乗っています。
この世界をへキサセクスの魔の手から守っているのは彼ら彼女たち
ひいては偉大なる伝説の騎士、光の騎士マスターロイドの偉業なのです。
マスターは言った
騎士フレイル、改めて問います。またエイレースケイアの騎士として共に戦ってはくれませんか?
ロイドが守った世界、私も守らなければならない。そう硬く決意する。
もとよりそのつもりです。我が師よ!
ありがとう。
マスターが瞬時に私の衣服を綺麗な物にしてくれる。
聖法だ。
そうか、高度な聖法を使えば紙幣すら作ることも可能ではある。
その格好で出歩いては、この時代では差しさわりありますから。
マスターが手を振るうと
私の鎧と剣が一つに吸い込まれるように重なり合い、空中に3cmほどの小さなロザリオが現れた。
それがゆっくりと手の平に落ちて来る。
マスターは言った。
鎧と剣を一つにまとめました。
ロザリオから不思議な力を感じ取る。聖剣と鎧が宿っているようだ。いつでも変身できるようになった。
それではフレイル、改めてあなたに第8のマスター、白のマスターの称号を授けましょう。
自らを清廉騎士、マスターホワイトと名乗りなさい。
はっ!拝命いたします!
この日、エイレースケイアの信徒たちに激震が走った。
第8のマスター、白のマスター、伝説の騎士、英雄、マスターホワイトが帰還したのだ。
街に出て、人混みを見た。
私を知る者はどこにもいない。
「正義を成せるなら・・・死んでもいい・・・。」
すべてを否定する白の殉教者、孤独が隣にいる。




