美少女転生に成功してしまった。
もともと書いていたものが短めだったので数話をまとめています。少しでも多くの人の目に止まってもらえたらと思います。
「お前はこれまで、陰キャだけどとても良い子だったから転生させてやることにした」
突然、どこからともなく響いた声。
「は、はい……? 僕、そんなに特別なことした覚えないけど」
目を開けると、そこには長髪の神様風の男性が浮かんでいた。
「お前は善人だからな。何か願いはあるか?」
「そうですね……あの、陽キャになりたいです」
「ふむ……陽キャか。わかった、じゃあお前の望み通り美少女に転生させてやろう」
「え、美少女!? そ、そんなの聞いてない!」
神様はニヤリと笑いながら、無理やり話を進める。
「勝ち組人生を歩みたいんだろ? 陽キャに生まれ変わって、イケイケで楽しい人生を送れ!」
「いや、そこまでの希望は言ってないし!」
こうして僕は、全く違う性別、しかも美少女として、同じ現代社会に転生させられたのだった。
目覚めると、僕は幼い女の子の体にいた。
「これは…2歳くらいか」
ゆっくりと記憶が戻ってきた。
前の人生の記憶もちゃんとある。
だけど、中身はあの時の僕のまま、陰キャの男の子の心のままだった。
周囲の明るくて元気な子供たちを見て、僕はどう接したらいいかわからず戸惑う。
「こんなに可愛い身体なのに、心は昔のままか……」
そんな僕に神様の言葉が響く。
「お前が本当に望むのは、陽キャとして勝ち組人生か? それとも、自分らしく幸せに生きることか?」
僕は少し考えた。
「うーん……陽キャもいいけど、無理して自分を変えるより、今の自分のまま幸せに生きたい」
神様は静かにうなずいた。
「そうか。なら、お前の幸せを応援してやろう」
僕はこの美少女の身体で、陰キャでも良いから、自分らしく生きていく決心をした。
時がすぎるのは早い‥気がつけば僕は今、12歳。小学校最後の年を迎えている。
美少女の身体はすっかり馴染んできたけど、心はあの頃のまま、陰キャでコミュ障の僕だ。
クラスのみんなは明るくて、話も上手で、スポーツも得意。
僕は「普通の人」になりたいと思って、無理やり陽キャっぽく振る舞おうとしたこともある。
でも、うまくいかない。
「おはよう!」と元気に言っても、なんだかぎこちなく聞こえるし、みんなの輪に入れない。
本当は話したいけど、言葉がうまく出てこない。
学校の授業は得意だ。
頭が良すぎて先生からも一目置かれることが多いけど、そのせいで「天才」と呼ばれて、余計に浮いてしまう。
幼い頃もそうだった。
小学校に入る前から知識だけは豊富で、同年代の子たちとは話が合わなかった。
友達ができずに、いつも一人で本を読んだり、ゲームをしたりしていた。
それに、女の子の身体であることにもまだ完全には慣れていなかった。
「なんで僕はこんなに可愛いのに、中身はあの頃のままなんだろう」
鏡の前でそうつぶやくと、いつも少しだけ涙がこぼれる。
でも、最近は少しずつ慣れてきた部分もある。
服を選ぶのが楽しいし、髪を結んだりするのも嫌いじゃない。
「美少女として生きる」ことも、完全に拒絶しているわけじゃない。
「僕は僕のままでいい」
その気持ちを胸に、今日も僕は新しい一日を始める。
学校では相変わらず、僕は一匹狼。
クラスの誰とも深く話せず、昼休みも教室の隅で本を読んでいることが多い。
だけど、そんな僕にも、ほんの少しだけ変化があった。
ある日、放課後の図書室で偶然見かけた同じクラスの男子――彼も陰キャっぽくて、いつも一人で黙々と何かをしている。
その日、彼が持っていたノートを落としてしまった。
「……あ、これ」
僕は自然と声をかけてノートを拾った。
彼は驚いたようにこちらを見て、少しだけ微笑んだ。
「ありがとう、助かったよ」
それだけのやり取りだったけど、僕の胸は少しだけ暖かくなった。
(自分から話しかけることができた……)
(陽キャにはなれなくても、こんなふうに少しずつ話しかけられればいいな)
そう思えるようになったのは、僕にとって大きな進歩だった。
そして、そんな日常の中で、少しずつ自分らしくいられる場所を見つけていく。
僕はまだまだ勝ち組にはなれないけど、幸せな日々を目指して、ゆっくり歩んでいこうと思う。
しかし、そう簡単にうまくいかなかった。
「気づいたら、今日から高校生だ…」
朝、鏡の前でそう呟く。
自分から話しかけることが少しだけできるようになったものの、
友達は、やっぱり一人もできなかった。
やりたいことと勉強に没頭しているうちに、時間だけが過ぎていったのだ。
「普通の高校に入ろうとしただけなのに、面接官にはすごく驚かれたな…」
僕が入ったのは、ごく普通の高校だ。学力もごく普通のレベル。
高校生になった僕はには陽キャになるという思いはもうほとんどなく、普通の人生に憧れを持つようになっていた。
だけど面接の相手は、五教科のテストで450点以上は当たり前というような天才だったらしい。
「君、本当にこの学校を希望してるのか?君の成績ならもっと上を目指せるはずだ」
そんな言葉をかけられて、僕はただ「普通の学校に通いたい」と答えた。
でも今はそんなことはどうでもよくて、
目の前にあるのは高校の校門と、これから待つ日々の不安だけだった。
教室の廊下で感じる視線は痛い。
その理由は、僕が美少女すぎるからだろう。
高校生になっても、小心者な性格は克服できていなかった。むしろ悪化していたかもしれない。
人と目を合わせることが辛い。
話そうとしても、声が震えてうまく出せない。
緊張で顔もこわばってしまう。
何度も誤解され、怖がられたり避けられたりしたこともある。
「どうして、こんなに生きづらいんだろう」
そんな思いを胸に、僕は教室の扉に手をかけた。
教室の空気は緊張で張り詰めていた。
クラスは緊張しているのかとても静かだった。入ってきた担任の先生の話も終わった。
あっという間に自己紹介の時間だ。
僕――葵 渚は、ゆっくりと立ち上がった。
心の中で、ふと思う。
(碧だったあの頃の自分は、もう遠い昔のことなんだな)
男の子として過ごした日々。誰にも知られないように胸にしまってきた名前。
(でも、ここでは『渚』として生きていく)
僕は震える声で、自己紹介を始めた。
「はじめまして、葵 渚です。よろしくお願いします」
すると、途端にクラスがざわつき始めた。
「待って、それって合格発表で満点だった子じゃない?」
「人違いじゃない?でも苗字と名前が一文字ずつで覚えやすかったな…」
「こんなに可愛い子だったなんて、知らなかった!」
「彼氏いるのかな?」
視線が一斉に僕に集まる。
心臓がドキドキして、顔が熱くなる。
「う、うん……よろしくお願いします……」
ぎこちなく繰り返すしかできなかった。
ざわめく声の中で、僕は改めて思った。
「普通の高校生になりたいだけなのに、どうしてこんなに目立っちゃうんだろう」
僕は一人頭を抱えるような思いで椅子へ腰を掛けた。
この作品は私が深夜テンションのときによく書いています。基本王道が多く、普通かもしれませんが少しずつ面白くできたらいいなと思っています。