10 道具屋のララさんを助ける
朝の身支度を済ませ兵士詰め所に向かう
半日が過ぎたころ、街のパトロールをしながらふと思う。
寂しい。
あはははははははははは!
道をすれ違った同僚たちの談笑が聞こえてくる
・・・友達・・・いいな。
はっ!として我に返る。
うらやましくなんてないさ、ははっ・・・はははっ・・・!
正直に言えばジャンさんは友達と呼べる関係ではない。
ジャンさんと分かれて
ジャンさんとは同居していたがいまでも会話はぎこちない。
助けた手前、よく接してくれているのだと思う。
この間は一緒にお茶をしていたらつまらなさそうにしていた姿を思い出す。
私の会話はつまらないのだ。
前世でも話のつまらないやつとして私の心の中で有名だった。
友達と呼んでいいのだろうか?いや、ダメだろう。
彼の中で恩人だから邪険にしたくないだけだ。
だからと言ってもっと楽しんで?もっと笑って?なんて言えるわけもない。これ以上を求めるのは酷と言うものだ。
彼は友達ではないがよき隣人なのである。
あまり関わらないのが彼のためだ。
シスタードミは誰にでも優しい人だ。
好意を抱いてくれているのはわかるがそれは同じ志を目指す同志としてのものだ
それに彼女は神に身を捧げたシスターだ。
尊く、偉大なお方だ。だからこその彼女、だからこその私との関係なのだ。
そう考えると唯一、子供たちが友達のような存在と言えるかもしれない。
彼らの笑顔に救われる。
私の話はつまらない。
私は転生したいまも他人の気持ちがわからない。
下手なことを言えばジャンさんやシスタードミとの良好な関係は切れてしまうだろう。
それほどまでに私のコミュニケーション能力はなさすぎるのだ。
剣術を学ぶことでたいていのことはできるが。
コミュニケーション能力の向上は凄まじく大変な修行だ。
マスターアカーテスは尊い神のような人だ。
恋愛感情など恐れ多い。
ちっとも・・・寂しくなんてない。ないんだ!
我ながら酷い人間関係
綱渡りだ。
絶望する。
孤独だった。
パトロールをしに道具屋に来た。
おう、いいじゃねええかああ!
いやあああ!やめてえええってばあああ!
男が女を囲んで力任せに抱き寄せていた
やめてあげたらどうでしょうか?
筋肉質な男が見下ろして来る
あああ?なんだお前?
いえ、ですからやめてあげたらどうでしょうか?と申し上げているのです。
おい、騎士じゃねえか?
筋肉質な男に仲間の男が忠告するも
へっ、ビビってんなよ
と息巻いた。
ま、騎士様が言うなら従うけどよ。へっ、
と鼻で笑い、男は私に背を向けてから
ボケがぁ!
いきなり振り返り全力で殴りかかってきた。
ドゴ!
なので殴られる前に殴り倒すことにした。
ぐえ!
やめておきなさい。あなたでは私に傷ひとつつけられない。
や、野郎うううううううううううう!
殴りかかってきたので
ドゴ!ドゴ!ドゴ!
が!ぶ!え!
手加減して殴ったのがまずかった
もう許さねえぞおおおおおおおおおおおおおおお!
さらに激怒して突っ込んで来た男をさらに殴りつける
ドゴ!ドゴ!ドゴ!ドゴ!ドゴ!ドゴ!
あ!い!お!か!ば!う!え!
もうやめてください。
は、はあ?お、お前・・・なんでこんな強いんだよ・・・。
男は疑問で意味がわからないと言った顔をするも次の瞬間みけんにしわを寄せて
野郎!
殴りかかってきたのですべて殴られる前に殴り返す
ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!
続けざまに殴打、頬を打つ、鼻から大量の鼻血が垂れ、あちこちがはれ上がってきていた。
常日頃から正規の格闘術も訓練している。
私が殴り合いで負ける道理はない。
お、おい!ガイ!もういいだろ。
う、うるせええええええええええええ!
男の表情は私に対する怒りと恐怖がにじみ出ていた。
ここまで痛めつけて逃げ出さないとはタフな男だ。けれどもう一押しですかね?
ドゴ!
最後に殴りつけできるだけ敵意を持たない笑顔を振りまくと
くっ・・・・・・・・・・・こ、こいつううう!頭おかしいんじゃねええのか?
もういいだろ!ガイ、行こうぜ!
俺は負けちゃいねええ!
ドゴオオオ!
腹に強烈な蹴りを叩き込むと男は伸びてしまった
だ、大丈夫か!
仲間たちが男に駆け寄ると抱き起す。
て、てめええ!
捨てセリフを叫ぶので
まだやりますか?
そう笑顔で答えると
ひい!
小さく悲鳴をあげ男を抱えながら逃げていった。
大変清々しい。自衛のためなら暴力が肯定される世の中だ。
言葉や常識の通用しない悪漢共を相手に根気強く言葉で説得をする必要がない。
横暴で乱暴なやからは威圧するか拳でしつけるか最悪斬り捨てていいのだ。
これが前世なら暴力を振るった瞬間にからまれた被害者側が逮捕されることになっていただろう。
こちらが気を付けてさえいれば逆襲されることもない。
騎士万歳、自衛権万歳だ。
さて、女を見る
大丈夫ですか?
は、はい!それよりも騎士様!鼻にお怪我が!
手で触ると鼻の頭に血がついていた。
ああ、彼の血ですよ。
女はハンカチで顔を拭きとってくれる
どこかケガをしていたら大変ですから、ささ、中へ。
私は店の中へと通されると奥へと連れていかれ
こじんまりとしたスペースの中に椅子が置かれていた
そこにおかけになってお待ちください。
言われるままに待機する。
彼女はそそくさと奥から液体の入った瓶を持ってきてくれた。
それは?
今度店で出そうと思っていたポーションと言う名の商品です。
薬草を煎じて水と混ぜて液状にした飲み物で飲めばたちどころに体を回復してしまうほどです。
ポーションなんてこの世界に来て初めて見る。
いただきます。
ええ、どうぞ。
ごくごくとポーションを飲むとこれが口の中に染みる。体が少し快調になった気がした。
いずれは王都で流行らせるつもりです。
そうですか。これはいいものです。
これは発明品だ。間違いなく世界を変えるほどの物だ。
しかし、人を守るとはまさしくこういうことだとも思った。
私はララと申します。
丁寧に頭を下げられた
騎士フレイルです。
フレイル様、本当にありがとうございます。
いえいえ、気になさらず
ごくごくとポーションを飲んだ。
あの、本当に改めてありがとうございました。
気になさらないでください。これも騎士の務めですから。
ごちそうさまでした。では、私はこれで
本当に!本当に!感謝しています!ありがとうございました!
また何かあったらお声をおかけください。では!
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雨が降っていた
王都のパトロールをして半日がすぎた、午後の仕事ももうすぐ終わりだ。
日も暮れて来た。
仕事もあと少しで終わる。もうひと踏ん張りしようと街を歩いていると
来い!こっちに来い!
道具屋が騒がしい
昼間見た男がララさんを力任せに引っ張り馬車に乗せようとしていた
人さらいか!
いや、離して!
てめえ!
ララあさんの抵抗に逆上した男がララさんをひっぱたく
ドゴォ!
鈍い音が拳から響いた。
いいから来い!
いやぁぁぁ!
急いで追いかける
待て!
馬車が走り出した。
はあ!
馬車の後ろにつかまる。
全体重が手の指先にかかった
ここで逃してはいけない。離すものか!
馬車はそのまま走行を続けた。
地面が何度も体を打ち付け、全身を破壊していく。
最大速度で何度もカーブを曲がった
おい!ダン!正門の衛兵だ!
構わねえ!突っ切れ!
ヒヒーン!パカラパカラパカラ
待て!お前たち!止まれえええ!
制止する警備を突っ切り街の外へと駆け出すのだった。
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それから数時間、馬車は森の中へと入る。
辺りは暗くなり始めていた。
そうしてようやく馬車が停車する。
へへ、ここまでくればもう大丈夫だろう。
今日はここに留まる火を起こすぞ
もうもうとたき火に火がつく頃
男たちは酒を手に料理を食べる
酔いが回ってきて上機嫌になる
うう!うう!
口に布を巻かれ手足を縛られたララさんが悲鳴をあげた
人さらって金儲けなんてボロい商売だぜ。
どれ、お貴族様に献上する前に俺たちで少し味見と行くか!
へへへ、そいつはいいや。
おら!股開け。
男がララさんの両足をつかむと抱えながら服を引きちぎる
ううううううううううううううううううう!
ララさんの目に涙がこみあげてくる
はははははははははは!抵抗してもいいんだぜえええええ!
ララさんの目から見た男たちの形相は魔物よりも醜悪な邪悪な悪鬼と化していたことだろう。
ははははははははははは!はははははははははははははは!はははははははははははははは!
ぐええええええええええええええええええええええええええ!
大笑いしていた男の首がぐるぐると宙を舞い、血しぶきを吹き散らかす
胴体がララさんに倒れ込み大量の血がララさんの顔を濡らした。
闇の中から、ぬう、と顔を出すと男たちがおびえる
どうも騎士フレイルです。あなたたちを処刑しに来ました。
馬車につかまり続けて4時間、おかげで全身打撲と土にまみれ、髪も泥でぐちゃぐちゃになっていた。
な、なめやがって!おらあああ!
てめえええ!
二人が剣を手に襲い掛かる
はあ!はあ!
瞬く間に胴に一閃ずつ、二人の上半身が吹き飛び血の華を咲かせた
ひ、ひいいいいいいい!
たき火の炎が私の顔を照らし出す。
男たちの一人が言った
待て!フレイルだと?清廉騎士に並ぶ、あの王都の処刑人か!
おや、知っていましたか。話が早くて助かります。あなたたちを許す理由がないこともおわかりでしょう。
はあああ!
さらに目の前の男を叩き斬ると大量の血液が宙を舞う。
わああああああああああああ!
逃げようと反転した男のえりくびをつかみたき火に顔を叩き込む
ぐぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!
頭が燃え盛る。
仕留めた手ごたえを感じ、ようがなくなった死体を投げ捨てるとビクビクと痙攣していた。
肉の焦げた臭いがただよう
手の大焼けどが聖剣の治癒の力で自動回復していく。
わああああああああああああああああああああ!
3人逃げ出していった。
罪を償う時間です。
瞬時に移動、森の木々を駆け抜ける。
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はあ・・・はあ・・・はあ・・・。
こ、ここまでくれば
目の前には木々が生い茂っている。
いくつもの枝葉の揺らめきが人の姿を思わせた。
ひっ!
一瞬、フレイルを見つけた。
フレイルが・・・あのイカレた血濡れの騎士が、血走った目で、じっ、とこっちを見ていた。
だがそれは枝葉のゆらめき、目の錯覚だった。
何度も目を強く見開き、見間違いかを確認する。
と、とにかく急いで逃げないと!
はあ・・・はあ・・・はあ・・・。
行く手を遮る葉をかき分け、振り返ると
はあ・・・はあ・・・はあ・・・。
荒い息をして興奮したフレイルが剣を片手に追いかけてきていた。
う、うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
慌てて走る速度をあげる。
岩を飛び越え、動物を踏みそうになりよろけて、それでも走るのを止めない。
転びそうになるのを手足をバタつかせバランスを取り、一心不乱に走り続けた。
人生でこれほど頑張ったことなどあっただろうか。
これ以上のことはそうはなかったはずだ。
飯が食えずに一日ひもじい想いをしたときよりも、初めて人を殺してパンを奪ったときよりもずっと頑張った。
はぁ!
え・・・。
左肩を突き飛ばされる衝撃がして左を向くと
フレイルが剣を振り抜いた姿勢で立っていた
斬られたのだ
激痛に襲われ、そのまま足場も何もない空間に落ちていく。
う、うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
グシャ!
卵が潰れるような音がしたのが俺が聞いた最後の音だった。
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はあ・・・はあ・・・はあ・・・。
シェゲルのやつうまく逃げたか?逃げたよな。さすがにな。
ふ、フレイル、噂以上のイカレぶりだった。あんなの人間じゃねえ、魔物のたぐいだ。
おい!
突然声がかかり
わ!わ!わ!
驚きが声となって止まらなくなる。
俺!俺だよ!俺!
聞きなれた仲間の声だ
暗闇の中、次第に目の焦点が合って来ると仲間のベンズだった
お前かよ!
はははあああ!
笑っておどけてみせるベンズ
ふざけやがって!殺すぞ!馬鹿野郎!
口で悪口を言いながらベンズの存在がうれしくて顔がほころぶ
それがわかるベンズはもっとふざけておどけてみせて
それを見てまた笑いがこみ上げてくる
次の瞬間ベンズの頭が真っ二つに分かれ血しぶきが舞った
ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
フレイルの剣がベンズを両断していたのだ。
なにを笑っている!
フレイルの声が耳もとでつぶやかれる
ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
再び駆けだす。
はあ・・・はあ・・・はあ・・・。
深い森の中を一心不乱に走り続けているとフレイルを見つけた。
じっ、とした目でこちらを見ていた。
わあああああああああああああああああ!
急遽右に曲がり、全速力で走り抜ける。
ズリ!
ぬかるんだ泥に足元を救われあごから転ぶ、
あごがヒリつき、手と膝の平にしびれた痛みが走るがそんなもの生きていればこそだ。
キレていようが打撲だろうがすぐに立ち上がり走り続ける。
それから走り続けて、ふと止まる。
こ、ここまでくればさすがに
カサカサ、
はっ!
草の音がして振り返るとフレイルが立っていた。
わあああああああああああ!
すぐに走り出す
10分か20分か走り続けた。
かなり距離を離したと思ったとき目の前にまたフレイルが現れた
わああああああああああああああああああああああ!
反転して走る
すると目の前にフレイルが現れた
何がどうなっているのか。理解が追いつかない。
おまけに腰が抜けてしまった。
わけがわからない。
木々の後ろからフレイルが次々と姿を現す。8人、16人、24人、
幻覚か。現実か。
そして真の恐怖はこの後だった
何食わぬ顔でフレイルが兜を降ろすと鉄の鎧の色が純白に染まり、鉄の剣が装飾の施された高貴そうな剣へと姿を変える。
それを見てすぐに理解する。清廉騎士・・・。
奇人と言われるフレイル、宿屋の惨劇から始まり、聞くところによれば拷問狂とも恐れられる
狂人と言われる清廉騎士、皆殺し、血濡れ、生きた死
逸話は数えるほどにある。
王都を騒がせる奇人と狂人が一つとなって目の前に姿を現したのだ。
それも24人に増えて
ば、化け物・・・。
恐怖に後ずさると
ズル!
あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
後ろは崖だった。
暗い夜空をあおぎ見た。それが最後の光景だった。
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ララさんのいる馬車のそばまでやって来る。
ララさんは死体におおいかぶされたまま放心していた。
死体を蹴りどかすとララさんを抱き起す。
もう大丈夫です。顔についた血を布で拭いてあげるとようやく安心したのかポロポロと泣き出してしまった。
うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!
もう大丈夫です。
私があなたを守ります。
そうして夜がふけた。
ララさんを家に届ける。
ありがとうございました。フレイル様、ありがとうございました。フレイル様ぁ!
両親からもララさんからも何度もお礼を言われた。
フレイル様、本当に本当にありがとうございました。
数週間後、森の中で男が見つかった。
何でも奇跡の生還だそうで、よほど怖い体験をしたのか恐怖で髪の毛が白髪になってしまっていたそうだ
男は恐怖のあまり口が聞けなくなっていた。怖い話もあるものだ。




