溢れる思いは今ここに
嫌いな人や苦手な人と同じ空間にいるのは辛いしきつい。
なぜかと聞かれたら分からない。
でも、なぜかイラッとするんだ。
仲良くしようと思っても、何だか仲良くできない。
どうしても嫌なところを見つけてしまう。
仲良くしたい。
なぜできないんだろう。
話そうとしても、なぜか声が低くなる。
それで相手が嫌な気分になるのは分かってる。
どうして私はこうなんだろう。
人間関係になると、すぐに揉め事を起こす。
もっと人と向き合えてたら何か違ったのかな。
◇◆◇
私、杉本真夏は新学期の日、クラス発表で私は絶望していた。
最近苦手だと思っていた人と同じクラスになったからだ。
フラフラと新しい教室に行くと、誰もいなかった。
よかった、落ち着ける。
私は席を確認して、荷物を置いて座った。
どうしよう。
できれば、今年はあまり関わらないようにしようと思ってたのに。
少しすると、人が増えて来た。
その中には私の苦手な人、川下静香ちゃんがいた。
彼女は少し嬉しそうに私に近づいて来た。
「まっちゃん!同じクラスだよ!」
まっちゃんというのは私のあだ名だ。
嬉しそうに言う彼女になんて言うべきか迷った。
早く返事をしないと。
「……うん、そうだね……」
私は適当な返事をしてしまった。
静香ちゃんは少し困ったように去って行った。
やってしまった。
不愉快な気分にさせてしまっただろう。
静香ちゃんとは小学校一年生のときから同じ通学団で、ずっと仲良くしてた。
変化を感じ始めたのは中二の時。
いつの間にか、ずっと続くと思ってた関係が壊れ始めた。
なぜかはわからない。
しばらくすると、同じ部活の朝倉瑠璃がやって来た。
「おー、まっちゃん。同じクラスやん」
私は立ち上がって、前を通り過ぎようとした瑠璃ちゃんの手を掴んだ。
「今日帰ろう!」
「え?うん、いいよ?」
瑠璃ちゃんは少し戸惑ったように言った。
私は瑠璃ちゃんの机について行った。
「てか、私一組の一番じゃん?」
「そうだね。ポッキーみたい」
「最悪だ」
「何が?」
「ほら、あれ。卒業証書のやつ」
「あー」
私達は中学三年生だ。
だから、一組の一番は一番最初に舞台に上がって、一人で卒業証書を受け取らないといけない。
ちなみに五組の最後の番号もそうだ。
「どんまい」
「他人事な……」
「だって他人事だもん。てか、仕組まれてんじゃないの?朝倉ならちゃんとやってくれる!って」
「他にもいただろー!」
「信用されてるんやな」
私は瑠璃ちゃんと話した。
出席確認をする先生が来て、席に座った。
その後、始業式があるから廊下に男女別の番号順で並んだ。
どうやら、私と静香ちゃんの間には他の女子がいなかったようで、私の前に静香ちゃんがいた。
微妙な気分になりながらも、私は静香ちゃんの後ろに立った。
運動場に出ると、さっき入学式を終えた一年生と私たちと同じように出欠を取り終えた二年生がいた。
始業式が始まり、ついに担任発表だ。
「一年生から発表していきます」
一年生の担任になった先生に、在校生が声を上げながらも滞りなく進み、三年生の担任発表になった。
「三年一組、片桐由亜先生」
「えぇ!?」
私を含めた同じクラスの人達が歓声を上げた。
その先生は一年生や二年生も同じように私の担任だったからだ。
ある意味やりやすいな。
静香ちゃんが振り向いて、私を見た。
「まっちゃんやったね!」
静香ちゃんの顔は嬉しそうだ。
◇◆◇
その時私はなんて言ったか思い出せない。
何も言ってないかもしれない。
それに呆れたのか、静香ちゃんはあまり私に話しかけなくなった。
◇◆◇
「あいつのこと嫌いなの?」
友達の春本伊織と安藤玲央に言われた。
二人は以前から私と静香ちゃんの関係を心配してくれていた。
「嫌いじゃない……。けど、少し気まずいの……」
「ふーん。静香にさ、お前が静香のこと嫌いって言ってたって伝えといたぜ」
「は?」
嫌いって伝えた?
静香ちゃんに?
確かに少し苦手だけど嫌いではない。
また仲良くなれたらいいなって思ってるくらいなのに。
「すげーショックそうだった」
「……何勝手なことしてるの?」
「ん?」
「何で私の気持ちを勝手に決めつけて静香ちゃんに言ったのか答えろ」
「だって去年、散々嫌いだって、絶縁したいって言ってただろ?」
「……」
確かに言ってた。
でも、それはストレスが溜まってたから判断力が鈍ってただけだ。
今はちゃんと向き合おうとしてる。
なのに、何で水を刺すようなことを……。
「確かに言ってたね……。でもさ、お前らがそこに介入していいと思ってるの?」
「……」
「どういうつもり?」
「別に?ただお前らのことを思って」
「なら口出しすんなよ!お前もあいつと同じじゃん!私、嫌だって言ったよね?そういうことする人」
バツが悪そうな顔をしている玲央と、面白がってる伊織。
こいつらは去年、私が静香ちゃんとの関係で悩んで友達に相談したところ、相談した友達が本人にその内容を言ったことにブチ切れてたことを知ってるはず。
私がそういうことをする人が嫌いだと知っていながらそんなことをしたのか。
「お前はさ、いつまで逃げてるつもりなの?」
「逃げてないし」
「逃げてんだよ。このまま中学校生活を終わらせる気か?静香との関係を曖昧にしたまま」
「……」
正直、それを望んでいた節はある。
私は静香ちゃんと向き合うのが正直怖い。
「じゃ、俺ら用済んだし帰るわ」
「ちょっと!」
「今の状態が正しいのかよく考えて行動しろよ?」
そう言って伊織は玲央と歩いて行った。
知らないよ、もう。
私はあの子と一緒にいる気はないし、そもそも苦手だと思うのは嫌いになる前触れだ。
このままだと本当に嫌いになる。
いや、もう嫌いなのかもしれない。
だって、一緒にいても嫌悪感しか感じないから。
◇◆◇
家に帰ると、飼い犬が寝転んでいた。
「かわっ!」
私はスマホを手に持って、撮影を始めた。
撮った写真を見ようとアルバムを開くと、そこに犬の写真はなかった。
そう言えば、ストレージがいっぱいになると写真が同期されないって言ってたな。
写真と録音の整理でもするか。
私は遊びで録音なども使ってるから、多分それも原因だろう。
まずは録音から整理しようかな。
『わあぁぁああああぁぁぁあああああ!!』
「うるさっ」
これは確かどれくらい音割れするのかを試した録音だな。
削除しよう。
「ん?何これ」
ある程度整理を終えた時、一番下にあった録音のタイトルに目を奪われた。
「ガハハハハハハハッ」と言うタイトルや「行きますます……あっ」などだ。
何だこれと思いながら、私はその録音を聴くことにした。
「あっ……」
私は無性に静香ちゃんとよく遊んだ公園に行きたくなった。
公園と家が近いから、私の行動はかなり早かった。
懐かしいような感じ。
「あっ」
「やっほー、真夏」
公園にしたのは伊織の双子の妹の春本菜々美だ。
私の親友でもあり、静香ちゃんとも仲がいい。
「珍しいね、公園にいるなんて。普段は家で絵描いたり、アニメ見たりで外に出ないくせに」
「引きこもりみたいに言わないでよ。外で遊ぶ友達がいないから仕方ないじゃん。……これでも小学生の時は外でめちゃくちゃ遊んでたんだよ」
「急に虚しいこと言わないでよ!ああ、もう!ごめんって!」
「菜々美こそ、この公園にいるの珍しくない?」
菜々美の家はかなり遠い場所にあるはず。
辺りを見ると、菜々美の自転車が置いてあった。
ここまでわざわざ自転車で来たのか。
「少し……。黄昏に……」
「そう、じゃあ邪魔だから帰って」
「待てぇい!何勝手に帰らせようとしてんの!?……何かあったからここに来たんでしょ?」
こいつ、変な時に察しがいいな。
私はため息をついた。
「もしかして、静香のこと?」
「……」
「本当に人間関係と勉強に関しては不器用だね」
「一言余計」
「ふふっ、ごめんごめん」
一言余計なのに憎めない。
彼氏作れない同盟組んだのに彼氏作る。
こいつにはだいぶ呆れてるはずなのに、なんだかんだいつも通り接してしまうんだ。
腐れ縁というか何と言うか。
「で、何があったの?」
「チッ」
私はスマホを菜々美に投げつけた。
菜々美は見事にキャッチしてから眉をひそめた。
「危ない!」
「それだよ。聞きな」
「はぁ、なんかイラついてんの?」
「お前がいるから」
「酷い!」
菜々美はブツブツ言いながらも、私のスマホを耳に当てて録音を聞き出した。
私はその間に公園を満喫しようと思って、ブランコに乗った。
座り漕ぎでも意外と一周回れちゃうんじゃないかと言うほど勢いが出る。
「なるほどね、で、感傷に浸ってると」
「……」
「あんたにとって、静香はどう言う人?」
「……分かんない」
「一時期嫌い嫌いと言ってる時期があったけど、それはどう言う経緯だったの?」
「……」
そんなの聞かれてもわからない。
どうして静香ちゃんが嫌いなのかなんて、私にも分からないんだもん。
「よく考えてみなよ?このまま絶縁していいのか。じゃ、私はもう帰るね〜。このあと用事あるから」
菜々美は私にスマホを投げつけて帰って行った。
……腹立つけど憎めないやつ。
「よく考えろ……か」
このままでいいのかな。
このままで私は満足なのかな。
私はもう一度録音の再生ボタンを押した。
あの時は楽しかった。
嫌いなんて言葉は思い浮かばないくらい楽しかった。
視界が揺れてきた。
私は涙を服の袖で拭った。
そうだ。
あの子の良いところ、沢山あったんだ……。
私、あの子の悪いところしか見てなかったんだな。
もう外は暗くなっていたから、私は家に帰ることにした。
ドアを開けて家の中に入った時、私の中にあったおもりが外れたような気がした。
◇◆◇
次の日、いつも通り学校に行って瑠璃ちゃんと話していると、静香ちゃんが来た。
私は近くを通りかかった静香ちゃんに目を向けた。
「おはよう」
私は静香ちゃんに挨拶をして微笑んだ。
静香ちゃんは驚いたように目を見開いて、小さな声で「おはよう……」と言った。
ねぇ、静香ちゃん。
これからはちゃんとあなたの良いところも悪いところも両方見るからね。
ありがとう、菜々美。
あんたとあの日、あの公園で会えて良かったよ。
◇◆◇
後に知ることになった伊織と玲央の嘘。
静香ちゃんは伊織達から私が嫌いって言ってたなんて話聞いてなかったらしい。
◇◆◇
小学校一年生からずっと友達だった川下静香ちゃん。
ちっちゃい頃からずっと一緒だったから、思春期に入ると同時に嫌なところしか見えなくなったんだろう。
「絶縁だー!」って騒いでた時もあった。
あの時、私が静香ちゃんと絶縁しなかったのは、迷いがあったから。
これでいいのか、本当にこれでいいのか、もっと他にあるんじゃないかって思ったんだ。
結局は、私があの子のいいところを見逃してただけだった。
何が正解かなんて、後になってみないとわからない。
でも、私はこれまでも、これからも間違いはしたくない。
みなさんこんにちは春咲菜花です!「溢れる思いは今ここに」を最後まで読んでくださりありがとうございました!このお話は、友達が実際に体験したことです!つまりはノンフィクション!彼女たちが口にした一言一言が実際にあったことだなんて感動的ですよね!私も話聞いてたら涙が出てきちゃいましたよ!名前は全員変えてあるのでご安心を!まっちゃんの不器用さが分かりすぎるのが、同じ思春期の私の弱みです……。まっちゃんの人件関係に関するアドバイスや、物語の感想、私へのお褒めの言葉がありましたら、ぜひ感想で教えてください!!評価やリアクション、ブクマもろもろよろしくお願いします!!それでは!!