表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

『煙の向こう側』【9】大輔の苦悩  完結

本作『煙の向こう側』は、ひとりの青年が異世界で農業を通じて人々と心を交わし、成長していく姿を描いてきました。

第9話となる本章は、その旅の「完結編」となります。王からの褒美、アニーとの温かな時間、そして避けられぬ別れ。笑顔と涙が交錯するひとときに、主人公の苦悩と希望が込められています。


【9】大輔の苦悩  完結

「大臣、お願いがあります」大輔は深く頭を下げた。

「王様に謁見をお願いできませんか。今後の行動と、黄金国からのお土産についてお伝えしたいのです」

「午後二時に、謁見の間へ」と返事が届く。

大輔は作業小屋から空中浮遊車に乗り、お城へ向かった。

謁見の間。扉が開くと、王は笑顔で迎え入れた。

「博士、黄金国での働きは見事であった。疲れは取れたか」

「身に余るお言葉です。おかげさまで、畑の様子も見て回れるようになりました」

大輔は持参した黄金の種子を侍従に差し出す。

「これは黄金国からのお土産です」

「見事なものだな」王は手に取り、しばし眺めた。

「これはアニーと博士、二人の働きへの褒美だ。仲良く分けるとよい」

「はい。大切に保管いたします」

その夜。

大輔は小さな宝石箱に「アニー」と刻み、金の種子を詰めて渡した。

「君へのご褒美だ」

アニーが蓋を開けると、中には金色の種子がぎっしりと詰まっていた。

『活躍に感謝、愛するアニーへ』と刻まれている。

「大輔さん…ありがとう」

涙をにじませながらも、アニーは笑みを見せた。

翌日、二人は浮遊車で畑を視察しながら空の散歩へ出かけた。

昼食は高台の公園。アニーの作ったサンドイッチを広げ、笑い合いながら過ごす。

――「こうして外で食べると、同じサンドイッチでも何倍も美味しいですね」

アニーが頬をほころばせる。

「本当だ。風も気持ちいいし、君と一緒だからなおさらだよ」

大輔は空を仰ぎながら答えた。

「いつか、この種子で空いっぱいに花を咲かせたいです。鳥たちが集まって、村の人が見に来てくれて…そんな未来、素敵じゃありませんか?」

「きっとできるさ。君なら必ず叶えられる」

アニーは嬉しそうにうなずき、少し照れくさそうに笑った。

「大輔さんと一緒なら、どんな未来も怖くありません」

「ありがとう、アニー。君がいるから、僕も頑張れるんだ」

まるで恋人同士のように見えた。

やがて作業小屋に戻り、机を挟んで座ったとき。

大輔は静かに切り出した。

「アニーは、ずいぶん成長したね。もう私がいなくてもやっていける」

「……それは、大輔さんが帰るということですか」

アニーの目に涙が浮かんだ。

「私も一緒に行きたい!」

「アニーがいなくなったら、この畑を誰が守るんだ?」

沈黙。 アニーの頬を、涙がつたった。


「私が我慢すればいいのですか…?」


大輔は胸が締めつけられるのを感じながら答えた。

「必ず戻る。三か月に一度は戻る。三度目には、新しい栽培法を持ち帰る」

「……本当に、約束してくれますか?」

「約束する」

アニーは嗚咽をこらえながら、大輔の胸にすがりついた。

「アニー、これを渡しておくよ。雑草とカンゾを粉にして線香にしたんだ」

「毎月十日の夜に火をつければ、その間だけ話せるはずだ」

「アニーの心に、かすかな安らぎが灯った。その約束こそが、二人を結びつける唯一の希望だった。」


最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

『煙の向こう側』は、異世界という舞台を借りながらも、「人と人が信じ合い、支え合うこと」を描きたいと思い紡いできました。

王と民をつなぐ農業の営み。

師と弟子のように、時には親子のように、そして次第に恋人のように絆を深めていく大輔とアニー。

その出会いと成長の物語を最後まで見届けていただけたことを、とても嬉しく思います。

アニーの胸に残った「必ず戻る」という約束は、小さくとも確かな光です。

この物語が、読者の皆さまにとっても心に残る灯火となれば幸いです。

新シリーズにご期待ください。

改めて、ご愛読に感謝申し上げます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ