第3話:村の日常と初めての挑戦
村長のはからいで、この村で暮らすことになった神崎守。異世界の暮らしは思ったより厳しいものだったが、「適応力」のスキルを活かして少しずつ馴染んでいく――。
「ふぅ……昨日は何もわからなくて大変だったけど、今日は少し頑張らないとな。」
朝、守は用意してもらった簡素なベッドから起き上がり、支給された服に着替えた。制服のままだった昨日よりも少しだけ異世界の暮らしに馴染んだ気がする。
村長に挨拶をしに行こうとすると、ちょうど家の外で誰かが待っていた。
「おっ、起きたか。よし、今日から村で働いてもらうぞ。」
昨日助けてくれた冒険者の男、ガルドが腕を組みながらニヤリと笑っていた。
「働く……って、何をするんですか?」
守が尋ねるが、ガルドは首を傾げて聞き取れないというジェスチャーをする。
「ああ……まだ言葉はわからないんだったな。まぁ、俺について来い。」
そう言って、ガルドは身振りで守に手招きをした。
「とりあえずついていけばいいのか……」
守は不安になりながらも後を追った。
ガルドが連れてきたのは、村の外れに広がる農場だった。
「ここだ、今日の仕事は畑の手伝いだぞ!」
ガルドが畑にいる農夫と話を始める。農夫は守を見て、軽く手を振った。
「あの、俺に畑仕事とかできるかな……?」
するとガルドが笑いながら手で大丈夫だという仕草をした後、鍬を守に渡した。
「これ……使えってこと?」
とりあえず真似してやってみようと、守は鍬を握り、畑を耕そうとする。
「……重っ!これ、全然うまくいかないんだけど!?」
鍬を振るたびに土が散らばり、まったく耕せない。ガルドと農夫は守の姿を見て大笑いしている。
「なんだよ、笑うなって……!」
守は悔しさを感じながら、必死に作業を続けた。
数十分が経った頃、頭の中にまたしてもアナウンスが流れた。
「農業基礎スキルが習得されました」
「えっ、またこれ……!」
鍬を握る手が少し軽くなり、土の耕し方が自然とわかるようになっていく。
「あ、なんかコツが掴めてきた……!」
守が鍬を振るたびに、綺麗に耕された土が整っていく。ガルドも驚いた表情で声を上げた。
「おいおい、さっきまでひどかったのに、急に上手くなったな。なんだ、そのコツを掴む速さは!」
「いや、俺もよくわからないんだけど……」
言葉は通じなくても、ガルドの驚きは伝わってくる。守は胸の中で呟いた。
「これが、俺のスキル……適応力の力ってことか?」
作業を終えた守は、ガルドや農夫と一緒に簡素な昼食をとることになった。
「ほら、これでも食え。働いた後はうまいぞ。」
ガルドが木の器に入ったスープとパンを手渡してくる。
「あ、ありがとうございます……って言葉は通じないんだったな。まぁ、気持ちは伝わるか。」
守はパンをかじり、スープを飲む。昨日食べた硬いパンとは違い、少し柔らかくなっていて味も染み込んでいる。
「うまっ!これ、めちゃくちゃうまいじゃん!」
ガルドは守の表情を見て笑うと、スープを指差して何かを言った。
「これ、村の特製らしいけど……ん?なんか俺の顔、じっと見てるな?」
ガルドがまた何か話しかけてくるが、守にはわからない。だが、少しずつ単語が頭に入ってくるような感覚があった。
午後、畑作業が一段落した守は、村の広場に連れて行かれた。そこでは子供たちが走り回って遊んでいる。
「お兄ちゃん、見ない顔だね!」
元気な子供が声をかけてきたが、守にはまだ全部は理解できない。
「えっと……こんにちは?」
守が不安そうに挨拶すると、子供たちは笑いながら「お兄ちゃん変な話し方だね!」と囃し立てた。
その時、頭の中にまたアナウンスが響いた。
「異世界共通語スキルがレベル2になりました」
「……えっ、まただ!」
子供たちの言葉が少しずつ聞き取れるようになっていることに気づき、守は驚いた。
「今、君たち……なんか俺の話し方変だって言った?」
「わぁ!急にちゃんと話せるようになった!」
子供たちが喜びながら守に集まってくる。
「すごいねお兄ちゃん!どこから来たの?」
「なんで村にいるの?」
次々と飛び交う質問に戸惑いながらも、守は少しずつ子供たちと打ち解けていった。
その日の夜、守は村長の家に戻り、今日の出来事を振り返っていた。
「なんだかんだで、少しはこの村に馴染めた気がする……」
適応力というスキルのおかげで、異世界での生活にも光が見え始めていた。
「よし、明日も頑張ろう。俺……この世界でちゃんと生きていけるかもしれない!」
こうして、守の異世界生活は少しずつ動き出していくのだった――。